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第248話 捕縛作戦⑳
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『んま、ま、ま、待つでござる百恵殿!!』
慌ててパンツを探す銀野。
しかし、ドゴォという衝撃とともに窓の外が一気にオレンジ色に染まる。
急激に室温が爆上がりしてきた。
『まった、まった百恵殿!! 本気で待つでござる!! 拙僧まだ焼豚にはなりたくないでありんすよ!!』
『待ってほしければさっさとその汚いものをしまえ!! 小学生女子に何たる物を見せとるんじゃ貴様は!!』
『見せたわけではござらん!! そっちが勝手に見たのでござろう!??』
『吾輩は何もしとらん。貴様と交信した途端に見たくない景色が飛び込んできたのじゃ!! 念話はお主の領分じゃろう、なんとかせい、気分が悪くてかなわん!!』
言われて銀野はあわててドミニオンの映像交信をカットした。
どうやら変態行為に夢中になるあまり操作をおろそかにしていたようである。
『おおおお~~~~?? し、しまった、えっとえと……はい!! こ、こ、これで見えなくなったでござろう?? だ、だからこの炎を止めてくだされ!! も、もうガラスが溶けて、あちちちちちちちちちち!!!!』
肌が焦げてきて飛び上がりつつ走り回る銀野という名の変態焼豚。
『ふん』
ひとつ鼻を鳴らすと百恵は火の鳥を引っ込める。
「ぐあああああああっ!!」
火傷に悲鳴を上げながら給湯室に飛び込み、銀野は水を頭からかぶった。
しゅぅぅぅぅぅぅ……と冷却され、へなへなと脱力する。
『……し、死ぬかと思ったでござる。百恵殿、無茶はやめてほしいでござるよ……』
『変態をやめたらやめてやる。それよりも椿を炙り出したい。再び加熱するから貴様は適当に避難するがいいだろう』
『ちょちょちょ、待つでござるよ!! そんなことしたら吾輩はともかく椿殿も死んでしまうでござるよ!??』
『敵の心配をしている場合か!?』
『最初の目的を思い出してくだされ。我々の目標はあくまで椿殿の確保、殺すことではござらん』
『その確保の目的はやつの素性を調べることだろうが。ならばもうそれは済んでいるのではないか? オジサ……大西元所長が自分で語っていただろう、すべてはマステマの仕業だと。宝塚との会話、貴様もドミニオンを介して聞いていたのだろう?』
『う……ま、まあそうでござるが』
『ならばもう椿を確保する必要などないじゃろうが。……それとも貴様まだヤツが好みだから殺したくないとか寝言を言うんじゃないんだろうな?』
ぎくっと肩が揺れる銀野。
図星だった。
百恵にその姿を見られなかったことが幸いだったが、しかしそれ以外にも殺してはいけない理由があった。
『し、しかし殺してしまってはマステマに逃げられてしまいますぞ? 我々は彼奴の捕獲も目標にしていることを忘れてはいけないでござる!! 百恵殿も預かって来ているのでござろう、例のブレーカーを』
『無論だが、それに囚われていてはこっちがやられるぞ? ここは現場の判断で奴の始末を優先したい。マステマの捕獲は次の作戦でいいだろう、欲をかくとろくなことにならん!!』
『ぐぬぬぬぬ……』
小学生にあっさり言い負かされてしまう筆頭監視官(バカ)。
そもそもの動機が不純なのだからそれも当然なのだが。
それでも銀野は食い下がる、がむしゃらになって。
『しかしやはりどうしても、ただ操られているだけの少女を殺してしまうのは嫌なのでござるよ!! 彼女もマステマに操られていなければ我々と同じ仲間になれたはずなのでござるよ!!』
『嫌とか……小学生か貴様は!!』
銀野の言い分にあきれて言葉をつまらせる百恵。
しかし銀野の言いたいこともわからなくもない。
一度ガルーダで椿を打ちのめしたとき、百恵は確かに例えがたい罪悪感を覚えた。
それは銀野の言っている通り、彼女に罪はないから。
本来ならば同じ超能力者として背を守りあって生きていく存在だっただろうから。
銀野の言う通り、そんな仲間を、その事情も顧みずにただ危険だからと排除するのは、一般人が私たち超能力者を畏怖し、遠ざけ、攻撃するのと同じなのではないか?
正解は……殺すことではなく救うこと。
一見ふざけているようだが、銀野の主張は『超能力者の命と生活を守る』というJPAの理念に沿っている。
人を……仲間を救うという判断は理屈ではない。気持ちで考えるものである。
なぜこんな変態が筆頭監視官なんだと激しく疑問に思っていたが、もしかしたらこういう判断《げいとう》を本能でやってしまえる人材だからその椅子に座らされているのかもしれない。
納得したわけじゃないが、しかし、
『……わかった。指揮官は貴様じゃ、吾輩は貴様の判断に従おう』
銀野の本能むき出しの戯言に、百恵は乗っかってやる。
自分もオジサマを本能で追っているから。
悪とか、敵とか、そんな垣根を超えて『救いたいから救う』という目眩がおきそうなほど原始的な気持ちこそ、尊い真実なのだと信じたいから。
『おお、わかってくれたでござるか百恵殿!! では作戦があるので――――』
そこで通信がプツリと途切れた。
同時に百恵の中からドミニオンが抜けていく。
「なにっ!?」
銀野の身に何かトラブルが起きたのだと瞬時に悟る。
ドミニオンが消えていくその狭間――――百恵に視覚映像を残した。
銀野の視界だろうその景色は、鋭利な氷柱を心臓めがけて突き立ててくる椿の姿が映っていた。
慌ててパンツを探す銀野。
しかし、ドゴォという衝撃とともに窓の外が一気にオレンジ色に染まる。
急激に室温が爆上がりしてきた。
『まった、まった百恵殿!! 本気で待つでござる!! 拙僧まだ焼豚にはなりたくないでありんすよ!!』
『待ってほしければさっさとその汚いものをしまえ!! 小学生女子に何たる物を見せとるんじゃ貴様は!!』
『見せたわけではござらん!! そっちが勝手に見たのでござろう!??』
『吾輩は何もしとらん。貴様と交信した途端に見たくない景色が飛び込んできたのじゃ!! 念話はお主の領分じゃろう、なんとかせい、気分が悪くてかなわん!!』
言われて銀野はあわててドミニオンの映像交信をカットした。
どうやら変態行為に夢中になるあまり操作をおろそかにしていたようである。
『おおおお~~~~?? し、しまった、えっとえと……はい!! こ、こ、これで見えなくなったでござろう?? だ、だからこの炎を止めてくだされ!! も、もうガラスが溶けて、あちちちちちちちちちち!!!!』
肌が焦げてきて飛び上がりつつ走り回る銀野という名の変態焼豚。
『ふん』
ひとつ鼻を鳴らすと百恵は火の鳥を引っ込める。
「ぐあああああああっ!!」
火傷に悲鳴を上げながら給湯室に飛び込み、銀野は水を頭からかぶった。
しゅぅぅぅぅぅぅ……と冷却され、へなへなと脱力する。
『……し、死ぬかと思ったでござる。百恵殿、無茶はやめてほしいでござるよ……』
『変態をやめたらやめてやる。それよりも椿を炙り出したい。再び加熱するから貴様は適当に避難するがいいだろう』
『ちょちょちょ、待つでござるよ!! そんなことしたら吾輩はともかく椿殿も死んでしまうでござるよ!??』
『敵の心配をしている場合か!?』
『最初の目的を思い出してくだされ。我々の目標はあくまで椿殿の確保、殺すことではござらん』
『その確保の目的はやつの素性を調べることだろうが。ならばもうそれは済んでいるのではないか? オジサ……大西元所長が自分で語っていただろう、すべてはマステマの仕業だと。宝塚との会話、貴様もドミニオンを介して聞いていたのだろう?』
『う……ま、まあそうでござるが』
『ならばもう椿を確保する必要などないじゃろうが。……それとも貴様まだヤツが好みだから殺したくないとか寝言を言うんじゃないんだろうな?』
ぎくっと肩が揺れる銀野。
図星だった。
百恵にその姿を見られなかったことが幸いだったが、しかしそれ以外にも殺してはいけない理由があった。
『し、しかし殺してしまってはマステマに逃げられてしまいますぞ? 我々は彼奴の捕獲も目標にしていることを忘れてはいけないでござる!! 百恵殿も預かって来ているのでござろう、例のブレーカーを』
『無論だが、それに囚われていてはこっちがやられるぞ? ここは現場の判断で奴の始末を優先したい。マステマの捕獲は次の作戦でいいだろう、欲をかくとろくなことにならん!!』
『ぐぬぬぬぬ……』
小学生にあっさり言い負かされてしまう筆頭監視官(バカ)。
そもそもの動機が不純なのだからそれも当然なのだが。
それでも銀野は食い下がる、がむしゃらになって。
『しかしやはりどうしても、ただ操られているだけの少女を殺してしまうのは嫌なのでござるよ!! 彼女もマステマに操られていなければ我々と同じ仲間になれたはずなのでござるよ!!』
『嫌とか……小学生か貴様は!!』
銀野の言い分にあきれて言葉をつまらせる百恵。
しかし銀野の言いたいこともわからなくもない。
一度ガルーダで椿を打ちのめしたとき、百恵は確かに例えがたい罪悪感を覚えた。
それは銀野の言っている通り、彼女に罪はないから。
本来ならば同じ超能力者として背を守りあって生きていく存在だっただろうから。
銀野の言う通り、そんな仲間を、その事情も顧みずにただ危険だからと排除するのは、一般人が私たち超能力者を畏怖し、遠ざけ、攻撃するのと同じなのではないか?
正解は……殺すことではなく救うこと。
一見ふざけているようだが、銀野の主張は『超能力者の命と生活を守る』というJPAの理念に沿っている。
人を……仲間を救うという判断は理屈ではない。気持ちで考えるものである。
なぜこんな変態が筆頭監視官なんだと激しく疑問に思っていたが、もしかしたらこういう判断《げいとう》を本能でやってしまえる人材だからその椅子に座らされているのかもしれない。
納得したわけじゃないが、しかし、
『……わかった。指揮官は貴様じゃ、吾輩は貴様の判断に従おう』
銀野の本能むき出しの戯言に、百恵は乗っかってやる。
自分もオジサマを本能で追っているから。
悪とか、敵とか、そんな垣根を超えて『救いたいから救う』という目眩がおきそうなほど原始的な気持ちこそ、尊い真実なのだと信じたいから。
『おお、わかってくれたでござるか百恵殿!! では作戦があるので――――』
そこで通信がプツリと途切れた。
同時に百恵の中からドミニオンが抜けていく。
「なにっ!?」
銀野の身に何かトラブルが起きたのだと瞬時に悟る。
ドミニオンが消えていくその狭間――――百恵に視覚映像を残した。
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