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第244話 捕縛作戦⑯
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「ぐるぅぅぅぅぅあぁぁぁ……」
内面だけでなく外見までもがベヒモスへと変化した椿。
低い唸りを上げる。
百恵はその姿に怯えることなく、距離を取って圧縮空気を両手に握った。
『百恵どの注意するでござる!! 椿殿のファントムが何やら進化しているでござるよ!!』
『……わかっておるわ、それも経験済みじゃ』
徐々に変化していく雪女郎を百恵は睨みつける。
はだけた着物はそのままに、光り輝く長い羽衣が新たに現れる。
綺麗に揃えられた長い黒髪からは二本の角が生え、纏うオーラの桁が変わった気がした。
本体である椿の体のダメージもさらなるベヒモス化での超回復で徐々に塞がってきていた。
正也や渦女の時と同じだ。
ベヒモス化には二段階ある。
一段回目は、術者の精神がファントムにより取り憑かれ主導権を奪われてしまった場合。いままでの椿はこの状態だった。
そして二段階目は、その精神そのものをファントムに食われてしまう場合である。
こうなると空になった肉体は完全にファントムの支配下に落ちてしまい。リミッターが外れ筋肉は肥大化し、余計な神経は全て遮断される。さらに人の精神を飲み込んだことによってファントム自体も相応の進化を遂げる。
欠点は、人としての精神を失った事でその行動が無秩序になり、ほぼ確実に原始の本能のみで行動する制御不能なモンスターになるのだが、しかし今回の椿は少しようすが変わっていた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
暴走はしているようだが、暴れる気配がない。
進化したファントムはただ大人しく誰かの指示を待っているようだ。
誰かとは言うまでもなくマステマの奥にいる大西である。
「……なるほど。新たなベヒモスは隨分と利口なようじゃの」
たとえ能力が大幅に進化したとしても知恵無く暴れるモンスターならば、いかようにも捌いてやる自身があったが、しかし進化してもなお指示を待つ従順さを与えられたというのはやっかいだ。
「あの二人の時のように翻弄出来るとは考えんほうがよさそうじゃの……?」
身を低く構え、百恵は警戒心を最大にして相手の出方を待った。
「ん~~~~……ああなるほど……これは結構疲れるねぇ……」
ソファーに横たわりながら、額を押さえもがく大西。
「あら、汗が出てるわよ。どうしたの?」
突然苦しみだした大西に。向かいに座る片桐が何事かと尋ねる。
「いや……いまね、椿をもう一段階進化させたんだけど……その為に使う精気をゴッソリと持っていかれちゃってねぇ。いやいや、これは中々しんどいね~~」
「本来使うべき椿の精神を破壊しているのだから自業自得よ」
「ま……そうなんだけどね。でもそのおかげで計算通り暴走は抑えてるよ」
「そう……それは良かったわね」
「あとは、椿くんの身体がどれだけ耐えてくれるかだけれど……」
「本来、弱能力者だったんでしょ? 器に過ぎた進化なら、崩壊もすぐなんじゃない?」
どうでもよさげに紅茶を傾ける片桐。
「いまの椿くんを動かしているのは全部僕の精気だからね、コッチの限界も考えると10分も持たないかなこりゃあ……ぐぐ……。そうなると一気に責めたほうが良さそうだね、残念だけど遊んでいる余裕はなさそうだね」
「チョコレート食べる?」
「頂くよ。あとエナジードリンクも持ってきてもらえる~~?」
「はいはい」
進化した雪女郎の目がカッと開かれる。
連動して椿の身体がバッと大の字に開かれた!!
『百恵殿、来るでござるよ!!』
『わかっておるっ!!』
と、構える百恵の周囲が、
――――パキィィィィィィィィィィィンッ!!!!
一気に氷柱に包まれた。
「――――ぐっ!?」
咄嗟に手に準備していた圧縮爆弾を破裂させる!!
――――どむっ!!
体を凍らされる前に、爆発の反動でその場を離脱する。
宙に舞い上がった百恵は、空からその氷の範囲を確認する。
さっきまで直径で50メートルくらいだったその氷の範囲は、いまはゆうに100メートルを超えていた。
「……チッ」
百恵は小さく舌打ちする。
ガルーダの射程範囲を超えていたからだ。
アウトレンジからの一方的攻撃《ハメわざ》はこれで出来なくなってしまった。
しかしそれよりも気になる事があった。
「……進化のわりに芸が小さいようじゃが?」
射程が倍。
驚異と言えば充分驚異なんだか、しかしそれだけで終わるとは正直考え難かった。
渦女や正也のときはもっと次元の違う変化があったはずだが……。
そう勘ぐる百恵の視界が急に暗くなった。
――――影??
そう理解したとき、
『百恵どの、上でござるよ!!』
念話の銀野が叫んできた!!
見上げるとそこには巨大な隕石――――いや、氷の塊があった。
「――――なっ!??」
『進化した範囲は横ではござらん!! 伸びたのはむしろ縦でござる!! 100メートル分の巨大な冷気が天を貫いて、上空を凍らせているでござるよ!!』
上空の水分を急速に凍らせたそれは能力によって生み出された巨大な雹《ひょう》。
いや、雹と表現していいものかどうか?
30メートルはある巨大な氷の塊がそこに浮いていた!!
「ば……かな、なんじゃこの馬鹿げた物体は!??」
唖然と言葉を無くす百恵。
そしてその馬鹿げた氷の塊は地上へと落下を始める。
『さしずめメテオフロストと言ったところでござろうか、百恵殿、避けるでござるよ!!』
『名前とかどうでもよいわっ!!』
――――どむ! どむっ!!
言い返し、爆圧でその場を離れる百恵。
その横をかすめるように巨大雹が通過し、地面に落ちる。
――――ド!! ゴガアァァァァァァァンッ!!!!
砕け散る巨大雹に陥没する道路。
何万トンあるか知れないその衝撃は地面をヒビ割らせ、周囲のビルをも倒壊させる!!
「――――くっ!??」
凄まじい破壊力と、生み出される衝撃波に体を揺さぶられる百恵。
小爆破を駆使して何とか体勢を立ち直す。
しかし、確かにとてつもない攻撃だが所詮は氷を落としてくるだけ。
避けてしまえばどうと言うことはない。
――――フッ。
そう思った百恵の視界がまた影に覆われた。
見上げるとそこには、同じ規模の巨大雹が今度は10塊、空に浮いていた。
内面だけでなく外見までもがベヒモスへと変化した椿。
低い唸りを上げる。
百恵はその姿に怯えることなく、距離を取って圧縮空気を両手に握った。
『百恵どの注意するでござる!! 椿殿のファントムが何やら進化しているでござるよ!!』
『……わかっておるわ、それも経験済みじゃ』
徐々に変化していく雪女郎を百恵は睨みつける。
はだけた着物はそのままに、光り輝く長い羽衣が新たに現れる。
綺麗に揃えられた長い黒髪からは二本の角が生え、纏うオーラの桁が変わった気がした。
本体である椿の体のダメージもさらなるベヒモス化での超回復で徐々に塞がってきていた。
正也や渦女の時と同じだ。
ベヒモス化には二段階ある。
一段回目は、術者の精神がファントムにより取り憑かれ主導権を奪われてしまった場合。いままでの椿はこの状態だった。
そして二段階目は、その精神そのものをファントムに食われてしまう場合である。
こうなると空になった肉体は完全にファントムの支配下に落ちてしまい。リミッターが外れ筋肉は肥大化し、余計な神経は全て遮断される。さらに人の精神を飲み込んだことによってファントム自体も相応の進化を遂げる。
欠点は、人としての精神を失った事でその行動が無秩序になり、ほぼ確実に原始の本能のみで行動する制御不能なモンスターになるのだが、しかし今回の椿は少しようすが変わっていた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
暴走はしているようだが、暴れる気配がない。
進化したファントムはただ大人しく誰かの指示を待っているようだ。
誰かとは言うまでもなくマステマの奥にいる大西である。
「……なるほど。新たなベヒモスは隨分と利口なようじゃの」
たとえ能力が大幅に進化したとしても知恵無く暴れるモンスターならば、いかようにも捌いてやる自身があったが、しかし進化してもなお指示を待つ従順さを与えられたというのはやっかいだ。
「あの二人の時のように翻弄出来るとは考えんほうがよさそうじゃの……?」
身を低く構え、百恵は警戒心を最大にして相手の出方を待った。
「ん~~~~……ああなるほど……これは結構疲れるねぇ……」
ソファーに横たわりながら、額を押さえもがく大西。
「あら、汗が出てるわよ。どうしたの?」
突然苦しみだした大西に。向かいに座る片桐が何事かと尋ねる。
「いや……いまね、椿をもう一段階進化させたんだけど……その為に使う精気をゴッソリと持っていかれちゃってねぇ。いやいや、これは中々しんどいね~~」
「本来使うべき椿の精神を破壊しているのだから自業自得よ」
「ま……そうなんだけどね。でもそのおかげで計算通り暴走は抑えてるよ」
「そう……それは良かったわね」
「あとは、椿くんの身体がどれだけ耐えてくれるかだけれど……」
「本来、弱能力者だったんでしょ? 器に過ぎた進化なら、崩壊もすぐなんじゃない?」
どうでもよさげに紅茶を傾ける片桐。
「いまの椿くんを動かしているのは全部僕の精気だからね、コッチの限界も考えると10分も持たないかなこりゃあ……ぐぐ……。そうなると一気に責めたほうが良さそうだね、残念だけど遊んでいる余裕はなさそうだね」
「チョコレート食べる?」
「頂くよ。あとエナジードリンクも持ってきてもらえる~~?」
「はいはい」
進化した雪女郎の目がカッと開かれる。
連動して椿の身体がバッと大の字に開かれた!!
『百恵殿、来るでござるよ!!』
『わかっておるっ!!』
と、構える百恵の周囲が、
――――パキィィィィィィィィィィィンッ!!!!
一気に氷柱に包まれた。
「――――ぐっ!?」
咄嗟に手に準備していた圧縮爆弾を破裂させる!!
――――どむっ!!
体を凍らされる前に、爆発の反動でその場を離脱する。
宙に舞い上がった百恵は、空からその氷の範囲を確認する。
さっきまで直径で50メートルくらいだったその氷の範囲は、いまはゆうに100メートルを超えていた。
「……チッ」
百恵は小さく舌打ちする。
ガルーダの射程範囲を超えていたからだ。
アウトレンジからの一方的攻撃《ハメわざ》はこれで出来なくなってしまった。
しかしそれよりも気になる事があった。
「……進化のわりに芸が小さいようじゃが?」
射程が倍。
驚異と言えば充分驚異なんだか、しかしそれだけで終わるとは正直考え難かった。
渦女や正也のときはもっと次元の違う変化があったはずだが……。
そう勘ぐる百恵の視界が急に暗くなった。
――――影??
そう理解したとき、
『百恵どの、上でござるよ!!』
念話の銀野が叫んできた!!
見上げるとそこには巨大な隕石――――いや、氷の塊があった。
「――――なっ!??」
『進化した範囲は横ではござらん!! 伸びたのはむしろ縦でござる!! 100メートル分の巨大な冷気が天を貫いて、上空を凍らせているでござるよ!!』
上空の水分を急速に凍らせたそれは能力によって生み出された巨大な雹《ひょう》。
いや、雹と表現していいものかどうか?
30メートルはある巨大な氷の塊がそこに浮いていた!!
「ば……かな、なんじゃこの馬鹿げた物体は!??」
唖然と言葉を無くす百恵。
そしてその馬鹿げた氷の塊は地上へと落下を始める。
『さしずめメテオフロストと言ったところでござろうか、百恵殿、避けるでござるよ!!』
『名前とかどうでもよいわっ!!』
――――どむ! どむっ!!
言い返し、爆圧でその場を離れる百恵。
その横をかすめるように巨大雹が通過し、地面に落ちる。
――――ド!! ゴガアァァァァァァァンッ!!!!
砕け散る巨大雹に陥没する道路。
何万トンあるか知れないその衝撃は地面をヒビ割らせ、周囲のビルをも倒壊させる!!
「――――くっ!??」
凄まじい破壊力と、生み出される衝撃波に体を揺さぶられる百恵。
小爆破を駆使して何とか体勢を立ち直す。
しかし、確かにとてつもない攻撃だが所詮は氷を落としてくるだけ。
避けてしまえばどうと言うことはない。
――――フッ。
そう思った百恵の視界がまた影に覆われた。
見上げるとそこには、同じ規模の巨大雹が今度は10塊、空に浮いていた。
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