超能力者の私生活

盛り塩

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第243話 捕縛作戦⑮

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『百恵どの!!』

 銀野筆頭からの念話が入り、結界が不愉快に振動する。

『なんじゃ、うっとおしい。椿なら仕留めたぞ? 宝塚と一緒に回収するからお主も出てきて手伝ったらどうじゃ? どこにおるかは知らんがな』

 筆頭との念話に能力の波長を合わせ直しながら百恵はこたえた。
 どうも知らず知らずのうちに波長を避けてしまっている。まあこれも乙女としての当然の警戒心だが。

『仕留めたではないでござる!! 拙僧の……拙僧の嫁が血だらけになっておるではござらんか!! なんてことをしてくれたでござる!!』
『清々しいまでに私的な苦情じゃの……。そこまで言われてはもはや起こる気も呆れるため息も出んわ……。瀕死じゃが、まだ死んではおらんだろう。宝塚を起こして回復させれば問題ない。……だがその前に』

 百恵は背中からバスケットボール大のリングを取り出した。
 姉から隠された対マステマ用の捕獲器《ブレーカー》だった。
 まだ試作品だとの事だが、あの姉がわざわざ持たせたのだ、ほぼ完成品だと思っていいだろう。
 せっかく椿を倒したとしても肝心のマステマを逃してしまったら元も子もない。
 また別の能力者に憑依して、第二第三の椿が現れることになる。それを防ぐためにこのブレーカーでマステマを縛り付け、残機を減らしてやるという作戦だ。


『……おい、宝塚《バカ》がピクリとも動いとらんが……もしや死んではおるまいな?』
『雪女郎の全力冷気を至近距離から結界無しのノーガード状態でもろに食らっていたでござるからなぁ……おそらく脳の芯まで凍りついて意識すら無いのだと思いまするぞ?』
『……まったく、馬鹿ばっかりじゃ……この騒動が収まったら戦闘のイロハを一から叩き込んでやらねばならんな……』

 と、百恵は宝塚に向かって手をかざし、

「飛ばせ、ガルーダ」

 と、ファントムに命令する。
 同時に宝塚の身体の真下に圧縮空気が出現すると。

 ――――どむっ!!
 と小さな爆発が起き、凍ったままの彼女を宙に跳ね上げた。

『百恵殿? いったい何を!??』

 二階くらいの高さまで飛んだ宝塚、さらにその横っ腹に圧縮空気を生み出す。

『何もくそも、コヤツを解凍せねば始まらんじゃろう、おヌシなにかいい方法があれば今のうちに言っておくがいいぞ?』
『ぬ? ……あ~~……いや、そこまでのカチンコチンをうまく解凍する手段となると……さしあたっては思いつかないでござるが……な、なにをするつもりでござるか??』
『うむ。ならば致し方ない』

 百恵はある方向に狙いを定めると、横っ腹の爆弾を破裂させた。
 その先に見えたのは大きなガソリンスタンドだった。

 ――――グドムッ!!!!

 爆発に弾かれた宝塚はそのままスタンドへと飛び込んでいく。

 グワッシャアァァァァァンッ!!!!
 レギュラーと書かれた計量機に頭から突っ込み破壊する。
 切れた配線からバチバチと火花が散るのを確認して、

「ぶっ放せガルーダ」
 と再びガルーダを呼び起こす。

 目標はスタンド地下の燃料タンク。
 そこに最大級の圧縮爆弾が出現し、次の瞬間――――、

 ――――グドムッガァァァァァァァァンッ!!!!

 大爆発が起きた!!!!
 そして吹き出したガソリンが配線の火花に引火する!!

 ――――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

『も、百恵どの~~~~~~~~~~っ!!????』
『ん? なんじゃ?』

 強烈な爆風に煽られながら銀野の叫びに返答する百恵。

『なんだじゃござらん!! 無茶にもほどがあるでござるよ!!』
『心配するな、こんなことでくたばるアイツではないわ。そのうち丸焦げになって転がり出てくるじゃろう』
『そんな、焼き芋じゃあるまいし……』

 一気に炎の城と化したガソリンスタンド。その炎の中心がどのくらいの熱か検討がつかないが……そもそも凍った人間というものは火で炙って解凍するものなのだろうか? 銀野はそこはかとなく不安になるが、しかし全てが規格外な宝塚のことだ、きっと大丈夫なのだろう。そう信じるしかない。

『そんなことより先に椿を拘束するぞ』
『……そ、その手のリングは例の?』
『そうじゃ、こいつで椿を拘束すれば、その中にいるマステマもまとめて拘束出来る。……まだマステマが椿の体内いいるかわからんが、とにかく使ってみようじゃないか』
 言って一応の警戒をしながら倒れ伏せている椿へと近づく。

 菜々がまだ少し離れたところに留まって、こちらのようすを伺っている。
 と言うことはまだマステマは椿の中にいると言うことだ。百恵はますます警戒を強めて椿へと近づいた。

 うつ伏せに倒れている椿の表情はよくわからない。
 が、身体のダメージは深く、血は大量に流れ出いて、息遣いはかろうじて程度。
 いわゆる瀕死の状態だ。
 これなら、たとえまだ意識があったとしても何も出来ないだろう。

 普通なら。

 しかし百恵は一度経験している。
 マステマによってベヒモス化された能力者のしつこさを。
 かつて同じような状況で油断し、首を飛ばされた。
 瞬との戦いのときだ。

 同じ轍《てつ》は二度とは踏まない。

 百恵は油断なく見下ろし、椿の動きを観察する。
 息遣い、筋肉の収縮。ありとあらゆるところからこの先の展開を予測する。
 そして出た答えが――――、
 
 ――――ダンッ!!
 地を蹴り、その場を飛び退いた!!

 ――――ガッ!!!!
 一瞬遅れて、椿の爪が空を切った!!

『――――ほう? 僕の動きを読んだかい?』

 ゆらりと、椿の身体を起こし、マステマから念話が飛んでくる。

『経験済ですから』
 ザッと距離を取り、背中にガルータを従わせ応えた。

『ふっふふふ……そうだったね。やはりキミは優秀な子だよ。ますます欲しくなってきたな。……この娘を壊してでもねぇ』

 ――――バキバキバキ、バキッ!!

 不敵に告げられる大西の言葉と同時に、肥大化する椿の筋肉。
 全身に血管が浮かび上がり、口は裂け、目が白く変わる。
 ボタボタボタとだらしなく垂らされる大量の涎。

「ようやくホントの正体を見せおったか……化け物が」

 見慣れた化け物へと落ちた椿を睨みつけ、ここからが本気の戦いだと百恵は静かに目を座らせた。
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