超能力者の私生活

盛り塩

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第239話 捕縛作戦⑪

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『宝塚殿!? 宝塚殿!???』

 念話で必死に呼びかける銀野。
 しかし宝塚からの返事はない。

「……ま、ままままずいでござるな」

 まさかあそこで敵の身を案じて術を解くとは思わなかった。
 あのまま戦っていれば確実に宝塚の優勢であったはずなのに……。
 彼女の性格を見切っていた大西の作戦勝ちといったところだろうか。

 身体の芯まで凍らされてしまった宝塚は完全に機能を停止してしまっている。
 精気は体。精神力は脳から生まれる。
 その両方を氷結によって止められてしまっては、それを依り代にしているファントムだって活動出来ない。

 と、――――フォンッ!!!!
 送っていたドミニオンが戻ってきた。

「で、ござるよなぁ……」

 強化対象が行動不能になったのだ、そりゃ帰ってくるだろうと銀野は頭を抱えた。

「ままま、ま、まったく!! せせせ、せっかく能力強化してやったと言うのに何たる体たらく!! これで美少女じゃなかったら、ぜぜぜ全力ケツバット食らわしてお仕置きしているところでござるよ!!」

 宝塚の痩せモード。
 データ―では見ていたが、実物はもっと可愛かった。
 可愛い子には何をされてもご褒美である。との家訓に従い失態は問わぬが、事態がピンチである事は変わりない。

「ままま、まぁまだ新人でござござござるからな、この仕事が一段落したら拙僧が手取り足取りナニ取りじっくりと戦闘のイロハを叩き込むでござるよ。らららラミアどのと一緒にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

 妙なテンションで怪しげな決意を叫ぶ銀野。
 そして意識を集中すると再び念話を飛ばした。
 その相手は――――、




「……な、何をやっているのじゃ……あのボンクラは」

 二度も凍らされ固まっている宝塚を見下ろし、双眼鏡を外しながら百恵は呟いた。

 初撃のヘリ爆破といい、その後の戦闘といいグダグダにもほどがある。
 ヒロインが馬鹿なのは知っていたからいまさら責めはしないが、銀野が戦闘しない理由を聞いたとき百恵はキレそうになった。

 念話は百恵にも繋がっていた。

 椿捕獲作戦として、正面からは銀野筆頭と宝塚。百恵は別方向からのバックアップを命じられていた。

 なぜ正面組が宝塚と筆頭だけなのか。

 それは今回の目的があくまで『氷室椿』の確保と『最恩菜々』奪還だからである。
 女将や料理長などのチートを連れて行っては警戒されて接触前に逃げ出されてしまうだろう。
 だからまずは仲の良い宝塚と、筆頭の二人で接触。
 その二人に気を引きつかせつつ、別経路で百恵がやってきたのである。
 いざという時の戦闘要員として。

 だが来てみればいきなりの大戦闘。
 ヘリは爆破されるわ車は吹き飛ぶわ、菜々は不良バリにバイクでカッコつけてるわでもう無茶苦茶である。

「……こんなことなら最初から吾輩が出てボコしてれば良かったのじゃ……」

 呟きながらも、百恵は椿の戦闘力を分析する。
 ここは彼女らを見下ろせる、とあるビルの屋上。
 そこから下を見下ろすと、閑散とした道路に点々と氷で作られた花が見える。
 それらは全て椿が能力によって作った氷柱の集まりなのだが、その中には逃げ遅れ、凍らされた一般人が無数に氷漬けにされていた。

「射程はだいたい50メートルくらいか……ならばギリギリ吾輩のガルーダのほうが勝っているな。間合いさえ見極めれば他愛も無い相手じゃの……」

 言いつつ、つぎは菜々へと視線を変える。

 椿の能力は理解した。
 強力だが、言ってしまえばただの冷却能力。
 その範囲にさえ入らなければどうってことはない。

 しかし不気味なのは菜々である。
 彼女の能力は正直、未知数だ。

 いまのところ推測出来るのはその探索能力が格段に跳ね上がっているだろうということだけ。
 なれば、自分がここに来ているのはすでに察知済みだろうと百恵は予測する。
 そうなると迂闊に飛び出すのは危険と言うことになるが……。

 再び連れ去られようとしている宝塚《バカ》が見える。
 生き残った菜々の部下が、適当なワゴン車を盗み荷台に放り込んでいた。

「……そうも言ってられんか」

 同時に念話が頭に入ってくる。

『百恵どの、百恵どの!! トラブルでござる!! 敵の卑怯な計略により宝塚殿が連れ去られそうでありんす!! 拙僧も奮闘したでござるが力及ばず、いまは無念の一時退避中でござる!! プランAは失敗にござるからプランBに移行するでござるよ!!』

『……全部見とったわ、何が奮闘かこのヘタレ大福が。そもそもプランBとか何も聞いとらんのじゃが?』
『Aは宝塚殿による平和的交渉で、Bは百恵殿による武力制圧でござる!!』

『……だとしたら最初の一撃でAは崩壊しとったじゃろう。なぜその時点で吾輩を呼ばんかった?』
『だって椿殿を傷つけられたくなかったんだもん!!』

 ダメだ、こいつぶち殺そう。

 姉以外の人間に殺気を抱いたのは久しぶりだと、百恵は頭を抱えた。
 筆頭監視官などと大物すぎる肩書を持っているから、きっと普段の言動も能ある鷹はなんとやらだと、ある種、信じていたがどうやら本気で馬鹿のようだ。

『……わかった、とにかく吾輩が出るから貴様はそこで黙って見ていろ』

 不安要素しか見当たらないが、このままでは宝塚が連れ去られてしまうから仕方がない。出たとこ勝負で何とかするしか無いと、百恵は頭痛を我慢しながらビルから飛び降りた。
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