超能力者の私生活

盛り塩

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第236話 捕縛作戦⑧

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 氷室 椿を捕らえに行った宝塚。
 しかしあっさり返り討ちに合い氷漬けにされるのを見て、銀野筆頭監視官は『???』と首をかしげる。

 ……おかしい、椿氏の能力は拙僧がかき乱したばすでござるが、なぜあんなピンピンと能力を使っているでござるか?

 と、椿の中から知った声が聞こえてきた。
 正確には椿の中にいたマステマから発せられた声だが、その軽い口調は銀野もよく知った人物のものだった。

 ――――大西健吾。
 元、JPA幹部にして訓練所所長。
 そして自分の兄弟子でもあった男だ。

 マステマと宝塚殿の会話を聞いて状況は理解した。

 ――――なるほど、彼女が平気なのはそういうカラクリでござったか……。

 なれば、いくら彼女を妨害したところで、そりゃ止めるのは無理でござるな。
 なかなかに憎い初見殺しをしてくれるものだ。さすが兄弟子。

 と、呑気に感心していると。

 宝塚が椿に引きずられ何処かへ連れて行かれようとしている。
 おお、これはいかんいかん、と銀野は慌て、宝塚に向かって念話を飛ばした。

『あ~~あ~~、大丈夫でござるが宝塚殿?』

 するとすぐに返事が返ってきた。

『大丈夫じゃねぇよ!! 寒いよ! 冷たいよ!! 痛いよっ!!!! ちょっとなんか私、連れ去られてるんですけど~~!??』
『見てるでござる。まぁ、宝塚殿ほどの人材ならそりゃ誰だってお持ち帰りしたいと思うでござるから致し方ないでござる』
『納得するな!! やばいよ助けてよ!! 私、お持ち帰りされたら片桐さんに何されるかわかんないから!!』
『わかっているでござる。いま拙僧が何とかするでござるから!!』

 とは言え、はてさてどうしたものか……?
 自分の能力はそもそも戦闘向きじゃない。
 支配の効く相手に対してはめっぽう強いが、それが効かない相手となると途端に無力になってしまう。

 強力な氷――――いや、あれは温度操作か? を操る椿氏相手に結界術だけでどこまで戦えるか……。

 銀野は悩んだ。

 正直、本気で結界術を使えば勝てない相手ではない。
 腐ってもこの銀野正文。
 筆頭監視官の名は伊達で名乗っているわけではない。
 しかし、それでも銀野はどうしても椿と本気で戦えない理由があった。
 それは――――、

『椿殿はモロに拙僧の好みでござるのだよ~~~~っ!!!!』
『おおおおおいっ!! この腐れ饅頭、ふざけんなっ!!』
『ふざけてはござらんっ!! 拙僧、かような可憐な少女を殴りつけるような拳は持ってござらんゆえ、ここはどうにも手出しが出来ないでごさる!!』
『それをふざけてるって言うんだ!! ああ、部下その①が車を回してくる!! このままじゃ、私本当に連れ去られるよ!???』
『なので、ここはやはり宝塚殿に暴れてもらうしかないのでござる!!』
『だから私はいま凍っているんだ!! あんたの目はみたらし団子ででも出来ているんかぁ~~~~~~!!!!』
『心配ござらん。拙僧が力を貸すのでござるよ』

 そう言って、銀野は能力への集中力を高める。

 と、背中からズゴゴゴゴゴと彼のファントムが姿を現した。
 
 白い厳《おごそ》かな衣と綺羅びやかな金ピカ鎧。
 背中に大きな白い羽を生やし黄金の仮面を被ったそれは、まるで天から降り立った天使のようだった。




(な、なんかクソ饅頭の背中から似合わない天使が出てきた~~~~!??)
 氷漬けにされて動けないまま、私は遠目に見える銀野筆頭のファントムを見ていた。

 ――――ドカンッ!!
(痛っ!??)

 乱暴に車の後部座席に投げ込まれる私。
 続けて無表情な椿が乗り込んでくる。

「こら!! もうちょっと丁寧に扱え!! 一応それは所長のお気に入りなんだからな」

 部下その①が私の処遇に対して椿をたしなめるが、彼女を操作しているのはその所長本人なのだ。それをたぶん知らないのだろう。

「……いい、早く、車を、出しなさい」

 おそらく所長にそう言えと意識を操作されたのだろう、椿は辿々《たどたど》しい言葉遣いで男にそう告げる。同時に助手席のシートを凍らせ脅しながら。

 ――――バキバキバキ……。

 白く染まり、固まっていくシートを見て部下その①は青ざめる。

 私は何とか凍った体を動かせないか回復術を自分にかけ続けているが、その行動を当然読んでいる所長は椿に私を凍らせ続けている。

 結界術を使って防ぐにも、凍っている身体では上手く術を操れなかった。
 結果、車内は業務用冷凍庫並に凍てついてくる。

「ひ、さ、さ寒っ!??」

 危機を察したその①は、文句を言うよりもとにかく早く仕事を終わらせたほうが賢明だと、無言でアクセルをベタ踏みした。

 ――――ギャギャギャギャゥ!!!!

 ホイルスピンしながらロケットのように飛び出す黒塗りの車。
 車種はわからないがアメ車だとはかろうじてわかった。
 知性の欠片もない馬鹿トルクに体を押されながら、小さくなっていく銀野筆頭を見つめる!!

『ぬおぉぉぉぉぉいっ!! 連れ去られる!! 連れ去られるよーーーーっ!! 何してんの!?? 何するつもりか知らないケド、何してんのーーーーっ!!??』

 無意味に空に浮かぶ天使的なファントム。
 あれがどんな能力を持っているのか知らないが、こんなに離れて私を助けられるのだろうか!??

『だれも助けるとは言ってござらんよ』
『なぬっ!?』

 腐れ饅頭から念話が届いた。
 助けないとな!? まさかの見殺しか!??
 おい、いくら椿が変態《あんた》好みの美少女だからって身内の美少女《わたし》を見捨てるか普通!?
 回復術を使い続けていたせいで、凍りながらも、私の容姿は美少女体型に痩せてしまっていた。だから自分でいうのもなんだが、椿に負けず劣らず、いや、ちょっぴりだけど勝ってると言えなくもないんだが? 
 そこは冷静に見極めて判断してくれよおい、腐れ饅頭!!

 と――――、ヒュボッ!!

 いきなり筆頭のファントムが目の前に現れる。
 いや、目の前ではない。目の『中』と言ったほうがいいだろうか。

『宝塚殿には自力で脱出してもらうでござるよ。拙僧のファントムは『主天使ドミニオン』、神の使い魔でござるよ』

 饅頭がファントムを介し、そう語ると同時。

 ――――ぶわぁぁぁぁぁっ!!

 私の体に膨大な精神エネルギーが流れ込んできた。
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