超能力者の私生活

盛り塩

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第233話 捕縛作戦⑤

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「宝塚さん!? なんでここに?」

 理由はわからないが、強化能力でそれを観察した以上、この情報は大西所長にも伝わったはずだ。
 するとさっそく念話が飛んできた。

『やあやあ、そろそろ接触したいなぁと思っていたら向こうさんからやってきてくれたのかい? 椿くんもいることだし、これはちょっと欲を出してもいいかもね』

 上機嫌でそう伝えてくる。
 欲と言うのはつまり、椿をけしかけ宝塚を拉致せよと言うことだろう。

「……いまの椿ではまだ宝塚さんに勝てないと思います」

 菜々が反論するが、大西はいたずらっぽい口調で答えてくる。

『だったらそれでも構わないさ、この娘の代わりなんていくらでも用意出来るからね。ただ、菜々くんキミは無理しないでくれよ? キミを失うのは大きな痛手だし、キミもまだ大切なものを失いたくないだろう?』

 卑怯な言い分に下唇を噛む菜々だが、しかし大西に逆らうわけにもいかない。
 大人しくうなずき、部下に連絡を入れる。

「斎藤? ちょっとトラブルが起きそうだから殺しあそびは止めて戻って来なさい、……ええ、後藤も連れて、大至急よ」

 携帯を切ると、自分は辺りを見回し適当なクルーザーバイクを見つけるとそれにまたがる。
 配線をイジりエンジンをかけようとすると、ショップの中で怯え隠れていた持ち主らしき若い男が飛び出してくるが、

 ――――ガンッ!!
 見もせずにその男の頭を撃ち抜いた。

 ドロロン――――ドッドッドッド。

 難なく始動させ、これでいつでも離脱する準備が整ったところで、

 ババババババババババババッ!!!!

 少し離れた車道の真ん中にヘリは着陸した。
 同時にタイヤの音を響かせて黒のキャデラックが菜々の側で急停車する。

「おまたせしましたね菜々さん。……トラブルってのはアレですか?」

 ヘリを見つつ、斎藤が運転席から尋ねてくる。

「そうよ」
「JPAの戦闘ヘリですね。……連中、いよいよ仕掛けてきたってことですか?」

 マシンガンのマガジンを装填し、落ち着いたようすでそう訊いてくる。
 全面戦争になるのは最初からわかっていて、覚悟などとうに決まっているという態度だ。後藤も降りてきてトランクがらロケットランチャーを取り出している。

「へ……へへへ。上等じゃねぇか……JPAおかみだかなんだか知らねぇが、俺はもうとっくに死ぬ覚悟なんて出来てるんだ……くそったれなクズどもを皆殺しに出来るんなら裏切りだろうが自滅だろうが……なんだってOKだぜぇ……へへへ」

 ヨダレをポタポタ落としつつ、RPGを構える後藤。

 完全に狂ってしまっているが、それがはたしてベヒモス化なのか、薬物によるものなのか判断がつかない。
 まぁどっちでもいいか、と菜々は短いため息を吐きながら注意をうながす。

「撃つのはいいけど、出来れば相手の話を聞いてからね。向こうには所長のお気に入りが乗っているんだから」

 宝塚のことだが、あえて余所余所しい言い方をする。

 自分がまだ彼女を友達だと思っているなんて、いま余計な情報を部下に与えたくないからだ。
 それに、乗っているのは宝塚だけではなかった。
 もう一人、得体の知れないキモデブ男が座っていた。

 あれはいったい誰なのだろう?

 誰にせよ、宝塚さんを引き連れて私の元に直接向かってくるなんて只者では無さそうだ。
 そう警戒を強めたところで、

 ――――ドシュッ!!!!

 後藤の担ぐRPGから大きな火と煙が上がった。

「はぁ!?」

 ヘリに向かって一直線に向かっていくロケット弾を見送りながら、菜々は素っ頓狂な声を上げる。

「うひゃひゃひゃひゃ。すんませんねぇ……俺……我慢出来なかったよ、ふひゃひゃひゃひゃひゃ」
「後藤、お前っ!!」

 斎藤が相方を睨みつけるが、後の祭り。
 空気を裂き、轟音と衝撃を撒き散らしながら弾は戦闘ヘリに命中する。

 ――――チュドッ!! ッカガァァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 とてつもない爆発と火柱が上がる。
 飛び散ったヘリの部品は炎の帯を引きながら四方に散らばっていった。

「うっひゃおぅ!! 木端微塵だぜぇ~~~~!! やべえ、これクセになるわぁ!! げひゃひゃひゃひゃっ!!!!」

 高笑いする後藤を呆れ顔で見つつ、菜々は額を押さえた。

 ――――宝塚さんのことだから、たとえバラバラになっても死にはしないだろう。だけども一緒に載っていた正体不明の男はどうだろうか?

 ……さすがに死んでいるわよね。

 結界術で防御したとしても、戦車の装甲すら破壊する対戦車榴弾を打ち込んだのだ、女将レベルの手練でもない限り、防ぎきれるものではないだろう。

「申し訳ありません菜々さん、勝手な真似を。こいつは後で制裁しときます」
「まぁ、どうせ宝塚さん以外は殺すつもりだったからいいけど……にしても話くらいは聞いておきたかったわね」

 やれやれと燃え上がる黒煙を見つめる菜々。
 しかしすぐに、その目が大きく見開かれた。

 轟々と燃える炎の中から青い結界の光が一つ、熱気に揺れながら現れたからだ。
 その中には気絶してぐったりしているパイロットと、それを担いでいる宝塚さん。そしてその中心には結界の主である、キモデブ男がいた。

 大西から念話が届いた。

『あ~~……気をつけたまえよ菜々く~~ん。あの男は……JPA筆頭監視官、銀野正文……。僕をその席から引きずり下ろした天才念話使いだよ』
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