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第229話 捕縛作戦①
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「トラブル報告よ。聞く?」
ピコピコと電子音なる部屋の中で片桐はそう聞いた。
「トラブル? ……べつに計画的な作戦をしていた覚えはないけどなぁ……。あ、もしかして菜々くんに任せておいた実験体が暴れたとか?」
骨董品と呼んでいいほどの携帯ゲーム機の中で、白黒で描かれた配管工が、落ちてくる樽を避けてビルを登っていくゲームにハマりながら大西は首をかしげる。
どうやらすでに高層階からの景色は飽きてしまったようだ。
「……あれは、常に暴れているわ。いまさらトラブルってほどでもないでしょう」
「そうかい? 昨日も街の一区画を血の海に変えちゃったって聞いたから、少しは気に病んでいるだけどもね?」
「そういう白々しいのはいいから」
「じゃあ、何が起きたって言うんだい?」
「森田ら六人のグループが装甲車で小学校を襲撃したらしいわ」
「ほう……まぁ、痛ましいねぇ。でも、そのあたりの判断は個人に任せてあるからねぇ、彼らも色々思うところがあったんだろう。因果は巡るってね」
まるで興味が無いように大西はゲームに没頭している。
「ええ。ただその場所が偶然、百恵が通う学校だったそうなの」
「――――ぶっ!!?」
吹き出す大西。同時に画面の中の配管工も樽に轢かれる。
「百恵くんの? おいおいそりゃマズイねぇ~~? もしかして戦闘になっちゃったとか?」
「森田らは全滅。遺体と装備は全てJPAに回収されたらしいわ」
はぁぁぁぁぁぁぁ~~~~……と、珍しく大きなため息を吐く大西。
「おいおいそれじゃ、協定の交換条件に宝塚くんを貰い受けるっていう提案はどうなるんだい?」
「もちろん破棄よ」
言って、ノートPCに届いたJPAからの通達メールを見せる片桐。
『JPA組織員、七瀬百恵襲撃について。
この度、河口湖町立小学校において当方組織員七瀬百恵と貴団体員六名との戦闘が確認され、当組織員の負傷が確認されました。この事により、先日ご提案させて頂いた不戦協定並びに、その締結条件を全て破棄させて頂く旨、お伝えいたします。ご理解の上、ご容赦くださいますよう平にお願い申し上げます』
「……つまり、どういうことだい?」
わかってはいるが、どうしても確認したくなる。
「ようもうちの若いモンに手ぇ出してくれよったのぉ、落とし前はきっちりつけたるさかいに、いまさら後悔なんぞするんじゃあらへんぞ――――て、ところかしら?」
「わざわざ関西弁でありがとう……」
これからの展開を考えて、面倒くさそうに額を掻く大西。
片桐はソファーに座って足を組む。
「対応の早さから言って、たぶん向こうもこうなる展開を予想していたと思うわ。こちらを完全に悪者にしてからじっくりと潰しにかかるつもりね」
「そうすることによって、これ以上の離反者を防ぎつつ、我々への報復の正当性を確固たるものにしたと」
「でしょうね。一応の思想を持って離反した私たちを、ただ裏切り者として一方的に叩いたんじゃJPAの中からも不満が出るでしょうからね。偶然でも何でも、こっちから喧嘩を売るのを待ってたんでしょうね」
「まぁ、遅かれ早かれそうなるだろうとは思ってたけどもね。……せめて宝塚くんが来てくれるまで待ってほしかったなぁ~~うちの連中」
「六人と関係のある部下はリストに上げといたわ。見せしめに処分でもする?」
「う~~~~ん……いや、やめとこう。好きに暴れろと言ったのは僕だし、どうせこの先、戦力ももっと必要になってくるしね」
「スカウトは進んでいるから、雑魚ならどんどん集まってきているわ」
「……結構。雑魚でも僕のマステマにかかれば充分な戦力になる。さて、これからどこまで走って行けるのか……楽しみだねぇ」
まるで自分の死期を待ち望んでいるかのように、大西は病んだ目で笑った。
「んがんぐ―――んぐぐぅぅぅぅ!!」
顔をボコボコに腫らした生意気そうな女子高生が、椅子に座らされ縛り付けられている。
少女の前には顔面を蒼白にした同じ年くらいの別の少女が立っていて、手に金属バットを握らされていた。
「遠慮することはない。いままでの恨みを全部込めて、思いっきり振り下ろせばそれでお終いだ。後始末は俺達がやってやる」
バットを持った少女に囁くように男は言った。
男の周りにはすでに数体の男女死体が転がっていて、全員が少女を虐めていた優等生グループだった。
さらに周囲には男の仲間がマシンガンを手に数人立っていて、彼らは少女に『エノクの審判』と名乗っていた。
彼らがどこから情報を得たのかわからないが、虐められていた少女と加害者グループを強制拉致し、この廃墟に連れてきた。
加害者グループに、今からリンチし殺す理由を丁寧に説明したのち、処刑は行われた。
そして残った一人。被害者少女の元親友だけを残し、男は怯える少女に「お前は、俺たちの仲間になれる才能がある。地獄から解放されたいのなら、その意志を示してみせろ」と、バットを渡してきた。
暴力、ゆすり、凌辱、売り……やられたこと全てと、目の前に縛られている元親友の命を天秤にかけてみる。
恐怖の中、しかし答えは一瞬で出た。
新たな血の匂いが充満した。
男たちは満足して少女を仲間に招き入れると、その場所に火を放ち、車で走り去った。
少女の名は氷室 椿、自覚の無い物体送信《アスポート》能力者である。
ピコピコと電子音なる部屋の中で片桐はそう聞いた。
「トラブル? ……べつに計画的な作戦をしていた覚えはないけどなぁ……。あ、もしかして菜々くんに任せておいた実験体が暴れたとか?」
骨董品と呼んでいいほどの携帯ゲーム機の中で、白黒で描かれた配管工が、落ちてくる樽を避けてビルを登っていくゲームにハマりながら大西は首をかしげる。
どうやらすでに高層階からの景色は飽きてしまったようだ。
「……あれは、常に暴れているわ。いまさらトラブルってほどでもないでしょう」
「そうかい? 昨日も街の一区画を血の海に変えちゃったって聞いたから、少しは気に病んでいるだけどもね?」
「そういう白々しいのはいいから」
「じゃあ、何が起きたって言うんだい?」
「森田ら六人のグループが装甲車で小学校を襲撃したらしいわ」
「ほう……まぁ、痛ましいねぇ。でも、そのあたりの判断は個人に任せてあるからねぇ、彼らも色々思うところがあったんだろう。因果は巡るってね」
まるで興味が無いように大西はゲームに没頭している。
「ええ。ただその場所が偶然、百恵が通う学校だったそうなの」
「――――ぶっ!!?」
吹き出す大西。同時に画面の中の配管工も樽に轢かれる。
「百恵くんの? おいおいそりゃマズイねぇ~~? もしかして戦闘になっちゃったとか?」
「森田らは全滅。遺体と装備は全てJPAに回収されたらしいわ」
はぁぁぁぁぁぁぁ~~~~……と、珍しく大きなため息を吐く大西。
「おいおいそれじゃ、協定の交換条件に宝塚くんを貰い受けるっていう提案はどうなるんだい?」
「もちろん破棄よ」
言って、ノートPCに届いたJPAからの通達メールを見せる片桐。
『JPA組織員、七瀬百恵襲撃について。
この度、河口湖町立小学校において当方組織員七瀬百恵と貴団体員六名との戦闘が確認され、当組織員の負傷が確認されました。この事により、先日ご提案させて頂いた不戦協定並びに、その締結条件を全て破棄させて頂く旨、お伝えいたします。ご理解の上、ご容赦くださいますよう平にお願い申し上げます』
「……つまり、どういうことだい?」
わかってはいるが、どうしても確認したくなる。
「ようもうちの若いモンに手ぇ出してくれよったのぉ、落とし前はきっちりつけたるさかいに、いまさら後悔なんぞするんじゃあらへんぞ――――て、ところかしら?」
「わざわざ関西弁でありがとう……」
これからの展開を考えて、面倒くさそうに額を掻く大西。
片桐はソファーに座って足を組む。
「対応の早さから言って、たぶん向こうもこうなる展開を予想していたと思うわ。こちらを完全に悪者にしてからじっくりと潰しにかかるつもりね」
「そうすることによって、これ以上の離反者を防ぎつつ、我々への報復の正当性を確固たるものにしたと」
「でしょうね。一応の思想を持って離反した私たちを、ただ裏切り者として一方的に叩いたんじゃJPAの中からも不満が出るでしょうからね。偶然でも何でも、こっちから喧嘩を売るのを待ってたんでしょうね」
「まぁ、遅かれ早かれそうなるだろうとは思ってたけどもね。……せめて宝塚くんが来てくれるまで待ってほしかったなぁ~~うちの連中」
「六人と関係のある部下はリストに上げといたわ。見せしめに処分でもする?」
「う~~~~ん……いや、やめとこう。好きに暴れろと言ったのは僕だし、どうせこの先、戦力ももっと必要になってくるしね」
「スカウトは進んでいるから、雑魚ならどんどん集まってきているわ」
「……結構。雑魚でも僕のマステマにかかれば充分な戦力になる。さて、これからどこまで走って行けるのか……楽しみだねぇ」
まるで自分の死期を待ち望んでいるかのように、大西は病んだ目で笑った。
「んがんぐ―――んぐぐぅぅぅぅ!!」
顔をボコボコに腫らした生意気そうな女子高生が、椅子に座らされ縛り付けられている。
少女の前には顔面を蒼白にした同じ年くらいの別の少女が立っていて、手に金属バットを握らされていた。
「遠慮することはない。いままでの恨みを全部込めて、思いっきり振り下ろせばそれでお終いだ。後始末は俺達がやってやる」
バットを持った少女に囁くように男は言った。
男の周りにはすでに数体の男女死体が転がっていて、全員が少女を虐めていた優等生グループだった。
さらに周囲には男の仲間がマシンガンを手に数人立っていて、彼らは少女に『エノクの審判』と名乗っていた。
彼らがどこから情報を得たのかわからないが、虐められていた少女と加害者グループを強制拉致し、この廃墟に連れてきた。
加害者グループに、今からリンチし殺す理由を丁寧に説明したのち、処刑は行われた。
そして残った一人。被害者少女の元親友だけを残し、男は怯える少女に「お前は、俺たちの仲間になれる才能がある。地獄から解放されたいのなら、その意志を示してみせろ」と、バットを渡してきた。
暴力、ゆすり、凌辱、売り……やられたこと全てと、目の前に縛られている元親友の命を天秤にかけてみる。
恐怖の中、しかし答えは一瞬で出た。
新たな血の匂いが充満した。
男たちは満足して少女を仲間に招き入れると、その場所に火を放ち、車で走り去った。
少女の名は氷室 椿、自覚の無い物体送信《アスポート》能力者である。
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