223 / 262
第223話 悪の食い合い⑤
しおりを挟む
百恵の心はウキウキと、まるで羽根が生えたかのように軽くなっていた。
JPA最高幹部会が大西とその率いる異端者グループへの制裁を断念したと聞かされたからだ。
理由は、効果に対する被害が大きすぎるとのことで、平たく言えば大西一派と事を構えるのは割に合わないという判断らしい。
組織の規律を乱し、離反した人間に、何の制裁もしないというのは今後の組織運営に大きな乱れを生じさせるのではないかと本部の上層部では反対意見も多かったらしいが、そもそものJPAの存在理由は『超能力者の保護と生活保障』である。
無理に組織の規模を維持する必要もないし、必要以上の戦力を求める理由もない。
暴力組織でもなければ軍隊でもないのだから。
したがって、それから離れた者、また離れようとする者については個々の自由判断に任せるということらしい。
つまりは『保証がいらないのなら好きに生きていけ。あとは知らん』ということなのだ。
宝塚はそれに不満があったようだが、百恵は大賛成だった。
とにもかくにも、オジサマの身を案ずる必要が無くなるからだ。
そして敵対する必要も無くなった。
もっと言ってしまえば、自分もJPAから離れてオジサマの組織へ入れてもらってもお咎めは無いと言うことなのだ。
本心から言えば、いますぐにでもオジサマの元へ走って行きたいくらいだ。
しかし、それは姉が許さぬだろう。
両親もいる。
自分一人ならばJPAの保護から離れて、身を危険に晒しても構わないと感情的に判断しても、それはそれでアリだと思うが、家族のことを考えると自分勝手な行動は出来ない。だからいまはまだ当分JPAにいるとは思うが……もしオジサマが家族ごと迎えに来てくれることがあったなら……自分はついて行ってしまうかもしれない。
などと考えながら給食を食べている。
「ねぇねぇ、百恵ちゃん――――」
同級生の子が話しかけてくる。
他愛も無い動画サイトの話だが、百恵はこうやって年相応の自分に戻れるこの時間が好きだった。
JPAを離れれば、呑気に小学校に通うなんてことも出来なくなるだろう。
「いましばらくは……この時間を大切に生きて行くべきかの……」
「え? なに百恵ちゃん??」
急に年寄りくさいことを呟く百恵に、はてな顔の同級生。
「ん? あ、いや……なんでもないよ。ちょっと考え事しちゃって、えへへ」
小学生らしい喋り方と仕草を演じて、その場を誤魔化す百恵。
学校にいる間はこんな調子でまわりに溶け込むように演技している。このあたりの器用さは完全に姉譲りなのだろう。
献立の麻婆春雨をすすりながら、同級生と緩やかな時間を楽しんでいた。
三階から見下ろす窓の外には校庭が広がっていて、早くも給食を平らげた男子がポツリポツリと出てきてドッジボールを始めていた。
それをなんとなく見て、自分も後でまぜてもらおうかなどと思っていると、
ガシャンッ!!!! メリメリ……バキャンッ!!!!
と、校門の鉄柵を破壊して一台の装甲車が入って来た。
「…………………………………………ん?」
あまりの出来事に、しばらく状況が理解できない百恵。
――――事故? いや……それにしてはあの車両……96式装輪装甲車??
12.7ミリ重機関銃M2を搭載したその兵器は自衛隊の戦闘車両で、そんな物が単独で、こんな場所で事故を起こすなどあり得ない話だ。
移動訓練中の事故だとしてもまわりに仲間の車両が見当たらない。
じゃあ、あれは何なのだ??
ようやく自体の異常さに気付き、緊迫感を覚えると同時に、
ジャキンッ!!
銃座に人が現れ、何かを操作すると――――、
ドカカカカカカカカカカカカカカカッ!!!!!!!!
雷のような轟音を発してその銃口が火を吹いた!!
「――――なっ!!!!」
椅子を蹴飛ばし立ち上がり、百恵は窓にかぶりつく。
校庭にいた十数人の男子生徒は原型もなく吹き飛ばされ、校庭には血の筋がいくつもの縞模様を作っていた。
装甲車の中からワラワラと人間が降りてくる。
それらはみんな自衛隊の服装などしていなくて、思い思いの格好で、雑に銃器を担いでいた。
校舎の中から異常を察した先生が、数人飛び出してくる。
ガガガガンッ!!!!
まるで躊躇いなく乾いた音が鳴ると、その数人の先生は血を吹き出しながら壊れた人形のように倒れた。
そこでようやく悲鳴が上がった。
すべての教室から一斉に。
怯えつつも、情報を得ようと窓に殺到する生徒たち。
百恵はそれらをかき分け押しのけて、ひとり教室を飛び出していった。
JPA最高幹部会が大西とその率いる異端者グループへの制裁を断念したと聞かされたからだ。
理由は、効果に対する被害が大きすぎるとのことで、平たく言えば大西一派と事を構えるのは割に合わないという判断らしい。
組織の規律を乱し、離反した人間に、何の制裁もしないというのは今後の組織運営に大きな乱れを生じさせるのではないかと本部の上層部では反対意見も多かったらしいが、そもそものJPAの存在理由は『超能力者の保護と生活保障』である。
無理に組織の規模を維持する必要もないし、必要以上の戦力を求める理由もない。
暴力組織でもなければ軍隊でもないのだから。
したがって、それから離れた者、また離れようとする者については個々の自由判断に任せるということらしい。
つまりは『保証がいらないのなら好きに生きていけ。あとは知らん』ということなのだ。
宝塚はそれに不満があったようだが、百恵は大賛成だった。
とにもかくにも、オジサマの身を案ずる必要が無くなるからだ。
そして敵対する必要も無くなった。
もっと言ってしまえば、自分もJPAから離れてオジサマの組織へ入れてもらってもお咎めは無いと言うことなのだ。
本心から言えば、いますぐにでもオジサマの元へ走って行きたいくらいだ。
しかし、それは姉が許さぬだろう。
両親もいる。
自分一人ならばJPAの保護から離れて、身を危険に晒しても構わないと感情的に判断しても、それはそれでアリだと思うが、家族のことを考えると自分勝手な行動は出来ない。だからいまはまだ当分JPAにいるとは思うが……もしオジサマが家族ごと迎えに来てくれることがあったなら……自分はついて行ってしまうかもしれない。
などと考えながら給食を食べている。
「ねぇねぇ、百恵ちゃん――――」
同級生の子が話しかけてくる。
他愛も無い動画サイトの話だが、百恵はこうやって年相応の自分に戻れるこの時間が好きだった。
JPAを離れれば、呑気に小学校に通うなんてことも出来なくなるだろう。
「いましばらくは……この時間を大切に生きて行くべきかの……」
「え? なに百恵ちゃん??」
急に年寄りくさいことを呟く百恵に、はてな顔の同級生。
「ん? あ、いや……なんでもないよ。ちょっと考え事しちゃって、えへへ」
小学生らしい喋り方と仕草を演じて、その場を誤魔化す百恵。
学校にいる間はこんな調子でまわりに溶け込むように演技している。このあたりの器用さは完全に姉譲りなのだろう。
献立の麻婆春雨をすすりながら、同級生と緩やかな時間を楽しんでいた。
三階から見下ろす窓の外には校庭が広がっていて、早くも給食を平らげた男子がポツリポツリと出てきてドッジボールを始めていた。
それをなんとなく見て、自分も後でまぜてもらおうかなどと思っていると、
ガシャンッ!!!! メリメリ……バキャンッ!!!!
と、校門の鉄柵を破壊して一台の装甲車が入って来た。
「…………………………………………ん?」
あまりの出来事に、しばらく状況が理解できない百恵。
――――事故? いや……それにしてはあの車両……96式装輪装甲車??
12.7ミリ重機関銃M2を搭載したその兵器は自衛隊の戦闘車両で、そんな物が単独で、こんな場所で事故を起こすなどあり得ない話だ。
移動訓練中の事故だとしてもまわりに仲間の車両が見当たらない。
じゃあ、あれは何なのだ??
ようやく自体の異常さに気付き、緊迫感を覚えると同時に、
ジャキンッ!!
銃座に人が現れ、何かを操作すると――――、
ドカカカカカカカカカカカカカカカッ!!!!!!!!
雷のような轟音を発してその銃口が火を吹いた!!
「――――なっ!!!!」
椅子を蹴飛ばし立ち上がり、百恵は窓にかぶりつく。
校庭にいた十数人の男子生徒は原型もなく吹き飛ばされ、校庭には血の筋がいくつもの縞模様を作っていた。
装甲車の中からワラワラと人間が降りてくる。
それらはみんな自衛隊の服装などしていなくて、思い思いの格好で、雑に銃器を担いでいた。
校舎の中から異常を察した先生が、数人飛び出してくる。
ガガガガンッ!!!!
まるで躊躇いなく乾いた音が鳴ると、その数人の先生は血を吹き出しながら壊れた人形のように倒れた。
そこでようやく悲鳴が上がった。
すべての教室から一斉に。
怯えつつも、情報を得ようと窓に殺到する生徒たち。
百恵はそれらをかき分け押しのけて、ひとり教室を飛び出していった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
Solomon's Gate
坂森大我
SF
人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。
ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。
実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。
ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。
主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。
ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。
人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。
関白の息子!
アイム
SF
天下一の出世人、豊臣秀吉の子―豊臣秀頼。
それが俺だ。
産まれて直ぐに父上(豊臣秀吉)が母上(茶々)に覆いかぶさり、アンアンしているのを見たショックで、なんと前世の記憶(平成の日本)を取り戻してしまった!
関白の息子である俺は、なんでもかんでもやりたい放題。
絶世の美少女・千姫とのラブラブイチャイチャや、大阪城ハーレム化計画など、全ては思い通り!
でも、忘れてはいけない。
その日は確実に近づいているのだから。
※こちらはR18作品になります。18歳未満の方は「小説家になろう」投稿中の全年齢対応版「だって天下人だもん! ー豊臣秀頼の世界征服ー」をご覧ください。
大分歴史改変が進んでおります。
苦手な方は読まれないことをお勧めします。
特に中国・韓国に思い入れのある方はご遠慮ください。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる