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第222話 悪の食い合い④
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「菜々さん、そちらは終わりましたかっ……て、どうしたんですか下着姿で!?」
「……所長の雑な仕事のとばっちりよ」
ベトベトに赤く染まった髪を無造作に掻き上げながら菜々は応えた。
「……とりあえず、ここの事務所でシャワーでも借りるから、少し待っててね」
「んでも、早く移動しないと面倒臭い機動隊がやってきますよ? 噂じゃ自衛隊も動き出したとか」
「そんなもの、ただの庶民向けのパフォーマンスよ。ここの国のお偉方はみな私たち超能力者の怖さを知っているから……本気では仕掛けて来ないわよ」
「んでも俺たちみたいな出来損ないじゃ、さすがに対処出来ませんって。もう弾も無くなっちまったし……」
そう言って空になったマシンガンを振る部下の男。名を斎藤と言う。
「後藤は?」
「あいつは……向こうの路地裏で知った顔をリンチしてますよ。……なんでも自分をバカにしてた同級生を偶然見つけたって、高笑いしながら走って行きました」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……と、大きなため息を吐く菜々。
「あの人……昨日も同じこと言って10人くらい殺してなかった?」
「13人です。……どうも、みんなおんなじ顔に見えてるみたいですねぇ。所長に殺しを解禁されてからあいつ……景気づけにコレもやってましたから」
腕に何かを刺す仕草をしてみせる斎藤。
菜々はやれやれと頭を掻くと、
「とにかく、私はシャワーを浴びて着替えて出るから。あなたは後藤を回収して面倒になる前に去りなさい。私は一人で帰るから」
「わかりました。では」
襲撃に逃げ遅れたオーナーらしき男の骸をまたいで、菜々は奥のシャワールームへと消えていった。
東京の景色を一望できる超高層ビル『セントラルタワー』
その最上54階から見る景色は、思っていたよりつまらなかった。
「……なんだかミニチュアの街を眺めてるみたいで退屈だねぇ~~。世間の上流階級気取りのみなさんは、こんな景色で満足しているのかねぇ?」
理解できないと言ったようすで顔をしかめると、大西はタバコに火を点けた。
「景色なんて二の次でしょ。欲しいのはステータスだけよ」
「だろうねぇ。……これじゃそこらの公園の池のほうがよほど綺麗だよ」
革張りの高級ソファーに腰掛け、ノートPCを操作している片桐に、大西はおおげさに肩を竦めておどけて見せる。
「だったら森のペンションでも借りれば良かったのに」
「そうなんだよねぇ~~……。僕の趣味で言えばそっちだったよ。でもさ、それじゃ新たな組織の本拠地としてはハッタリに欠けるだろう? ……それに宝塚くんを出迎えるには地の利が無さすぎるしね」
その名を聞いた片桐の目が釣り上がる。
普段はポーカーフェイスな彼女だが、あの日以来、宝塚の話題を持ち上げると、とたんに殺気を帯びるようになった。
「怖いよ怖いよ片桐く~~ん」
腰をくねらせながら、おちょくったように言う大西。
片桐はそんなお調子者を凍りつくような視線で睨みつけるとPCの蓋を閉じた。
「JPAからは正式に退会通達が来たわ。それから不戦協定案も同時に提案されてるわね」
「顔を潰されておいて仕返しも無しに、平和的関係を作ろうって? ……相変わらず懐が深いんだか、ことなかれ主義なんだか、わからない組織だねぇ~~。そんなんだから組織員の統率が出来ないんだよ」
「飛び出した本人が言うと説得力があるわね」
「だろう? 僕なら部下に退屈な思いはさせたりしないよ~~」
「で? 不戦案を受け入れるの?」
「……そうだねぇ、僕のほうも連中と正面切って争いたいとは思っていないからねぇ~~。腑抜けでも一応、人数と資金力は無視できないからねぇ。それに能力者同士のつぶしあいは僕も望んでいないことだよ」
「じゃあ、受けるのね?」
「――――んだ、け、ど、も、だ。素直にわかりましたと握手しちゃうのは僕の趣味じゃないからね、一つ条件を出したいな?」
「……………………ふんっ」
大西が何を言い出すのか予想が出来て、片桐は不満げに鼻を鳴らした。
「――――宝塚女優くんの平和的譲渡。これを協定締結の条件として提示しといてもらえるかな」
はぁぁぁぁぁぁぁぁ……。
やっぱりねと深い溜息を吐きふたたびPCを開ける片桐。
「……そんな無茶な要求、向こうが飲むわけないでしょ?」
「いいんだよそれで」
「――――?」
「自分のせいで組織間の争いが止まないって思わせれば、良い子な彼女はきっと僕たちと接触してこようとするだろうからね。そこをパクっとやっちゃえばいいじゃん」
「簡単に言ってくれるわね。……誰がそれをやると思っているの」
片桐は、先の宝塚との死闘を思い出して眉間をつまんだ。
宝塚の戦闘力は自分の予想より遥かに高かった。
たった一ヶ月ほど前までは能力の使い方もろくにわからない素人だったはずなのに……それがここ少しの訓練だけで、まがりなりにもJPA最強と言われた自分に土をナメさせたのだ。
その才能と潜在能力は計り知れない。
「……おや? キミらしくもない、先日の苦戦で自信が無くなっちゃたのかね?」
「そうね……殺さずに勝つ自信は……もう無いかも知れないわね」
――――ゾワッと湧き上がる狂気を含んだ殺気に、大西は満足げにうなずき。
「まぁ、そうなったらそうなったで別にいいよ。手に入らないオモチャなら壊してしまえばいいから。そうすれば誰かが有利になると言うこともないだろう?」
その言葉に片桐は無言で、しかし下品にニタリと大きな笑みを浮かべた。
「……所長の雑な仕事のとばっちりよ」
ベトベトに赤く染まった髪を無造作に掻き上げながら菜々は応えた。
「……とりあえず、ここの事務所でシャワーでも借りるから、少し待っててね」
「んでも、早く移動しないと面倒臭い機動隊がやってきますよ? 噂じゃ自衛隊も動き出したとか」
「そんなもの、ただの庶民向けのパフォーマンスよ。ここの国のお偉方はみな私たち超能力者の怖さを知っているから……本気では仕掛けて来ないわよ」
「んでも俺たちみたいな出来損ないじゃ、さすがに対処出来ませんって。もう弾も無くなっちまったし……」
そう言って空になったマシンガンを振る部下の男。名を斎藤と言う。
「後藤は?」
「あいつは……向こうの路地裏で知った顔をリンチしてますよ。……なんでも自分をバカにしてた同級生を偶然見つけたって、高笑いしながら走って行きました」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……と、大きなため息を吐く菜々。
「あの人……昨日も同じこと言って10人くらい殺してなかった?」
「13人です。……どうも、みんなおんなじ顔に見えてるみたいですねぇ。所長に殺しを解禁されてからあいつ……景気づけにコレもやってましたから」
腕に何かを刺す仕草をしてみせる斎藤。
菜々はやれやれと頭を掻くと、
「とにかく、私はシャワーを浴びて着替えて出るから。あなたは後藤を回収して面倒になる前に去りなさい。私は一人で帰るから」
「わかりました。では」
襲撃に逃げ遅れたオーナーらしき男の骸をまたいで、菜々は奥のシャワールームへと消えていった。
東京の景色を一望できる超高層ビル『セントラルタワー』
その最上54階から見る景色は、思っていたよりつまらなかった。
「……なんだかミニチュアの街を眺めてるみたいで退屈だねぇ~~。世間の上流階級気取りのみなさんは、こんな景色で満足しているのかねぇ?」
理解できないと言ったようすで顔をしかめると、大西はタバコに火を点けた。
「景色なんて二の次でしょ。欲しいのはステータスだけよ」
「だろうねぇ。……これじゃそこらの公園の池のほうがよほど綺麗だよ」
革張りの高級ソファーに腰掛け、ノートPCを操作している片桐に、大西はおおげさに肩を竦めておどけて見せる。
「だったら森のペンションでも借りれば良かったのに」
「そうなんだよねぇ~~……。僕の趣味で言えばそっちだったよ。でもさ、それじゃ新たな組織の本拠地としてはハッタリに欠けるだろう? ……それに宝塚くんを出迎えるには地の利が無さすぎるしね」
その名を聞いた片桐の目が釣り上がる。
普段はポーカーフェイスな彼女だが、あの日以来、宝塚の話題を持ち上げると、とたんに殺気を帯びるようになった。
「怖いよ怖いよ片桐く~~ん」
腰をくねらせながら、おちょくったように言う大西。
片桐はそんなお調子者を凍りつくような視線で睨みつけるとPCの蓋を閉じた。
「JPAからは正式に退会通達が来たわ。それから不戦協定案も同時に提案されてるわね」
「顔を潰されておいて仕返しも無しに、平和的関係を作ろうって? ……相変わらず懐が深いんだか、ことなかれ主義なんだか、わからない組織だねぇ~~。そんなんだから組織員の統率が出来ないんだよ」
「飛び出した本人が言うと説得力があるわね」
「だろう? 僕なら部下に退屈な思いはさせたりしないよ~~」
「で? 不戦案を受け入れるの?」
「……そうだねぇ、僕のほうも連中と正面切って争いたいとは思っていないからねぇ~~。腑抜けでも一応、人数と資金力は無視できないからねぇ。それに能力者同士のつぶしあいは僕も望んでいないことだよ」
「じゃあ、受けるのね?」
「――――んだ、け、ど、も、だ。素直にわかりましたと握手しちゃうのは僕の趣味じゃないからね、一つ条件を出したいな?」
「……………………ふんっ」
大西が何を言い出すのか予想が出来て、片桐は不満げに鼻を鳴らした。
「――――宝塚女優くんの平和的譲渡。これを協定締結の条件として提示しといてもらえるかな」
はぁぁぁぁぁぁぁぁ……。
やっぱりねと深い溜息を吐きふたたびPCを開ける片桐。
「……そんな無茶な要求、向こうが飲むわけないでしょ?」
「いいんだよそれで」
「――――?」
「自分のせいで組織間の争いが止まないって思わせれば、良い子な彼女はきっと僕たちと接触してこようとするだろうからね。そこをパクっとやっちゃえばいいじゃん」
「簡単に言ってくれるわね。……誰がそれをやると思っているの」
片桐は、先の宝塚との死闘を思い出して眉間をつまんだ。
宝塚の戦闘力は自分の予想より遥かに高かった。
たった一ヶ月ほど前までは能力の使い方もろくにわからない素人だったはずなのに……それがここ少しの訓練だけで、まがりなりにもJPA最強と言われた自分に土をナメさせたのだ。
その才能と潜在能力は計り知れない。
「……おや? キミらしくもない、先日の苦戦で自信が無くなっちゃたのかね?」
「そうね……殺さずに勝つ自信は……もう無いかも知れないわね」
――――ゾワッと湧き上がる狂気を含んだ殺気に、大西は満足げにうなずき。
「まぁ、そうなったらそうなったで別にいいよ。手に入らないオモチャなら壊してしまえばいいから。そうすれば誰かが有利になると言うこともないだろう?」
その言葉に片桐は無言で、しかし下品にニタリと大きな笑みを浮かべた。
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