超能力者の私生活

盛り塩

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第219話 悪の食い合い①

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 どどどどどどどどどどっと猛ダッシュで旅館へと帰宅する。

「ちょっと宝塚様!! 営業中期間中は館内で騒がしくしないでください!!」
 と、注意をしてくる瀬戸さんの両腕をガシッと掴み、

「あ、あ、あ、あ、あの豚饅頭はどこに行ったの!???」
 と血走った目で尋ねた。

「ぶ、豚まん……? ああ~~~~銀野筆頭監視官ですか? そ、それなら別館の控室で職員の検査をしていますけれども……ほら昨日の……」
「あざ――――っすっ!!!!」

 礼を言うと私はその別館へと猛ダッシュで走って行った。
 後ろから瀬戸さんの怒鳴り声が聞こえてきたが、いまはそれどころじゃない!!




「あ、あ、あ、あ~~~~ぃ♡ ……で、で、で、では次の方ぁ~~~~♡」

 控室に着くと、上半身を裸にした若い仲居さんの前で聴診器を手にし、鼻の下を伸ばしまくった変態饅頭と、目頭を押さえ疲れた顔をしている女将が目に飛び込んできた。

「なにやっとんじゃーーーーーーーーぃっ!!!!」

 私は迷わずそのクソ饅頭に真空飛び膝蹴りを食らわす!!

「ぐふぁーーーーーーっ!!!!」

 鼻血を吹き出して吹っ飛び転がる、赤饅頭。

「なななな、たた宝塚殿!! な、な、な、何をするでござるかっ!??? 拙僧そんなプレイ望んでいないでござるに!!??」
「誰が拙僧だ!! この変態破壊坊主が!! ……あんた大人の女には興味なかったんじゃないのっ!!!!」

 腐れ饅頭の胸ぐらを掴んで殺気混じりの凄みを効かせる私。
 圧倒的上司に対して完全なる不敬の態度なのだが、職権乱用のセクハラ現場の現行犯だ。そんなことは関係ない。

「ぼぼ、ぼぼぼ僕のストライクゾーンは22歳までなんだな。こここ、この娘はギリギリ外角高めに入ってくるんだな、だな、ぐふふふふ」

 不気味に笑う汗饅頭に青ざめた顔をし、ドン引きしている若い仲居さん。

「大丈夫です!! これは私が退治しときますから、あなたは逃げてっ!!」

 私がそう言うと、彼女は私と女将にお辞儀をしてぴゅ~~っと逃げていった。

「あああ~~~~……まだ左のおっぱいを調べていないのに」

「女将!! 女将がいながらどうしてこんな変態を野放しにしているんですか!?」

 牙を生やして責め立てると、

「まぁ……悪いとは思っていたんだがね。……この歳になると乳の一つや二つ、べつに好きにさせればいいじゃないかと思うようになってねぇ。それで検査が事無く進むんなら細かいことはもういいかと……」
「……事無く済ませるはずが無いですよ!!」

 女将までもこのおっぱい饅頭に毒されておかしくなっている??
 しっかりしてくれとばかりに激しく肩を揺さぶって抗議した。

「そ、そ、そそうだね、そうだね、悪かったよ……、で? お前さんは慌てて一体どうしたんだい?」

 そう言われてハッとした私は、慌ててさっきのニュースを二人に説明した。




「ふぅん……なるほどね。こりゃ確かに菜々だね」

 職員への検査は一旦中断。
 私たちは緊急作戦会議と称し、尾栗庵に集まっていた。
 説明を聞き、携帯で一応のニュース確認をしてから女将は落ち着いたようすでお茶を啜った。

「案外元気そうじゃないか。よかったねぇ無事な顔が見れて」

 料理長もにこやかな顔でそう言ってくる。

「そうですね。最悪、監禁くらいはされているのではと心配しましたが、このようすだと無事に活動されているようで何よりです」

 瀬戸さんも携帯画面に映る菜々ちんの顔を見て安堵の笑みを浮かべる。
 私はそんな人達の対応を唖然とした顔で見つめていた。

「ん? ……どうしたんだい、人をそんな、人でなしを見るような目で眺めるもんじゃないよ?」

 女将が不機嫌そうに言うが、

「……い、いやいやいや……だって、菜々ちん……こんな事件に巻き込まれることになってるんですよ??」
「巻き込まれるというか……当事者ですよね? どちらかというと」
「そうだねぇ、見た感じ指揮官の立ち位置だねえこりゃあ」
「だ、だ、だ、ダメじゃないですか!!」

 瀬戸さんと料理長のあっさりしすぎている反応に、目頭を釣り上げ抗議する。

「ん? ダメとは?」

 不思議な顔をして料理長。

「いや……だから……!! こんな……テロみたいな……」

 みんなの反応が信じられないと言ったようすで言い淀んでいる私を、女将は逆に呆れた顔でため息を吐く。

「あ~~……そうか、お前さん、菜々が連中のテロ活動に担ぎ出されているのがショックだと、そう言いたいわけだねえ?」
「そ、そ、そ、そ、そうですよ!! こんなこと、すぐに止めさせなきゃ!! きっと菜々ちんは操られて、したくもないことをやらされているんです」
「いやまぁ……でもよ?」

 慌ててまくし立てる私に、料理長が半笑いで言ってきた。

「この程度のことなら……ここにいた時からやってるぞ、あいつ」
「……あ」

 言われて気付く。
 そして色々思い出す。

「むしろ自分から乱射してないぶん、ちょっと大人しいくらいじゃないか?」
「……やれやれ、お前さんまだ一般人だった頃の感覚が抜けていないようだね。この程度の荒事なんぞ、私らが気にするものでもないだろう」
「いや、でもこれは……JPAの業務じゃなくて……」
「そりゃいまは向こうの一員だからねえ」
「や、止めさせなきゃっ!!」
「だからどうして?」
「こ、こんなのは無差別テロですよ!?? やらせていて良いわけないじゃないですか!!!!」
「……まぁ、かたいこと言うなって。どのみちこりゃ警察とかの案件だろう?」

 お前の言いたいこともわかるけどな、とばかりに、なだめるように私の肩に手を置いてくる料理長。

 私はひさびさにこの組織の異常性を再確認させられるはめになった。
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