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第208話 特盛・タライカツ丼
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――――と、言う話を翌日のお昼『尾栗庵』で百恵ちゃんに話した。
彼女は対面で、オムライスを頬張りながら黙って聞いていた。
「だから……私たち……ここでジッとしていていいわけはないと思う……。こうしている間にも菜々ちんは所長たちに何をさせられているかわからないし……」
実際、先生や百恵ちゃんが生きているという情報はもう所長たちにも伝わっているだろう。そうすれば菜々ちんが裏切っていることがバレるだろうし、そうでなくても立場は確実に悪くなる。もうJPA管理者ではない所長たちが、そんな菜々ちんに何をするかなんて誰にもわからないのだ。
そう言う私をジロリと睨んで、百恵ちゃんが口を開いた。
「そんなことはわかっておる。……だからいま女将たちが対策を考えておるのだろう? それまで待て。いまの吾輩たちに出来るのは、その時にそなえ、今のうちに英気を養っておくことだけじゃ」
「……でも、女将の言い方だともう私たちの出る幕じゃないって――――」
「……本部と連携して動くらしいからな」
「その本部ってなんなの!?」
「……だから文部科学省にある日本神術協会《JPA》の中央組織のことじゃろう?」
「……具体的に」
「知らん」
「……は!?」
「……いまは国家組織とはいえ、元々は歴史の裏に潜む秘密組織じゃからの。いまだにその詳細は一部の幹部にしか知らされとらん。吾輩もその存在だけはだけは知ってるが、どこにあるのか、誰が大将なのか何も知らんのじゃ」
「………………そうなんだ」
料理長が特別に用意してくれたタライカツ丼をしゃもじで頬張りながら私は視線を落とした。
まだまだ知らないことが一杯だ。
そんな闇の組織的な本部が直接動くってことは、訓練生の立場である私たちなんて、それこそ本当にお呼びでないのかも……。
「吾輩だって菜々のことは心配じゃし……オジサマのことも…………会って話したいことは山ほどある。しかしそれよりもいまは体勢を整えることが先決じゃろう。闇雲に行動しても失敗するだけじゃ」
「……うん、それはわかってるけど」
しゃもじを咥えつつ、しょんぼりする私。そこに、
「……なぁに小学生に説教されてるんですか?」
と、宇恵ちゃんが声をかけてきた。
相変わらずの三編みフリフリエプロン姿が可愛らしい。
「あ、宇恵ちゃん。……でも、私……菜々ちんのことが心配で心配で……」
「のわりには食欲は落ちてないみたいですけど……?」
「落ちてるよ~~……だってこれまだ二杯目だもん」
『…』と言葉を失う二人。
「…………まぁ、心境に左右されない食欲は宝塚先輩らしいですが。でも菜々さんのことなら心配ないだろうと料理長が言ってましたよ?」
「え!? ほんとに!??」
「はい。だって所長たち……あ、元所長たちですね、の目的って宝塚先輩をメンバーに加えることだったんでしょ?」
「……うむ。くやしいがヒロインがいるのといないのとでは戦力に大きな差が出るからの、特に人数の少ない組織ならばなおさら欲しがるじゃろうよ!!」
ブス! ブス!! とオムライスに八つ当たりながら私を睨んでくる百恵ちゃん。
おや? まだライバル扱いされてる?
そんな百恵ちゃんに、まあまあと手をパタパタさせな、宇恵ちゃんが話を続ける。
「ですから、そんな宝塚先輩が菜々さんと親友であるならば、そんな菜々さんを無下に扱うわけないじゃないですか」
「……そうじゃの、菜々を人質……あるいは交渉人としてヒロインの説得に利用してくる可能性は大きいの」
「逆に菜々さんが殺されでもしてたら……」
――――バチィ!!!!
その言葉を聞いて私の結界がスパークした。
髪の毛も逆立ち、蛇へと変わっている。
「……もし、そんなことにでもなったら、誰が止めても私は復讐しに行くわ」
『ぎゅ~~~~るぅぅぅぅ……』
バチバチと結界を弾かせる私とラミアを見て、後ずさる宇恵ちゃんと冷や汗を流す百恵ちゃん。このときの私がどんな目をしていたかわからないが、きっと鬼か悪魔にでも変貌したかのような顔をしていただろう。
「わかった、わかったから落ち着けぃヒロインよ!! もしもの話じゃ!! ……それにオジサマに限って菜々をぞんざいに扱うことはせん!!」
「……どうしてわかるの?」
ごごごごご……といまだ背中にオーラを燻ぶらせつつ聞き返した。
「菜々は片桐と同じくオジサマの最古参の部下じゃ、もう十年くらいはオジサマたちに仕えておる、そんな人間を簡単に処分などオジサマなら絶対にしない!!」
「……でも、正也さんや渦女は所長の手で殺されたも同然でしょ?」
「あれは――――、」
百恵ちゃんが言い返そうとしたとき、
「宝塚様、百恵様、そして宇恵。女将がお呼びです、至急お部屋までいらして下さい」
そう声をかけてきたのは瀬戸さんだった。
いつのまにか私たちの側に立って、姿勢正しくお辞儀をしてくれる。
「女将が??」
ぷしゅ~~~~んと状態が戻る私。
やれやれと胸を撫で下ろしている宇恵ちゃんと百恵ちゃん。
「吾輩もか、なんの用事じゃ?」
「もしかして、菜々ちん救出作戦に呼ばれましたか?」
期待を込めて訊くと、
「……昨日の今日でそんなすぐには動きませんよ。特にお二人はしばらく休養です」
と、額に青筋を立てて凄んでくる瀬戸さん。
面倒臭い真似はするなよと、無言で圧をかけてきているようだ。
さっきの会話を聞かれたかもしれない……。
「じ、じゃあ何じゃ?」
「本部の筆頭監視官がお見えです。至急三人にお話があるとのことです」
『筆頭監視官??』
……誰??
私と百恵ちゃん、宇恵ちゃんの三人は同時に顔を見合わせ首をかしげた。
彼女は対面で、オムライスを頬張りながら黙って聞いていた。
「だから……私たち……ここでジッとしていていいわけはないと思う……。こうしている間にも菜々ちんは所長たちに何をさせられているかわからないし……」
実際、先生や百恵ちゃんが生きているという情報はもう所長たちにも伝わっているだろう。そうすれば菜々ちんが裏切っていることがバレるだろうし、そうでなくても立場は確実に悪くなる。もうJPA管理者ではない所長たちが、そんな菜々ちんに何をするかなんて誰にもわからないのだ。
そう言う私をジロリと睨んで、百恵ちゃんが口を開いた。
「そんなことはわかっておる。……だからいま女将たちが対策を考えておるのだろう? それまで待て。いまの吾輩たちに出来るのは、その時にそなえ、今のうちに英気を養っておくことだけじゃ」
「……でも、女将の言い方だともう私たちの出る幕じゃないって――――」
「……本部と連携して動くらしいからな」
「その本部ってなんなの!?」
「……だから文部科学省にある日本神術協会《JPA》の中央組織のことじゃろう?」
「……具体的に」
「知らん」
「……は!?」
「……いまは国家組織とはいえ、元々は歴史の裏に潜む秘密組織じゃからの。いまだにその詳細は一部の幹部にしか知らされとらん。吾輩もその存在だけはだけは知ってるが、どこにあるのか、誰が大将なのか何も知らんのじゃ」
「………………そうなんだ」
料理長が特別に用意してくれたタライカツ丼をしゃもじで頬張りながら私は視線を落とした。
まだまだ知らないことが一杯だ。
そんな闇の組織的な本部が直接動くってことは、訓練生の立場である私たちなんて、それこそ本当にお呼びでないのかも……。
「吾輩だって菜々のことは心配じゃし……オジサマのことも…………会って話したいことは山ほどある。しかしそれよりもいまは体勢を整えることが先決じゃろう。闇雲に行動しても失敗するだけじゃ」
「……うん、それはわかってるけど」
しゃもじを咥えつつ、しょんぼりする私。そこに、
「……なぁに小学生に説教されてるんですか?」
と、宇恵ちゃんが声をかけてきた。
相変わらずの三編みフリフリエプロン姿が可愛らしい。
「あ、宇恵ちゃん。……でも、私……菜々ちんのことが心配で心配で……」
「のわりには食欲は落ちてないみたいですけど……?」
「落ちてるよ~~……だってこれまだ二杯目だもん」
『…』と言葉を失う二人。
「…………まぁ、心境に左右されない食欲は宝塚先輩らしいですが。でも菜々さんのことなら心配ないだろうと料理長が言ってましたよ?」
「え!? ほんとに!??」
「はい。だって所長たち……あ、元所長たちですね、の目的って宝塚先輩をメンバーに加えることだったんでしょ?」
「……うむ。くやしいがヒロインがいるのといないのとでは戦力に大きな差が出るからの、特に人数の少ない組織ならばなおさら欲しがるじゃろうよ!!」
ブス! ブス!! とオムライスに八つ当たりながら私を睨んでくる百恵ちゃん。
おや? まだライバル扱いされてる?
そんな百恵ちゃんに、まあまあと手をパタパタさせな、宇恵ちゃんが話を続ける。
「ですから、そんな宝塚先輩が菜々さんと親友であるならば、そんな菜々さんを無下に扱うわけないじゃないですか」
「……そうじゃの、菜々を人質……あるいは交渉人としてヒロインの説得に利用してくる可能性は大きいの」
「逆に菜々さんが殺されでもしてたら……」
――――バチィ!!!!
その言葉を聞いて私の結界がスパークした。
髪の毛も逆立ち、蛇へと変わっている。
「……もし、そんなことにでもなったら、誰が止めても私は復讐しに行くわ」
『ぎゅ~~~~るぅぅぅぅ……』
バチバチと結界を弾かせる私とラミアを見て、後ずさる宇恵ちゃんと冷や汗を流す百恵ちゃん。このときの私がどんな目をしていたかわからないが、きっと鬼か悪魔にでも変貌したかのような顔をしていただろう。
「わかった、わかったから落ち着けぃヒロインよ!! もしもの話じゃ!! ……それにオジサマに限って菜々をぞんざいに扱うことはせん!!」
「……どうしてわかるの?」
ごごごごご……といまだ背中にオーラを燻ぶらせつつ聞き返した。
「菜々は片桐と同じくオジサマの最古参の部下じゃ、もう十年くらいはオジサマたちに仕えておる、そんな人間を簡単に処分などオジサマなら絶対にしない!!」
「……でも、正也さんや渦女は所長の手で殺されたも同然でしょ?」
「あれは――――、」
百恵ちゃんが言い返そうとしたとき、
「宝塚様、百恵様、そして宇恵。女将がお呼びです、至急お部屋までいらして下さい」
そう声をかけてきたのは瀬戸さんだった。
いつのまにか私たちの側に立って、姿勢正しくお辞儀をしてくれる。
「女将が??」
ぷしゅ~~~~んと状態が戻る私。
やれやれと胸を撫で下ろしている宇恵ちゃんと百恵ちゃん。
「吾輩もか、なんの用事じゃ?」
「もしかして、菜々ちん救出作戦に呼ばれましたか?」
期待を込めて訊くと、
「……昨日の今日でそんなすぐには動きませんよ。特にお二人はしばらく休養です」
と、額に青筋を立てて凄んでくる瀬戸さん。
面倒臭い真似はするなよと、無言で圧をかけてきているようだ。
さっきの会話を聞かれたかもしれない……。
「じ、じゃあ何じゃ?」
「本部の筆頭監視官がお見えです。至急三人にお話があるとのことです」
『筆頭監視官??』
……誰??
私と百恵ちゃん、宇恵ちゃんの三人は同時に顔を見合わせ首をかしげた。
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