超能力者の私生活

盛り塩

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第205話 剥き出しの再会①

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 ――――にゅにゅにゅにゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!

 ヘリが巻き起こす風がいまだ荒れ狂う中、私は、うやうやしくひざまずく男たちから精気を吸収していた。

 ……なぜひざまずく?

 と聞きたいところだったが、彼らからすれば私は死にかけている上司を救ってくれる救世主的存在。
 いや、実際何度も救っている恩人なのだから扱いも丁寧なのだろう。たぶん。

 しかし毛布を纏っただけの美少女が、片膝付いてる男の額に手をかざしている光景なんて……なんだか、変に絵になりすぎててこそばゆい。
 緊急事態でなければ抗議の一つもするところだが、いまはマジでそんなこと言っている場合ではなかったので、行き過ぎた礼節もとりあえず飲み込む。

 ――――しかし、それとは別にようすが少しおかしかった。

 まずは一番体が大きくエネルギッシュな黒人おにいさんから吸収させてもらっているのだが……なぜか吸収が上手くいかない。

 ……もしかして私が消耗しすぎているせいか?

 今日一日は戦闘の連続だったから……もしかしたら能力の使用数が限度を超えてしまったとか?
 いや、でもそんな制限があるとは聞いてはいない。
 やはり……シンプルに過労だろうか??

「ラミア、どうしたの? どこか調子悪いの??」
『……きゅるるる?』

 聞くが、ラミアもはてな顔。
 おかしいな……ひどく疲れているとこ以外、どこも不調は見当たらないが。

 と――――、
 ――――ぽたぽたぽたぽた。

 液体がしたたる音がして、足元に血溜まりが広がってきた。
 ――――っ!?
 見ると、黒人おにいさんの鼻から大量の血が漏れ出し顎を伝って下に落ちていた。

「え……だ……大丈夫ですか……!?」

 さらに両脇に控えている二人も同様に鼻血を吹き出している。

 ――――これは!? いったい何が??

 まさか吸収による副作用?? 彼らの身体に過度な負担をかけ過ぎて??
 それとも新たな敵の攻撃――――!??
 警戒して周りを見渡したそのとき、

「OH~~~~申し訳アリマセ~~~~ン。コンな状況にもかかわらズ~~、思わぬhapuninnguに場違いに興奮シテ申し訳ソ~~リ~~??」

 と言う黒人おにいさんの台詞とともに、ローターの風に毛布が巻き上げられて下半身が丸出しになってしまっている自分の姿に気がついた。

「あ……あ……あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!!」

 吸収が鈍いのは私のせいじゃない!!
 いや、ある意味私のせいなのだが!!
 こいつらは私に流すぶんの精気を鼻血に変えて外に垂れ流してやがったのだ!!

「ふ、ふ……ふざけんなーーーーーーーーっ!!!!」

 ―――――シュババババッ!!!!
 即座に髪を蛇に変え馬鹿どもに噛みつかせてやった!!

『ほ、ほげほげほげほげ~~~~~~~~っ!!!!』

 かわいいこの子たちがアホどもをミイラに変えるのにそう時間はかからなかった。




 ペラペラになった変態三人を置き去りに、私は女将さんとともに院内へと入った。
 死ぬ子先生たちは地下の特別病棟で治療を受けているという。
 そこまでの直通エレベーターに乗る。

「……あんた本当に面白い身体しているんだね」

 バカどもの精気を吸い取り風船のように膨らんだ私を見て、女将が呆れる。
 庭や山の植物から吸収するよりも、やはり人間からのほうが効率がいい。
 私はすっかりおデブモードに全回復していた。

 ――――チンッ。

 エレベーターが止まり、扉が開く。
 と、そこに百恵ちゃんのお世話係、瀬戸さんが三指揃えて待っていた。

「お待ちしておりました宝塚さま」
「瀬戸さん!?」

 深々と頭を下げ丁寧に私を出迎えてくれる彼女。そしてすかさず立ち上がったかと思うと、私の手を万力のような力で握りしめた。
 ――――痛いんですが?
 その握力に有無を言わさぬ意志を感じる。

「時間がありませんお早くっ!!」

 そう言うと彼女は全力で私を引っ張って走り始める。
 そのものすごい馬力に、思わず毛布を手放しスッポンポンになってしまう私。

「ちょ……ちょおぉぉっと待った待ったっ!!!!」
「百恵様が……危ないのです!! お早くっ!!」

 抗議をあげる私に、瀬戸さんは涙目でそう応える。
 な、なんだって……!? うぅぅ、な、ならば急がねばなるまい!!
 私は一糸まとわぬ姿のまま、いろいろ諦めてドスドスと廊下を走って行く。

「……やれやれ、なにやっているんだか」

 後ろの方で毛布を拾いつつ、ため息を吐く女将さんの呟きが聞こえた。




 瀬戸さんに引っ張られて集中治療室に飛び込むと、そこには呼吸器やらなにやら、無数のチューブに繋がれ寝かされている二人がいた。

「……はぁい……宝塚さぁん……~~来てくれたのねぇぇぇぇぇ……」

 包帯まみれの先生が私を見て弱々しく笑う。
 その声は消え入りそうに細かった
 料理長が能力で傷を塞いでくれたのは聞いている。
 しかしそれはあくまでも応急治療。

 塞がっている傷口も治っているのではなく、ただ合わせてあるだけだ。
 それでも命を繋げるには充分効果がある処置なのだが、しかし失った体力はどうすることも出来ない。
 胸の銃創に、右手の指が親指以外切断されて赤く染まっている。
 それでも、とにかくも生きていてくれたことに、私は、また涙ぐむ。

「――――先生!!」

 その痛々しい姿に駆け寄る私。
 しかし、

「あ、そっちはどうでもいいから」

 ――――ゴキッ!!

「はぐっ!???」
 瀬戸さんに首を180度曲げられ方向を強制転換させられる。

「百恵様をお願いします!!」
「……は、はい……?」

 棘剥き出しの彼女の態度に、また何かつまんないことやらかしたのかと先生を見るが、こちらの変態はアホ丸出しの視線で天井を見てすっとぼけていた。

 ま、まあ……この調子なら大丈夫そうだな。うん。
 なにはともあれ無事そうなようすに、私は呆れと安堵をごっちゃにしてため息をついたのだった。
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