超能力者の私生活

盛り塩

文字の大きさ
上 下
205 / 290

第205話 剥き出しの再会①

しおりを挟む
 ――――にゅにゅにゅにゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!

 ヘリが巻き起こす風がいまだ荒れ狂う中、私は、うやうやしくひざまずく男たちから精気を吸収していた。

 ……なぜひざまずく?

 と聞きたいところだったが、彼らからすれば私は死にかけている上司を救ってくれる救世主的存在。
 いや、実際何度も救っている恩人なのだから扱いも丁寧なのだろう。たぶん。

 しかし毛布を纏っただけの美少女が、片膝付いてる男の額に手をかざしている光景なんて……なんだか、変に絵になりすぎててこそばゆい。
 緊急事態でなければ抗議の一つもするところだが、いまはマジでそんなこと言っている場合ではなかったので、行き過ぎた礼節もとりあえず飲み込む。

 ――――しかし、それとは別にようすが少しおかしかった。

 まずは一番体が大きくエネルギッシュな黒人おにいさんから吸収させてもらっているのだが……なぜか吸収が上手くいかない。

 ……もしかして私が消耗しすぎているせいか?

 今日一日は戦闘の連続だったから……もしかしたら能力の使用数が限度を超えてしまったとか?
 いや、でもそんな制限があるとは聞いてはいない。
 やはり……シンプルに過労だろうか??

「ラミア、どうしたの? どこか調子悪いの??」
『……きゅるるる?』

 聞くが、ラミアもはてな顔。
 おかしいな……ひどく疲れているとこ以外、どこも不調は見当たらないが。

 と――――、
 ――――ぽたぽたぽたぽた。

 液体がしたたる音がして、足元に血溜まりが広がってきた。
 ――――っ!?
 見ると、黒人おにいさんの鼻から大量の血が漏れ出し顎を伝って下に落ちていた。

「え……だ……大丈夫ですか……!?」

 さらに両脇に控えている二人も同様に鼻血を吹き出している。

 ――――これは!? いったい何が??

 まさか吸収による副作用?? 彼らの身体に過度な負担をかけ過ぎて??
 それとも新たな敵の攻撃――――!??
 警戒して周りを見渡したそのとき、

「OH~~~~申し訳アリマセ~~~~ン。コンな状況にもかかわらズ~~、思わぬhapuninnguに場違いに興奮シテ申し訳ソ~~リ~~??」

 と言う黒人おにいさんの台詞とともに、ローターの風に毛布が巻き上げられて下半身が丸出しになってしまっている自分の姿に気がついた。

「あ……あ……あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!!」

 吸収が鈍いのは私のせいじゃない!!
 いや、ある意味私のせいなのだが!!
 こいつらは私に流すぶんの精気を鼻血に変えて外に垂れ流してやがったのだ!!

「ふ、ふ……ふざけんなーーーーーーーーっ!!!!」

 ―――――シュババババッ!!!!
 即座に髪を蛇に変え馬鹿どもに噛みつかせてやった!!

『ほ、ほげほげほげほげ~~~~~~~~っ!!!!』

 かわいいこの子たちがアホどもをミイラに変えるのにそう時間はかからなかった。




 ペラペラになった変態三人を置き去りに、私は女将さんとともに院内へと入った。
 死ぬ子先生たちは地下の特別病棟で治療を受けているという。
 そこまでの直通エレベーターに乗る。

「……あんた本当に面白い身体しているんだね」

 バカどもの精気を吸い取り風船のように膨らんだ私を見て、女将が呆れる。
 庭や山の植物から吸収するよりも、やはり人間からのほうが効率がいい。
 私はすっかりおデブモードに全回復していた。

 ――――チンッ。

 エレベーターが止まり、扉が開く。
 と、そこに百恵ちゃんのお世話係、瀬戸さんが三指揃えて待っていた。

「お待ちしておりました宝塚さま」
「瀬戸さん!?」

 深々と頭を下げ丁寧に私を出迎えてくれる彼女。そしてすかさず立ち上がったかと思うと、私の手を万力のような力で握りしめた。
 ――――痛いんですが?
 その握力に有無を言わさぬ意志を感じる。

「時間がありませんお早くっ!!」

 そう言うと彼女は全力で私を引っ張って走り始める。
 そのものすごい馬力に、思わず毛布を手放しスッポンポンになってしまう私。

「ちょ……ちょおぉぉっと待った待ったっ!!!!」
「百恵様が……危ないのです!! お早くっ!!」

 抗議をあげる私に、瀬戸さんは涙目でそう応える。
 な、なんだって……!? うぅぅ、な、ならば急がねばなるまい!!
 私は一糸まとわぬ姿のまま、いろいろ諦めてドスドスと廊下を走って行く。

「……やれやれ、なにやっているんだか」

 後ろの方で毛布を拾いつつ、ため息を吐く女将さんの呟きが聞こえた。




 瀬戸さんに引っ張られて集中治療室に飛び込むと、そこには呼吸器やらなにやら、無数のチューブに繋がれ寝かされている二人がいた。

「……はぁい……宝塚さぁん……~~来てくれたのねぇぇぇぇぇ……」

 包帯まみれの先生が私を見て弱々しく笑う。
 その声は消え入りそうに細かった
 料理長が能力で傷を塞いでくれたのは聞いている。
 しかしそれはあくまでも応急治療。

 塞がっている傷口も治っているのではなく、ただ合わせてあるだけだ。
 それでも命を繋げるには充分効果がある処置なのだが、しかし失った体力はどうすることも出来ない。
 胸の銃創に、右手の指が親指以外切断されて赤く染まっている。
 それでも、とにかくも生きていてくれたことに、私は、また涙ぐむ。

「――――先生!!」

 その痛々しい姿に駆け寄る私。
 しかし、

「あ、そっちはどうでもいいから」

 ――――ゴキッ!!

「はぐっ!???」
 瀬戸さんに首を180度曲げられ方向を強制転換させられる。

「百恵様をお願いします!!」
「……は、はい……?」

 棘剥き出しの彼女の態度に、また何かつまんないことやらかしたのかと先生を見るが、こちらの変態はアホ丸出しの視線で天井を見てすっとぼけていた。

 ま、まあ……この調子なら大丈夫そうだな。うん。
 なにはともあれ無事そうなようすに、私は呆れと安堵をごっちゃにしてため息をついたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

江戸時代改装計画 

華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

処理中です...