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第204話 菜々のメッセージ②
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「でも、なぜ菜々さんはそんな回りくどい言い回しを?」
瀬戸が疑問を口にする。
「おそらくだけど……マステマに……監視されていたからじゃ……ないかしら」
「それはつまり、所長に全てを見られていると?」
「……かもね」
――――ボンッ!!
その言葉を聞いた宇恵の頭が爆発する。
そして真っ赤になった顔をギギギとこちらに回してくると、
「そ……そそそそそそそそそれってお風呂とかおトイレとかその……寝る前とかのぉオ・オ・オ・オ・オ・オ・オ――――」
「それ以上言ったら琵琶湖に放り投げるからね」
静かに外を指差す料理長。
眼下には真っ黒な湖面が不気味に波打っている。
一応、レーダーにかかり難いよう、ヘリは低空飛行で飛んでいた。
琵琶湖を渡り、目的地の病院はもうすぐである。
ついこの間も死に体で入院していた病院だ。
退院早々、またも満身創痍で出戻ることになるとは……さすがの七瀬もバツが悪そうにしている。
「私が……もう一つの秘密を口にしようとしたとき……『それ以上は言わない方がいい』とあの子が脅してきたけど……あれは今から思えば……私がどこまで感づいているか……所長に聞かせるなと言いたかったのかも……しれないわ……ね――ぐふ」
「いや、だから寝るなと」
――――バシンッ!!
「え? なにこれ拷問??」
「逝くなら言うこと言って逝きなさいよね」
「……あんた、高校時代に憧れの先輩のギターピック盗んでそれ自分のパンツに――――」
――――メギャッ!!!!
「おいおい、遊んでるんじゃないよ、床が抜けちまうだろう?」
瀬戸のかかと落としを食らって鉄板の床に後頭部を埋め込んでしまう七瀬。
それを冷ややかな目で見る料理長と、いまだ興奮おさまらない宇恵。
操縦士のモブを除けばただ一人、百恵だけが静かに眠っていた。
「……わかった。じゃあこちらもそっちに合流するよ。……ああ無事さ、疲れ切って……なぜか真っ裸だけどね。ああ了解だ」
女将が携帯を切ると、毛布に包まって座っている私に笑顔を見せた。
その会話の端々でおおよその内容がわかった私はすでに目に涙を溜めている。
そして女将のその一言でそれは決壊することになる。
「百恵も、その馬鹿な姉も無事だってさ」
「う……うううぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~っ!!」
借りた毛布をビチョビチョにして私は泣いた。
そして二人を殺さないでいてくれた菜々ちんに本当に感謝した。
死ぬ子先生たちの運搬先を女将たちに知らせてくれたのは菜々ちんだったらしい。
所長たちの目を欺くため、情報部を経由しての特殊暗号メールだったらしいが、それをヒントに料理長は搬送車を待ち伏せしたらしい。
「送られてきたのは暗号化された車のナンバーだけだったけどね。でもそれだけあればいくらでも追跡出来る。……大西と片桐の行動を考えれば、あんたを拉致した時点で二人を殺すことも予想できたから、それだけで菜々のやつが何をいいたかったかも推測出来たしね」
そう女将は説明してくれた。
そしてわざわざ暗号を使ってまで死ぬ子先生と百恵ちゃんを助けたのは、彼女には所長に逆らえない何かどうしようもない理由があるのだろうとも。
「女将さん……菜々ちんは……裏切ってなんかいなかったんですね」
「そうだよ。……あいつはあの悪党に従わされてるだけだ。でなけりゃ七瀬たちはいまごろ燃やされるか挽き肉にでもされて確実に殺されてるだろうからね。……そうしないで……わざわざ蘇生する余地を残して私達に回収させたのは、つまりはそういうことだろう?」
うん……うん……と、私は涙を拭きながらうなずく。
二人を殺してきたと聞いて、それでもずっと彼女を憎めないでいた。
そうする根拠はなにもなかったけど。
本当になんとなくだけど、それでも菜々ちんを信じたいと思っている自分がいて……。
彼女を信じて……本当に良かった。
もしあの場で私が片桐さんでなく、菜々ちんを攻撃していたら――――彼女はどうしただろう。
きっと黙って私の拳を受けていただろうと思う。
きっとそれほどの覚悟で私の前に立ったはずだ。
その彼女の心境を考えると胸が痛くて涙が止まらない。
一人で戦っていたのは私じゃない――――彼女の方だったのだ。
バラバラバラバラバラ――――。
私たちを乗せたベリが、病院の屋上ヘリポートに着陸する。
ここで、先に搬送された死ぬ子先生と百恵ちゃんが治療を受けているはずだ。
早く言って回復術を使ってあげなければ……。
私はおぼつかない足を無理やり動かしてヘリから降りる。
「大丈夫かい? あんたもフラフラだよ……そんな状態で……」
女将が心配そうに背中に触れてくれたが、なんの、そうも言ってられない。
ふらつく足を叩き、私は気合を入れ直す。
もう一仕事!!
一番大事な仕事をしなければならないんだ、倒れてなどいられるか。
「大丈夫です。とにかくまずは精気の補充を――――」
言って歩き出したとき、
「――――宝塚様っ!!」
現われたのは死ぬ子先生の部下三人衆だった。
精気が欲しいとき、いつも絶妙のタイミングで現われてくれる。
「お待ちしておりましたっ!! 足りないぶんの精気は我々のモノを献上いたします!! どうぞ存分にお使い下さい!!」
そう言い、まるで女王様を前にした騎士の如くひざまずいてくる。
彼らから精気をもらうのはもう三回目だ。
なんだか定番じみてきたなと汗を流すが、しかし有り難い。
「すみません頂戴いたします!!」
私は急ぎ、彼らへ向かって吸収能力を使った。
瀬戸が疑問を口にする。
「おそらくだけど……マステマに……監視されていたからじゃ……ないかしら」
「それはつまり、所長に全てを見られていると?」
「……かもね」
――――ボンッ!!
その言葉を聞いた宇恵の頭が爆発する。
そして真っ赤になった顔をギギギとこちらに回してくると、
「そ……そそそそそそそそそれってお風呂とかおトイレとかその……寝る前とかのぉオ・オ・オ・オ・オ・オ・オ――――」
「それ以上言ったら琵琶湖に放り投げるからね」
静かに外を指差す料理長。
眼下には真っ黒な湖面が不気味に波打っている。
一応、レーダーにかかり難いよう、ヘリは低空飛行で飛んでいた。
琵琶湖を渡り、目的地の病院はもうすぐである。
ついこの間も死に体で入院していた病院だ。
退院早々、またも満身創痍で出戻ることになるとは……さすがの七瀬もバツが悪そうにしている。
「私が……もう一つの秘密を口にしようとしたとき……『それ以上は言わない方がいい』とあの子が脅してきたけど……あれは今から思えば……私がどこまで感づいているか……所長に聞かせるなと言いたかったのかも……しれないわ……ね――ぐふ」
「いや、だから寝るなと」
――――バシンッ!!
「え? なにこれ拷問??」
「逝くなら言うこと言って逝きなさいよね」
「……あんた、高校時代に憧れの先輩のギターピック盗んでそれ自分のパンツに――――」
――――メギャッ!!!!
「おいおい、遊んでるんじゃないよ、床が抜けちまうだろう?」
瀬戸のかかと落としを食らって鉄板の床に後頭部を埋め込んでしまう七瀬。
それを冷ややかな目で見る料理長と、いまだ興奮おさまらない宇恵。
操縦士のモブを除けばただ一人、百恵だけが静かに眠っていた。
「……わかった。じゃあこちらもそっちに合流するよ。……ああ無事さ、疲れ切って……なぜか真っ裸だけどね。ああ了解だ」
女将が携帯を切ると、毛布に包まって座っている私に笑顔を見せた。
その会話の端々でおおよその内容がわかった私はすでに目に涙を溜めている。
そして女将のその一言でそれは決壊することになる。
「百恵も、その馬鹿な姉も無事だってさ」
「う……うううぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~っ!!」
借りた毛布をビチョビチョにして私は泣いた。
そして二人を殺さないでいてくれた菜々ちんに本当に感謝した。
死ぬ子先生たちの運搬先を女将たちに知らせてくれたのは菜々ちんだったらしい。
所長たちの目を欺くため、情報部を経由しての特殊暗号メールだったらしいが、それをヒントに料理長は搬送車を待ち伏せしたらしい。
「送られてきたのは暗号化された車のナンバーだけだったけどね。でもそれだけあればいくらでも追跡出来る。……大西と片桐の行動を考えれば、あんたを拉致した時点で二人を殺すことも予想できたから、それだけで菜々のやつが何をいいたかったかも推測出来たしね」
そう女将は説明してくれた。
そしてわざわざ暗号を使ってまで死ぬ子先生と百恵ちゃんを助けたのは、彼女には所長に逆らえない何かどうしようもない理由があるのだろうとも。
「女将さん……菜々ちんは……裏切ってなんかいなかったんですね」
「そうだよ。……あいつはあの悪党に従わされてるだけだ。でなけりゃ七瀬たちはいまごろ燃やされるか挽き肉にでもされて確実に殺されてるだろうからね。……そうしないで……わざわざ蘇生する余地を残して私達に回収させたのは、つまりはそういうことだろう?」
うん……うん……と、私は涙を拭きながらうなずく。
二人を殺してきたと聞いて、それでもずっと彼女を憎めないでいた。
そうする根拠はなにもなかったけど。
本当になんとなくだけど、それでも菜々ちんを信じたいと思っている自分がいて……。
彼女を信じて……本当に良かった。
もしあの場で私が片桐さんでなく、菜々ちんを攻撃していたら――――彼女はどうしただろう。
きっと黙って私の拳を受けていただろうと思う。
きっとそれほどの覚悟で私の前に立ったはずだ。
その彼女の心境を考えると胸が痛くて涙が止まらない。
一人で戦っていたのは私じゃない――――彼女の方だったのだ。
バラバラバラバラバラ――――。
私たちを乗せたベリが、病院の屋上ヘリポートに着陸する。
ここで、先に搬送された死ぬ子先生と百恵ちゃんが治療を受けているはずだ。
早く言って回復術を使ってあげなければ……。
私はおぼつかない足を無理やり動かしてヘリから降りる。
「大丈夫かい? あんたもフラフラだよ……そんな状態で……」
女将が心配そうに背中に触れてくれたが、なんの、そうも言ってられない。
ふらつく足を叩き、私は気合を入れ直す。
もう一仕事!!
一番大事な仕事をしなければならないんだ、倒れてなどいられるか。
「大丈夫です。とにかくまずは精気の補充を――――」
言って歩き出したとき、
「――――宝塚様っ!!」
現われたのは死ぬ子先生の部下三人衆だった。
精気が欲しいとき、いつも絶妙のタイミングで現われてくれる。
「お待ちしておりましたっ!! 足りないぶんの精気は我々のモノを献上いたします!! どうぞ存分にお使い下さい!!」
そう言い、まるで女王様を前にした騎士の如くひざまずいてくる。
彼らから精気をもらうのはもう三回目だ。
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