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第192話 一人戦う⑪
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逃げ出すか?
確かに一瞬そう考えた。
なんとかここを逃げだして山の中にでも逃げ込めば、そこには動植物が沢山いる。
文字通り私のエサだらけなのだ。
何度アスポートを食らっても、そのたび回復と吸収を繰り返し、そして持久戦に持ち込めば先に力尽きるのは片桐さんのほうだろう。
でもその作戦にはいろいろ問題があった。
一つは、そう簡単にそこまで逃してくれないだろうと言うこと。
山は建屋のすぐ裏にあるが、それでも1分は走らなきゃ辿り着けない。
その間に一体いくつのアポートが襲いかかって来るだろうか?
もう一つは、もしそれで彼女の形勢が不利になったとしたら、その時点でおそらく所長が加勢してくるだろうと言うこと。所長が相手になってしまえば回復も吸収もあったもんじゃない。能力そのものが封じられる。
そうなれば完全に終了だ。
つまりこの戦いは初めから私に勝ち目など無い。
片桐さんが言う通り、これは私を屈服させるためのリンチでしかないのだ。
勝てないし、逃げられない。
――――だけども屈服する気もない。
じゃあどうするか?
決まっている。
――――無理矢理にでも勝機をこじ開けるだけだっ!!
玉砕覚悟で突っ込んでいく私を、興味深げに眺めている所長。
まさかの私の行動に、一瞬戸惑いを見せる片桐さん。
たとえ無駄だとわかっていても、自分より強い相手からは逃げたくなるもの。
今までの豊富な戦闘経験から、きっと私がそう行動するだろうと彼女も思っていただろう。
でも、おあいにくさま。
こういう時ほど私は肝が座ってしまう性格なのだ。
それに――――最後のアスポート攻撃を受けた瞬間、一箇所だけ安全地帯があるのに気付いてしまった。
――――それは地面の中じゃなく。
「うおぉぉぉぉぉっ!!!!」
全力で走り、片桐さんへと迫る!!
アスポートが襲ってこない唯一の安全箇所。
――――それは彼女本人だっ!!!!
「――――くっ!!」
不意をつかれ怯んだ片桐さんだが、すぐに体勢を整えアスポートを出現させる。
一撃必殺。当たれば即消滅の凶悪攻撃。
しかしそれは離れた相手にこそ有効。
ゼロ距離相手にはその力はきっと使えない。
自分をも巻き込んでしまうからだ。
だた問題はどうやって彼女に近づくか。
最強の攻撃力に加え、ほとんど予備動作をしない片桐さんは速射性も高い。
どんなに素早く迫ったとしても、彼女の戦乙女は近づくものを寄せ付けない。
――――ヒュボッ!!
迫ってくるアスポート。
もう私の蛇では対抗できない!!
「くっ!!」
それを身をよじって何とか躱すが――――、
――――ぼひゅっ!!
躱しきれなかった左足が腿の途中から消えて無くなった!!
「ぐうっ!!」
「――――ふっ」
衝撃に顔をゆがめる私と、勝ち誇る片桐さん。
普通の人間なら、ここで終わり。勝負あった、だが。
――――私はあいにく普通じゃないのだ!!
「ぐっ!!!!」
倒れそうになる体を腕で支え、吹き出す大量の血や、襲い来る激痛をモノともせずに私は地面を転がり、がむしゃらに彼女の元に飛びついた!!
「――――なっ!! ……このっ!!」
彼女に飛びつく寸前、もう一発のアスポートが私を襲い腹に拳大の穴を開けてくるが、そんなものはもうどうでもいい!!
とにかく片桐さんを捕まえさえすれば形勢は逆転する!!
そして、
――――ザザッ、ガガザザーーーーッ!!!!
飛びついた私は彼女を押し倒し、供に砂利の上を転がった。
「ぐっ……」
埃と泥、ついでに私の血にまみれて顔を歪める片桐さん。
私は彼女の胴に両手を回し、しっかりと抱きしめていた。
「くっ……は、離しなさいっ!!!!」
ドカッ!! ドゴッ!!
胸に顔を埋めている私を拳で、肘で殴りつけてきた。
アスポートを使ってこないところをみると、やはりこの距離では危険で使えないらしい。読みが当たっている。
半覚醒した片桐さんの力はレスラー並みの破壊力があったが、こっちはすでに片足と腹の一部を失っているんだ。いまさらその程度の痛みなど何も感じない!!
「接近……いや、密着戦なら私のほうが有利ですよ」
勝ちを確信して彼女を見上げた。
私が何を言いたいのか、頭の良い彼女は気付いたのだろう。
一瞬、目に恐怖の色を浮かべると、
「ナメないでっ!!」
すぐに決心した顔になり、私の体の両側面にアスポートを作り出した。
この体勢だと私が少しでも身をよじれば、片桐さんも自爆しかねない。だけども、そんな危険な攻撃を即断でやろうとする辺り、やはり片桐さんは優秀な戦士だ。
けど――――、
「無駄です」
私の言葉と同時に、アスポートが放たれるが――――、
――――ヒュンッ!!
何かが集束する音とともにそれは消滅した!!
「――――なっ!???」
唖然と目を開く片桐さんだが、すぐに――――、
「あ……ががががががっ!???」
と、痙攣しうめき声をあげる。
彼女に抱きついたのはもう一つ理由があった。
『ぎゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ……』
髪を逆立てて、猛獣の目をしたラミアが唸った。
片桐さんの身体からどんどん力が抜けてくる。
「な……くっ……この、や……やめ……!??」
もがき、私を引き剥がそうとするが、そんな力さえも私は吸収する。
――――密着状態からの吸収攻撃!!
体内の精気が能力に変わる前に吸収する。
これだとアスポートはおろか、防御結界すらも作り出せまい!!
密着状態だからこそできる芯からの吸収に、片桐さんは為す術もなく力を奪われていく。
これが、彼女に飛び込んだもう一つの理由だ。
「ぐ……ぐうぅぅ!??」
大蛇に飲み込まれる獲物のように、ただ呻くことしか出来ない片桐さん。
血だらけになりながら、それでも自分を食らおうとしがみついてくる私を、彼女は化け物を見るような目で睨んできた。
確かに一瞬そう考えた。
なんとかここを逃げだして山の中にでも逃げ込めば、そこには動植物が沢山いる。
文字通り私のエサだらけなのだ。
何度アスポートを食らっても、そのたび回復と吸収を繰り返し、そして持久戦に持ち込めば先に力尽きるのは片桐さんのほうだろう。
でもその作戦にはいろいろ問題があった。
一つは、そう簡単にそこまで逃してくれないだろうと言うこと。
山は建屋のすぐ裏にあるが、それでも1分は走らなきゃ辿り着けない。
その間に一体いくつのアポートが襲いかかって来るだろうか?
もう一つは、もしそれで彼女の形勢が不利になったとしたら、その時点でおそらく所長が加勢してくるだろうと言うこと。所長が相手になってしまえば回復も吸収もあったもんじゃない。能力そのものが封じられる。
そうなれば完全に終了だ。
つまりこの戦いは初めから私に勝ち目など無い。
片桐さんが言う通り、これは私を屈服させるためのリンチでしかないのだ。
勝てないし、逃げられない。
――――だけども屈服する気もない。
じゃあどうするか?
決まっている。
――――無理矢理にでも勝機をこじ開けるだけだっ!!
玉砕覚悟で突っ込んでいく私を、興味深げに眺めている所長。
まさかの私の行動に、一瞬戸惑いを見せる片桐さん。
たとえ無駄だとわかっていても、自分より強い相手からは逃げたくなるもの。
今までの豊富な戦闘経験から、きっと私がそう行動するだろうと彼女も思っていただろう。
でも、おあいにくさま。
こういう時ほど私は肝が座ってしまう性格なのだ。
それに――――最後のアスポート攻撃を受けた瞬間、一箇所だけ安全地帯があるのに気付いてしまった。
――――それは地面の中じゃなく。
「うおぉぉぉぉぉっ!!!!」
全力で走り、片桐さんへと迫る!!
アスポートが襲ってこない唯一の安全箇所。
――――それは彼女本人だっ!!!!
「――――くっ!!」
不意をつかれ怯んだ片桐さんだが、すぐに体勢を整えアスポートを出現させる。
一撃必殺。当たれば即消滅の凶悪攻撃。
しかしそれは離れた相手にこそ有効。
ゼロ距離相手にはその力はきっと使えない。
自分をも巻き込んでしまうからだ。
だた問題はどうやって彼女に近づくか。
最強の攻撃力に加え、ほとんど予備動作をしない片桐さんは速射性も高い。
どんなに素早く迫ったとしても、彼女の戦乙女は近づくものを寄せ付けない。
――――ヒュボッ!!
迫ってくるアスポート。
もう私の蛇では対抗できない!!
「くっ!!」
それを身をよじって何とか躱すが――――、
――――ぼひゅっ!!
躱しきれなかった左足が腿の途中から消えて無くなった!!
「ぐうっ!!」
「――――ふっ」
衝撃に顔をゆがめる私と、勝ち誇る片桐さん。
普通の人間なら、ここで終わり。勝負あった、だが。
――――私はあいにく普通じゃないのだ!!
「ぐっ!!!!」
倒れそうになる体を腕で支え、吹き出す大量の血や、襲い来る激痛をモノともせずに私は地面を転がり、がむしゃらに彼女の元に飛びついた!!
「――――なっ!! ……このっ!!」
彼女に飛びつく寸前、もう一発のアスポートが私を襲い腹に拳大の穴を開けてくるが、そんなものはもうどうでもいい!!
とにかく片桐さんを捕まえさえすれば形勢は逆転する!!
そして、
――――ザザッ、ガガザザーーーーッ!!!!
飛びついた私は彼女を押し倒し、供に砂利の上を転がった。
「ぐっ……」
埃と泥、ついでに私の血にまみれて顔を歪める片桐さん。
私は彼女の胴に両手を回し、しっかりと抱きしめていた。
「くっ……は、離しなさいっ!!!!」
ドカッ!! ドゴッ!!
胸に顔を埋めている私を拳で、肘で殴りつけてきた。
アスポートを使ってこないところをみると、やはりこの距離では危険で使えないらしい。読みが当たっている。
半覚醒した片桐さんの力はレスラー並みの破壊力があったが、こっちはすでに片足と腹の一部を失っているんだ。いまさらその程度の痛みなど何も感じない!!
「接近……いや、密着戦なら私のほうが有利ですよ」
勝ちを確信して彼女を見上げた。
私が何を言いたいのか、頭の良い彼女は気付いたのだろう。
一瞬、目に恐怖の色を浮かべると、
「ナメないでっ!!」
すぐに決心した顔になり、私の体の両側面にアスポートを作り出した。
この体勢だと私が少しでも身をよじれば、片桐さんも自爆しかねない。だけども、そんな危険な攻撃を即断でやろうとする辺り、やはり片桐さんは優秀な戦士だ。
けど――――、
「無駄です」
私の言葉と同時に、アスポートが放たれるが――――、
――――ヒュンッ!!
何かが集束する音とともにそれは消滅した!!
「――――なっ!???」
唖然と目を開く片桐さんだが、すぐに――――、
「あ……ががががががっ!???」
と、痙攣しうめき声をあげる。
彼女に抱きついたのはもう一つ理由があった。
『ぎゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ……』
髪を逆立てて、猛獣の目をしたラミアが唸った。
片桐さんの身体からどんどん力が抜けてくる。
「な……くっ……この、や……やめ……!??」
もがき、私を引き剥がそうとするが、そんな力さえも私は吸収する。
――――密着状態からの吸収攻撃!!
体内の精気が能力に変わる前に吸収する。
これだとアスポートはおろか、防御結界すらも作り出せまい!!
密着状態だからこそできる芯からの吸収に、片桐さんは為す術もなく力を奪われていく。
これが、彼女に飛び込んだもう一つの理由だ。
「ぐ……ぐうぅぅ!??」
大蛇に飲み込まれる獲物のように、ただ呻くことしか出来ない片桐さん。
血だらけになりながら、それでも自分を食らおうとしがみついてくる私を、彼女は化け物を見るような目で睨んできた。
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