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第181話 三度目の黒菜々ちん
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「時が来たら? ……私はまだやり残したことがたっぷりあるんだけど?」
若干の冷や汗を滲ませながら、七瀬はそれでも笑って見せた。
「そうなんですか? 意外ですね、普段から死にたがっていたでしょう?」
「……なんだけどね。宝塚さんの成長を見守りたくなっちゃって」
「先生が? 面白いこと言いますね?」
「ねえ? それだけあの子が面白い存在だってことよ」
それを聞いた菜々はほんの少しだけ微笑みうなずくと、すぐに冷酷な顔に戻る。
「ほんとはもう少し鍛えて欲しかったんですけど。……宝塚さんの伸びしろはまだまだこんなものじゃないでしょうから。でも、あなたが所長の正体を暴いてしまったことで予定は変更ですよ。所長と片桐先生は組織から逃亡し、私は宝塚さんの身柄を奪うチャンスを伺って、あなた方の仲間を装い監視任務を続けました」
「いいの? スパイのあなたがそんなにペラペラ喋っちゃって?」
「ターゲットを迷いなく殺す為の儀式みたいなものです。お気になさらず」
「あなたウソを付いているわね?」
七瀬が見透かすような目で菜々を見上げた。
「ウソ? ……なんの事ですか?」
「任務の事よ。もう一つあったのでしょう?」
「……やはりあなたは鋭い人ですね。……どうしてそう思ったんです」
少し呆れたように聞き返す菜々。それに対して七瀬はからかうように笑って言ってやる。
「だってあなた偉そうに任務とか言ってる割には、何もそれらしい事してなかったじゃない? データの報告も、意識教育も全部私がやっていたわよ?」
「ですね。でもそれだけで私に他の任務があったなんて推測出来ますか?」
「まあ、あとは『マステマ』の動きね。なんだか不自然なのよね、たとえば――、」
それを聞いた菜々は七瀬の顔を鷲掴み、口を挟むように指で捻り上げた。
「……それ以上は言わないほうがいいですよ?」
そして七瀬に顔を近づけると、さらに何かを囁いた。
それを聞いた七瀬は目を大きく開いて、歯ぎしりをする。
やがて顔を離した菜々が、再び拳銃を七瀬の頭につけ威圧的に見下ろした。
「お喋りはこのくらいにしましょう先生。残念ですけどもここでお別れです」
「……百恵は見逃してくれるのかしら?」
「だめですね。禍根を残すようなことをするなと片桐さんから言われてますので」
「そう……」
「せめてもの情けです。顔を潰すような真似はしないでおきます」
そう言うと菜々は七瀬の額から銃口を離し、代わりに胸に狙いを定めた。
「では、さよならです。いままで有難うございました」
――――ガンッ!!
あっけなく、銃声が響き渡った。
胸から血を流した七瀬は何も言葉を発することなく、ただ百恵を心配する視線を見せ、倒れた。
菜々はそのまま銃口を百恵へと向ける。
息も絶え絶えでうつ伏せになっている彼女は、たったいま姉が殺された事に気が付いていない。
そんな百恵に菜々は少しだけ哀れみの目を作るとたむけの言葉を送る。
「さようなら百恵さん。最後の挨拶が届いてないようで残念ですが……しばらくの時間、楽しかったですよ」
そして躊躇わず引き金を引いた。
――――ガンッ!!
音と共にビクンと百恵の体がハネて、そして動かなくなった。
体とアスファルトの間からジワジワと赤い染みが広がった。
「お疲れさまです最恩訓練生。後の処理は私たちにおまかせ下さい。車を回してあります、それに乗って京都へと向かって下さい。所長がお待ちです」
側に控えていた構成員の男が声をかけてくる。
「わかりました」
「念の為、この二人は私がトドメを刺しておきましょう」
別の男が、百恵の頭部にマシンガンを向けた。
「やめなさい」
それを止めさせる菜々。
「いや、しかし……まだ完全には死んでいません」
男の言う通り、二人の体はまだ僅かに痙攣をしていた。
放っておけばじきに死ぬのだろうが、念には念を入れて頭も砕いておくのは悪い判断ではないはずだ。
しかし、菜々は頑なにそれを良しとしなかった。
「今は敵でも、かつての仲間よ……これ以上むやみに傷つけたくはないわ」
「……そ、それは俺たちだって同じですが、しかしこうなってしまってはもう情など持ち出している場合では無いでしょう!? 俺たちはもう戻れないところまで来ています、敵とあらば徹底的に処分しておくべきです!!」
そう反論して男は引き金に力を込める。
それを見た菜々は、
――――ガンッ!! ガンガンッ!!
三発。その男の胸と眉間に鉛玉をめり込ませた。
『――――なっ!??』
即死し倒れる男に、ざわつく周囲。
突然の仲間に対する発砲に、残った構成員たちは菜々へとその銃口を向けた。
しかし菜々は銃を下ろすことなく連中に宣言する。
「人としての心を捨ててまで世間に復讐すると言うのなら、それはただの猛獣の群れと変わりません。あなた達が憎む世間の愚者どもと同様です。私たちのやろうとしている事はそんな低俗なものでしたか? だとしたらいいでしょう、このまま私を撃ち殺しなさい!!」
その言葉に気圧される男たち。
「人としての在り方を見失わず、復讐を成すことこそが本当の勝利でしょう?」
菜々の言葉に反論する者はいなかった。
みんな一様に銃を下げた。
それを確認して、菜々も引き金から指を離した。
「二人はこれ以上傷付けず、琵琶湖にでも沈めて供養して下さい。様子は私が能力で確認していますから、おかしな真似はしないで下さいね。私もこれ以上部下を殺したくありませんから」
そして菜々は用意されたセダンへと乗り込んだ。
若干の冷や汗を滲ませながら、七瀬はそれでも笑って見せた。
「そうなんですか? 意外ですね、普段から死にたがっていたでしょう?」
「……なんだけどね。宝塚さんの成長を見守りたくなっちゃって」
「先生が? 面白いこと言いますね?」
「ねえ? それだけあの子が面白い存在だってことよ」
それを聞いた菜々はほんの少しだけ微笑みうなずくと、すぐに冷酷な顔に戻る。
「ほんとはもう少し鍛えて欲しかったんですけど。……宝塚さんの伸びしろはまだまだこんなものじゃないでしょうから。でも、あなたが所長の正体を暴いてしまったことで予定は変更ですよ。所長と片桐先生は組織から逃亡し、私は宝塚さんの身柄を奪うチャンスを伺って、あなた方の仲間を装い監視任務を続けました」
「いいの? スパイのあなたがそんなにペラペラ喋っちゃって?」
「ターゲットを迷いなく殺す為の儀式みたいなものです。お気になさらず」
「あなたウソを付いているわね?」
七瀬が見透かすような目で菜々を見上げた。
「ウソ? ……なんの事ですか?」
「任務の事よ。もう一つあったのでしょう?」
「……やはりあなたは鋭い人ですね。……どうしてそう思ったんです」
少し呆れたように聞き返す菜々。それに対して七瀬はからかうように笑って言ってやる。
「だってあなた偉そうに任務とか言ってる割には、何もそれらしい事してなかったじゃない? データの報告も、意識教育も全部私がやっていたわよ?」
「ですね。でもそれだけで私に他の任務があったなんて推測出来ますか?」
「まあ、あとは『マステマ』の動きね。なんだか不自然なのよね、たとえば――、」
それを聞いた菜々は七瀬の顔を鷲掴み、口を挟むように指で捻り上げた。
「……それ以上は言わないほうがいいですよ?」
そして七瀬に顔を近づけると、さらに何かを囁いた。
それを聞いた七瀬は目を大きく開いて、歯ぎしりをする。
やがて顔を離した菜々が、再び拳銃を七瀬の頭につけ威圧的に見下ろした。
「お喋りはこのくらいにしましょう先生。残念ですけどもここでお別れです」
「……百恵は見逃してくれるのかしら?」
「だめですね。禍根を残すようなことをするなと片桐さんから言われてますので」
「そう……」
「せめてもの情けです。顔を潰すような真似はしないでおきます」
そう言うと菜々は七瀬の額から銃口を離し、代わりに胸に狙いを定めた。
「では、さよならです。いままで有難うございました」
――――ガンッ!!
あっけなく、銃声が響き渡った。
胸から血を流した七瀬は何も言葉を発することなく、ただ百恵を心配する視線を見せ、倒れた。
菜々はそのまま銃口を百恵へと向ける。
息も絶え絶えでうつ伏せになっている彼女は、たったいま姉が殺された事に気が付いていない。
そんな百恵に菜々は少しだけ哀れみの目を作るとたむけの言葉を送る。
「さようなら百恵さん。最後の挨拶が届いてないようで残念ですが……しばらくの時間、楽しかったですよ」
そして躊躇わず引き金を引いた。
――――ガンッ!!
音と共にビクンと百恵の体がハネて、そして動かなくなった。
体とアスファルトの間からジワジワと赤い染みが広がった。
「お疲れさまです最恩訓練生。後の処理は私たちにおまかせ下さい。車を回してあります、それに乗って京都へと向かって下さい。所長がお待ちです」
側に控えていた構成員の男が声をかけてくる。
「わかりました」
「念の為、この二人は私がトドメを刺しておきましょう」
別の男が、百恵の頭部にマシンガンを向けた。
「やめなさい」
それを止めさせる菜々。
「いや、しかし……まだ完全には死んでいません」
男の言う通り、二人の体はまだ僅かに痙攣をしていた。
放っておけばじきに死ぬのだろうが、念には念を入れて頭も砕いておくのは悪い判断ではないはずだ。
しかし、菜々は頑なにそれを良しとしなかった。
「今は敵でも、かつての仲間よ……これ以上むやみに傷つけたくはないわ」
「……そ、それは俺たちだって同じですが、しかしこうなってしまってはもう情など持ち出している場合では無いでしょう!? 俺たちはもう戻れないところまで来ています、敵とあらば徹底的に処分しておくべきです!!」
そう反論して男は引き金に力を込める。
それを見た菜々は、
――――ガンッ!! ガンガンッ!!
三発。その男の胸と眉間に鉛玉をめり込ませた。
『――――なっ!??』
即死し倒れる男に、ざわつく周囲。
突然の仲間に対する発砲に、残った構成員たちは菜々へとその銃口を向けた。
しかし菜々は銃を下ろすことなく連中に宣言する。
「人としての心を捨ててまで世間に復讐すると言うのなら、それはただの猛獣の群れと変わりません。あなた達が憎む世間の愚者どもと同様です。私たちのやろうとしている事はそんな低俗なものでしたか? だとしたらいいでしょう、このまま私を撃ち殺しなさい!!」
その言葉に気圧される男たち。
「人としての在り方を見失わず、復讐を成すことこそが本当の勝利でしょう?」
菜々の言葉に反論する者はいなかった。
みんな一様に銃を下げた。
それを確認して、菜々も引き金から指を離した。
「二人はこれ以上傷付けず、琵琶湖にでも沈めて供養して下さい。様子は私が能力で確認していますから、おかしな真似はしないで下さいね。私もこれ以上部下を殺したくありませんから」
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