超能力者の私生活

盛り塩

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第174話 怨念②

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「ま……マジすか……?」

 片桐さんと並び評価されているJPAきってのPK能力使いである料理長。
 最強の念力使い。
 百恵ちゃんでさえ、あの人にかかれば手も足も出ずに瞬殺される。

 そんな人が私を護ってくれるというのか?
 だとしたらこんなに頼もしいことはない。

「料理長はもう訓練所を出て、私たちへと向かってきているはずよ。ただ、所長たちもその動きを読んでいる可能性が高いから、それまでにあなたを奪おうと追っ手を差し向けてくるかもしれないわ」

 正也さんを通じて私たちに仲間になるように伝えてきた所長だが……もし先生の言うことが本当なら……、

「……だったら私……別行動をとったほうがいいんじゃ……?」

 所長が本当に欲しいのは私だけなんだとしたら、私がここにいるせいで皆が危険に晒されることになる。だったら……心細いが、私は単独行動をとったほうが皆に迷惑をかけないんじゃないだろうか……?

 しかし先生は間髪入れずにその提案を却下する。

「あんたがただ単に性奴隷として連れ去られるというのなら、そうね、いますぐ外に蹴り飛ばして私たちは三人でとっとと帰って寝るかもしれないわね」
「――――ひどっ!?」
「でもあなたが向こうの手に落ちた瞬間、片桐が半無敵状態になるのならば話は別よ。私たちは全力であなたを護るわ。それが私たち組織の為でもあるのだから、あなたは余計な気を使わないで堂々と護られていなさい」
「――――うぐぬぬぬっ!!」

 そう言われては何も言い返せない。
 だったらせめて料理長と合流出来るまで、所長たちの襲撃がないように祈るしかない。

「所長側に付いたメンバーにどんな能力者がいるのかわからない以上、迂闊な行動は避けて行くわよ。下道を通って出来るだけ車列に紛れながら目立たないように走るわよ」

 そして料金所が見えてくる。

「げ、この車ETCカードないじゃない!!」

 ぼやきながら一般レーンへ。
 バイザーの裏側にさしてあった通行券を渡して精算する。

「4920円になります」
 係のオジさんの言葉に、

「ん」

 と無言で私に手を差し出してくる先生。
 その顔が若干青ざめている。

「ん」
 ぺと。
「いや、お手じゃなくてさ?」
「はい?」
「お金よお金。先生ちょっと持ち合わせがないみたいだわ……」
「は? 財布どうしたんです!?」
「……さっきのワゴンの中に……鞄ごと忘れてきた……う、うぅぅ……」
「何やってんですかもう……」

 涙を流しハンドルに顔面キスしている先生に呆れつつ、私はポケットの財布を開ける。が――――、

「……あ……1000円とちょっとしかないです……」

 私の財布にもお金はほとんど入っていなかった。

「はあ!? なによそれアンタ、子供の小遣いじゃないんだから!??」
「私は子供です~~!! それに貧乏育ちなんでこれでも私にとっては充分大金なんです~~~~!!」

 1000円あったらたとえ大食らいの私でも余裕で三日は暮らせる。組織の配給金と管理職手当でセレブな先生にはわからん金銭感覚だろうがなっ!!

「菜々はどう? ちょっとあんた菜々の財布を探しなさいよ」

 自分は百恵ちゃんの体を弄りながら先生が盗っ人じみたことを言ってくる。
 ま……、仕方がない……いまは緊急事態だ……はぁはぁ。
 少々鼻息を荒くして、私も菜々ちんの体をモミモミ……いや、探ってみるが、それらしき持ち物は無かった。

「そういえば……菜々ちんの学生カバンも置いて来ちゃった……」
「何やってんのよもう……」

 引きつった表情で先生が私を睨んでくる。どうやら百恵ちゃんもお金は持っていないごようすである。激しい戦いで落としてしまったのかも知れない……。
 つまり私の1120円が所持金の全てだった。

「あ~~……お嬢さんたちお金無いのかい? だったらこの書類に住所と名前をって、おぉぉぉいっ!!!!」

 職員のオジさんが手続き用の書類を出そうとするよりも早く、先生はアクセルを底まで踏み込んだ!!

「ごめんなさいね? 私、サインはホテル以外ではしない主義なの」

 そうウインクして投げキッスする先生。
 なんじゃその昭和チックな台詞と仕草は!?
 そしてホイルスピンしながらゲートを破壊し、一般道へと合流していく。
 
 途端に。
 
 ――――ウ~~~~!! ウ~~~~!!
 と鳴り響くサイレン。

 出口間際、速度感覚を狂わせたアホ狙いのネズミ捕りに引っかかってしまう。

「はいそこのSUV止まりなさい。器物破損の現行犯ですよ。止まってくださーい」

 慣れたようすのアナウンスが投げかけられる。
 どうやら一部始終を見られていたようである。

「あれま、ついてないわね」
「ないわねじゃないでしょ!? なんでお金払わず突っ切った!??」
「だって無いもんは払えないし、そんな恥ずかしい理由で名前なんて書きたくないでしょ?」
「目立たないように迂闊な行動は云々カンヌンはどうした!??」
「努力はしたって事で」

 そして銃を取り出す死ぬ子先生。

「ものの数分じゃねぇかーーーーっ!!!!」
 
 ―――ガンガンガンッ!!
 私のツッコミも虚しく、先生の放った弾丸は追ってくるパトカーの前輪に見事ヒットしたのであった。
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