超能力者の私生活

盛り塩

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第170話 暴走・天道渦女④

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 ――――フッと私にかけられた能力が消えた。
 脳が一気に鮮明になり、体の感覚が蘇ってくる。

 痛だだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!!!!
 穴の空いた腹部を中心に、全身に負った怪我の痛みがまとめて襲ってくる。

「ラ、ラミア~~~~っ!!」
『きゅういっ♪』

 やっと繋がったとばかりにラミアが喜んですり寄ってくる。
 そして私の体はみるみる回復していった。

「……あ、相変わらず、けったいな能力やのぉ……」

 傷が消え、代わりに細痩せた私を渦女が苦笑いで見ている。
 片腕を失った傷口からは血が止めどなく流れて、それ以外の箇所も肉が裂けて、骨も何本かは砕けているようだ。
 正也さんも上半身を引きずりながら歩いているが、頭部を破損して目が見えていないのか、付近をうろうろしているだけ。

 正直、二人とも見るに堪えない姿だった。

「……もう抵抗しないと誓うなら、二人とも助けてやってもいいけど?」

 立ち上がり、ベルトを締め直しながら私は彼女にそう提案した。
 百恵ちゃんが睨んでくるが、それよりも早く、

「……いらんわ、どうせもうウチらは助からん……」
 諦めたように薄く笑いながら渦女は呟いた。

「……どういうこと?」
「もう察しとると思うけども……所長に覚醒させられたウチらはなぁ、その時点でベヒモスやったんや。お前も知っとる瞬と同じや……弱ベヒモスっちゅうやつや。意識はハッキリしとるけども根っ子は狂っとるっちゅうやつやな……。だからそれ以上の暴走は出来んはずやったんや。……でもな、所長の能力『マステマ』はそれ以上の暴走を可能にしよる……。仕組みはわからんが、ウチらみたいな低能力者でも……お前らみたいな超能力者並みの暴走が出来るようになるんや……今みたいにな」

「病院で瞬が強力なベヒモスに進化したのはそのせいじゃな?」
「ああ……そうや。でもな、それもタダっちゅうわけじゃないんや」

「何か成約があるとでも言うのか?」

「そうや……成約は二つ。一つは『マステマ』に己の支配を委ねること。もう一つは……その贄として命を差し出すことや」
「なんじゃと?」
「二段階目の暴走でその二つ目の成約は執行される……つまり」

 そう言う渦女の目から血の涙が溢れてくる。全身の筋肉が膨張し、口が裂け、痙攣が始まった。

「もう……この時点でウチや正也の命は食われとるっちゅう話や屁でいdbfyfkんjhjぽfrん;おふいfr;rjyfrぽ」

 ビクビクと激しい痙攣を繰り返し、やがて彼女は言葉を操る権利を失う。
 そして壊れた機械人形ようにぎこちない動きで立ち上がると、涎をダラダラ垂らしながら私たちに威嚇の目を向けた。

 二段階目の暴走が完成したということだ。

「……手遅れってことじゃな」
「うぐるるるるるるるる……!!」

 猛獣のような唸りを上げながら渦女は能力を開放する!!

 ウンディーネから進化したティアマトがその姿を現した。
 体の一部分を鱗に覆われ、頭には大きな巻角を生やした妖艶な女性。
 それがティアマトの姿だった。

 バチバチっと雷光が走る。
 彼女の周囲に無数の黒い槍が持ち上がってくる。
 それはアスファルトを液状化して作った漆黒の槍。
 それらが視界から空を消した。
 今までとは違う圧倒的な物量の槍に、進化してしまった渦女の桁違いなパワーに恐怖を感じた。
 しかし――――、

「ヒロインよ」
 百恵ちゃんが私を見る。

「一回だけチャンスをやろう。それでヤツを救えなければトドメを刺す。いいな?」

 私の考えを理解していたのか、百恵ちゃんが提案してきた。
 私の――ラミアの能力《ちから》を認めての譲歩だったのだろう。

「わかった。それで何とかしてみるわ」

 渦女と正也さん。二人の事情を聞かされて、所長に利用されてるだろう状況を見せられて、私は何とか二人を救いたいと思っていた。
 百恵ちゃんや先生に言わせれば大甘な思考なんだろうが、しかしそれが今の私だ。
 一回だけくれたチャンスで、そのワガママを通させてもらおう。

「うぐるぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 ――――ドンッ!!
 渦女の咆哮とともに、黒の槍が一斉に襲いかかってきた。
 それは私たちを押し潰さんとする落下天井のよう!!
 しかし――――、

「迎え撃て、ガルーダ―っ!!!!」

 百恵ちゃんの腕が一閃する。
 同時に無数の爆弾が空に出現し――――、

 ドッ――――ガガガガガガガガガガガガガガガガァンンッ!!!!

 爆発と刺突、凄烈な力のぶつかりが、お互いの姿を打ち消しあった。
 強烈に吹きすさぶ爆風と風塵を押し切り、私は走った!!
 風圧によろめく渦女に向かって私は飛ぶ。

 そして――――その体にしがみついた!!

「うぐるあぁぁぁぁぁっ!!!!」

 狂ったように暴れる彼女。
 しかし私は離れない。 
 そして叫んだ!!

「ラミアっ!! 回復能力、存在を元に戻しなさい!!」

 手遅れだと? まだ大丈夫だ!! まだ彼女は動いている!!
 どんなに暴走しようが姿が変わろうが生きている限り、私に治せない状態などありはしない!! かつての、あの肉の固まりになってしまっていた瞬ですら治したのだ、この程度の暴走状態など私が全てキャンセルしてやるわ!!

 ババババッ――――バリバリバリバリッ!!!!
 記憶の封印を破った時と同じく結界が邪魔をしてくる。
 マステマの結果か!??
 しかしそれも私には通用しない!!

「結界術っ!!!!」

 右手に結界のオーラを纏い、邪魔なマステマをぶっ叩くっ!!!!

 バキャァァァァァァァァァァンンッ!!!!

 一瞬にして砕け散るヤツの結界!!
 よし、これでもう私を邪魔するものは無くなった。

 所長の能力がどれほどのものかは知らないが、まずは一矢報いてやったぞ!!
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