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第166話 当然の報い②
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渦女は本当に晴れやかな表情で、その時のようすを語り始める。
「誰や!?――――まずそう思たわな? ほんで、ああ次の男かいなと諦らめて世界を呪ったわ。好きにせぇばええわって……後で全員どうにかして殺してウチも死ぬんやさかいな。……先生《ゲス》に組み敷かれながらウチがそう絶望しとったときや、ガァン!! て銃声が鳴ったんや。気付いたらゲスが頭に穴開けてウチに倒れ込んできたわ。それを足でどかしてその男はウチに言うたんや――――『さあ、皆殺しの時間だよ』って――――あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!! それが所長や!! どや、最高やろ!! あははははははははははははははははははははは!!!!」
渦女の笑い声が空に吸い込まれていく。
彼女は少しずつ正気を失っているように見えた。
目が――――赤く染まってきていた。
「次に所長はな、その場におるアホ全員の足を撃って動けなくしたわ。そんで『ただ殺すんじゃ味気ない。今からキミの能力を覚醒させるから、それで存分に楽しめばいいよ♪』て言うてくれたんや」
「能力を……覚醒させるじゃと?」
百恵ちゃんが眉を寄せる。
さっきも言っていた、同じようなことを。
「そうや!! 所長はなぁ、もともと大したことないウチの能力を、お前らみたいないっぱしの超能力者レベルにまで引き上げてくれたんや!! 所長のファントム『マステマ』を使ってなぁ!!」
「そんな……能力レベルを、引き上げるって……」
それじゃまるで……まるで。
「……ベヒモスじゃな」
百恵ちゃんが憎々しげに呟く。
そう、それはまるでベヒモス化した時に能力者に与えられる恩恵。
己の精神崩壊を代償に、能力制御のリミッターが外される現象。
ほとんどの者はその瞬間に自我が崩壊し、身体をファントムに乗っ取られ制御なく暴走するのだが、しかし例外があった。
弱ベヒモス――――瞬。
彼は、もともと能力が弱すぎて一般人と変わらない人間だった。
それがある時、おそらく所長によってベヒモス化された。
本来なら自我が崩壊して化け物になるはずだが、能力の弱さはファントムの弱さ。
彼の持つファントムでは一人の人間の精神を食い尽くせなかったのだろう。
結果、宿主を掌握しきれず、暴走した状態のまま、人としての自我はギリギリ保っているという狂人なってしまっていた。
ベヒモス化によって能力は底上げされ、しかしその精神にはファントムの凶暴性が深く食い込み、その影響で時折牙を剥かずにはいられなくなる。
そんな――――半人間・半ベヒモスと言う存在に。
「まさか……お前らも、、瞬と同じだと言うんじゃないんじゃろうな?」
百恵ちゃんが戦慄を内に秘めらせ、身構える。
しかし渦女はそれを無視して恍惚な表情で話を続けた。
「所長にな、触れられたとたん――――グァッっと何かに意識が持っていかれる感覚がしてな? で、気が付いたらウチは能力を使ってたんや、いままで人に対して使ったこともない能力をな、目の前におった適当な男子にや。――――したらどうなったと思う? なあ、どうなったと思う?」
うぷぷと吹き出しそうな笑いを両手で押さえ、しかし目は心底楽しそうに、
「そいつ全身から小便撒き散らして死におったんや!! あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」
堪えきれずにに腹を抱えてゲラゲラ笑う。
足の傷は治っているようだ……。
「膀胱の中のな、きったない小便を操ったんやげどな、初めてやったけど上手にやれたで? 全身の消化器官やら血管やら全部に逆流させてな、口やら目やら汗腺やらとにかく頭の先から全部、己の小便まみれになってショック死しよったわ!! それを見た所長はウチに優しく微笑んで拍手してくれての、残った男どもは怯えて震えておるし、ウチはもう有頂天になったで!! そらそうやろ? いままでウチが受けた苦痛と恥辱をン十倍にして返せる言うんやからな。そんで次や、次の男ろぉをおxろうやっれこふぉしたかっれ――――――――ありゃりゃ??」
話しの途中で渦女のロレツがおかしくなる。
見ると――――彼女の口は段々と裂け始めてきていた。
目の焦点も小刻みに左右に震えて定まっていない。
「……ベヒモス化が始まったようじゃの」
百恵ちゃんがそんな渦女を睨みつけながら唸った。
彼女の周囲にファントムの影が見えた。
――――それは正也さんを狂わせたときと同じ影。
黒い羽を生やした不気味な骸骨――――マステマだった。
「あ~~……あっはっは……そうやな、そろそろウチもお喋りは終わりやな。所長がな……ウチに戦えというてはるわ……」
喋りづらそうに涎をポタポタと落として、渦女は獣のように伸びた爪を舐めた。
「待ってっ!! 私はあなたと戦う気は無いわ!! だからお願い、これ以上身を崩すような事はやめてっ!!!!」
私は我慢できずにそう叫んだ。
渦女の悲惨な過去を聞いて、彼女がとれだけ人を憎んでいるのかはわかった。そんな彼女が所長の暴挙に付き合う気持ちも良くわかる。この時点で私は所長が悪人だとは思わない。いや、むしろ正義のヒーローとすら思える。
しかし、正也さんや渦女さん……二人をいまベヒモスに変えているのもまた所長なのだ、それだけは許せない。この一点だけは許すことが出来なかった。
空に暗雲が立ち込めてきた。
「誰や!?――――まずそう思たわな? ほんで、ああ次の男かいなと諦らめて世界を呪ったわ。好きにせぇばええわって……後で全員どうにかして殺してウチも死ぬんやさかいな。……先生《ゲス》に組み敷かれながらウチがそう絶望しとったときや、ガァン!! て銃声が鳴ったんや。気付いたらゲスが頭に穴開けてウチに倒れ込んできたわ。それを足でどかしてその男はウチに言うたんや――――『さあ、皆殺しの時間だよ』って――――あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!! それが所長や!! どや、最高やろ!! あははははははははははははははははははははは!!!!」
渦女の笑い声が空に吸い込まれていく。
彼女は少しずつ正気を失っているように見えた。
目が――――赤く染まってきていた。
「次に所長はな、その場におるアホ全員の足を撃って動けなくしたわ。そんで『ただ殺すんじゃ味気ない。今からキミの能力を覚醒させるから、それで存分に楽しめばいいよ♪』て言うてくれたんや」
「能力を……覚醒させるじゃと?」
百恵ちゃんが眉を寄せる。
さっきも言っていた、同じようなことを。
「そうや!! 所長はなぁ、もともと大したことないウチの能力を、お前らみたいないっぱしの超能力者レベルにまで引き上げてくれたんや!! 所長のファントム『マステマ』を使ってなぁ!!」
「そんな……能力レベルを、引き上げるって……」
それじゃまるで……まるで。
「……ベヒモスじゃな」
百恵ちゃんが憎々しげに呟く。
そう、それはまるでベヒモス化した時に能力者に与えられる恩恵。
己の精神崩壊を代償に、能力制御のリミッターが外される現象。
ほとんどの者はその瞬間に自我が崩壊し、身体をファントムに乗っ取られ制御なく暴走するのだが、しかし例外があった。
弱ベヒモス――――瞬。
彼は、もともと能力が弱すぎて一般人と変わらない人間だった。
それがある時、おそらく所長によってベヒモス化された。
本来なら自我が崩壊して化け物になるはずだが、能力の弱さはファントムの弱さ。
彼の持つファントムでは一人の人間の精神を食い尽くせなかったのだろう。
結果、宿主を掌握しきれず、暴走した状態のまま、人としての自我はギリギリ保っているという狂人なってしまっていた。
ベヒモス化によって能力は底上げされ、しかしその精神にはファントムの凶暴性が深く食い込み、その影響で時折牙を剥かずにはいられなくなる。
そんな――――半人間・半ベヒモスと言う存在に。
「まさか……お前らも、、瞬と同じだと言うんじゃないんじゃろうな?」
百恵ちゃんが戦慄を内に秘めらせ、身構える。
しかし渦女はそれを無視して恍惚な表情で話を続けた。
「所長にな、触れられたとたん――――グァッっと何かに意識が持っていかれる感覚がしてな? で、気が付いたらウチは能力を使ってたんや、いままで人に対して使ったこともない能力をな、目の前におった適当な男子にや。――――したらどうなったと思う? なあ、どうなったと思う?」
うぷぷと吹き出しそうな笑いを両手で押さえ、しかし目は心底楽しそうに、
「そいつ全身から小便撒き散らして死におったんや!! あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」
堪えきれずにに腹を抱えてゲラゲラ笑う。
足の傷は治っているようだ……。
「膀胱の中のな、きったない小便を操ったんやげどな、初めてやったけど上手にやれたで? 全身の消化器官やら血管やら全部に逆流させてな、口やら目やら汗腺やらとにかく頭の先から全部、己の小便まみれになってショック死しよったわ!! それを見た所長はウチに優しく微笑んで拍手してくれての、残った男どもは怯えて震えておるし、ウチはもう有頂天になったで!! そらそうやろ? いままでウチが受けた苦痛と恥辱をン十倍にして返せる言うんやからな。そんで次や、次の男ろぉをおxろうやっれこふぉしたかっれ――――――――ありゃりゃ??」
話しの途中で渦女のロレツがおかしくなる。
見ると――――彼女の口は段々と裂け始めてきていた。
目の焦点も小刻みに左右に震えて定まっていない。
「……ベヒモス化が始まったようじゃの」
百恵ちゃんがそんな渦女を睨みつけながら唸った。
彼女の周囲にファントムの影が見えた。
――――それは正也さんを狂わせたときと同じ影。
黒い羽を生やした不気味な骸骨――――マステマだった。
「あ~~……あっはっは……そうやな、そろそろウチもお喋りは終わりやな。所長がな……ウチに戦えというてはるわ……」
喋りづらそうに涎をポタポタと落として、渦女は獣のように伸びた爪を舐めた。
「待ってっ!! 私はあなたと戦う気は無いわ!! だからお願い、これ以上身を崩すような事はやめてっ!!!!」
私は我慢できずにそう叫んだ。
渦女の悲惨な過去を聞いて、彼女がとれだけ人を憎んでいるのかはわかった。そんな彼女が所長の暴挙に付き合う気持ちも良くわかる。この時点で私は所長が悪人だとは思わない。いや、むしろ正義のヒーローとすら思える。
しかし、正也さんや渦女さん……二人をいまベヒモスに変えているのもまた所長なのだ、それだけは許せない。この一点だけは許すことが出来なかった。
空に暗雲が立ち込めてきた。
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