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第163話 悪意の尋問②
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車は名神高速に乗り名古屋方面に向かっていた。
制限速度などまるで気にしていない菜々ちんの運転は手慣れたもので、普段の仕事がどんなものか、そこからも想像ができた。
追い越したトラックの運転手が不思議そうな顔をしてセーラー服姿の美少女が運転する私たちの車を見送る。
今からでも先生に運転を変わってもらった方がいいんじゃないかとドキドキするが、しかし先生は今それどころではなかった。
「一秒でも寿命が惜しければ質問に答えなさい。ただし、嘘と十秒以上のだんまりは拒絶とみなして即処刑するわ」
愛銃の弾を確認しながらどっちが悪だかわからない迫力で正也さんを脅す先生。
それを聞かされた正也さんは観念したのか、それともどこか吹っ切れているのか特に怯えた様子もなく言葉を返してくる。
「僕が助かる可能性は? 正直に答えたら許してくれますか?」
「無いわね」
「じゃあ答えてもしょうがないですね」
その返事に先生は助手席のシートをガタンと倒し、こちらに体の向きを変える。そして銃の撃鉄を起こすと銃口を渦女に向けた。
「素直に答えなければ、彼女を無傷で引き渡さないわよ?」
「……たとえ敵になったとしても、先生に教え子が傷つけられるとは――――」
言い終わらないうちに――――、
ガァンッ!!!!
「――――っ!!!!」
躊躇なく発射された弾丸は渦女の太ももを撃ち抜いた!!
痛みと衝撃で一気に目が覚める彼女。
「う――ぐ、んんんーーーーーーーーっ!???」
百恵ちゃんに結界テープでぐるぐる巻きにされ、おまけに猿ぐつわまでされた彼女は、ただのたうち回る事しか出来ずにもがき苦しむ。
「この拘束具は特殊だからね、能力を使おうなんて思わないことね。使ってもいいけどその瞬間Mに目覚めそうになるだけよ?」
冷や汗をだらだらと流し、痛みに耐える彼女に先生は冷酷な視線を向けた。
「オッケイ……わかりました。降参です」
その目を見て、自分の見立てが間違いだったとあきらめる正也さん。
この騒動に何も動揺せず、素の表情の百恵ちゃんに菜々ちん。
その二人の態度に私はあらためて自分の経験の浅さを思い知り、震える手をそっと眺めた。
「まず始めに確認するわ……真唯をベヒモスにしたのは大西?」
「ええ、そうですよ」
「彼の能力はテレパシーのはずよ? それがどうして人を暴走させるような力になるの?」
「……知りませんね」
――――チャキ。
無言で先生が渦女のもう片方の足に銃口をくっつけた。
「本当に知らないんですよ。あのしたたかな所長ですよ? そう簡単に能力の秘密を人にバラすわけ無いでしょ? 僕はただ、あの人の指示で動いていただけです」
その目をじっと観察する先生。
やがて納得したか、銃口を渦女の太ももから離した。
渦女の汗がどっと溢れた。
「じゃあ次よ、瞬をベヒモスにしたのも大西?」
「そうです」
「目的は?」
「実験ですね」
「何のための?」
「言ったでしょう? ベヒモスを大量生産して一般人を無差別攻撃させて遊びたいんですよ。その為にある程度、操作が出来る個体を作りたいと思いましてね」
「それはいつからの計画かしら?」
「聞いた限りでは十年くらい前からとか?」
「……ちょうどその辺りから関東でベヒモス事件が頻発していたわね。それがその実験のせいだったと言うの?」
「それは知りませんよ。だってその頃、僕は小学生ですよ」
それを聞いて私の全身の毛が逆立った。
十年前……それはちょうど私の両親がベヒモスの暴走運転によって殺された頃だ。
もし……もし、そのベヒモスが所長の趣味によって作り出されていたものだったとしたら…………………………………………………………………………………………。
――――じゃきっ。
突然、銃口が私の額に向けられた。
「こんな時に、あなたまで暴走とかやめてくれる宝塚さん?」
先生は怒り半分、怯え半分と言った目を私に向けてきた。
――――え? あ……!?
モヤのかかった意識を回復させる。
しまった、私……いま暴走しかけてた??
限度を超えた怒りが意識を飛ばしかけてた……?
「――――ラミア!?」
『ウルルルルル…………』
彼女は肩の上で牙を向いて唸っていた。
ギクリと私は彼女を見た。
その目はまるで飢えた狼のようで、私の精神に食らいつこうと機を伺っているようだった。
私は反射的にラミアを抱きしめた。
すると彼女の抑圧感はみるみる無くなっていき、やがていつのも愛くるしい顔に戻ってくる。
「良かった……ラミア、ごめん」
よほどのことが無い限り、彼女は私を襲わない。
しかし、私が自分から自滅してしまっては、彼女はファントムとしてその本能を現してしまうのだろう。
今のは私のミスだ。
私はこの子の主人として、私を襲わせないよう努力しなければならない。
「……なあんだ、暴走しなかったんですか? さすが宝塚さん。真唯さんとは違い潜在能力が桁外れですね」
正也さんが軽く落胆したようすで話しかけてきた。
そんな彼の目は曇って、すでに爽やかさのかけらも見えない。
「しょうがない……じゃあ僕を使って下さいな所長。どうせ死ぬなら暴れて死んだほうがマシです」
「ちょっと……あなた何言って…………?」
先生が訝しげに正也さんの様子を見ると同時に、黒い羽を生やした不気味な天使《ガイコツ》が一瞬見えた。
「……マステマ??」
驚愕の目を開き、先生の全身から汗が吹き出る。
「カ……カカカカカカカカ」
正也さんは壊れた人形のように痙攣し始めた。
制限速度などまるで気にしていない菜々ちんの運転は手慣れたもので、普段の仕事がどんなものか、そこからも想像ができた。
追い越したトラックの運転手が不思議そうな顔をしてセーラー服姿の美少女が運転する私たちの車を見送る。
今からでも先生に運転を変わってもらった方がいいんじゃないかとドキドキするが、しかし先生は今それどころではなかった。
「一秒でも寿命が惜しければ質問に答えなさい。ただし、嘘と十秒以上のだんまりは拒絶とみなして即処刑するわ」
愛銃の弾を確認しながらどっちが悪だかわからない迫力で正也さんを脅す先生。
それを聞かされた正也さんは観念したのか、それともどこか吹っ切れているのか特に怯えた様子もなく言葉を返してくる。
「僕が助かる可能性は? 正直に答えたら許してくれますか?」
「無いわね」
「じゃあ答えてもしょうがないですね」
その返事に先生は助手席のシートをガタンと倒し、こちらに体の向きを変える。そして銃の撃鉄を起こすと銃口を渦女に向けた。
「素直に答えなければ、彼女を無傷で引き渡さないわよ?」
「……たとえ敵になったとしても、先生に教え子が傷つけられるとは――――」
言い終わらないうちに――――、
ガァンッ!!!!
「――――っ!!!!」
躊躇なく発射された弾丸は渦女の太ももを撃ち抜いた!!
痛みと衝撃で一気に目が覚める彼女。
「う――ぐ、んんんーーーーーーーーっ!???」
百恵ちゃんに結界テープでぐるぐる巻きにされ、おまけに猿ぐつわまでされた彼女は、ただのたうち回る事しか出来ずにもがき苦しむ。
「この拘束具は特殊だからね、能力を使おうなんて思わないことね。使ってもいいけどその瞬間Mに目覚めそうになるだけよ?」
冷や汗をだらだらと流し、痛みに耐える彼女に先生は冷酷な視線を向けた。
「オッケイ……わかりました。降参です」
その目を見て、自分の見立てが間違いだったとあきらめる正也さん。
この騒動に何も動揺せず、素の表情の百恵ちゃんに菜々ちん。
その二人の態度に私はあらためて自分の経験の浅さを思い知り、震える手をそっと眺めた。
「まず始めに確認するわ……真唯をベヒモスにしたのは大西?」
「ええ、そうですよ」
「彼の能力はテレパシーのはずよ? それがどうして人を暴走させるような力になるの?」
「……知りませんね」
――――チャキ。
無言で先生が渦女のもう片方の足に銃口をくっつけた。
「本当に知らないんですよ。あのしたたかな所長ですよ? そう簡単に能力の秘密を人にバラすわけ無いでしょ? 僕はただ、あの人の指示で動いていただけです」
その目をじっと観察する先生。
やがて納得したか、銃口を渦女の太ももから離した。
渦女の汗がどっと溢れた。
「じゃあ次よ、瞬をベヒモスにしたのも大西?」
「そうです」
「目的は?」
「実験ですね」
「何のための?」
「言ったでしょう? ベヒモスを大量生産して一般人を無差別攻撃させて遊びたいんですよ。その為にある程度、操作が出来る個体を作りたいと思いましてね」
「それはいつからの計画かしら?」
「聞いた限りでは十年くらい前からとか?」
「……ちょうどその辺りから関東でベヒモス事件が頻発していたわね。それがその実験のせいだったと言うの?」
「それは知りませんよ。だってその頃、僕は小学生ですよ」
それを聞いて私の全身の毛が逆立った。
十年前……それはちょうど私の両親がベヒモスの暴走運転によって殺された頃だ。
もし……もし、そのベヒモスが所長の趣味によって作り出されていたものだったとしたら…………………………………………………………………………………………。
――――じゃきっ。
突然、銃口が私の額に向けられた。
「こんな時に、あなたまで暴走とかやめてくれる宝塚さん?」
先生は怒り半分、怯え半分と言った目を私に向けてきた。
――――え? あ……!?
モヤのかかった意識を回復させる。
しまった、私……いま暴走しかけてた??
限度を超えた怒りが意識を飛ばしかけてた……?
「――――ラミア!?」
『ウルルルルル…………』
彼女は肩の上で牙を向いて唸っていた。
ギクリと私は彼女を見た。
その目はまるで飢えた狼のようで、私の精神に食らいつこうと機を伺っているようだった。
私は反射的にラミアを抱きしめた。
すると彼女の抑圧感はみるみる無くなっていき、やがていつのも愛くるしい顔に戻ってくる。
「良かった……ラミア、ごめん」
よほどのことが無い限り、彼女は私を襲わない。
しかし、私が自分から自滅してしまっては、彼女はファントムとしてその本能を現してしまうのだろう。
今のは私のミスだ。
私はこの子の主人として、私を襲わせないよう努力しなければならない。
「……なあんだ、暴走しなかったんですか? さすが宝塚さん。真唯さんとは違い潜在能力が桁外れですね」
正也さんが軽く落胆したようすで話しかけてきた。
そんな彼の目は曇って、すでに爽やかさのかけらも見えない。
「しょうがない……じゃあ僕を使って下さいな所長。どうせ死ぬなら暴れて死んだほうがマシです」
「ちょっと……あなた何言って…………?」
先生が訝しげに正也さんの様子を見ると同時に、黒い羽を生やした不気味な天使《ガイコツ》が一瞬見えた。
「……マステマ??」
驚愕の目を開き、先生の全身から汗が吹き出る。
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