超能力者の私生活

盛り塩

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第154話 最後の言葉

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「な、なんじゃ? この携帯が一体どうしたというのじゃ?」

 じれったそうにイラつきながら、百恵ちゃんは先生と私を睨む。
 二人だけで理解しているのが気に食わなかったのだろう。
 先生が話を進める。

「このスマホの中にはね、真唯が暴走させられるまでの記憶が入っているのよ」
「な、なんじゃと!?」

 百恵ちゃんは驚いた様子で目を見開くが、菜々ちんは冷静に眉をひそめていた。

「……そうか、先生の能力は最後に触れた者ならば、本人がどこにいても念写が出来るんでしたね」
「そうよ、だから吹き飛ばされて意識を失うまでの間に取れるだけ撮ってやったのよ……真唯の見た光景を」

 そして先生は一枚の画像を映してみせた。

「……こ、これは!?」

 それは真唯さん視線の光景なんだろう。
 手に持ったスマホを誰かが抜き取ろうとしている瞬間の画像だった。
 そしてその誰かとは――――、

「……正也、じゃな」

 百恵ちゃんが苦々しく呟く。
 そう、そこに写っていたのは黒い戦闘服に身を包んだ正也さん本人だった。

「……………………」

 私は唇を噛んで黙り込むしかなかった。
 どんなに見つめても、その人物は正也さんにしか見えない。
 その表情が私の知っている爽やかで優しげな彼じゃなくて、姑息な笑みを浮かべた悪党そのものだったのが心に痛かった。

「まだそいつが正也だと決めてかかるのは早いわ。姿を変える能力者なら名簿を見ただけでも何人もいるわ。その内の誰かが、正也に罪を着せようとしているのかも知れないし」

 先生は言うが、しかしそんな能力と認識阻害を同時に使える人間なんて……はたしてどれだけいるのだろうか……。
 そんな人間はいない、と菜々ちんの表情が物語っていた。

「ともかく思い込みは危険と言うことよ。正也を警戒するのは当然だけれど、他の可能性も常に頭に入れときなさい。でなければ……すぐに死ぬわよ?」

 ドスの利いた目で私たちを見回す死ぬ子先生。
 なるほど、その通りだ。私もあまり思い込まないようにしなければ。

「全ては正也を捕らえてからの話じゃな?」
「そうね、ヤツが白なら今頃、監禁か……最悪殺されてるかも知れない。……黒なら私が八つ裂きにしてやるわ」

 さらにドスを利かせて目を座らせる先生。
 そしてもう一枚の画像を見せてきた。

「これは?」
 菜々ちんが訝しげに訊ねる。

 そこには真唯さんの視線に向かって真っ直ぐ目を合わせている私と先生の姿が写っていた。一見して何の意味も無さそうな画像だが……?
 ただその画像は鮮明ではなく、やや靄がかかっていて白っぽかった。

「姉貴とヒロインじゃな? これはいつどこの記憶なのじゃ?」

 百恵ちゃんが先生に訊ねる。
 聞かれた先生は少し表情を曇らせて答えた。

「……これは真唯が見た最後の景色。――――ベヒモス化する寸前の記憶よ」と。
「――――なっ!??」

 私は思わず立ち上がり、そのスマホを掴んで食い入るように見る。

「おい、ヒロイン!! 我輩にも見せんか!!」
「私も見たいです!!」

 百恵ちゃんと菜々ちんに掴まれて座らされる。
 そしてあらためてその画像を確認したが、本当だ……これはあの時、真唯さんが私たちに封印の能力者を正体を伝えようとしていたあの時だ!!

「……この靄はなんじゃ?」
「ですね。……なんだかよくある心霊写真のようにも見えますが、七瀬先生の念写がこんな風に乱れるなんて……まさかまた何かの封印でも?」

 と思案する菜々ちんに先生が厳しい表情で答える。

「いえ、それは念写が妨害された訳じゃないわ、むしろ完璧に写しているわよ」
「完璧? この靄でもか? ……となるとこれには何か意味があるのか?」

 そう百恵ちゃんが訊ねると、先生はより厳しい顔つきになって言った。

「それはファントムの影よ。……あの瞬間、真唯に何者かのファントムが憑依したの、これはその瞬間の画像よ」
「なに!? ということは真唯殿はやはり誰かの能力によって強制的にベヒモス化させられたと言うことか!??」
「そうよ、そしてこれはおそらく瞬をベヒモス化させたのと同じ力ね」
「ベヒモス化を誘発させる……そんな能力聞いたことも無いぞ!!」
「そうね、お姉ちゃんも聞いたことが無いけど、でも一つだけ解った事がある」
「なんじゃそれは!?」
「……百恵、あなたには辛い事かも知れないけれど心して聞きなさい」

 そうして先生は百恵ちゃんを真っ直ぐ見つめ、心の準備をさせる。
 私と菜々ちんも生唾を飲み込んで次の言葉を待った。
 そして先生は静かに呟いた。

「――――このファントムの影は……恐らく『マステマ』よ」

 その言葉を聞いて固まる百恵ちゃんと菜々ちん。
 私には一体何のことだかわからなかったが――――、

「あ~~~~あ……気付いちゃったか」

 急に背後で声がした。
 ビクリと振り向くと、そこにダラリと気怠そうに立つ男の姿。

「――――あ、あなたは」

 それだけ言って言葉を詰まらせる。
 そこには正也さんが立っていた。

 手にマシンガンをぶら下げて。
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