超能力者の私生活

盛り塩

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第149話 対決・アマノウズメ③

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「――――なっ!?」

 いきなり妙な口調で語りかけられ、度肝を抜かれる私と先生。
 それは口調だけではなく声質まで真唯さんのものとは違う音だった。

『……これ以上の……戦いは……無駄だ、抵抗をやめてほしい……』

 彼女の声よりずっと低い声で、それはそう訴えかけてきた。

「ベヒモスが……言葉を……?」
 先生が信じられないようなものを見る目で見つめている。

 私も驚いた。
 ファントムに自我を乗っ取られているはずの真唯さんが言葉を発するなんてありえないからだ。
 あるとすれば瞬のような弱能力者の場合のみ。
 彼のような弱い能力者はそれだけファントムも弱い存在だ。
 だから暴走しても自我を奪われるまではいかないのだが、真唯さんのアマノウズメは違う。それこそ神クラスのファントムなのだ。人間の意識などいくらでも食らいつくせるだろう。

 ――――ならば今語りかけてきたのはアマノウズメなのか?
 ファントムが人の言葉を話したと言うのか??
 考えたとて答えなど出るはずがない。

「無駄な抵抗をやめろ……ですって?」

 血を滴らせる胸を押さえながら私はソレに聞き返した。
 するとソレは動きを止めたまま、無症状に口だけを動かしてくる。

『そう……だ……私……は『救世主』…………この世を浄化する……英雄だ……』

 ――――英雄?? 一体何を言っているのか?

「……あなたは誰? 真唯じゃ無いわよね」

 先生が用心深く銃を構え、声に尋ねた。
 しかしソレはその質問には答えない。

『…………私を……追うのを…………止めろ……そうすれば…………お前たちを……殺しはしない…………我々は……お前たちの敵ではない…………近づけば…………殺すしかない…………』
「……あなたは、あの記憶の封印をした人物ね? 目的は何なの? 真唯をベヒモス化させたのもあなたの仕業? だったらそれがあなたの能力なのかしら?」

 矢継ぎ早に質問を投げかける先生。
 まるで返事など期待していない。一応聞いてみてるだけといった感じだ。

 当然、声はそれには無反応。

『忠告は……してやった……。……深く……知れば…………お前達も…………処分しなければ……ならなくなる………………私は…………見ている』

 それだけ言うと声はしなくなり、それを合図に止まっていた真唯さんが再び動き出した。

「う……ご、がぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「――――くっ!!」

 咆哮を上げ、鎖を解かれた獣のように暴れ始める。
 金属製のベッドを引きちぎり、家具を粉砕し、壁を破壊する!!
 まるで何かの激痛にでも襲われているかのような無作為な暴れっぷりを、私はただ見つめているしか出来ないでいる。

 能力が使えない以上、もはや真唯さんを止めることは私には出来ないのだ。
 しかし、そんな彼女に先生は飛びついていった!!

「真唯ーーーーーーっ!!!!」

 叫び、先生はその腰にしがみつく!!
 最大限の結界を出現させ全力で彼女を押さえつけようとしている。
 しかしそんな事でベヒモスと化した真唯さんを止めることなんて出来はしない。
 それは先生が一番良くわかっているはず。
 それでも、がむしゃらにでも止めたいという先生の気持ちが痛いほど伝わって、私は涙が滲んできた。

 ――――ごしゃっ!!!!

 鈍い音がして先生が浮き上がった。
 下から胴体を突き上げるように爪を打たれたのだ!!

「――――がぁあっっ!!!!」

 腹を破られ、血だらけになって飛ばされる先生。

 ドゴッ!! ――――ゴンッ!!!!
 そこをさらに拳で追撃され先生は壁へと叩き付けられた。

「……が……あは…………」

 全身の骨が砕かれ、意識を失う先生。
 それをただ固まって見ているだけの私。
 
 まずい、致命傷を負っている。
 早く回復をしないと先生はこのまま死んでしまうだろう。
 しかし能力を使えば、アマノウズメはそれをきっと奪いに来る。
 そうしたらその力で私や先生は殺されるよりも残酷な姿に変えられるかもしれない。だから使えない。

 先生の命はどれだけもつんだ?
 腹部からは内臓が飛び出し、血は倒したバケツのように流れてくる。

 ――――もって数分。
 それまでに決断しなければならない。
 先生を見捨てるか、能力を差し出すか。

 この二択《てんびん》を。

「ぐごあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 しかし彼女は私にそれすらもさせない。
 吠えて、狙いを私に定め、飛びかかってきた!!

「――――くっ!! 結界術っ!!」

 全力で結界を展開しガードを固める。
 しかし――――、

 バギャアァァァァァンッ!!!!
 傷のせいで憔悴した私の結界では彼女の爪を防ぐことは出来ない!!

「――――がふっ!!!!」

 粉微塵に吹き飛ばされた結界片にまみれながら、私は彼女に喉を掴まれる。

「が……がぁぁぁぁ……っ!!」

 首を締め付けられ、身体を持ち上げられる。
 そして、
 ――――ブォンッ!! ゴシャッ!!!!

 そのまま床に叩き落された!!

 重機のような力で押しつぶされる。
 頭蓋骨が割れる音が聞こえた。
 首も――――折れている。
 やばい……このままじゃすぐに私も――――死ぬ。

『キュウゥイィィィィ!!!!』

 ラミアが回復させようとするが、それを私は許さなかった。
 アマノウズメがじっと観察していたからだ。
 能力を奪うために。
 そのためにわざとトドメを刺してこないのだ。

「…………このやろう」

 意地でも見せてやるものか。
 このままじゃ私も先生も二人とも確実に死ぬ。

 勝つ手段も無い。

 完全に詰みだが、しかしだからこそ思惑通りになってなどやるものか。
 ――――命を代償にした最後の意地だ。
 ラミアまでは絶対に渡さない!!

「…………ひどい有様ね」

 不意に声が聞こえた。

 薄れゆく意識の中でその声の主を確認する。

「――――あ……?」

 そこには――――長い黒髪を揺らしながら、片桐さんが立っていた。
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