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第147話 対決・アマノウズメ①
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「処分……!!」
その冷徹な言葉に私の体は固まった。
ほんの数秒前まで、真唯さんと私は普通に会話をしていた。
その彼女を今は殺さなければならなくなっている。
なんでだ? どうして急にこうなった!??
先生を見つめるが、彼女も原因が分からず困惑し、ただ唇を噛みしめて思考を回している。
はっきり言えることはただ一つ。
私たちは暴走した彼女を止めなければいけないということだけ。
「うぐろろぉぉぉぉぉぉ……」
元の綺麗な声の面影もなく、野太い声で唸りを上げる真唯さん。
背は猫背に折れ曲がり、架空世界の『グール』のような不気味な容姿で私たちを睨んでくる。
「気を付けて……真唯はベヒモス化でさらに能力レベルが上っているわ。どんな手を使って攻撃してくるかわからないわよ」
銃を抜き、それに結界を纏わせる先生。
「……出来れば……その前に処分したいところだけどね……」
全身から汗を吹き出させて、変わり果てた姿に変貌した真唯さんを睨みつける。
――――それだけ先生は彼女に恐怖を感じていた。
レベルの高い能力者ほど暴走した時の脅威は大きい。
下位組織のJPAS戦闘員の楠さんや、一般人の瞬とは違う。
今度は最上級の能力者。
上位組織JPA所属の大能力者がベヒモス化したのだ。
その脅威は私なんかの想像を越えるものなのだろう。
溢れ出る結界の破片だけで私たちは吹き飛ばされた。
それだけでわかる。
「でも、私の回復能力を使えば何とか……」
瞬への実験でベヒモス化を解くことには成功している。
同じ要領でやれば、彼女の暴走もきっと止められるはずだ。
「下手なことは考えないほうがいいわ」
しかしその考えを先生が否定してきた。
「どうして!? 私の能力なら真唯さんを救うことがきっと出来ます!!」
「あなた、その体力であの結界をどうやって破るつもり?」
間髪入れず先生が問いただしてくる。
「確かに、あなたの存在値操作ならば真唯は元に戻せるでしょう……でも、それは能力が彼女に届いたらの話よ」
「……う」
能力者相手に能力をかけるとき、必ずその相手が持つ結界が邪魔をする。
故に、相手の結界よりも高い出力を持たなければ能力者同士の戦いには勝つことが出来ない。
そして今、暴走した真唯さんの結界は私や先生の出力を軽く凌駕しているのは明らかなのだ。
「で、でもそれじゃ処分する事だって――――、」
出来るはずがない。
そう言おうとした私だったが、先生の決意に満ちた目を見て言葉を飲み込んだ。
「…………それでもここで食い止めなきゃ」
結界弾を込めた銃を真唯さんに向ける。
「あいつを……マユっちを……化け物として世に晒すわけにはいかないのよ!!」
――――ガンガンガンッ!!!!
結界を帯びた弾丸が真唯さんに向かって放たれる。
先生の目に涙が滲んでいたように見えた。
親友の名誉を守るため、親友の命を取るつもりなのだ。
しかし――――、
――――ビシビシビシッ!!!!
「――――っ!!」
弾は真唯さんの身体の表面で止められてしまう。
そこには厚い結界が張られていて、そのバリア効果で止められてしまった弾丸は彼女にまるでダメージを与えてはいない。
やはり彼女の結界は私たちの能力よりも数段強かった。
「ウグルォッ!!!!」
真唯さんが動いた!!
一足飛びに先生の鼻先まで距離を詰める。
「――――くっ!!」
咄嗟に結界の盾を出す先生。
――――だが、
バキィィィィィィンッ!!!!
盾はいとも簡単に砕かれ、鋭く生え出た爪がそのまま先生に襲いかかる!!
その腕は青白い光を纏っていた。
私は目をそれを見て驚愕する。
――――それは結界術だったからだ。
「――――――――っ!!」
それに気付いた私は無我夢中で先生の前に飛び出した。
ベヒモス化して意識が無いはずの真唯さんがなぜ、そんな高度な技を使えるのかはわからない。
しかしそれは紛れもなく強力な破壊力を秘めた結界術だった。
盾を破壊されて生身となった先生が、その攻撃を食らったら一瞬にして砕け散ってしまうだろう。
そうなったらもう私の回復では治せない。
「――――それはさせないっ!!」
前に飛び出た私がその爪を拳で迎え撃つ。
結界術同士の打ち合いだ!!
さっきは動揺もあって全力じゃ無かった。
しかし今度は私の全力を見せてやる!!
「ラミアっ!! 全身全霊!! フル出力で結界を練りなさいっ!!!!」
『ギュウゥイ!!』
そして交わる二人の拳。
バギィィィィィィィィンッ!!!!
金属とガラスが割れたような音がして青の光が弾け飛んだ!!
それは砕け散った結界の破片。
私と真唯さんの身体から同時に光が消えていく。
――――互角っ!??
お互いに結界を相殺しあって丸裸になる。
しかしそれでも身体能力は圧倒的にベヒモスの方が上!!
「グゥオゥッ!!!!」
唸りを上げて彼女が体勢を立て直し、私に襲いかかってくる。
結界術も無いこの状態で、ベヒモスの一撃は致命傷を負うに充分。
おまけに今の私にはもう自分を回復させる精神力は残っていない。
「宝塚さんっ!!!!」
絶望的な瞬間に、先生が悲鳴を上げる。
だが、私はこの瞬間こそを狙っていたのだ!!
――――ドスッ!!!!
繰り出された手刀が胸を貫いた。
それは私の心臓を引き裂いて背中へと突き出る。
――――熱いっ!!
そう思うと同時に急激に暗くなっていく視界。
心臓を潰されたショックと酸欠で、脳が機能停止しようとしていた。
私の命――――もってあと数秒。
だがそれだけあれば充分だった。
その冷徹な言葉に私の体は固まった。
ほんの数秒前まで、真唯さんと私は普通に会話をしていた。
その彼女を今は殺さなければならなくなっている。
なんでだ? どうして急にこうなった!??
先生を見つめるが、彼女も原因が分からず困惑し、ただ唇を噛みしめて思考を回している。
はっきり言えることはただ一つ。
私たちは暴走した彼女を止めなければいけないということだけ。
「うぐろろぉぉぉぉぉぉ……」
元の綺麗な声の面影もなく、野太い声で唸りを上げる真唯さん。
背は猫背に折れ曲がり、架空世界の『グール』のような不気味な容姿で私たちを睨んでくる。
「気を付けて……真唯はベヒモス化でさらに能力レベルが上っているわ。どんな手を使って攻撃してくるかわからないわよ」
銃を抜き、それに結界を纏わせる先生。
「……出来れば……その前に処分したいところだけどね……」
全身から汗を吹き出させて、変わり果てた姿に変貌した真唯さんを睨みつける。
――――それだけ先生は彼女に恐怖を感じていた。
レベルの高い能力者ほど暴走した時の脅威は大きい。
下位組織のJPAS戦闘員の楠さんや、一般人の瞬とは違う。
今度は最上級の能力者。
上位組織JPA所属の大能力者がベヒモス化したのだ。
その脅威は私なんかの想像を越えるものなのだろう。
溢れ出る結界の破片だけで私たちは吹き飛ばされた。
それだけでわかる。
「でも、私の回復能力を使えば何とか……」
瞬への実験でベヒモス化を解くことには成功している。
同じ要領でやれば、彼女の暴走もきっと止められるはずだ。
「下手なことは考えないほうがいいわ」
しかしその考えを先生が否定してきた。
「どうして!? 私の能力なら真唯さんを救うことがきっと出来ます!!」
「あなた、その体力であの結界をどうやって破るつもり?」
間髪入れず先生が問いただしてくる。
「確かに、あなたの存在値操作ならば真唯は元に戻せるでしょう……でも、それは能力が彼女に届いたらの話よ」
「……う」
能力者相手に能力をかけるとき、必ずその相手が持つ結界が邪魔をする。
故に、相手の結界よりも高い出力を持たなければ能力者同士の戦いには勝つことが出来ない。
そして今、暴走した真唯さんの結界は私や先生の出力を軽く凌駕しているのは明らかなのだ。
「で、でもそれじゃ処分する事だって――――、」
出来るはずがない。
そう言おうとした私だったが、先生の決意に満ちた目を見て言葉を飲み込んだ。
「…………それでもここで食い止めなきゃ」
結界弾を込めた銃を真唯さんに向ける。
「あいつを……マユっちを……化け物として世に晒すわけにはいかないのよ!!」
――――ガンガンガンッ!!!!
結界を帯びた弾丸が真唯さんに向かって放たれる。
先生の目に涙が滲んでいたように見えた。
親友の名誉を守るため、親友の命を取るつもりなのだ。
しかし――――、
――――ビシビシビシッ!!!!
「――――っ!!」
弾は真唯さんの身体の表面で止められてしまう。
そこには厚い結界が張られていて、そのバリア効果で止められてしまった弾丸は彼女にまるでダメージを与えてはいない。
やはり彼女の結界は私たちの能力よりも数段強かった。
「ウグルォッ!!!!」
真唯さんが動いた!!
一足飛びに先生の鼻先まで距離を詰める。
「――――くっ!!」
咄嗟に結界の盾を出す先生。
――――だが、
バキィィィィィィンッ!!!!
盾はいとも簡単に砕かれ、鋭く生え出た爪がそのまま先生に襲いかかる!!
その腕は青白い光を纏っていた。
私は目をそれを見て驚愕する。
――――それは結界術だったからだ。
「――――――――っ!!」
それに気付いた私は無我夢中で先生の前に飛び出した。
ベヒモス化して意識が無いはずの真唯さんがなぜ、そんな高度な技を使えるのかはわからない。
しかしそれは紛れもなく強力な破壊力を秘めた結界術だった。
盾を破壊されて生身となった先生が、その攻撃を食らったら一瞬にして砕け散ってしまうだろう。
そうなったらもう私の回復では治せない。
「――――それはさせないっ!!」
前に飛び出た私がその爪を拳で迎え撃つ。
結界術同士の打ち合いだ!!
さっきは動揺もあって全力じゃ無かった。
しかし今度は私の全力を見せてやる!!
「ラミアっ!! 全身全霊!! フル出力で結界を練りなさいっ!!!!」
『ギュウゥイ!!』
そして交わる二人の拳。
バギィィィィィィィィンッ!!!!
金属とガラスが割れたような音がして青の光が弾け飛んだ!!
それは砕け散った結界の破片。
私と真唯さんの身体から同時に光が消えていく。
――――互角っ!??
お互いに結界を相殺しあって丸裸になる。
しかしそれでも身体能力は圧倒的にベヒモスの方が上!!
「グゥオゥッ!!!!」
唸りを上げて彼女が体勢を立て直し、私に襲いかかってくる。
結界術も無いこの状態で、ベヒモスの一撃は致命傷を負うに充分。
おまけに今の私にはもう自分を回復させる精神力は残っていない。
「宝塚さんっ!!!!」
絶望的な瞬間に、先生が悲鳴を上げる。
だが、私はこの瞬間こそを狙っていたのだ!!
――――ドスッ!!!!
繰り出された手刀が胸を貫いた。
それは私の心臓を引き裂いて背中へと突き出る。
――――熱いっ!!
そう思うと同時に急激に暗くなっていく視界。
心臓を潰されたショックと酸欠で、脳が機能停止しようとしていた。
私の命――――もってあと数秒。
だがそれだけあれば充分だった。
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