超能力者の私生活

盛り塩

文字の大きさ
上 下
147 / 260

第147話 対決・アマノウズメ①

しおりを挟む
「処分……!!」
 その冷徹な言葉に私の体は固まった。

 ほんの数秒前まで、真唯さんと私は普通に会話をしていた。
 その彼女を今は殺さなければならなくなっている。

 なんでだ? どうして急にこうなった!??

 先生を見つめるが、彼女も原因が分からず困惑し、ただ唇を噛みしめて思考を回している。
 はっきり言えることはただ一つ。
 私たちは暴走した彼女を止めなければいけないということだけ。

「うぐろろぉぉぉぉぉぉ……」

 元の綺麗な声の面影もなく、野太い声で唸りを上げる真唯さん。
 背は猫背に折れ曲がり、架空世界の『グール』のような不気味な容姿で私たちを睨んでくる。

「気を付けて……真唯はベヒモス化でさらに能力レベルが上っているわ。どんな手を使って攻撃してくるかわからないわよ」

 銃を抜き、それに結界を纏わせる先生。

「……出来れば……その前に処分したいところだけどね……」

 全身から汗を吹き出させて、変わり果てた姿に変貌した真唯さんを睨みつける。
 ――――それだけ先生は彼女に恐怖を感じていた。
 
 レベルの高い能力者ほど暴走した時の脅威は大きい。
 下位組織のJPAS戦闘員の楠さんや、一般人の瞬とは違う。
 今度は最上級の能力者。
 上位組織JPA所属の大能力者がベヒモス化したのだ。
 その脅威は私なんかの想像を越えるものなのだろう。
 溢れ出る結界の破片だけで私たちは吹き飛ばされた。
 それだけでわかる。

「でも、私の回復能力を使えば何とか……」

 瞬への実験でベヒモス化を解くことには成功している。
 同じ要領でやれば、彼女の暴走もきっと止められるはずだ。

「下手なことは考えないほうがいいわ」

 しかしその考えを先生が否定してきた。

「どうして!? 私の能力なら真唯さんを救うことがきっと出来ます!!」
「あなた、その体力であの結界をどうやって破るつもり?」
 間髪入れず先生が問いただしてくる。

「確かに、あなたの存在値操作ならば真唯は元に戻せるでしょう……でも、それはの話よ」
「……う」

 能力者相手に能力をかけるとき、必ずその相手が持つ結界が邪魔をする。
 故に、相手の結界よりも高い出力を持たなければ能力者同士の戦いには勝つことが出来ない。
 そして今、暴走した真唯さんの結界は私や先生の出力を軽く凌駕しているのは明らかなのだ。

「で、でもそれじゃ処分する事だって――――、」

 出来るはずがない。
 そう言おうとした私だったが、先生の決意に満ちた目を見て言葉を飲み込んだ。

「…………それでもここで食い止めなきゃ」

 結界弾を込めた銃を真唯さんに向ける。

「あいつを……マユっちを……化け物として世に晒すわけにはいかないのよ!!」

 ――――ガンガンガンッ!!!!

 結界を帯びた弾丸が真唯さんに向かって放たれる。
 先生の目に涙が滲んでいたように見えた。
 親友の名誉を守るため、親友の命を取るつもりなのだ。
 しかし――――、

 ――――ビシビシビシッ!!!!

「――――っ!!」

 弾は真唯さんの身体の表面で止められてしまう。
 そこには厚い結界が張られていて、そのバリア効果で止められてしまった弾丸は彼女にまるでダメージを与えてはいない。

 やはり彼女の結界は私たちの能力よりも数段強かった。

「ウグルォッ!!!!」

 真唯さんが動いた!!
 一足飛びに先生の鼻先まで距離を詰める。

「――――くっ!!」
 咄嗟に結界の盾を出す先生。
 ――――だが、

 バキィィィィィィンッ!!!!

 盾はいとも簡単に砕かれ、鋭く生え出た爪がそのまま先生に襲いかかる!!
 その腕は青白い光を纏っていた。
 私は目をそれを見て驚愕する。

 ――――それは結界術だったからだ。

「――――――――っ!!」

 それに気付いた私は無我夢中で先生の前に飛び出した。
 ベヒモス化して意識が無いはずの真唯さんがなぜ、そんな高度な技を使えるのかはわからない。
 しかしそれは紛れもなく強力な破壊力を秘めた結界術だった。
 盾を破壊されて生身となった先生が、その攻撃を食らったら一瞬にして砕け散ってしまうだろう。
 そうなったらもう私の回復では治せない。

「――――それはさせないっ!!」

 前に飛び出た私がその爪を拳で迎え撃つ。
 結界術同士の打ち合いだ!!
 さっきは動揺もあって全力じゃ無かった。
 しかし今度は私の全力を見せてやる!!

「ラミアっ!! 全身全霊!! フル出力で結界を練りなさいっ!!!!」
『ギュウゥイ!!』
 そして交わる二人の拳。

 バギィィィィィィィィンッ!!!!

 金属とガラスが割れたような音がして青の光が弾け飛んだ!!
 それは砕け散った結界の破片。
 私と真唯さんの身体から同時に光が消えていく。

 ――――互角っ!??

 お互いに結界を相殺しあって丸裸になる。
 しかしそれでも身体能力は圧倒的にベヒモスの方が上!!

「グゥオゥッ!!!!」

 唸りを上げて彼女が体勢を立て直し、私に襲いかかってくる。
 結界術も無いこの状態で、ベヒモスの一撃は致命傷を負うに充分。
 おまけに今の私にはもう自分を回復させる精神力は残っていない。

「宝塚さんっ!!!!」

 絶望的な瞬間に、先生が悲鳴を上げる。
 だが、私はこの瞬間こそを狙っていたのだ!!

 ――――ドスッ!!!!

 繰り出された手刀が胸を貫いた。
 それは私の心臓を引き裂いて背中へと突き出る。

 ――――熱いっ!!

 そう思うと同時に急激に暗くなっていく視界。
 心臓を潰されたショックと酸欠で、脳が機能停止しようとしていた。
 私の命――――もってあと数秒。

 だがそれだけあれば充分だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...