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第125話 隠された記憶㉒
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「あ……ああ……あ――――、」
目から涙を溢れさせて菜々ちんが座り込んだ。
その目に何が映っていたかわからないが、表情から百恵ちゃんの身に何かがあったと言うことだけはわかった。
「先生――――!!」
私が言うよりも早く、死ぬ子先生は駆け出していた。
続いて部下の二人もその後について駆けていく。
出遅れてしまった私に菜々ちんが震えた声で、
「宝塚さん……百恵さんが……早く、早く行って彼女を助けて!!」
そう涙し私を見上げた。
「……わかったっ!!」
何があったのか確認することは後にして、私は先生たちの後を追った。
そんな暇はないと彼女の目が訴えていたからだ。
百恵ちゃんが戦っていたであろう場所までほんの数十メートル。
機械や配管の邪魔があるが、それでもすぐに辿り着く。
空調機の壁を曲がり、直進し、また曲がる。
バチャバチャと足元の水が跳ねるが、やがてその水が赤く染まってくる。
私はそれを見てとてつもなく嫌な予感がした。
そしてその光景が私の目に飛び込んできた。
――――ダララララララララララララララララッ!!!!
戦闘員の二人が銃を掃射する。
弾は、走る先生の上を通過し、そに先にある目標に命中する。
しかしそれは数十発の弾丸を受けても微動だにせず、その気持ち悪い触手をウネウネと動かしていた。
爆発で壊され、傾いてしまった空調機に張り付くようにそいつはいた。
それは身体を失い頭部だけになってしまった瞬。
その頭部すらも右半分は砕けてしまい中身が垂れてしまっていたのだが、問題はその首から下の部分である。
切断された首の断面から背骨が伸びているのだが、それがすぐに枝分かれし何本ものムチのような触手に変わり、それぞれが蜘蛛の足のように動き、本体である頭部を運んでいる。
その骨で出来た触手の先端は鋭利な刃物のように薄くなっていて、その内の一本が赤く染まっていた。
その赤の正体は、いま先生が飛び込むように抱きしめている百恵ちゃん。
――――彼女の生首が付けたものだった。
「――――――――っつっっっっっつっ!!!!??」
声もなく妹の首を抱きしめる先生。
その側には彼女の体も、捨てられた人形のように転がっている。
戦闘員の二人は狂ったように銃を乱射し、その化け物を射殺しようとするが、そいつはその銃撃に怯むことなく触手の先端――――刃になった部分を飛ばしてきた。
――――ザッ!!
「――――かはっ!???」
喉の空気が抜けたような音を出して323番さんが傾く。
その首には瞬が放った触手の刃が半分くらいまで埋まっていた。
ああ……そうか、百恵ちゃんはこうやって殺されたのか。
自分でも驚くほど冷静に状況を把握する。
私は昔から変なところで妙に冷めたとこがあった。
両親の死や、その後の生活、イジメなどの試練が私をそう鍛えてしまったのかわからないが、いつの頃からか、本当に緊迫した場面では私は感情を殺すことが出来るようになっていた。
こいつは――――この蜘蛛は何??
瞬が変身したのか!??
何故?? どうやって?? またあの能力の仕業か??
疑問が湧いてくるが全ては後回しだ。
先生と私の目をが合った。
その目にはいつのも余裕しゃくしゃくの光は宿っていない。
ただの姉の目で私に助けを求めていた。
百恵ちゃんの瞳には光が見えなかった。
――――命の潰えた者を生き返らせる事が出来るか?
ついさっき私が自分に問いかけた疑問だ。
私の答えはノーだった。
それは多分当たっている。
自分の能力だ、直感でわかる。
百恵ちゃんは殺されてからどれだけ時間が経った?
ほんの十数秒だ。
そのくらいの時間なら彼女の命はまだそこにあるはず。
どしゃっと。
323番さんが地面に倒れた。
そうだ。
彼の傷も致命傷。
――――どっちだ!??
どっちを先に助ける!??
私の回復はあと一回しか使えないんだぞ??
少しパニックになる。
命の天秤が目の前にぶら下がったのだ、流石に誰だってそうなるだろう。
お昼に所長に問われたっけ?
キミに命の選択が出来るかと。
これも答えはノー。出来ません。
だから私は考えるのを止めた。
とにかくここは順番だ!!
先に倒れてたほうを回復させる!!
バカの思考だが、バカで結構。立ち止まるお利口さんより少しはマシだ。
「先生!!」
百恵ちゃんの首を受け取るべく走る。
「宝塚さん!!」
先生が百恵ちゃんの首を私に投げてよこしたのと、瞬が刃のブーメランを彼女の背中に向けて放ったのは同時だった。
「先生っ!!!!」
ドスッ!!!!
背中に刃が埋まった。
それは背中を突き抜け、先端が胸から飛び出ていた。
「――――ぐっ!!」
それでも先生は瞬のほうに向き直り、百恵ちゃんの体を庇うようにその前に立ち塞がった。
ザザザと細かい動きを見せながら、瞬は再び先生に刃を飛ばしてくる。
念写能力しか持たないESP能力者の先生は、戦闘においては並みの人間と変わらない。
そんな彼女が命を賭けて今、妹の回復を邪魔させまいとしていた。
自信がないとか、そんなことを言っている場合じゃない。
百恵ちゃんの命が潰えていようが何だろうが――――、
「ラミア、全回復よっ!!!! 百恵ちゃんを呼び戻しなさいっ!!!!」
私は私でこの回復術《ヒーリング》に命を掛けた!!
目から涙を溢れさせて菜々ちんが座り込んだ。
その目に何が映っていたかわからないが、表情から百恵ちゃんの身に何かがあったと言うことだけはわかった。
「先生――――!!」
私が言うよりも早く、死ぬ子先生は駆け出していた。
続いて部下の二人もその後について駆けていく。
出遅れてしまった私に菜々ちんが震えた声で、
「宝塚さん……百恵さんが……早く、早く行って彼女を助けて!!」
そう涙し私を見上げた。
「……わかったっ!!」
何があったのか確認することは後にして、私は先生たちの後を追った。
そんな暇はないと彼女の目が訴えていたからだ。
百恵ちゃんが戦っていたであろう場所までほんの数十メートル。
機械や配管の邪魔があるが、それでもすぐに辿り着く。
空調機の壁を曲がり、直進し、また曲がる。
バチャバチャと足元の水が跳ねるが、やがてその水が赤く染まってくる。
私はそれを見てとてつもなく嫌な予感がした。
そしてその光景が私の目に飛び込んできた。
――――ダララララララララララララララララッ!!!!
戦闘員の二人が銃を掃射する。
弾は、走る先生の上を通過し、そに先にある目標に命中する。
しかしそれは数十発の弾丸を受けても微動だにせず、その気持ち悪い触手をウネウネと動かしていた。
爆発で壊され、傾いてしまった空調機に張り付くようにそいつはいた。
それは身体を失い頭部だけになってしまった瞬。
その頭部すらも右半分は砕けてしまい中身が垂れてしまっていたのだが、問題はその首から下の部分である。
切断された首の断面から背骨が伸びているのだが、それがすぐに枝分かれし何本ものムチのような触手に変わり、それぞれが蜘蛛の足のように動き、本体である頭部を運んでいる。
その骨で出来た触手の先端は鋭利な刃物のように薄くなっていて、その内の一本が赤く染まっていた。
その赤の正体は、いま先生が飛び込むように抱きしめている百恵ちゃん。
――――彼女の生首が付けたものだった。
「――――――――っつっっっっっつっ!!!!??」
声もなく妹の首を抱きしめる先生。
その側には彼女の体も、捨てられた人形のように転がっている。
戦闘員の二人は狂ったように銃を乱射し、その化け物を射殺しようとするが、そいつはその銃撃に怯むことなく触手の先端――――刃になった部分を飛ばしてきた。
――――ザッ!!
「――――かはっ!???」
喉の空気が抜けたような音を出して323番さんが傾く。
その首には瞬が放った触手の刃が半分くらいまで埋まっていた。
ああ……そうか、百恵ちゃんはこうやって殺されたのか。
自分でも驚くほど冷静に状況を把握する。
私は昔から変なところで妙に冷めたとこがあった。
両親の死や、その後の生活、イジメなどの試練が私をそう鍛えてしまったのかわからないが、いつの頃からか、本当に緊迫した場面では私は感情を殺すことが出来るようになっていた。
こいつは――――この蜘蛛は何??
瞬が変身したのか!??
何故?? どうやって?? またあの能力の仕業か??
疑問が湧いてくるが全ては後回しだ。
先生と私の目をが合った。
その目にはいつのも余裕しゃくしゃくの光は宿っていない。
ただの姉の目で私に助けを求めていた。
百恵ちゃんの瞳には光が見えなかった。
――――命の潰えた者を生き返らせる事が出来るか?
ついさっき私が自分に問いかけた疑問だ。
私の答えはノーだった。
それは多分当たっている。
自分の能力だ、直感でわかる。
百恵ちゃんは殺されてからどれだけ時間が経った?
ほんの十数秒だ。
そのくらいの時間なら彼女の命はまだそこにあるはず。
どしゃっと。
323番さんが地面に倒れた。
そうだ。
彼の傷も致命傷。
――――どっちだ!??
どっちを先に助ける!??
私の回復はあと一回しか使えないんだぞ??
少しパニックになる。
命の天秤が目の前にぶら下がったのだ、流石に誰だってそうなるだろう。
お昼に所長に問われたっけ?
キミに命の選択が出来るかと。
これも答えはノー。出来ません。
だから私は考えるのを止めた。
とにかくここは順番だ!!
先に倒れてたほうを回復させる!!
バカの思考だが、バカで結構。立ち止まるお利口さんより少しはマシだ。
「先生!!」
百恵ちゃんの首を受け取るべく走る。
「宝塚さん!!」
先生が百恵ちゃんの首を私に投げてよこしたのと、瞬が刃のブーメランを彼女の背中に向けて放ったのは同時だった。
「先生っ!!!!」
ドスッ!!!!
背中に刃が埋まった。
それは背中を突き抜け、先端が胸から飛び出ていた。
「――――ぐっ!!」
それでも先生は瞬のほうに向き直り、百恵ちゃんの体を庇うようにその前に立ち塞がった。
ザザザと細かい動きを見せながら、瞬は再び先生に刃を飛ばしてくる。
念写能力しか持たないESP能力者の先生は、戦闘においては並みの人間と変わらない。
そんな彼女が命を賭けて今、妹の回復を邪魔させまいとしていた。
自信がないとか、そんなことを言っている場合じゃない。
百恵ちゃんの命が潰えていようが何だろうが――――、
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私は私でこの回復術《ヒーリング》に命を掛けた!!
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