超能力者の私生活

盛り塩

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第122話 隠された記憶⑲

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 そんなわけで。

 死ぬ子先生に締め上げられてしまった百恵ちゃんは、しぶしぶ大人しくなり、私たちと共同で所長の救出に当たることとなった。
 というよりも姉の指揮下に入ってしまったと言ったほうがいいだろうか。

「あくまで第一目標は所長の救出だけれど、瞬の捕縛も重要だから。多少痛めつけるのは構わないけれども、殺しちゃだめよ?」
「ヒロインの能力さえあればいくらでも生き返られるのじゃろう!?? だったらあんなヤツ挽き肉にでも変えてしまって構わんじゃろうがっ!!」

 姉の言いつけに反論し、食って掛かる妹。
 景色だけを見れば微笑ましい姉妹喧嘩のようなものだが、いかんせん内容が物騒すぎる。

「その回復能力がどこまで効果あるのか、まだハッキリとはしていない以上、無茶な事は出来ないわ」

 死ぬ子先生の言う通り、私の回復力の限界はまだ見極められていない。
 手足が吹き飛ぶ程度ならば自分の身体で実験済みだが、挽き肉ぐらいにまで分解された肉体を元に戻せるかは正直まだわからない。
 それに完全に生命維持活動が停止した者――――つまり命が潰えた者を生き返させられるかと問われれば、その自信もない。

 いや、多分出来ないだろう。

 そんな事が出来てしまったら、それはもう神か悪魔であるからだ。
 ラミアはすごいファントムだが、そこまでの存在では無い。たぶん。

 目の前には屋上への鉄扉がひしゃげて傾いている。
 瞬が無理やり突破した後だと思うが、その向こうに彼の姿は見えなかった。
 屋上には貯水タンクや空調施設が格子状に設置されていて見通しは悪い。
 身を隠すぶんには都合がいい状況だが、しかしそれはあくまで常人での話。

「ベヒモス瞬、左奥の貯水槽の影に潜んでいます」
 菜々ちんが能力であっさり見つける。

「オジサマは? オジサマは無事なのか!?」
「所長は……はい、無事ですが……」
「が?? が、なんなのじゃ!??」

 喉の奥に詰まった言い方をする菜々ちんに百恵ちゃんがかじりつく。
 まさか所長の身に何かあったのだろうか!?

「いえ……少し距離を置いて寝転されているだけです。ただし、それを瞬が影から見張っています」
「むう? ……まさかヤツはオジサマを餌に、吾輩らを誘い出そうとしておるのか??」
「……そう……みたいですね、信じられませんが」

 との菜々ちんの言葉に先生が、

「ふうん……やはりあの子は普通のベヒモスでは無いわね。完全暴走していながらも、考える理性が残っている……まるで、弱ベヒモス化の時のようにね。
 でも……そんな事ありえるのかしら? ううん、仮にそうだとしたらそれはもうベヒモスと言えるのかしら……そもそもベヒモスの定義というのは――――ぐふぅ」

 難しいことをブツブツ言っている姉の脇腹を百恵ちゃんが手刀で抉る。

「細かいことはいいのじゃ!! 今はとにかくオジサマを確保するのが最優先!!
 ヤツが待ち構えていようがどうだろうが、そんなもの吾輩が返り討ちにしてくれるわ!!」

 いきり立ち、飛び出す百恵ちゃん。

「菜々とヒロインはそのままヤツが逃げ出さないように出口を封鎖していろ!!
 323番、426番、吾輩に続けっ!!」
「あ、コラ待ちなさいっ!!!!」
 脇腹を擦りながら先生が勝手なことをするなと怒るが、

「ヤツを殺さなければいいんじゃろ!!」
 と、百恵ちゃんは背中越しに叫び、

「――――ならば九分殺しにしてくれるわ」

 目を座らせて空調設備の影に消えていった。




「菜々が言っていた左奥の貯水タンクとはアレだろうな?」
 空調機の影から様子をうかがい、百恵が呟く。

「はい。それを壁のように塞ぐ形で複数の空調機が並べられていて、そこへの道は一本しか無いようです」
 自身のスマホにマップを映して323番は答えた。

「では、その道の先にオジサマは寝かされているのだな?」
「最恩の……あ、いえ最恩訓練生の情報ではそうです」
「よし、ではそこまで一気に走るぞ!!」

 そして器機の隙間を縫って彼女らはそこへ辿り着く。
 配電盤の影から様子を確認すると、貯水タンクの五メートルほど手前に所長の足が突き出ているのが確認できた。

 設備を固定する基礎ブロックや配管の隙間に投げ出されている格好だ。

 それを見て、百恵の奥歯がギリギリと削れる。
 殺されてはいないようだが、愛しの男がボロ雑巾ように扱われているのだ、百恵の怒りは瞬時に頂点に達する。

「ベヒモス瞬、目視で確認。貯水タンクの下で伏せて様子を伺っています」

 426番が、少し震えながらそう報告してくる。
 瞬の狙いが想像出来たからだ。

 ヤツはもう、逃げるのを諦めている。

 しかし、捕らえられるにしてもタダではやられないつもりなのだろう。
 自分を追い詰めた連中を一人でも道連れに殺してやろう。

 そう考えているはず。

 でなければ人質を囮に潜むなんて事はしない。
 そしてこのやり方はシンプルだが、敵を誘い出すには効果的だ。
 ヤツがどういう手段で攻撃してくるつもりか知らないが、救助に向かえばこちらも確実に一人はやられるだろう。

 それだけの準備はしているぞ、と言う見え透いた罠なのだ。

 しかし、避けて通ることの出来ない罠でもある。
 三人のうち一人は確実に道連れにされる。
 そしてそれは護衛役の自分達の役目でもある。

 死ぬ確率50%。

 それが426番が震えている理由だった。
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