超能力者の私生活

盛り塩

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第117話 隠された記憶⑭

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 ベヒモス化した瞬を追って百恵は集中治療室を飛び出す。
 どういうつもりか分からないが、ヤツは大西所長を人質にして逃げた。
 ほかの何がどうなろうと知ったことではないが、オジサマを傷つける者は誰だろうと絶対に許さない。

「――――必ず追いついて肉の塵に変えてやる!!」

 百恵は瞬の残した足跡を追って全力で駆けていく。
 通路の奥から人の悲鳴と銃声が聞こえてきた。
 
 気配を追って角を曲がったその先に――――いた、ヤツだ!!
 
 所長を肩に担いだ瞬が、三人の患者衣を着た男達と戦闘している。
 男達はみな手にサブマシンガンを装備しており、襲いかかってくる瞬に抵抗していた。

「七瀬隊長っ!??」
 その内の一人が百恵を目にし、名を呼んだ。

「そのまま弾幕で足止めだ!! ただし所長には絶対に当てるな!! かすりでもしたらおヌシら、そいつもろとも肉饅頭に変えてやるぞ!!」

 駆けながら難解な指示を飛ばす百恵。
 前回の戦闘で負傷した部下がこの病棟に残っていたのだ。
 JPA御用達の特別病棟だけあって入院患者は護身具の持ち込みも許されている。
 流石、手慣れの戦闘員だけあって準備と、緊急時の対応は迅速だった。

「はっ!!」
 百恵の指示に従い、部下たちは瞬の行く手を遮るように弾をバラ撒く!!

 ダラララララララララララッ!!!!

 それを、床・壁・天井へと身軽に飛び移り躱すベヒモス瞬。
 弾幕の間を縫うようにすり抜け、一人の隊員の胸元へと迫った。
 人間の限界をゆうに超えた腕力を持つその手刀が隊員の喉元に向けられたが、しかし、そのすきに百恵の能力が充填《チャージ》された。

「抉《えぐ》れ!! ガルーダッ!!!!」
 吠える。

 同時に隊員とベヒモス瞬の足元――――床すれすれに出現する空気の種。

「な、そんなっ!???」
 自分をも巻き込んでしまう間合いでの能力使用に、部下は思わず恨み言を言いかけるが――――、

「ぬんっ!!!!」

 ドゴッ!!

 ベテランの先輩に回し蹴りを食らわされ、衝撃でふっ飛ばされる。

 ッズドムッ!!!!

 間髪入れず爆発する圧縮空気。
 だか一瞬速く瞬はそれをも躱し、壁を蹴り、通路の奥へと飛び進んだ。

「――――ちっ!!」

 百恵は舌打ちする。
 所長に当たらぬように威力を押さえ、かつ足元を狙ったのが裏目に出てしまった。
 そうでなければ今のタイミングならガルーダの一斉爆撃で片は着いていたはずだ。
 部下と合流し瞬を目で追うが、すでに視界には無い。

「ばかやろうっ!! 隊長の行動を読んで、体勢は整えておけといつも言ってるだろうがっ!!!!」

 ベテラン隊員が、蹴り飛ばした若い男に怒鳴り散らしている。

「隊長が足止めだと言ったなら、そこに爆撃すると言う意味だ!! 距離を詰められおって、おかげで隊長は爆発の威力を絞ることになったんだぞっ!!!!」

 足を引っ張るなとばかりに激高するベテラン。
 百恵的には部下というより所長を気遣ったのだが、あえてそれを言うことも無いだろう。

「反省会は後じゃ!! 追うぞっ!!」
「はっ!!!!」

 百恵の号令で瞬時に頭を切り替え、動き出す部下たち。
 四人は瞬の気配を追って再び走り出す。

「隊長、あれは一体なんですか!?」
 ベテラン隊員――――043番は走りながら百恵に質問する。

「先日、姉が捕獲したベヒモスの研究体じゃ。宝塚の能力によって復活させられたが、再び暴走して所長を盾に逃走したのじゃ」
「なぜ所長を? ベヒモスがそんな思考を持つなんて本来無いでしょう??」
「あれは特別な個体でな、色々あって常識外れな化け物になっておる」

 実際のところ、百恵にもそれ以上の説明は出来なかった。
 なぜ再びベヒモス化したのか、なぜ所長を攫ったのか、なぜ逃走するのか。
 すべてが疑問だったが、今はそれを思案する場面ではない。

「くそっ!! ヤツはどこに行ったのじゃ!!!!」

 機密性の高さゆえに、侵入者を防ぐため、複雑に作られた通路は幾重にも折れ曲がり、上下する。百恵たちは完全に瞬を見失っていた。

「百恵さんっ!!」
 そこに最恩菜々が追いついてきた。

「菜々か!! いい所にきたな!! ヤツを探せるか!??」
 菜々の姿を目にした百恵が、しめたとばかりに彼女を迎える。

 菜々の能力は念視。
 植物を媒体に情報を集める能力。
 植物さえあれば菜々に探れない場所はない。
 現に菜々は大西所長のネクタイを媒体にして、すでに念視をしていた。
 素材に使われているリネン(麻)に取り憑いたのだ。

 衣服に関してはシルクやウールの素材を好む所長だが、いざという時のためにネクタイだけは安い麻入りの物を着けてもらっていた。
 清掃が行き渡っているこの特別病棟で、足掛かりに出来るものはそのネクタイだけだったが、なに、それで充分だ。

 ネクタイからの情報を読み取り、菜々たちは瞬を追う。
 足はベヒモス化した瞬の方が圧倒的に早いが、入り組んだ迷路帖の構造が今度は百恵たちの味方をする。

「いたぞっ!! あそこじゃっ!!」

 一つフロアを上がった先で袋小路に引っかかり、立ち止まっている瞬を見付けた。
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