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第114話 隠された記憶⑪
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バキャァァァァアンッ!!!!
ガラス細工が飛び散る音がして、瞬の頭部から青い光の破片が四散する。
記憶の障壁が纏う結界を破壊した証だ。
「やった!??」
菜々ちんが歓喜の声を上げるが、しかし同時に、私の拳は瞬の頭にも致命的なダメージを与えている。
女将さんの結界術を完全ではないにせよトレースした技だ、その威力は一撃で背丈以上のコンクリートをも破壊する。当然、瞬の頭部は砕け散り、脳と体液が壁に張り付くが――――、
「ラミア、回復よ!!」
すぐさま私はラミアに彼の修復を命じた。
『きゅうぃ!!』
ラミアの反応と同時に、私の身体から精気が消耗される。
すでに一度、瞬の体を修復させて私の身体は痩せていたが、そこからさらに精気を奪われることになる。
だが、それも過去に経験済み、あと一回くらい全回復は使えるはずだ。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
とはいえ、苦しくないわけはない。
標準体型から超痩せ体型へと変化する私にはそれ相応の苦痛と疲労がのしかかる。
意識が遠くなってくるが、しかし耐えなければならない。
私は彼を殺したいわけではないのだ。
しゅぅぅぅぅぅぅぅ……。
と、瞬の頭部から湯気が上がる。
砕け散り、上顎から上が消えている断面からムクムクと肉がせり上がって、徐々にそれらがそれぞれの部位へと変化し、頭の形を整形する。
「うぐ……ぼ、僕は……ちょっと退席させてもらうよ」
その猟奇的な様を見てか、所長がひどく顔色を悪くして膝を付き、這いずるように部屋から出て行こうとした。
「オジサマっ!?」
百恵ちゃんがそんな所長に駆け寄り、腕を支え持つ。
しかし、出ていくまでもなく彼の修復はすでに完了した。
「ぅあ…………あ、が……?」
完全に元の形を取り戻した頭部を揺らし、何が起こったか理解できないと言った顔で瞬は放心し、天井を見つめている。
「……宝塚さん?」
死ぬ子先生が私に確認の目配せを送ってくる。
「はぁはぁ……だ、大丈夫……です。……彼の記憶の障壁は破壊しました……これで、はぁはぁ……念写が有効になるはずです」
息も絶え絶えにそう答えた。
「そう、わかったわ」
頷き、スマホを構える先生。
いかん、ちょっと無理しすぎた、立っていられない。
よろめき、ベッドの手すりにより掛かる。
瞬が私の方を向いた。
その目は私を見ていたが、焦点は微妙にずれているように見えた。
「あ……ああ、ああぁぁぁぁっぁぁぁっ……」
そして怯えた声を上げ、彼は――――、
ガタガタンッ!! ――――ドスン!!
ベッドを軋ませ柵に引っかかり、転げ落ちた。
『え?』
突然の彼の行動に私と菜々ちんは呆気にとられる。
スマホからフラッシュが焚かれ、写った画像を確認するべく先生は指をスワイプさせる。一枚、二枚と画像がめくられ時を遡っていく。
同時に瞬の様相が変化してきて、やがて獣のようなうめき声を上げ始めた。
「う……ぐ……、あ……ああ……あ……」
目が血走り、瞳が左右別々に回り始める。
額には血管が浮かび上がり、口は裂けはじめ、涎が垂れてくる。
メキメキと肉体の限界を超えて膨れ上がる筋肉。
「て、うそ……この人、またベヒモス化してる!?」
私が言うと同時に、
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
瞬は狂ったように雄叫びを上げ、そして先生に襲いかかった!!
「えっ!?」
画像を確認するのに集中していた先生は、その強襲に反応できず、
ズガッ!!
振り下ろした拳の一撃をもろに食らってしまった。
「先生っ!?」
ふっ飛ばされた死ぬ子先生に、菜々ちんが駆け寄る。
腿の内側に隠し持っていた小口径銃を抜き、瞬の追撃に備え構えるが、
「ぐるぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
狂ったように反り返った彼は、彼女たちには目もくれず落ちたスマホに飛びついた。
「――――がああぁぁっ!!」
そして拾い上げたそれを、口に放り込むと、
バリボリバリッ!!!!
と、粉々に噛み砕く。
「な……!? ……わ、私のデータを……!??」
頭から血を流した先生はそれでも何とか立ち上がり、瞬を睨みつける。
彼の狙いは先生ではなく、その手に持ったスマホ。
いや、正確にはその中身、いま先生が念写で取ったばかりのデータ。
隠された記憶。その正体だったのだ。
――――何故、彼がそんな事を?
彼はいま再びベヒモス化してしまっている。
だとするとこれは彼の意識でやった行動ではない。ファントムがそう行動しているのだ。しかしそうなれば尚更、こんな意識的な行動をするのはおかしくないか?
私がそう考えているうちに、
「ぐるぅっ!!」
ベヒモス化した瞬は一声唸ると、脱兎のごとく次の行動を取った。
ダンッダダンッ!!
床から壁、天井へと驚異的な跳躍力で三角に飛ぶと、彼は百恵ちゃんに支えられている所長に飛び掛かった。
「なっ!?? ――――ガルーダッ!!」
咄嗟に反応し、空気爆弾で迎撃しようとした百恵ちゃんだが、対する瞬の能力はレビテーション。質量を操作する能力。
彼の速さに、この間合は短すぎた。
圧縮空気が破裂するよりも速く、彼はそれをすり抜け彼女の眼前に着地する。
そして繰り出される拳の一撃!!
「――――くっ!!!!」
結界を最大限に展開させ防御を固めるが、
バギィッ!!!!
ベヒモス化し肉体のリミッターが切れた瞬の腕力の方が僅かに勝った。
「ぐわぁぁぁっ!!??」
砕け散る結界とともに壁に叩きつけられる彼女。
そして瞬は、脂汗を浮かべる所長の首を掴み、持ち上げると、その胴体にも強烈な拳を叩き込む。
「ゴッホォッ!???」
胃液を吹き上げ、意識を失う所長。
「――――オジサマッ!!!!」
百恵ちゃんが悲痛に叫び、再び能力を発動させるが、それが炸裂するよりも速く、
――――ダ、ダンッ!!!!
と、床を蹴る音だけを残して彼は逃走してしまう。
――――失神した所長を抱えたまま。
ガラス細工が飛び散る音がして、瞬の頭部から青い光の破片が四散する。
記憶の障壁が纏う結界を破壊した証だ。
「やった!??」
菜々ちんが歓喜の声を上げるが、しかし同時に、私の拳は瞬の頭にも致命的なダメージを与えている。
女将さんの結界術を完全ではないにせよトレースした技だ、その威力は一撃で背丈以上のコンクリートをも破壊する。当然、瞬の頭部は砕け散り、脳と体液が壁に張り付くが――――、
「ラミア、回復よ!!」
すぐさま私はラミアに彼の修復を命じた。
『きゅうぃ!!』
ラミアの反応と同時に、私の身体から精気が消耗される。
すでに一度、瞬の体を修復させて私の身体は痩せていたが、そこからさらに精気を奪われることになる。
だが、それも過去に経験済み、あと一回くらい全回復は使えるはずだ。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
とはいえ、苦しくないわけはない。
標準体型から超痩せ体型へと変化する私にはそれ相応の苦痛と疲労がのしかかる。
意識が遠くなってくるが、しかし耐えなければならない。
私は彼を殺したいわけではないのだ。
しゅぅぅぅぅぅぅぅ……。
と、瞬の頭部から湯気が上がる。
砕け散り、上顎から上が消えている断面からムクムクと肉がせり上がって、徐々にそれらがそれぞれの部位へと変化し、頭の形を整形する。
「うぐ……ぼ、僕は……ちょっと退席させてもらうよ」
その猟奇的な様を見てか、所長がひどく顔色を悪くして膝を付き、這いずるように部屋から出て行こうとした。
「オジサマっ!?」
百恵ちゃんがそんな所長に駆け寄り、腕を支え持つ。
しかし、出ていくまでもなく彼の修復はすでに完了した。
「ぅあ…………あ、が……?」
完全に元の形を取り戻した頭部を揺らし、何が起こったか理解できないと言った顔で瞬は放心し、天井を見つめている。
「……宝塚さん?」
死ぬ子先生が私に確認の目配せを送ってくる。
「はぁはぁ……だ、大丈夫……です。……彼の記憶の障壁は破壊しました……これで、はぁはぁ……念写が有効になるはずです」
息も絶え絶えにそう答えた。
「そう、わかったわ」
頷き、スマホを構える先生。
いかん、ちょっと無理しすぎた、立っていられない。
よろめき、ベッドの手すりにより掛かる。
瞬が私の方を向いた。
その目は私を見ていたが、焦点は微妙にずれているように見えた。
「あ……ああ、ああぁぁぁぁっぁぁぁっ……」
そして怯えた声を上げ、彼は――――、
ガタガタンッ!! ――――ドスン!!
ベッドを軋ませ柵に引っかかり、転げ落ちた。
『え?』
突然の彼の行動に私と菜々ちんは呆気にとられる。
スマホからフラッシュが焚かれ、写った画像を確認するべく先生は指をスワイプさせる。一枚、二枚と画像がめくられ時を遡っていく。
同時に瞬の様相が変化してきて、やがて獣のようなうめき声を上げ始めた。
「う……ぐ……、あ……ああ……あ……」
目が血走り、瞳が左右別々に回り始める。
額には血管が浮かび上がり、口は裂けはじめ、涎が垂れてくる。
メキメキと肉体の限界を超えて膨れ上がる筋肉。
「て、うそ……この人、またベヒモス化してる!?」
私が言うと同時に、
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
瞬は狂ったように雄叫びを上げ、そして先生に襲いかかった!!
「えっ!?」
画像を確認するのに集中していた先生は、その強襲に反応できず、
ズガッ!!
振り下ろした拳の一撃をもろに食らってしまった。
「先生っ!?」
ふっ飛ばされた死ぬ子先生に、菜々ちんが駆け寄る。
腿の内側に隠し持っていた小口径銃を抜き、瞬の追撃に備え構えるが、
「ぐるぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
狂ったように反り返った彼は、彼女たちには目もくれず落ちたスマホに飛びついた。
「――――がああぁぁっ!!」
そして拾い上げたそれを、口に放り込むと、
バリボリバリッ!!!!
と、粉々に噛み砕く。
「な……!? ……わ、私のデータを……!??」
頭から血を流した先生はそれでも何とか立ち上がり、瞬を睨みつける。
彼の狙いは先生ではなく、その手に持ったスマホ。
いや、正確にはその中身、いま先生が念写で取ったばかりのデータ。
隠された記憶。その正体だったのだ。
――――何故、彼がそんな事を?
彼はいま再びベヒモス化してしまっている。
だとするとこれは彼の意識でやった行動ではない。ファントムがそう行動しているのだ。しかしそうなれば尚更、こんな意識的な行動をするのはおかしくないか?
私がそう考えているうちに、
「ぐるぅっ!!」
ベヒモス化した瞬は一声唸ると、脱兎のごとく次の行動を取った。
ダンッダダンッ!!
床から壁、天井へと驚異的な跳躍力で三角に飛ぶと、彼は百恵ちゃんに支えられている所長に飛び掛かった。
「なっ!?? ――――ガルーダッ!!」
咄嗟に反応し、空気爆弾で迎撃しようとした百恵ちゃんだが、対する瞬の能力はレビテーション。質量を操作する能力。
彼の速さに、この間合は短すぎた。
圧縮空気が破裂するよりも速く、彼はそれをすり抜け彼女の眼前に着地する。
そして繰り出される拳の一撃!!
「――――くっ!!!!」
結界を最大限に展開させ防御を固めるが、
バギィッ!!!!
ベヒモス化し肉体のリミッターが切れた瞬の腕力の方が僅かに勝った。
「ぐわぁぁぁっ!!??」
砕け散る結界とともに壁に叩きつけられる彼女。
そして瞬は、脂汗を浮かべる所長の首を掴み、持ち上げると、その胴体にも強烈な拳を叩き込む。
「ゴッホォッ!???」
胃液を吹き上げ、意識を失う所長。
「――――オジサマッ!!!!」
百恵ちゃんが悲痛に叫び、再び能力を発動させるが、それが炸裂するよりも速く、
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