超能力者の私生活

盛り塩

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第111話 隠された記憶⑧

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「おっととっ!!」

 弾かれる私を受け止めてくれたのは所長だった。
 幸い私の身体は、精気を抜かれて痩せてしまっていたので華奢な所長でも何とか止めれたようだ。

「大丈夫かい? 宝塚くん!?」

 険しい顔つきで私を見る所長。
 その額には汗が吹き出ている。

「どうしたの。何があったの!??」
 死ぬ子先生が駆け寄ってきて状況を確認してくる。

「いや、ちょっと……途中までは上手く行ってたんですけど……、なにか身体の芯の方で抵抗を受けて、気が付いたら結界の力で弾き飛ばされて……」
「抵抗ですって!?」
「……どうやら、彼の身体の中には、本当に何者かの能力が張り付いているようだねぇ……しかも結界の反応から察するにかなりの使い手と見たよぉ?」

 私の両肩を抱きながら、所長はそう見立てる

 結界同士の反応からそれぞれの力量を見極めているようだが、そんな事が出来るのは所長クラスのベテランだけだろう。
 しかしその衝撃を直接受けた私はそんな研鑽が無くとも、力の強さは体感できた。
 この……瞬にかけられている、何らかの能力の力は私――ううん、ラミアとほぼ互角の強靭さを持っている。

「ラミアと互角ですか!? ……そんなレベルの能力者なんてこの国には数えるほどしか……」

 菜々ちんが私の呟きを聞き、眼鏡を光らせながら汗を流す。

 私の場合は、超能力の源であるファントム体のラミアがほとんど直接能力を行使しているようなもので、私はその砲身に過ぎない。故に、宿主と言うフィルターを通さないラミアの能力は強大で、その単純エネルギーは、天才と言われる術者が熟年と言われるまで研鑽し続けたそれに匹敵する。
 そのラミアの能力と互角のエネルギーでそれは弾き返してきたのだ。

「つまり……この子に悪戯した犯人は、日本でも指折りの術者ってことよね」

 死ぬ子先生が眉を寄せながら瞬を見る。
 すると瞬の身体から上がっている湯気が寿々に濃くなり、やがて部屋を白く染めた。

「ぶわ、何だいこりゃっ!???」
「あ、ごめんなさい!! 私の能力です。回復するときに身体の損傷が大きければ大きいほど出る湯気が大きくなるんです」

 部屋の空調センサーが働き、換気スリッドへと湯気が吸い込まれ始める。

「あ……ああああ、もったいない!! もったいないっ!!!!」
 せかせかとその湯気をビニール袋に詰め始める死ぬ子先生。

「……なにやってるんですか?」
 と訊くのは菜々ちん。

「何って、これも貴重なサンプルよ!! なにがどういう理由でこの湯気が生成されているか後で調べる必要があるから!!」
「こんなものに……?」

 見た感じ、触った感じは普通の蒸気のようなものだが?

「生物の構造の秘密ははその排泄物にすべて隠されているのよ、ほらあんたも集めなさいっ!!」

 と言って菜々ちんにも袋をもたせる先生。
 いや、べつにそれ排泄物ってわけじゃあ無いんだけど……たぶん。

「……しかし、これが出るってことは、おヌシの能力は作用しているって事か?」
 百恵ちゃんが腕で鼻口を塞ぎながら聞いてきた。

「うん。身体の復元はたぶん上手くいくと思う……でも、肝心の記憶の復元までは出来てないはず……」
「さっきの結界じゃな?」

「うん、あれはあきらかに何かの能力が記憶の一部に仕込まれていて、それを解除しようとするラミアの力を強制的に弾いてきたわ」
「うむ……結界というものは術者のみならず、能力そのものにも存在するものじゃからのう。能力同士がぶつかった場合、単純にその結界の強いほうが弱い方を打ち消す、そしてその結界の強度は、術の練度と、単純なる精神パワーの強さの掛け算じゃから、今回の場合はその合計値が少しラミアを上回ったという事じゃの?」
『きゅ~~~……』

 ラミアが申し訳無さそうに肩を下げて目を落とす。
 しかし私にはわかっていた。
 ラミアは私の身体への負担を考えて、あえて全力で能力を生成していない。だから今回の失態はラミアではなく、媒体である私の未熟さにあったのだ。
 それを説明しようとしたところで――――、

「…………う、うう…………」
 腫れた湯気の中から、藤堂瞬が呻きを漏らした。

『はっ!!』

 全員が彼に注目する。

 見ると彼の容姿は、さっきまでの醜悪な肉塊とはうってかわり元の人間へと戻っていた。まだ少し苦しそうな表情をしているが、すっかりと透き通るような美青年に修復されていた。

 素っ裸で、仰向けの状態で。

 それを見下ろしそれぞれの表情を作る我ら。

 菜々ちんは特に気にする風でもなく表向きは冷静に彼を観察している。

 所長もまあ男だからリアクションは浅いが、股間をみて何やら頬を引きつらせている。

 死ぬ子先生は以外にも冷静で、とくに変わったようすは見られず、さっと聴診器を当てて容態を確認している。……まぁ一応、看護師(?)なんだしな、そりゃ見慣れているだろう。

 問題は、私と百恵ちゃんである。

 百恵ちゃんは手で目を覆ってはいるが、肝心な目の部分はガン開きで、頬を真っ赤にしながら彼の肢体を上から順に舐めるように視線を流している。
 時折、ある一部分でヒタっと止まり、その瞬間だけ頭から湯気がピーーーーーーっと吹き出していた。
 そして私はそんな百恵ちゃんを後ろから抱きしめ、目を隠し、回れ右する。
 ――――首以外は。

「……ちょっと、ヒロインよ……おヌシ、吾輩を後ろにやって自分だけ……」
「いいのよ、私はもう大人だから16歳だから。 
 結婚出来る歳だから。ってことは見ても良いってことだから」
「どんな都合のいい理屈だそれは!?? 
 おい、おヌシも後ろを向け!! はしたないぞ!!」

 ジタバタと暴れる百恵ちゃんだが、しかし、年頃の興味以外の理由でも目を話すわけにはいかない。何故なら復活した瞬が、はたしてどこまで復元されているか、そして精神状態はどうか、それによって私の次の行動が決まるからだ。

 彼が、お気に入りのBL漫画の主人公に似ているなどど言うことは断じて関係が無い。断じてである。
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