超能力者の私生活

盛り塩

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第101話 女将のお題⑧

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「ヒーリングも立派なPK能力よぉ~~~~♡」

 十数年ぶりにセーラー服に袖を通した先生。
 妹の蹴りをモノともせずに、けっきょく菜々ちんから服を奪い取ってしまった変態教師は上機嫌でクルクル回り、スカートをなびかせている。
 ……認めたくない。断じて認めたくないが……正直、ちょっと似合っていた。

「どうしよう~~~~♪ 私ってぇ~~か~~わ~~い~~い~~♡」
 しかし、ベクトルは違えど、鬱陶しさは何も変わっていない。

「……そうですね。意外と似合ってて……良いと思います……よ」

 脱がされた菜々ちんは、代わりにナース服を着せられ頬を引きつらせている。

「そお? あ~~り~~が~~と~~~~♡
 でもこの服、ちょっとサイズが合わないかも? 胸がキツイし、スカートも緩いのよねぇ~~。やっぱり自分の買って来ようかしらぁ♡」

 ああ……菜々ちんの顔が……般若へと変わっていく……。

「そんな事よりも姉貴よ、説明の続きをしてくれ!! なぜヒロインの能力がPKに分類されているんだ? そこに女将のお題を解くヒントがあるような気がする」

 変態姉貴に付き合ってられんとばかりに、話を軌道修正する百恵ちゃん。
 確かに、能力の原理を知るということは、そこから応用にもつながる可能性もあるので私もぜひ聞いておきたい。

「なによう、付き合い悪いわね~~。……しょうがないなぁ」

 不満げに頬を膨らまし、しぶしぶこちらに向き直る死ぬ子先生。
 うん、可愛くないぞう♡

「……宝塚さんの持つ能力『超能力治療《ヒーリング》』というのは、簡単に説明すると……物質が持つ存在エネルギーを操作する力って事なのよね」
「存在エネルギー?」

 百恵ちゃんが眉をよせながら聞き返す。

「そう、たとえば……百恵が百恵であるのは、百恵が百恵であろうとする力が働いているから百恵になっているのよね?」
「いや、のよね? と聞かれてもな……」
「もし、百恵が百恵であろうとしなくなったら、百恵はその時点で百恵ではない何かになってしまって百恵という存在は徐々に百恵で無くなってしまうのよ? 聞いてるかしら百恵?」
「百恵いいたいだけじゃろうがっ!!!!」

 ビシッと百恵チョップを繰り出す百恵。

「真面目に説明せんかっ!! ……ええと、つまり何じゃ?? 吾輩が吾輩であるのは……ええ~~と……?」
「……存在論の一種ですか? イデア論とか?」

 菜々ちんが先生に質問する。
 存在論?? いであ?? え? 新種のハンドクリームか何か??
 よくわからないが、私にわかる内容の話でないことだけはわかった。

「そんな堅苦しいものじゃないわよ。
 う~~ん……まず、存在エネルギーって言うのは、その人がその人であろうとする力なわけ。……もし、その力が変化してしまったら、その人はその人である事を維持出来なくなってしまうわけなのよ」

「……具体的にはどうなるんですか?」

「急には変わらないけれど、徐々に人格や見た目が崩れていくわね。ただ、身体と言う物質がそこにある限り、存在エネルギー自体が無くなる事は無くて、別の方向性の何かに変わっているから、身体や人格もそれに沿って変化するってところかしら?」

 ぷすぷすぷす……。
 いかん、久々に頭から煙が出てきたぞ。

「そして宝塚さんの能力はその存在エネルギーを操って、対象者の『元に戻ろうとする力』を増幅させているわけなの。その元になるのが精気ってわけね」

「なるほど……私はてっきり人の回復力を増加させる力だと思っていたんですけど、少し違うみたいですね?」
「うむ。吾輩もそう思っていたが、そうか……それでPK能力に分類されるのか」
「そうね、エネルギー操作は立派なPK能力ってことよ」

 二人が難しい顔をして頷いている。
 そんな二人を見て、死ぬ子先生も満足げに頷くが、残念ながら一番理解しなければならない本人が全く話しに付いて行っていない現実がここにある。

「……とどのつまりは何なんでしょう??」

 もの凄くざっくりと広範囲な質問を投下する私という名のご本人。
 それを見越していたかのように、先生はジロリと私に目を向けると、

「……とどのつまり、あんたの能力は『怪我を治す』では無くて『存在値を操作する』能力ってことなのよ」

 むむむ……??

「百恵や菜々の怪我を治したのは、単に『治療』したわけじゃ無くて、それぞれの存在を『元の形に表現し直した』ってこと、わかる?」

 わけないじゃんって顔を向ける私。
 だってしょうがないじゃないか!! わからんもんはわからんっ!!!!

「しかし……それじゃとなぜ姉貴は若返ってしまったのじゃ??」
「……今ある存在エネルギーが充分だった為、そこから遡って一番輝いていた頃の存在に変化しちゃったんでしょうね……多分ね」
「多分かい」
「……能力が希少すぎて解析が進んでいないのよ」
「ほう。……って事は世界的にも前例は無いのか?」
「あるにはあるけど、数が少なくて……そもそもどこの組織もそう簡単にデーターなんて回してくれないわ」
「……それもそうじゃな。
 という事はやはり手探りで探って行くしか無いようじゃのう」

 なんだか良くわからないが……存在を操作する能力、それが私の力の正体ならば、もしかしてこんな事も出来るのか?
 私は先生の腕を掴み、思ったことを実践してみた。

「……ラミア。この人を一つ前の存在に戻してくれない?」

「――――ん?」
死ぬ子先生の目がパチクリと、

『きゅ♪』

 ぱあぁぁぁぁぁぁぁぁっと先生が光に包まれる。
 そしてその光が収まったとき、中から出てきたおぞましき物体は――――。
 だめだ、私の口からはこれ以上は言えない。
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