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第100話 女将のお題⑦
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「んまあ♡ んまあ♡ んまあ♡ なんてこと、私ってすごくキレイ……。
ううん、むしろ――――か・わ・い・い♡」
もう何度目になるのかわからないため息をつき、頬を赤く高揚させた先生が鏡の前の自分に酔いしれる。
「……おい……これはいったいどういうことだヒロインよ……?」
とてつもなく気味の悪いものを見るような顔で、百恵ちゃんは私を問い詰める。
「……ちょっとこれは……いつもと違う意味で気持ちが悪いですね……」
菜々ちんも頬に汗を滲ませながら、その先生らしき生物を遠巻きに観察している。
夕方になって、なんとか退院することができた二人。
先日のラミア騒動の件で話しがあるとのことで、闇明け早々ながら出所してきてくれたわけだが、先に死ぬ子先生の変わり果てた姿を目撃してしまい、何があったのかと、慌てて私を問い詰めているのだった。
ここは寮兼旅館の一室『鷹の間』。
一応、死ぬ子先生と百恵ちゃんの部屋となっているが、彼女らは普段、実家通いなので休憩室程度にしか使っていない部屋だ。
そこに引っ張ってこられた私は何と説明したものかと、三面鏡から離れない死ぬ子先生を見て頭を抱えた。
とは言え、本当のことを話すしかない。
私は意を決して、カクカクシカジカ説明した。
「――――と、いうわけなの。……ごめんなさい……ついムカついて浅はかな行動をしてしまいました……」
そう言って私は百恵ちゃんに頭を下げた。
ちなみに、今の私は先生に精気を送ってしまったおかげで痩せモードである。
「いや、まぁ……吾輩はべつに姉の事とかどうでもいいが……ともかくあれは姉と言う事で間違いは無いのじゃな?」
「……ちょっと、どうでもいいとはどういう事かしら?」
「生きてさえいれば問題無い。気持ちが悪いのはいつもの事じゃからな。種類が変わっただけならば、いずれ慣れるじゃろ」
それ以上は興味は無い、とばかりに目線を合わさない辛辣な妹。
「で……その若返った原因ってやっぱり……」
菜々ちんが先生らしき生物の目尻を撫でながら訊ねる。
「ちょっと、せっかくプリプリに戻った肌を気安く触らないでくれる!? そうよ、宝塚さんの能力のおかげよ。健康体の体にさらに精気を注入する事で、きっと細胞が活性化かされて変革が起こったのよ!! ああ~~若く美しい私よ、お久しぶりねぇ~~~~♡」
「んな……姉貴よ……。パチンコじゃあるまいし……」
と、若返ってテンション爆上がりなのか、それとも気持ちまで若返ってしまったのかはわからないが、言葉遣いまで明るくハキハキしている。
いつもの闇落ちモードと、体外用のよそゆきモード。そして今の若返りモードと色々忙しい先生《ようかい》である。
「……それで、これはいつになったら戻るのですか?」
菜々ちんが訊いてくるが、そんなことは私にはわからない。
「まぁ……原因が精気の過剰摂取ということならば、時間が経てば治るのではないか? 姉貴よ、今晩の夕食は抜きにして朝までランニングでもしていたらどうだ?」
「なんで、そんなことしなくちゃいけないのよっ!! いいのよ、お姉ちゃんは一生この姿で生きて行くんだから、夕飯もしっかり食べるわよっ!!」
「一生って……それはさすがに無理なんじゃないですか……?」
「戻りかけたらまた若返らせてもらうから大丈夫よ。そういう訳だから、宝塚さんこれから一生、先生のお世話よろしくね♡」
「いやじゃ~~~~っ!!!!」
どさくさにまぎれて恐ろしい事を言うんじゃない!!
なにが悲しくてこんな変態と一生の契《ちぎり》を結ばにゃあならんのだっ!!
「しかし、能力が自由に使えるようになったのは良いが……女将のお題がやっかいじゃのぉ……?」
百恵ちゃんが話を切り替え、難しい顔をする。
「あ、そうですねぇ。……背丈ほどもあるコンクリートを機械や道具を使わずに、能力だけで何とかしろって事ですよね? 百恵さんみたいな攻撃能力ならともかく、宝塚さんの能力でいったいどうしろと言うんでしょうか?」
「……ううむ、ヒロインの能力は一言で言えば補給支援形じゃからのう。結界術も使えんとなると……他に何の方法があると言うのだろうか?」
「宇恵さんが言うには、女将さんは決して出来ない事をやれとは言わない人らしいから絶対に何か方法があるはずだって……」
私が言うと、そこは百恵ちゃんも同意して、
「うむ……それは吾輩もそう思う。女将はけっして意味のない嫌がらせなどしない御方じゃからの。……恐らくは、ヒロインに戦う術を身に付けさせようと、わざと課した難題ではあろうな」
「戦う術?」
「私もそう思います。監視官になるからには対超能力戦は避けられないですから。私みたいな知覚強化のESP能力ならばどうしようもないですが、宝塚さんの能力は物質に干渉できるPK能力です。きっと何か方法があるんだと思います」
「……そもそも、そのESPとかPKとかの違いがいまいちよくわからないんだけど……私の能力って本当にPKとやらなの? 精気の吸収とかって、なんだか物質とかじゃ無いような気がするんだけれど……」
かねてより思っていた疑問を口にする。
念力とかテレポートなら理解できるが、回復とか放出とかってどうなんだ? 物質的な物なのか??
「それは……吾輩も詳しいところまでは説明出来んが……」
それは無理もない。
忘れがちだが、百恵ちゃんはまだ11歳の小学生なのだ。
普段の言動が凄く賢そうでしっかりしているから、つい何でも知っているように思いがちだが、本来それは姉の仕事のはずである。
「というわけで先生。私の能力について、もっと踏み込んだ質問をしたいのですが、いいですか?」
死ぬ子先生に尋ねてみた。
しかし返ってきた答えは――――、
「ね! そんな事よりも菜々のセーラー服かしてくれない? 久しぶりに着てみたいの~~~~♡ あと体操着も買ってこようかしらぁ♪」
という身の程知らずなものだった。
もちろん妹のドロップキックが炸裂した。
ううん、むしろ――――か・わ・い・い♡」
もう何度目になるのかわからないため息をつき、頬を赤く高揚させた先生が鏡の前の自分に酔いしれる。
「……おい……これはいったいどういうことだヒロインよ……?」
とてつもなく気味の悪いものを見るような顔で、百恵ちゃんは私を問い詰める。
「……ちょっとこれは……いつもと違う意味で気持ちが悪いですね……」
菜々ちんも頬に汗を滲ませながら、その先生らしき生物を遠巻きに観察している。
夕方になって、なんとか退院することができた二人。
先日のラミア騒動の件で話しがあるとのことで、闇明け早々ながら出所してきてくれたわけだが、先に死ぬ子先生の変わり果てた姿を目撃してしまい、何があったのかと、慌てて私を問い詰めているのだった。
ここは寮兼旅館の一室『鷹の間』。
一応、死ぬ子先生と百恵ちゃんの部屋となっているが、彼女らは普段、実家通いなので休憩室程度にしか使っていない部屋だ。
そこに引っ張ってこられた私は何と説明したものかと、三面鏡から離れない死ぬ子先生を見て頭を抱えた。
とは言え、本当のことを話すしかない。
私は意を決して、カクカクシカジカ説明した。
「――――と、いうわけなの。……ごめんなさい……ついムカついて浅はかな行動をしてしまいました……」
そう言って私は百恵ちゃんに頭を下げた。
ちなみに、今の私は先生に精気を送ってしまったおかげで痩せモードである。
「いや、まぁ……吾輩はべつに姉の事とかどうでもいいが……ともかくあれは姉と言う事で間違いは無いのじゃな?」
「……ちょっと、どうでもいいとはどういう事かしら?」
「生きてさえいれば問題無い。気持ちが悪いのはいつもの事じゃからな。種類が変わっただけならば、いずれ慣れるじゃろ」
それ以上は興味は無い、とばかりに目線を合わさない辛辣な妹。
「で……その若返った原因ってやっぱり……」
菜々ちんが先生らしき生物の目尻を撫でながら訊ねる。
「ちょっと、せっかくプリプリに戻った肌を気安く触らないでくれる!? そうよ、宝塚さんの能力のおかげよ。健康体の体にさらに精気を注入する事で、きっと細胞が活性化かされて変革が起こったのよ!! ああ~~若く美しい私よ、お久しぶりねぇ~~~~♡」
「んな……姉貴よ……。パチンコじゃあるまいし……」
と、若返ってテンション爆上がりなのか、それとも気持ちまで若返ってしまったのかはわからないが、言葉遣いまで明るくハキハキしている。
いつもの闇落ちモードと、体外用のよそゆきモード。そして今の若返りモードと色々忙しい先生《ようかい》である。
「……それで、これはいつになったら戻るのですか?」
菜々ちんが訊いてくるが、そんなことは私にはわからない。
「まぁ……原因が精気の過剰摂取ということならば、時間が経てば治るのではないか? 姉貴よ、今晩の夕食は抜きにして朝までランニングでもしていたらどうだ?」
「なんで、そんなことしなくちゃいけないのよっ!! いいのよ、お姉ちゃんは一生この姿で生きて行くんだから、夕飯もしっかり食べるわよっ!!」
「一生って……それはさすがに無理なんじゃないですか……?」
「戻りかけたらまた若返らせてもらうから大丈夫よ。そういう訳だから、宝塚さんこれから一生、先生のお世話よろしくね♡」
「いやじゃ~~~~っ!!!!」
どさくさにまぎれて恐ろしい事を言うんじゃない!!
なにが悲しくてこんな変態と一生の契《ちぎり》を結ばにゃあならんのだっ!!
「しかし、能力が自由に使えるようになったのは良いが……女将のお題がやっかいじゃのぉ……?」
百恵ちゃんが話を切り替え、難しい顔をする。
「あ、そうですねぇ。……背丈ほどもあるコンクリートを機械や道具を使わずに、能力だけで何とかしろって事ですよね? 百恵さんみたいな攻撃能力ならともかく、宝塚さんの能力でいったいどうしろと言うんでしょうか?」
「……ううむ、ヒロインの能力は一言で言えば補給支援形じゃからのう。結界術も使えんとなると……他に何の方法があると言うのだろうか?」
「宇恵さんが言うには、女将さんは決して出来ない事をやれとは言わない人らしいから絶対に何か方法があるはずだって……」
私が言うと、そこは百恵ちゃんも同意して、
「うむ……それは吾輩もそう思う。女将はけっして意味のない嫌がらせなどしない御方じゃからの。……恐らくは、ヒロインに戦う術を身に付けさせようと、わざと課した難題ではあろうな」
「戦う術?」
「私もそう思います。監視官になるからには対超能力戦は避けられないですから。私みたいな知覚強化のESP能力ならばどうしようもないですが、宝塚さんの能力は物質に干渉できるPK能力です。きっと何か方法があるんだと思います」
「……そもそも、そのESPとかPKとかの違いがいまいちよくわからないんだけど……私の能力って本当にPKとやらなの? 精気の吸収とかって、なんだか物質とかじゃ無いような気がするんだけれど……」
かねてより思っていた疑問を口にする。
念力とかテレポートなら理解できるが、回復とか放出とかってどうなんだ? 物質的な物なのか??
「それは……吾輩も詳しいところまでは説明出来んが……」
それは無理もない。
忘れがちだが、百恵ちゃんはまだ11歳の小学生なのだ。
普段の言動が凄く賢そうでしっかりしているから、つい何でも知っているように思いがちだが、本来それは姉の仕事のはずである。
「というわけで先生。私の能力について、もっと踏み込んだ質問をしたいのですが、いいですか?」
死ぬ子先生に尋ねてみた。
しかし返ってきた答えは――――、
「ね! そんな事よりも菜々のセーラー服かしてくれない? 久しぶりに着てみたいの~~~~♡ あと体操着も買ってこようかしらぁ♪」
という身の程知らずなものだった。
もちろん妹のドロップキックが炸裂した。
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