超能力者の私生活

盛り塩

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第96話 女将のお題③

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 ――――次の日。

「んがごぎごがごぎごげ~~~~~~~~っ!!!!」

 がま蛙の断末魔的な声を上げながら、私は顔を真っ赤にして巨大なコンクリート片と相撲を取っていた。

『瓦礫の撤去は全部自分でやりな。それが終わったら業者を呼んでやるよ』

 と、女将に言われたからである。
 もちろん、こんな大きなコンクリートの塊は無理ですと食い下がったが、

『だから、そこは工夫しな』 と、冷たくあしらわれてしまった。

 出たよでたでた。

 一つハードルを超えたら、またすぐ次のハードルを持ってくる。
 100の仕事が出来たなら次は110、それも出来たら次は120……130……140……150と、部下が仕事をこなすたび、味をしめて仕事を増やす上司。

『工夫する』『自分で考える』『難しい・出来ないは言わない』
 どこのブラックバイトでもまずこれを言われる。
 管理者にだけ都合のいい魔法の言葉。

 あほかと。
 けっきょく全部、部下に仕事を丸投げしとるだけじゃないか!!
 
 百歩譲って仕事量は仕方ないとしても、そのやり方は指示してやるのが上司の務めではないかね!?
 それすら自分で考えろと言うのでは、じゃあもう上司なんか必要ないわ!!
 昨日ちょっとだけ見直して損したわ!!
 やっぱり考えの古い昭和ババアだわあの人!!

「声に出とるぞ?」
「ひょ~~~~~~~~ぃっ!????」

 突如背後に現れた女将に、私は心臓を口から飛び出させる。

「……古臭い驚き方だねぇ、どっちが昭和だい?」
「いいいいつの間に背後にっ!!??」
「出たよでたでた。あたりからかね?」

 不機嫌そうにホウキで床をトントンと叩きながら女将は答える。

「あ~~……じゃあもう言い訳しようがございませんなぁ……。これこの通り、申し訳ありませんでした」

 全てを聞かれ、諦めのを決め込む私。
 その滑稽極まりない姿に女将は呆れはて怒気を失くしてしまう。

「はぁ~~~~、まぁいいさ。言いたいことは山ほどあるけども、お前の担当は七瀬のヤツだったからね。……余計な事はしないさ。能力訓練から学問、人生教育まで全部あいつに教わんな?」

 そう言って立ち去って行こうとする女将。

「ちょちょちょちょちょっ!! それは困るっ、いや、困りますっ!! あんな人格破綻者に教育の全部を任されちゃ私まで変態になっちゃうじゃないですかっ!??」
「……もう、その片鱗は出てると思うがね」
「やだなぁ~~今のはちょっとお茶目しただけじゃないですか。この通り反省しております!! 心無い不平不満を漏らしたことは誤りますので、どうか死ぬ子先生にだけは私を一任しないで下さい!! お願いしますっ!!!!」

 そして再び炸裂する寝下座!!
 女将もキツい性格をしているが、教練初日に射殺しようとしてくる頭のイカれた闇女よりかはよほど良い。
 ここは一つ、この機に教官を乗り換えてみるというのも悪くない。
 と、いうか絶対そうするべきである!!

「ので、今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げますっ!!」
「……お前さん、どこの新入社員のつもりだい? いいんだよ、そんなに畏まらなくたって、どのみち私は弟子なんて取っちゃいないからね?」
「ええ!? あんなに強くて、こんなに貫禄があるのに!??」
「あんたそれ褒めてるつもりかい? ……私はあくまでこの旅館の女将で、あんたら訓練生の寮長だよ。少しの面倒は見るが、師匠のつもりで接するのはやめておくれ。
 ……そんな事よりも、掃除は進んでいるのかい?」

 コツコツとホウキの柄でコンクリートを叩く。

「見ての通り全く進んでおりませんっ!!」
「胸を張って言うんじゃないよ」

「……頑張ってはいるんです。 でもこんな大きなコンクリート私一人で動かせるわけないじゃないですか!??」

 私は頭に手を当てて、それをスライドさせて見る。
 完全にコンクリートの方が私より大きかった。

「……砕いて運べばいいだろう?」
「道具もなしにどうやって!??」

 女将からはホウキとチリトリ、一輪車は与えられていたが、それ以外の道具は一切使うなと命令されていた。そうでなければ今頃、掘削機の一つでも持ってきている。

「……お前は、何をしにここに来ているんだい?」

 ギロリと鋭い視線が飛んでくる。

「う……、いや、その……超能力の訓練に……」
「そうだろう? だったらここでの生活の全てがその訓練だと思いな!!」
「と、言われてもなぁ~~~~少林寺じゃないんですから……」

 柱に寄り掛かり泣いてみせる。

「……べつに素手で叩き割れっていってるんじゃないんだよ? 超能力者なら超能力を使って何とかしろと言っているんだ」
「とは言っても……私の能力でどうしろと!???」

 回復と吸収しか使えない私のラミアでは生命体ならともかく、命の無い無機物相手ではどうしようもない。百恵ちゃんのガルーダや片桐さんの能力ならば何とでもなるんだろうが……。

「その答えは先日見せてやったろうが?」

 先日? そんな事あったか??

「……ふう。まったく……最近の若いものは一から十まで言ってやらんとわからんものなのかねぇ……」

 ???な私に呆れ果て、女将は額を手で覆う。
 そしてホウキの柄を向けて、

「いいかい? もう一度やってやるからよおく見ときな?」

 そう言って手に軽く力を込めた。
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