超能力者の私生活

盛り塩

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第94話 女将のお題①

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 ――――そして三日後。

「ほらほら、チンタラしてるんじゃないよ!! このままじゃ、また日が暮れちまうよ?」

 ロビーを見渡せる階段の踊り場から、女将がそう叱咤してきた。
 百恵ちゃんの空気爆弾によって、粉々に破壊された床材のコンクリートは大小様々な瓦礫となってロビーを埋めている。
 私はそれをたった一人で片付けていた……。

「くそう……な、なんで私が……一人でこんな事を……」

 ゼイゼイ、はぁはぁ……。ボタボタ汗を垂らしながらぼやく。

 100室以上あるだろう、この旅館のロビーはだだっ広い。
 そこ一面に積もった埃を掃除するだけでも大仕事だと言うのに、破壊されたテーブルや椅子、照明器具などのガラクタも撤去しなければならない。
 それだけならまだマシで、厄介なのは大きく砕けて転がっているコンクリートたちだった。メロンやスイカ程度の大きさの物なら何とか工事用一輪車で運搬出来るのだが、三つほど私の背丈ぐらいの大きさの物がある。

「……こんなん、どないせいっちゅーねん……」

 思わず出てしまう関西弁でうなだれる。
 百恵ちゃんがいれば、それこそ空気爆弾の追撃でさらに細かく粉砕してもらうところだが、彼女はいない。

 どこに行っているかと?

 いわずもがな、また病院である。
 ラミアとの戦闘で精神力を使い切った上に、精気を吸い取られ、トドメに女将さんの結界で身と魂を削られたのだ。そりゃ入院もするだろう。

 入院しているのは彼女だけじゃない。
 菜々ちんや所長を初め、旅館で働くJPASの従業員さんの半数が同じく病院送りになってしまっている。
 みな、ラミアに精気を吸い取られてしまったからである。

 この精気を吸い取るという攻撃は一見地味だが、実はかなりダメージがあるようで、例えるなら、一週間ほど飲まず食わずで肉体労働させたくらいの消耗があるのだという。
 もちろん吸い取る量で加減は出来るのだが、今回の皆様への攻撃はそのレベルだったらしい。

 病院に運ばれる頃にはみな意識を失い、泡を吹き、痙攣していたというのだから全くもって申し訳ない限りだ。
 というわけで旅館はいま壊滅的人手不足で、一足先に目覚めた私はその後始末をやらされている、というわけなのだ。

「にしても!! こんな広いロビーの瓦礫撤去を私一人にさせるなんてあんまりじゃないですか!! せめて業者を呼んでくださいよ~~~~!???」

 耐えかねて叫ぶ。

「……何言ってんだい、これは罰も兼ねてんだよ? 本当は百恵の奴も手伝わせたいんだが、ノビちまってるしねぇ……それにあんた、自分に中居の業務が務まるとでも思ってんのかい?」

 ギロリと見下される。

「……いや、その……客商売ばあまり得意ではなく……」
「だろう? ろくに挨拶にも来れやしない礼儀知らずに務まるほど、甘い仕事じゃ無いさね」

 ……く、まだ根に持っていやがる。
 ……年寄っていうのはなんでこんなに礼儀にうるさいのだろうか、ちょっとうっかりで悪気は無かったんだからいいじゃないか。とはいえ、私も年下から生意気されたらイラッとくるからなぁ……あまり言えんなぁ。

「で、でも……それなら荷物運びとかお掃除とかそういうのでも――――」
「だからそれを今やらせてるんじゃないか?」

 何言ってるんだいこの子は、と言った顔の女将。
 ……いや、私が言いたいのはあくまで旅館業の範囲内でって話でしてな……。

「いやいやいや!! これは『お掃除』とかいう可愛いレベルのもんじゃ無くてですな、もうほとんど掘削作業に近い重労働じゃないですか!! 一人じゃとても身が持ちませんっ!!」

 労働環境に改善を!! 
 とばかりに訴える私。権力に屈してはいけない!!

 昨日も丸一日頑張らされたのだ。
 しかし作業が終わるどころか、その兆しすら見えない。
 このままじゃ綺麗になるまで一体何日かかるのか?
 自分が原因とはいえこれじゃあんまりだ!! イジメだ!!

 しかし女将は全く動じた様子はなく、

「だったら工夫して乗り越えな!! あんたは昨日、一時間程度でへばって後はダラダラやってたろ? そんなんだからいつまでたっても終わらないんだよ、もっとテキパキ働き続ければ明日には終わるだろうさ!! ほら、無駄口叩いて休んでないでちゃっちゃと働きなっ!!」

 言いたいことを言うと、女将はそのまま階段を上って去っていく。

 ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
 こ……この、昭和のババアがぁ~~~~っ!!!!

 このクソしんどい重労働をペースを落とさず一日中し続けろだとぉ~~~!??
 そんなこと出来るはず無いじゃないか!!

 工夫しろだと?? 

 でたよ~~でたでた。無能な上司の『工夫しろ』返し。
 それさえ言っとけば何でも通用すると思ってやがる。

 ばかやろう。
 そういうのを魔法の言葉って言うんだよ!!
 実際には無いんだよ? 魔法なんて!!
 だから工夫にも限度があるんだよ!! どうしろって言うんだよっ!!

「ああ……」

 心のなかで鬱憤を叫びまくった私は、それだけでどっと疲れてへたり込む。
 ……くそう、私もみんなと一緒に入院したいわ。
 この頑丈な体が恨めしい……。

『キュキュキュる?』

 と、ラミアが私の中で首を傾げた。

「ああ、と……ごめんごめん。別にあんたの能力を悪く言ったんじゃないのよ?
 ありがとね、いつも私を回復してくれて」
『きゅ~~~~♪』

 あれから私とラミアは魂同士で会話が出来るようになった。
 女将の攻撃から身を挺して彼女を守った事で、より一層私に信頼を寄せてくれているようだ。今では完全にペットのように懐いてしまっている。
 体を乗っ取った事も彼女なりに反省してくれているようで、もうそんな素振りは一切無い。
 まぁもともと、この子に私の体を乗っ取るなんて意志は無かったんだと思う。
 あれは周囲から来る恐怖が本能を刺激してしまった事故のようなものだったのだ。

「……あんたはいつだって私を守ってくれてたもんね」

 魂の手で私はラミアを撫でてやった。
 と、そこで妙案がひらめいた。
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