超能力者の私生活

盛り塩

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第91話 ラミア⑪

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 すうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。

 女将は大きく息を吸い込んだ。

「げ……や、やばい……女将のアレが来るっ!??」

 瀬戸は青ざめ、菜々は慌ててその場を離れる。
 しかしそんな事、もはや無意味なのは彼女達も知っていた。
 そして充分に酸素を取り込んだ女将は大声で叫んだ!!

「ファントム結界――――全方位解放っ!!!!」

 バッと勢いよく両手を広げる!!
 同時に青い波紋が激しく周囲に広がった。

 バチバチバチバチィッ!!!!

 無数にいた蛇たちはその波に触れると瞬時にその姿を消していく!!

 バチバチバチバチッ!!!!

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!????」

 瀬戸や菜々、その他の職員たちもみな叫び転がり呻く。
 これは能力なんかではない。
 いやある意味、能力といえなくもないが、これは純粋な力の波動。
 超能力の元となる精神エネルギーをファントム結界に変換し、一気に周囲に拡散放射する――――いわば結界の圧撃。
 膨大な精神エネルギーを有する女将ならではの力技であった。

「……お、女将の硬すぎる結界は……それだけで……能力者にとっては電気椅子並みの破壊力……こ、これだけは、くらいたく無かっ……た、ぐふ」

 力尽きる瀬戸。他の職員も当然のごとく失神している。
 もちろん光の蛇も全滅していた。
 超強力な結界の波動により、一瞬にして辺りは静けさを散り戻した。

 女将の側に屍になりかけている男が転がっている。

「ん? ああ、大西の存在を忘れていたね。……ふん、なさけない。これしきの結界《ダメージ》ごときで死にかけているよ、この悪人が」

 もともと失神寸前まで衰弱していたのだ、当然だろう。
 と、これまた失神寸前の菜々は揺れる視界の中でそう思った。

「菜々よ、お前も鍛え方が足りないねぇ。……私は下に降りてあの娘どもを懲らしめてくるが、お前はこの死にぞこないの介抱でもしていてくれるかい?」

 と、白目をむいて痙攣する大西を足で小突きながら言う女将。

「……は、はぃぃ……」

 大ダメージで頭から煙を上げる菜々は、それでも何とか返事をする。

「頼んだよ」

 そう言うと女将は単身、穴の中に飛び込んで行った。
 ――――地下五階までの高さを躊躇わずに。

 菜々は全滅した職員達を見回して呟く。

「……これは、私たち……助けられたと思っていいのかしら?」

 いや、よくないと思う……。
 菜々は一人静かに自答した。




『きゅきゅ~~~~~~~~っ!!♪』

 放った光の蛇が、そのお腹にたっぷりと精気を溜め込み戻ってくる。
 身体へと同化すると、精気はそのまま染み込んでいき活力へと変わる。

 ……これは!? 黄金の光と同じ、吸収能力?? 

 しかし……いったいどこからこれだけのエネルギーを!??
 疑問に思ったが、それはすぐに解消する。

 ……上の人たちから……?

 染み込んでくる精気は、それぞれの人間の特色も伝えてくる。
 それらはみな旅館の職員さんたちのものだった。

 ……な、何てことを……。

 私は階上の惨劇を想像して青ざめた。
 光の蛇による自動追尾型の無差別吸収。
 この能力の暴力性を理解したからだ。

 ――――こ、こんな技……これはちょっとしたテロ攻撃じゃないか!?

『きゅきゅきゅ~~~~~~っ!!!!』

 私の怯えを知ってか知らずか、ラミアは上機嫌に声を張り上げる。
 すると、吸収した精気を使って私の体を回復させ始めた。
 精気を使い果て、枯れ葉のように朽ち果てていた身体は徐々に赤みを帯び始め、肉付きも戻ってくる。

 ……くぅ……これは、気持ちの良いものじゃ……ないわ。

 お世話になっている人たちから奪った精気なのだ、回復する快感よりも罪悪感の方がはるかに強い。……でも私の意志とは関係なく回復は進められる。

 半分ほど体力が回復したところで、

『ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!????』

 と言う叫び声が上から聞こえたかと思うと、蛇の帰還がピタリと止まった。

『ぎゅきゅる!??』

 ラミアは不可思議に首を傾げるが、まぁ構わないとばかりに私の体に戻ってきて再び動きを支配する。

 まだ完全に回復したわけではないが、少し痩せているくらいの体型までは戻って来ている。充分に活動出来る状態だ。

 あれ? てことは、今さっきまでは私に主導権が返ってきていたって事か!??
 わからないが……なんとなくそんな気がした。
 だとしたら大失態だ……と思ったが、どのみちまた乗っ取られていたと思うので結果は同じなのか??

 いやいや、そんな諦めてはいけない。

 ともかくこの事態を収める鍵は、私が自分の主導権を取り戻せるかにかかっている。……もしそれが出来なければ……ベヒモスと認定されて、先輩方に退治されるだけだ。

 片桐さんの顔が浮かぶ。

 やばい……彼女に襲われたら、たとえ暴走強化されたラミアでも瞬殺される可能性は大だ。

 彼女のファントム『戦乙女《ワルキューレ》』は物体送信《アポート》の能力を持っている。
 指定した範囲の物質を、その質量・硬度お構いなしに切り取り、亜空間に投げうつ能力である。はっきり言って攻撃力はJPA最強と言われている。
 しかも射程距離は20メートルくらいあるらしい。
 そんな化け物相手では、いくらラミアの回復能力が優秀でも、丸ごと消されて一巻の終わりだろう。

『ぎゅきゅきゅきゅ~~~~~~っ!!!!』

 ラミアは足りない分の精気を追加補充しようと再び光の蛇を生み出す。
 ファントム体ではなく私の体を操っての技なので、今度は尻尾ではなく髪の毛が逆立ち蛇へと変わる。

 その姿は、まるでギリシャ神話の怪物『メデューサ』の如く。

 ――――こ、こらこら、やめなさいっ!?? これ以上化け物じみた見た目になったら本当に片桐さんに殺されちゃうから!!
 お願いだから大人しくして~~~~っ!!!!
 思念体だけの私は、それでも涙を流してラミアに訴えかけるが、彼女は無邪気に私の体を玩具代わりに操り続けるのだった。
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