超能力者の私生活

盛り塩

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第90話 ラミア⑩

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 ラミア……どうしてこんなに暴れたの? 
 怖かったの? 
 私を守ってくれようとしてたの? 

 返事は無い。

 私に頬ずりをしてくれるラミアを思い出す。
 私を親みたいに慕ってくれたファントム。
 それがどれだけ非常識な存在なのかは私にはわからないけど、私はそんなこの子の気持ちに応えてあげらなかったみたいだ。

 ごめんね……死なせちゃって……主人失格だよね。
 ごめん、もっと早くあなたの声に気付いていたら……今頃、すごく仲良しになれてたかもしれないね……ごめんごめんね……。
 そうして私の意識は微睡んでいく……。

 しかし――――、

『ぎ……ぎきゅーーーーーーーーっ!!!!』

 最後の返事か、断末魔の雄叫びか、ラミアはひときわ大きく嘶いた。
 そして私の体からその姿を大きく露出する。

「……な、なんじゃ……こやつ、ここにきてまた……何かするというのか!??」

 倒れたままの百恵ちゃんが呻くが、しかし彼女にはもう立ち上がる気力すら残されていない。

『ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ…………!!』

 名前とは裏腹に、雪だるまのようなフォルムをしたラミアはその身を縮め、背を丸め始める。
 と、その背中に亀裂が走り、中から別の何かが現れ始めた。
 とてつもないエネルギーが風となって吹き荒れる。

「……な!?? こ……こやつ、ま、まさか……脱皮しておるのか!??」

 百恵ちゃんの言う通り、それはまさに昆虫の脱皮のよう。
 バリバリ……バリバリバリバリ……――――、
 と旧殻を破り姿を表したのは――――、

『きゅきゅ??』

 ――――!??
 ところどころ、蛇の鱗に覆われた皮膚を持ち、上半身は人間、下半身は大蛇の姿をした幼い少女――――伝承にある『ラミア』そっくりの姿をしたファントムだった。

 か……可愛い……!??

 先程までの悲壮感をすっかり忘れて思わず呟いてしまう。
 それほどまでに彼女は愛くるしい姿をしていた。

「ラ……ミア……!? 馬鹿な…ここに来て……進化したというのか??
 ……あるのか? ファントムの進化なぞ……??」

 驚きと恐れが入り混じった表情で百恵ちゃんは唸った。
 彼女の恐れは進化したファントムが一体どれほどの能力を秘めているのか想像出来なかったからである。

 そうでなくても暴走した彼女の能力は桁違いだった。
 エリート能力者で戦闘班の隊長を任せられるほどの百恵ちゃんでも、相打ち覚悟でギリギリ押さえられたほどだったのだ。
 それがさらに進化したとなると――――、

『きゅ~~~~~~~~っ!!!!』

 ラミアが大きく声を上げた。
 ベビの姿をした尻尾をピンと天に掲げ、その先からあの黄金の光が放たれる。

 ――――なんだ、今までと同じ攻撃??

 そう思った私だったが、どうやら少し様子が違った。
 光は周囲に広がらず、ラミアの尻尾の先に留まっている。
 それはまるで金の卵のよう。

「……なんじゃ…それは……?」

 少し拍子抜けしたようにポカンと見つめる百恵ちゃんだが、次の瞬間、

 パンッ!!

 とその卵が弾けたかと思うと――――、

 シュッパパパパパパパァーーーーッ!!!!

 数多の光の矢が全方向に放たれた。

「な、なんじゃ!??」

 それは光の矢ではなかった。
 光で形作られた――――無数の蛇だった。
 それらはものすごい速さで散らばり、壁を突き抜け、天井に消えていく!!

「――――これは、まさか!???」

 それを見て百恵ちゃんの顔が強張った。
 しかし放たれてしまった蛇は止まることなく視界から消えていった。




「まずいねぇっ……!!」

 菜々の肩に手を掛けて、同じく階下の様子を観察していた女将は歴戦の勘をもって警戒する。
 ――――この能力は危険だと。

「……これは!?? この蛇は一体!??」

 壁に、天井にと消えた蛇達は一斉に階上に向かって来ているようだ。
 まるで標的が菜々達だとでも言うように!!

「未確認の能力――――来ますっ!!!!」

 菜々の叫びと同時に、周囲の床から一斉に光の蛇が飛び出してくる。
 そしてそれらは皆、適当な標的を見つけると牙を向き襲いかかった!!

 バチバチバチバチバチッ!!!!

 周囲から結界の反応する音と光が飛び散る。
 能力者はみんな必ず他の能力に対する結界を持っている。
 ゆえに能力者に能力をかけるのは、まずその結界を破らねば始まらないのだが、

「きゃあぁぁぁっぁぁぁっぁっ!??」
「うわ!?? なんだこの蛇!??」
「ち……力が……吸い取られていく……??」

 ロビーに集まっていた中居や職員たちに噛み付いた蛇たちは軽々とその結界を破り噛み付いていた。
 噛まれたものは皆、その牙から精気を吸い取られてバタバタと倒れていく。
 吸い終わった蛇たちは順次折り返し去っていった。
 本体であるラミアに精気を届けるために。

 バチバチィっ!!

「……くぅ!!」

 菜々のところにも蛇が襲いかかってきたが、JPA訓練生である彼女の結界は他の者達よりは流石に堅く、かろうじて光の蛇を弾き返した。

「……この蛇たち……周囲の者から、手当り次第に精気を吸い取ってます……みんなを……避難させないと……うぅっ!!」
「瀬戸さん!?」

 喉元を光の蛇に噛まれながら、瀬戸はそれでも皆を避難させようと立ち上がろうとする。だが、その先を遮る手が一つ。

「無理するもんじゃないよ、ここは私に任せて下がりなさい」

 女将であった。

「……精気を吸い取って主人に届ける蛇かい? さっきの黄金の光もなかなか厄介だったが、光の届かない場所へ逃げ込めば何とかなったろうよ。
 だがこの蛇はそんな障害物も全てすり抜け、標的を追うってかい?
 ふっふふふ……確かに、進化はしておるようよの? それなりに脅威かも知れん。
 ――――だがね?」

 女将は瀬戸の喉に食らいついた光の蛇を掴むと、

「――むんっ!!」

 と結界を発動させる。

 バチイッ!!

 と小さく音が鳴ったと思うと、蛇は跡形もなく消えた。

「私の相手にゃ……まだ物足りないねぇ?」
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