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第88話 ラミア⑧
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百恵の叫び声と同時に一つの炸裂音が鳴り、爆風に乗って二つの影が舞い上がる。
ドシャっと倒れ込むように、砕けた穴の縁に膝をつく。
「え? 所長? 最恩さん!??」
瀬戸は二人を確認すると、慌てて駆け寄った。
「……ああ、瀬戸さん、ごめんなさい。騒がしくしちゃって……」
「どうしたんですか!? 顔色が……所長も!??」
菜々の消耗した様子と、それよりもさらに激しく衰弱した大西所長を見て、ただならない雰囲気を感じ取る。
「……すまないねぇ……ちょっと、トラブルでねぇ…………迷惑かけるよぉ」
「所長、一体どうしたんです!? 何がありましたっ!?」
瀬戸の問いに菜々が答える。
「宝塚さんのファントムが暴走してしまい彼女のコントロールが奪われました。……今は百恵さんが対処していますが……状況は不利です。誰か応援を呼んで頂けませんか?」
「宝塚さんが……暴走……? 百恵様が対処を!??」
ただでさえ引いていた血の気がさらに引く。
宝塚の暴走とは、それはすなわちベヒモス化。
ただの能力者ならいざ知らず、屈指のエリートばかりが揃うJPAメンバーがベヒモス化してしまったら、その驚異は計り知れない。
JPASの戦闘員が何人向かったところで対処は不可能だろう。
ましてやよりによって今、組織内で天才ルーキーと噂されている宝塚女優となればなおさら事態は最悪である。
そしてその相手を百恵が一人でしているというのだ。
いくら百恵も天才とはいえ、同格以上だろう宝塚の暴走を止めるなど一人では到底無茶というもの、おそらく二人を逃がすために自分が盾となったのは明らかである。
「も、百恵様っ!!」
「だめっ! 瀬戸さんっ!!」
咄嗟に穴に飛び込もうとした瀬戸だったが菜々に掴まれ、止められてしまう。
「あなたが行ってもどうにもなりません!!
それよりも早く応援を、片桐さんか料理長に連絡をっ!!」
「それには及びませんよ」
のしっと歩み出たのは女将だった。
女将は床に散らばった瓦礫屑を静かに拾い上げると、
バキィッ!! ――――パラパラ……。
それをいとも簡単に片手で粉砕して見せた。
『………………』
その怒りの殺気を感じ取り、黙り込んでしまう三人。
そして女将は目だけ笑って菜々に言った。
「……まだケツの青い小娘の喧嘩なんぞ、私一人で充分ですよ」と。
「……はぁ、はあ……はあ」
宝塚を吹き飛ばした百恵は、立て続けにガルーダを発動してまずは天井を破壊。
さらに威力を調整した爆風で所長と菜々を階上に逃した。
そして自らも同じように脱出しようとしたところで、
ガクンっ!!
と膝から力が抜け落ちた。
発動させようとした能力もキャンセルされてしまう。
「……ぬっ!!」
見れば四肢が千切れるほどに破壊してやった宝塚の身体はもうほとんど復活している。そして再び自分へ向けてあの黄金の光を放射していた。
精力を奪い取るその光は、百恵の体力と精神力をどんどんと削っていく。
「……おヌシの事じゃから、よもやくたばらんとは思っておったが……にしても復活が早すぎやせんかぁ……!??」
回復するのは計算ずく。その上で宝塚に攻撃を食らわせたのだが、その回復速度は百恵の予想を遥かに超えて早かった。
「百恵さんっ!?」
宙に舞った菜々が百恵を見下ろし叫ぶ。
「大丈夫じゃっ!! ワシはヒロインなんかには負けはせんっ!! おヌシは先に行って応援を呼んできてくれいっ!!」
と、精一杯の強がりで百恵は菜々に叫び返した。
やがて菜々と所長の姿は階上へと消えていく。
よし……これでしばらくすれば応援が来る。
それまで、なんとかここで宝塚を足止めしなければならない。
脱出させてもらえなかった事はある意味不幸中の幸いだったかもしれない。
JPAS職員たちが大勢いる階上のロビーでこの光を放出されでもしたら、抵抗力の弱い彼女らはひとたまりもなく倒れていくだろうからだ。
最悪、死人も出るかもしれない。
戦闘班の隊長としてそんな事態だけは避けねばならない。
結局、被害を最小限に抑え込むならば、自分がここで宝塚を足止めし、適切な助っ人が来るのを待つのが最適なのだ。
「ファントムが宿主の体を介さず、直接能力を放出しているのじゃからな……ベヒモス化と同じく威力が格段に上がっているというわけか……」
とすれば、この黄金の光も一時的な能力上昇によって使われているものだろう。
「こんな離れた人間から無差別に精気を吸い取るなぞチートにも程があるぞ……まるで対処の仕様がない……ぐうぅ……」
だが、宿主のコントロールから外れた今の状態はアクセルを全開にしたエンジンと同じ。強力なパワーを放出するが長続きはしない。
「……だったら」
百恵は覚悟を決めて宝塚を睨んだ。
「その光を出させず、かつ、お前の精神力を枯渇させればいいんじゃろ?」
そして再び叫ぶ、
「唸れぃ!! ガルーダッ!!!!」
体力を吸い取られながらも、百恵は全身全霊でファントムに命令を下す。
ブワァァァァァァッ!! と宝塚の周囲に空気の爆弾が出現する。
全方位に展開されたそれは、百恵の意地とプライドが宿り、同時にエースの座をかけた挑戦状でもあった!!
「その力――――回復のみに専念させてやろうぞっ!!
ワシの破壊力とおヌシの回復力、どっちが粘れるか勝負じゃっ!!」
そして地を揺るがす爆裂音が地下に鳴り響いた。
ドシャっと倒れ込むように、砕けた穴の縁に膝をつく。
「え? 所長? 最恩さん!??」
瀬戸は二人を確認すると、慌てて駆け寄った。
「……ああ、瀬戸さん、ごめんなさい。騒がしくしちゃって……」
「どうしたんですか!? 顔色が……所長も!??」
菜々の消耗した様子と、それよりもさらに激しく衰弱した大西所長を見て、ただならない雰囲気を感じ取る。
「……すまないねぇ……ちょっと、トラブルでねぇ…………迷惑かけるよぉ」
「所長、一体どうしたんです!? 何がありましたっ!?」
瀬戸の問いに菜々が答える。
「宝塚さんのファントムが暴走してしまい彼女のコントロールが奪われました。……今は百恵さんが対処していますが……状況は不利です。誰か応援を呼んで頂けませんか?」
「宝塚さんが……暴走……? 百恵様が対処を!??」
ただでさえ引いていた血の気がさらに引く。
宝塚の暴走とは、それはすなわちベヒモス化。
ただの能力者ならいざ知らず、屈指のエリートばかりが揃うJPAメンバーがベヒモス化してしまったら、その驚異は計り知れない。
JPASの戦闘員が何人向かったところで対処は不可能だろう。
ましてやよりによって今、組織内で天才ルーキーと噂されている宝塚女優となればなおさら事態は最悪である。
そしてその相手を百恵が一人でしているというのだ。
いくら百恵も天才とはいえ、同格以上だろう宝塚の暴走を止めるなど一人では到底無茶というもの、おそらく二人を逃がすために自分が盾となったのは明らかである。
「も、百恵様っ!!」
「だめっ! 瀬戸さんっ!!」
咄嗟に穴に飛び込もうとした瀬戸だったが菜々に掴まれ、止められてしまう。
「あなたが行ってもどうにもなりません!!
それよりも早く応援を、片桐さんか料理長に連絡をっ!!」
「それには及びませんよ」
のしっと歩み出たのは女将だった。
女将は床に散らばった瓦礫屑を静かに拾い上げると、
バキィッ!! ――――パラパラ……。
それをいとも簡単に片手で粉砕して見せた。
『………………』
その怒りの殺気を感じ取り、黙り込んでしまう三人。
そして女将は目だけ笑って菜々に言った。
「……まだケツの青い小娘の喧嘩なんぞ、私一人で充分ですよ」と。
「……はぁ、はあ……はあ」
宝塚を吹き飛ばした百恵は、立て続けにガルーダを発動してまずは天井を破壊。
さらに威力を調整した爆風で所長と菜々を階上に逃した。
そして自らも同じように脱出しようとしたところで、
ガクンっ!!
と膝から力が抜け落ちた。
発動させようとした能力もキャンセルされてしまう。
「……ぬっ!!」
見れば四肢が千切れるほどに破壊してやった宝塚の身体はもうほとんど復活している。そして再び自分へ向けてあの黄金の光を放射していた。
精力を奪い取るその光は、百恵の体力と精神力をどんどんと削っていく。
「……おヌシの事じゃから、よもやくたばらんとは思っておったが……にしても復活が早すぎやせんかぁ……!??」
回復するのは計算ずく。その上で宝塚に攻撃を食らわせたのだが、その回復速度は百恵の予想を遥かに超えて早かった。
「百恵さんっ!?」
宙に舞った菜々が百恵を見下ろし叫ぶ。
「大丈夫じゃっ!! ワシはヒロインなんかには負けはせんっ!! おヌシは先に行って応援を呼んできてくれいっ!!」
と、精一杯の強がりで百恵は菜々に叫び返した。
やがて菜々と所長の姿は階上へと消えていく。
よし……これでしばらくすれば応援が来る。
それまで、なんとかここで宝塚を足止めしなければならない。
脱出させてもらえなかった事はある意味不幸中の幸いだったかもしれない。
JPAS職員たちが大勢いる階上のロビーでこの光を放出されでもしたら、抵抗力の弱い彼女らはひとたまりもなく倒れていくだろうからだ。
最悪、死人も出るかもしれない。
戦闘班の隊長としてそんな事態だけは避けねばならない。
結局、被害を最小限に抑え込むならば、自分がここで宝塚を足止めし、適切な助っ人が来るのを待つのが最適なのだ。
「ファントムが宿主の体を介さず、直接能力を放出しているのじゃからな……ベヒモス化と同じく威力が格段に上がっているというわけか……」
とすれば、この黄金の光も一時的な能力上昇によって使われているものだろう。
「こんな離れた人間から無差別に精気を吸い取るなぞチートにも程があるぞ……まるで対処の仕様がない……ぐうぅ……」
だが、宿主のコントロールから外れた今の状態はアクセルを全開にしたエンジンと同じ。強力なパワーを放出するが長続きはしない。
「……だったら」
百恵は覚悟を決めて宝塚を睨んだ。
「その光を出させず、かつ、お前の精神力を枯渇させればいいんじゃろ?」
そして再び叫ぶ、
「唸れぃ!! ガルーダッ!!!!」
体力を吸い取られながらも、百恵は全身全霊でファントムに命令を下す。
ブワァァァァァァッ!! と宝塚の周囲に空気の爆弾が出現する。
全方位に展開されたそれは、百恵の意地とプライドが宿り、同時にエースの座をかけた挑戦状でもあった!!
「その力――――回復のみに専念させてやろうぞっ!!
ワシの破壊力とおヌシの回復力、どっちが粘れるか勝負じゃっ!!」
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