超能力者の私生活

盛り塩

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第87話 ラミア⑦

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「な……オ、オジサマッ!!!!」

 それを見た百恵ちゃんが所長の腕を掴み、後ろへ下がらせる。

「大丈夫ですかっ!???」
「……だ、大丈夫……では、ないかな? これは……精気を吸い取る能力か? ……なんてことだ、この光が……力を、吸い取っているみたいだねぇ……」
「……ううっ!??」

 菜々ちんも表情を歪め、弱々しく膝をつく。
 顔は真っ青で、頬はこけてきている。

「……二人とも……ここは一旦離れよう……このままじゃあ……僕ら、三人ともミイラにされてしまう……」
「……くっ!! わかりましたっ!!」

 所長を抱えて、部屋から出ようとする百恵ちゃん。
 しかし熱湯を攻撃と勘違いしたラミアは完全に百恵ちゃんを敵と認識したようで、

『ぎゅきゅーーーーーーーーっ!!!!』

 と叫ぶと、逃げる彼女に飛びかかる!!
 その手の平からはより強い黄金の光が放たれていて、いかにも危険な匂いがする。

「させんよ!!」

 百恵ちゃんを部屋の外に突き飛ばした所長は、彼女の代わりにその手の平を受け止めた!!

『ぎゅぎゅるるるるるるーーーーっ!!!!』
「ぐが……あ、あ、あ…………」

 すると、それまでとは比べ物にならない速さで、所長の体がしぼんでいき、目が落ち窪んでいく。

「所長っ!???」

 菜々ちんの悲鳴が聞こえる。
 意識だけの私も体の中で必死にラミアを抑えようともがく。
 しかし、意識だけの私にはどうすることも出来ない。
 ただ精気を吸い取られて朽ちていく所長を見ていくしかない。

 だめだだめだっ!! やめてやめてっ!! 落ち着いてラミアっ!!!!
 このままじゃ所長が、所長が死んじゃうーーーーーーーっ!!!!!!

 ほとんど骨と皮だけになった所長は、私を見てなぜが皮肉めいた笑いを浮かべた。

 そのとき――――、

「唸れぇぇぇぇぇっ!! ガルーダッッッッ!!!!」

 目に涙を一杯に浮かべ、百恵ちゃんが力の限り叫んだっ!!

 同時にボァッと大きな鷲ににた霊鳥が一瞬現れ、彼女と同化する。
 全力で呼び出されたガルーダは相応の力を彼女に授ける。

 そして次の瞬間――――、

 チュッドッドドドドドドドドドドドドドドンッッッッ!!!!!!!!

 ――――っ!??
 目の前を塞ぐように隙間なく出現した空気爆弾は、一瞬にして私の体を四散させ吹き飛ばした!!




『ESP・PK取り扱い特別訓練学校』と銘打たれたこの施設。
 普段はJPAとその関連組織の訓練所として使用されているが、オンシーズンとなればたちまち温泉旅館としての顔も見せることとなる。

 施設の正体を世間一般の目から誤魔化すというのが大きな理由で、年末に向けて既に宿泊予約は一杯になっていた。
 旅館のロビーでは開業再開に向けての準備が慌ただしく行われており、JPAS職員扮する中居集団が掃除やその他の雑務に追われていた。

「それが出てくると途端に営業モードに変わりますね、気合が入ります」

 客室用のお膳を山ほど運びなから、百恵担当である中居の瀬戸は足を止めた。
 女将である老女に見守られながら同僚の中居二人がかりで運んでいるそれは、門の上に掲げるもう一つの木看板であった。

「ふふ、私らのもう一つの大切な仕事だからね。訓練生の面倒も大事だけれども、一般客のおもてなしも同じく大変な業務です。あんたたち、粗相の無いようにやりきるんだよ」

『貴水閣』と力強く墨で書かれた看板をさすりながら、品のある老女は言った。

『はい、頑張ります!』

 温厚なセリフとは真逆のその眼力に気圧され、瀬戸と他の二人は背筋をピンと立てて返事をする。

「うん、よろしく頼むよ」

 ニコリと温和な笑みを浮かべる女将。
 門へと向かっていく三人を見送ると、瀬戸は一つ汗をかきながら息を吐いた。
 なにせあの女将、普段は温厚だが怒らすととてつもなく恐ろしい。しかも最近歳を取るにつれて訓練所の寮長としてより、旅館の女将としての業務の方にやりがいを感じてきているフシがあり、そちらの方で失敗するといつもの倍は叱られるのだ。

「……女将の能力は料理長以上に怖いからねぇ……。
 機嫌を損なうわけにはいかないわ、頑張ろ~~~~と……」

 くわばらくわばらと、業務に戻ろうとした瀬戸だが、

 バリバリッ!!
 と、ファントム結界に反応が走る。

「ん? なに!??」

 疑問の声を上げると同時に、

 ドゴォォォォォオオォォォオオォォォォォォオォォォオォオォンッ!!!!!!
 猛烈な轟音と衝撃がロビー全体に響き渡った!!

「な、な、何っ!???」

 衝撃に吹き飛ばされ、お膳をばら撒きながらも瀬戸はその衝撃の中心に注意を注ぐ。
 もうもうと立ち込める土煙。
 やがてそれが晴れてくると、ロビーの床に大きな穴が開いていた。

「なっ! ……え!??」

 その穴は下から突き上げられるように開いており、綺麗だった赤絨毯は吹き飛ばされたように捲れ上がって階段手すりに引っかかり、椅子やテーブル、調度品は破壊され窓は割れ、辺りには粉砕されたコンクリート破片が瓦礫のように一面に散らばっていた。

「なんだいっ!? ……これは一体どうした事だい??」

 女将が慌てて戻ってくる。
 そして中の惨憺たる光景を目にして額に青筋を走らせる。

「……瀬戸……これ、誰がやったんだい?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……と背中に炎を背負った女将が山姥《やまんば》のような怒りの表情で瀬戸を問い正してくる。

「い……いえ、わ、私は何も知りませんっ!!」

 咄嗟にそう返事した瀬戸だったが、それと同時に、

「――――運べっ!! ガルーダッ!!!!」

 聞き慣れた声が穴の底から聞こえた。

「……百恵……か?」
「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ……」

 鬼の形相で睨み付けられながら、瀬戸は全身から血の気が引く音を聞いた気がした。
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