超能力者の私生活

盛り塩

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第84話 ラミア④

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 後日、私たち三人は所長室を尋ねていた。

「やぁ~~ようこそ僕の部屋へ。君たちみたいな可愛い子ならいつでも大歓迎だよぉ~~。ま、座りなさいな」

 そう言ってお座敷部屋の奥に座っている所長は座布団を進めてきた。

「は……はい。失礼いたします」

 借りてきた猫のように大人しくなった百恵ちゃんは、ものすごく丁寧な仕草で正座する。菜々ちんも同じく正座で座るが、

「……所長? また部屋を改装したんですか?」

 と、ややキレ気味に眼鏡を上げる。
 そうだよねぇ? 以前来た時は洋風時代劇って感じだったもんねぇ、今は完全に落ち着いた茶室になっている。

「まぁまぁ、ちょっとね、大蔵省から予算をプレゼントされてね、いいじゃない本来の予算には手を付けてないんだからさぁ~~」

 と、渋い着物を着こなした所長は笑って誤魔化す。

「で、何の話でやった来たのかなぁ?」

 これ以上、菜々ちんに責められるのを嫌った所長はさっさと本題に話題を移した。




「……ほうほう、宝塚くんの能力についてJPAの見解を聞きたいと?」
「はい。私たちは今、共同で宝塚さんの能力訓練をしているのですが、どうにも掴み所がない能力でして……」

 菜々ちんが話を切り出し、先日、私たちが話した内容を所長にも聞かせる。

「なるほどね。うん、その通りだと思うよ。宝塚くんの能力は今も成長過程にあるね、組織の分析でも同じ意見が出ているよ」

 と、所長はあっさりと答えた。

「ン……ゴガゴガッ!??」

 お茶菓子に出されたきなこ餅をのどに詰まらせる百恵ちゃん。

「組織は知ってらしたんですね?」

 やっぱりといった表情でお茶を啜る菜々ちん。

「もちろんだよ~~? 
 キミも情報部所属だから知っていたんじゃ無かったのかい?」
「……いいえ。一応、個人情報ですから、一部の権限がある人間にしか組織員のデータを見ることは出来ません」

 そして今度は呆れた表情の菜々ちん。

「あ~~……、そっか……そうだよねぇ、あ~~……じゃぁいま僕って口を滑らせたってことかなぁ?」

 おいおい大丈夫か、この管理者!?

「まぁまぁまぁ……でも、この事は能力訓練には必要な情報だし……言っても問題ない――――よね?」

 と、私の方を見て微笑む所長。

「え……と、まぁはい、問題無いです……よ?」

 本当に問題無いのか一瞬考えてしまった。

 と言うのも先日、死ぬ子先生からあまり他人に自分の能力をひけらかすのは危険だと教わっていたからだ。
 最悪の場合、拉致されて能力だけを搾り取られる家畜同然の扱いを受ける危険だってあるのだという。
 世界のどこにそんな恐ろしい組織があるのかはわからないが、そんな連中に自分のことを知られたらと思うと背筋が寒くなる。
 でも、この二人になら知られても問題無い。だって私たちはチームなのだから。

「七瀬くんも……あ、お姉さんの方ね、にも情報は伝えてあるんだが……教えてもらってないようだねぇ? んまぁいいか、じゃ、とりあえず君たち三人に宝塚くんの能力について教えておこうじゃないか、でなければ訓練に支障が出そうだしねぇ」

 と、所長は煙草に火をつける。
 するとテーブルの中央にスリッドが現れ、フオォォォォと煙を吸い込み始める。
 どうやら空気清浄機も兼ねているらしい。芸が細かい。

 て言うかっ!!
 死ぬ子先生知ってたんか~~~~いっ!!
 相変わらずあの先生、私らに情報降ろさんなっ!!
 あーだこーだ悩んでた私らの二週間を返せと言いたい。

「率直に言うとね、宝塚くんのファントムは『ラミア』と呼ばれる非常にレアな存在だったと推測されるね。
 推測と言うのは君達もお察しの通り、彼女のファントムはまだ赤ん坊でね、成長した姿を確認できないからなんだよ」
「ラミア……ってまさかあのバンパイアの上位種のアレですか……?」

 菜々ちんが驚いた表情で私を見る。

「ラミア? ワタクシは初めて聞くお名前ですけど……それはどんな、おファントムなんでしょうか?」

 百恵ちゃんも慣れない丁寧語で言葉を返すがお前誰やねん!?

「そう、驚いたかい? 情報部の方でもほぼ100%ラミアで間違い無いだろうと興奮していたよ。なにせ、これがほんとにラミアだったら日本初の出現ということになるからねぇ、無理もないさ」
「えっと……その、ソレってなんなんですか……?」

 いまいち話について行けない私は小さく手を上げて所長に尋ねてみる。

「ラミアって言うのはね……」

 所長の説明によるとファントムにはそれぞれ名前が付けられていて、それは能力の種類や強さによって分けられているらしい。

 例えば、百恵ちゃんの『ガルーダ』はPK能力の中でも空気を瞬間移動で取り寄せる能力だが、その下位能力として空気を操作し、強風を巻き起こす『ケライノー』と言うファントムもいるようなのだ。もちろん細かく分類すれば無数に枝分かれしてしまうが、同じ『ガルーダ』ならばほぼよく似た能力になるのだと言う。

 そこで私の『ラミア』だか、その能力は吸収と回復。これはギリシャ神話の下半身が蛇の姿をした女妖怪の伝承をモチーフに名付けられているらしいが、その存在は極めて珍しく、世界でも私を除いて二人しかいないらしい。

「なので、キミがほんとに『ラミア』持ちならばこれは我がJPAにとって世界に誇る快挙なのだよ~~?
 ま、もっとも、大手を奮って宣伝できないのが悲しいところだけどねぇ~~」
「それは……そうでしょう。そんな事が海外の組織に知られたら、たちまち宝塚さんの争奪戦が始まりますからね」
「そうそう、だからね、キミたちもここでの話は他言無用だよ?」
「でも、そんな貴重な存在の宝塚さんの能力訓練を……私たちなんかに任せてしまっていいのでしょうか?」

 自信無さげに菜々ちんが所長に訊ねる。

「いいんじゃないの? 七瀬教官がキミたちを指名したんだろう? なら間違いは無いさ、彼女はいつも正しい判断をするからね」

 その言葉に私たちは一斉に、

『そうかぁ~~~~……???』

 と出来得る限りに疑わしい顔をした。
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