超能力者の私生活

盛り塩

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第76話 地獄の? トレーニング②

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 一時の休憩を終え、私たちは再び山頂を目指して走る。
 いや、もう歩いていたけど……。

「はぁはぁ……ぜいぜい……うぅぅ」
「いいか、超能力を使いこなす鍵は一にも二にもファントムだ。
 ファントムを飼いならせてこそ初めて自在に能力を行使することが出来るようになる!! そしてそれに必要なのはどんな事にも揺るがぬ精神力!! ――――すなわち平常心じゃ!!」

 もう五回目くらいだろうか、同じことを何度も繰り返し言ってくる百恵ちゃん。
 彼女いわく、その平常心が崩れるとファントムが途端に言うことを聞かなくなり、うまく能力を使うことが出来なくなるらしい。

 最悪の場合、能力者から分離してしまいコントロールが出来なくなる。
 そうなると能力者の自我がファントムに支配され暴走し、それがベヒモスと呼ばれる化け物の正体なのだ――――と、この辺の説明は死ぬ子先生も言ってたかな?
 ともかく、いつどんな場合にも平常心を保つ事こそが超能力者訓練の第一歩らしい。そしてその平常心を鍛えるのが、この過酷な肉体鍛錬なのだという。

「だ……だからって、山道走んなくてもいいじゃないかゼイゼイ……」
「阿呆ぅ。走る事こそ最も精神修行になるのだぞっ!! 
 どんなに辛くとも心を無にして空っぽになるのじゃ、さすれば苦しさも疲れも忘れ、自然に足が前へと進むぞ?」

 ……心を無にとか……この子、小学生のくせになんでそんなに悟りを開いてんのよ!? 

「いや、それなら座禅とか……瞑想とか、他に色々あるでしょう?? どう考えたってこれは私向きの訓練じゃない気がするんだけどなぁ……ゼイゼイ」
「もちろんそれもやる。
 とりあえず明日から、朝は吾輩と一緒に山道ランニング。その後は吾輩は学校へ行くが、おヌシは道場で一時間筋トレ、二時間柔道、昼食の後、三時間座学をし、その後は帰宅した吾輩と組み手修行じゃっ!!」
「はぁ!?」
「そして二時間瞑想をしながら就寝。わかったかっ!?」

「全くわかりません、教官っ!!!!」




 ――――次の日。

 これ以上部屋を壊されて仕事を増やされたくない瀬戸さんに、朝イチから部屋を追い出され、半ば、いや、完全強制に山道を走らされる私。

 標高差500メートルはある山道を山頂まで一気に駆け上がるのなど、今の私には不可能で、そんな私に付き合っていたら学校に遅れると百恵ちゃんは私を置き去りにして走り去っていく。
 これ幸いとサボろうとしたのだが、山のいたるところに監視カメラが設置されており、私の様子は逐一百恵ちゃんの携帯に送られる事になっている。

「く……くそう、なんだってこんなことに……」
 ヘロヘロになりながら山頂に辿り着く。
 ちなみに、ズルをして途中で下山しようものなら姉に恥ずかしい写真を無限に刷ってもらうと脅されているのでサボれない。

「おのれおのれ、あの魔女姉妹めぇ……いつか、いつか目にもの見せてやるぞ……」

 訓練に耐えて一人前になった暁には……あの悪女どもをああしてこうして、こんなこととか、ここをこうしてあられもない姿にぐふふふふふふふ。
 ひとまずそれが私の第一目標となった。

 やや方向がズレている気がしないでもないが、なに、行き着く先は同じだ。




 下山すると時間はもう十一時を回っていた。

「道場ってどこだぁ……??」

 次の予定は道場で筋トレと柔道だそうだが、そもそも道場の場所を私は知らない。
 麓で途方に暮れていると、

「やあ、宝塚さんお疲れさま。道場はこっちだよ、さあ行こうか」

 キラキラキラキラ――――……。
 と、迎えにやって来た美男子が一人。
 先輩訓練生の天道正也 さんだった。
 白い歯に爽やかな笑顔。180はあるだろうスリムな長身に小さい頭。
 モデル顔負けの美青年と言っても言い過ぎではないだろう。
 そんな彼が柔道着を身に纏い、私を呼んでいる。

「え……あの、まさか……?」
「ああ、百恵ちゃんに頼まれてね。彼女が学校に行っている間は僕がキミのお相手をさせてもらうよ」

 前言撤回。

 百恵殿。貴殿とは親友になれそうだ。




 旅館から少しだけ離れた森の中。
 そこにかなり古ぼけた木造建ての道場が隠れるように建っていた。
『ESP・PK取り扱い特別訓練学校特設道場』と墨書きで板看板が掲げられて、なんとも時代錯誤的硬派な雰囲気を醸し出している。

「あ痛っててててててててててててててててててててててっ!!!!」

 そんな道場の、たっぷり使い古された畳の上に座らされ、私は悲鳴を上げていた。
 体がくの字にたたまれて、さらに上から体重を掛けられる。
 伸びた膝の裏筋が切れそうになる。

「あががががががががががががががが……っ!??」
「だめだなぁ~~。硬い、硬いよ~~ヒロインちゃん」

 正也さんが上から爽やかな笑顔で私を痛めつける。
 開いた股の付け根が切れそうに痛い。

「ダメダメダメダメっ!! 無理無理無理無理っ!!!! ギ、ギブ、ギブです正也さんっ!!!!」
「そう、もう限界? じゃあそこからもう五秒我慢してみようか」

 キラキラと歯を輝かせて、さらに体重を掛けてくる鬼畜青年。

「ぎいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 しまった、だめだこの人!! も、もしかして体育会系男子!??
 爽やかな風貌と笑顔に騙されたっ!!
 この手の男は駄目なんだ、話しが通じないから!! 
 汗と涙と……人の嫌がる顔が大好きだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!

 ボキッと私の腰の骨が鳴ると同時に、正午の鐘も鳴った。
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