超能力者の私生活

盛り塩

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第72話 いびつな力③

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「で、でも……私が監視官候補生になるからって、どうして二人にサポートに付いてもらわなくちゃいけないんですか?」

 死ぬ子先生に尋ねる。
 試験が難しいのはわかった。その為の訓練も相当に厳しいことになるだろうことも察しがつくが、二人とチームを組む理由がわからない。
 すると先生に代わって菜々ちんが答えてくれた。

「それは……監視官候補生の業務が実践主体だからです」
「実践?」
「ええ、監視官の業務についての説明は受けましたか?」
「ええと……ベヒモス化の発生を抑える為に、超能力者たちの行動を監視する……みたいな?」

 しどろもどろ、何となくボヤかして答えてみる。
 自慢で言うが物覚えは悪い方である。

「まぁ、大体それで合ってます。なので監視官にとって情報収集能力と戦闘能力は極めて重要な力になってきますよね?」
「……まぁ、そうでしょうな」

 暴走する恐れのある怪しい人物を見極める捜査力と、それを抑えつける武力ということだろう?

「よって候補生の間はその二つを徹底的に鍛える事となっています」
「……はぁ……」
 いやな予感がする。

「なのでその訓練方法がほとんど実践訓練になるのです」
 やっぱりなと私は頭をかく。

「……その……一応聞くけど、その実践ていうのは、この間みたいに……?」
「ええ、ベヒモスとの戦闘が半分になりますね」

 まぁ……それは覚悟していた。
 というかベヒモスが私の両親の仇だと知った今の私なら、むしろ望むところだと言いたいところだ。
 戦闘は怖いし痛いし嫌だけれど、もはや避けて通っては行けない道だ。
 私は心の中で、密かに覚悟を決めた。

「……あの、大丈夫ですか宝塚さん……?」

 菜々ちんが私の手を握ってくる。気がつけば私の手は震えていた。
 ダメだな……あの一件以来、ベヒモスの事を思うと憎しみが湧き上がって止まらなくなっている。

「あ、いや……あはは、大丈夫……ちょっと武者震いしちゃって」
「これからかなり危険な場面も多くなると思います。その為、候補生にはそれを手助けする補佐官が付くんです。それが私と百恵さん……と言うことなんですよね?」

 いまだ背中に張り付いておっぱいを揉んでいる妖怪を睨みつける菜々ちん。

「あ~~……まぁ、そんな感じよぉ……そんでねぇ~~今から二人にはぁ」
「吾輩は断るぞっ!!」

 何かを言いかけた妖怪の言葉を遮って、百恵ちゃんが叫んだ。

「なんで吾輩がヒロインみたいな後輩の補佐などせねばならんのだっ!! 訓練生で一番だったのは吾輩だったはずだろう!? オジサマも吾輩の事を一番期待していると言ってくれたっ!! それがなんだっ!!??
 お前が来たとたんみんなヒロインヒロインと……お前なんかちょっと珍しい能力が使えるだけのド素人じゃろうが!! 
 そんな者がいきなり監視官候補生じゃと!? 吾輩は認めん、認めんぞっ!!」

「……も、百恵ちゃん」
「我輩ですら候補生になれずに戦闘員なのじゃぞっ!!」

 怒りをむき出してフーフーと肩で息をする百恵ちゃん。
 目にはうっすらと涙まで浮かべている。
 彼女の怒りはもっともで、入ってからまだほとんど日も経っていない私が、それまで必死で訓練してきた人達をごぼう抜きにして出世しようというのだ、彼女でなくても誰でも気分は悪いだろう。

 ましてや百恵ちゃんはまだまだ子供で、人一倍自尊心も強い。ならばなおさら私のことが許せないはずである。
 そんな彼女に姉である死ぬ子先生はそっと近づき、頭を優しく撫でて言う、

「宝塚さんの方が優秀なのだから仕方ないことでしょう?」

 身も蓋もなく、真実を。

「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 私は初めて見た。リアルに大魔神変化する人間と言うものを。




 その後の姉妹喧嘩は凄まじいものだった。
 百恵ちゃんが能力の空気爆弾(?)を放とうとすると、すかさず先生が抱きつき、ファントム結界を反応させ能力を相殺させる。
 あとはその衝撃にどちらが耐え続けられるかの我慢比べ。
 勝負は言うまでもなく変態ドMの姉の圧勝。
 あわれ百恵ちゃんは体をピクつかせ泡を吹いて昇天してしまった。

「……私、戦闘能力が無さそうな死ぬ子先生がどうして監視官になれたが疑問に思ってたんだけど……ちょっと理由がわかったわ」
「……先生は特殊なんで……あまり参考にしないほうがいいですよ」

 眉間をつまみながら菜々ちんが忠告してくれる。
 うむ、言われずともわかっている。

「まぁ……そういうわけでぇ~~……これからぁ、チームになる二人にもぉ……見ておいてもらおうかなぁ、と思ってねぇ~~ふふふふふふふ」

 そう言って不気味に笑い、ゆら~~りと百恵ちゃんの襟を掴んで引きずりつつ、先生は集中治療室の扉に手をかけた。

「見ておくって……何をですか」
「恐ろしさを……よ、宝塚さんこの子のね、うふふふふふふふふふふふふ……」

 尋ねる菜々ちんに、隠していた宝物でも見せる子供のように無邪気な、しかし狂気に満ちた笑顔で先生は笑った。
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