超能力者の私生活

盛り塩

文字の大きさ
上 下
72 / 289

第72話 いびつな力③

しおりを挟む
「で、でも……私が監視官候補生になるからって、どうして二人にサポートに付いてもらわなくちゃいけないんですか?」

 死ぬ子先生に尋ねる。
 試験が難しいのはわかった。その為の訓練も相当に厳しいことになるだろうことも察しがつくが、二人とチームを組む理由がわからない。
 すると先生に代わって菜々ちんが答えてくれた。

「それは……監視官候補生の業務が実践主体だからです」
「実践?」
「ええ、監視官の業務についての説明は受けましたか?」
「ええと……ベヒモス化の発生を抑える為に、超能力者たちの行動を監視する……みたいな?」

 しどろもどろ、何となくボヤかして答えてみる。
 自慢で言うが物覚えは悪い方である。

「まぁ、大体それで合ってます。なので監視官にとって情報収集能力と戦闘能力は極めて重要な力になってきますよね?」
「……まぁ、そうでしょうな」

 暴走する恐れのある怪しい人物を見極める捜査力と、それを抑えつける武力ということだろう?

「よって候補生の間はその二つを徹底的に鍛える事となっています」
「……はぁ……」
 いやな予感がする。

「なのでその訓練方法がほとんど実践訓練になるのです」
 やっぱりなと私は頭をかく。

「……その……一応聞くけど、その実践ていうのは、この間みたいに……?」
「ええ、ベヒモスとの戦闘が半分になりますね」

 まぁ……それは覚悟していた。
 というかベヒモスが私の両親の仇だと知った今の私なら、むしろ望むところだと言いたいところだ。
 戦闘は怖いし痛いし嫌だけれど、もはや避けて通っては行けない道だ。
 私は心の中で、密かに覚悟を決めた。

「……あの、大丈夫ですか宝塚さん……?」

 菜々ちんが私の手を握ってくる。気がつけば私の手は震えていた。
 ダメだな……あの一件以来、ベヒモスの事を思うと憎しみが湧き上がって止まらなくなっている。

「あ、いや……あはは、大丈夫……ちょっと武者震いしちゃって」
「これからかなり危険な場面も多くなると思います。その為、候補生にはそれを手助けする補佐官が付くんです。それが私と百恵さん……と言うことなんですよね?」

 いまだ背中に張り付いておっぱいを揉んでいる妖怪を睨みつける菜々ちん。

「あ~~……まぁ、そんな感じよぉ……そんでねぇ~~今から二人にはぁ」
「吾輩は断るぞっ!!」

 何かを言いかけた妖怪の言葉を遮って、百恵ちゃんが叫んだ。

「なんで吾輩がヒロインみたいな後輩の補佐などせねばならんのだっ!! 訓練生で一番だったのは吾輩だったはずだろう!? オジサマも吾輩の事を一番期待していると言ってくれたっ!! それがなんだっ!!??
 お前が来たとたんみんなヒロインヒロインと……お前なんかちょっと珍しい能力が使えるだけのド素人じゃろうが!! 
 そんな者がいきなり監視官候補生じゃと!? 吾輩は認めん、認めんぞっ!!」

「……も、百恵ちゃん」
「我輩ですら候補生になれずに戦闘員なのじゃぞっ!!」

 怒りをむき出してフーフーと肩で息をする百恵ちゃん。
 目にはうっすらと涙まで浮かべている。
 彼女の怒りはもっともで、入ってからまだほとんど日も経っていない私が、それまで必死で訓練してきた人達をごぼう抜きにして出世しようというのだ、彼女でなくても誰でも気分は悪いだろう。

 ましてや百恵ちゃんはまだまだ子供で、人一倍自尊心も強い。ならばなおさら私のことが許せないはずである。
 そんな彼女に姉である死ぬ子先生はそっと近づき、頭を優しく撫でて言う、

「宝塚さんの方が優秀なのだから仕方ないことでしょう?」

 身も蓋もなく、真実を。

「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 私は初めて見た。リアルに大魔神変化する人間と言うものを。




 その後の姉妹喧嘩は凄まじいものだった。
 百恵ちゃんが能力の空気爆弾(?)を放とうとすると、すかさず先生が抱きつき、ファントム結界を反応させ能力を相殺させる。
 あとはその衝撃にどちらが耐え続けられるかの我慢比べ。
 勝負は言うまでもなく変態ドMの姉の圧勝。
 あわれ百恵ちゃんは体をピクつかせ泡を吹いて昇天してしまった。

「……私、戦闘能力が無さそうな死ぬ子先生がどうして監視官になれたが疑問に思ってたんだけど……ちょっと理由がわかったわ」
「……先生は特殊なんで……あまり参考にしないほうがいいですよ」

 眉間をつまみながら菜々ちんが忠告してくれる。
 うむ、言われずともわかっている。

「まぁ……そういうわけでぇ~~……これからぁ、チームになる二人にもぉ……見ておいてもらおうかなぁ、と思ってねぇ~~ふふふふふふふ」

 そう言って不気味に笑い、ゆら~~りと百恵ちゃんの襟を掴んで引きずりつつ、先生は集中治療室の扉に手をかけた。

「見ておくって……何をですか」
「恐ろしさを……よ、宝塚さんこの子のね、うふふふふふふふふふふふふ……」

 尋ねる菜々ちんに、隠していた宝物でも見せる子供のように無邪気な、しかし狂気に満ちた笑顔で先生は笑った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...