超能力者の私生活

盛り塩

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第70話 いびつな力①

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「ベヒモスをこの世から消し去りたい、そのための力が欲しいです~~ぅ」

 顎をシャクらせ、馬鹿がアホな顔をして私を挑発している。

 ここは施設の無料食堂『尾栗庵』
 昼食を取っている私の前に勝手に座り、さっきから喧嘩を売り続けている頭の悪そうな看護師は、私の担任教官の死ぬ子という名の生物だ。
 所長との会話を部屋の外で聞いていたらしく、その事について私に突っかかってきているのだ。

「ってアホかぁ~~……そんなことぉ~~私ゃぁぁぁぁぁ最初っからぁ~~~~いってるだろうがぁ~~~~…………!!」

 わしっと弱々しい握力で私の頭を掴み、かじりついてくる。

「あんたわぁ~~……わたぁしのぉうぅ~~言葉うぁ~~……ぜんぜん聞いてないのねぇ~~~~???? 死ぬわよぅ……死んじゃうわよぉ~~……??」

 パンダのように目のクマを育てた馬鹿が、あいかわらずウザいテンションで私を脅迫してくるが、慣れとは怖いもの。もうすっかり気にしなくなっていた。

「先生に無理やりやらされるのと、私が自発的にやろうとするんじゃ意味が全然違いますよ? ……教官ならやる気を出した生徒を少しは褒めたらどうですか?」

 料理長の作ってくれた『極盛り一升オムライス』を口に運び文句を返す。

「あんたのぉ~~嫌がる顔を見るのがぁぁ私の趣味なんじゃないのよぅぅっ!!」

 ベチベチベチ。
 本気で涙を流しながら机を叩く性悪根暗阿呆教官。
 ウエイトレスの宇恵ちゃんはもちろん料理長までもがこの席に近づこうとしない。
 来たときはまだ、まばらに座っていた組織の職員さんたちも、死ぬ子先生の顔を見たとたん、そそくさと消えていき店は私たち二人になっていた。

「……おい。なんの罰ゲームだこれは?」
「心の声がぁ、出てるわよぅ~~……」

 トマトジュースを垂らしながらニタリと笑うオバケ先生。
 前回の外面モードの面影などまるで無い。一体このキャラチェンジには何の意味があるのだろうかと聞きたいのだが、聞いたところで時空のよじれた答えが帰って来るだけの気がして放置することにする。

「ところで……私、あの後どうなったんですか? あのベヒモス……瞬は?」

 所長に聞いてみたのだが、今は訓練のことは考えずゆっくりしていたまえ、とはぐらかされてしまったので、せめてこの機会に聞いてみる。

「瞬はぁ……生きてるわよぉ~~?? 多分ねぇ……うふふぅ……」

 含みのある言い方だ……なんだろう?

「あなたわぁ~~……あの後ぅ……大変だったのよぅふふふふふっふ」

 変態妖怪の話によると、あの後、なんとか暴走を抑え込んだ私は意識を失ったが、しかし能力の過剰解放は続いていたようだ。
 つまり、暴走しかけた余韻で回復能力が止まらなくなり、私の精力はどんどん失われてかなり危険な状態に陥ったらしい。
 能力の空打ちで身は削られ、マンションの事件の時のようにミイラ化しかかったそうで、放っておけばそのまま衰弱死する可能性すらあったという。

「不死身のあなたがぁ~~……その能力で死ぬとかさぁ、お洒落じゃないぃ? 羨ましかったわぁ~~~~~~……私もそんなぁ、皮肉な死に方したい……あふう……」

 趣味全開で私の衰弱死を見守っていた死ぬ子先生に待ったをかけたのはJPASの隊員さんだったらしい。
 機転を利かせた彼は、瞬を生贄にして私の精力を補充してみてはどうかと進言してくれて、死ぬ子アバズレ喪女先生もしぶしぶそれに従ったという。

 ……後でその人に菓子折りでも持っていくことにしよう。

 ともかく、瞬から精力を吸収した私は落ち着きを取り戻し、穏やかな眠りについたということだ。

「……で、けっきょく瞬はどうなったんですか?」

 もう一度繰り返した私の質問に、死ぬ子先生はなぜかポッと顔を赤らめて指をちゅぱちゅぱしながら「それはぁ、自分の目で確かめてごらんなさいな♡」と言った。

 もう嫌な予感しかしなかった。




 死ぬ子先生に指定された場所は、私もお世話になったJPA御用達の例の病院である。どうやらここの、とある場所で瞬が治療を受けているとのことだが……。
 怖いものを見せられる前のような複雑な気持ちを抱えてタクシーから降りる。
 受付でJPAのバッジを見せると職員さんが特殊なカードを渡してくれた。
 このカードがなければこの先の特殊区画に入ることが出来ないとのことだ。
 それを首にかけ、地図で教えられたJPA関係者専用病棟への扉へと向かった。

 指定された扉に、カードを差し込むとプシュンと音がして扉が左右に消えていった。

「お~~~~……これはちょっと気分がいいかも……」

 おそるおそる中に入り、様子を確認しながらため息を漏らす。
 ちょっと前まで貧乏勤労少女だった私が、なんの因果か今はこうして選ばれしものしか入れないような空間に足を踏み入れている。
 なんだか自分がちょっと格上の存在になった気がして優越感がこみ上げて来る。
 ――――が、

「遅かったわねぇ~~……先生ぃ……すっぽかされたと思ってぇ……いまぁ、手首切ろうとしてたのよぉぅ~~……ふふふふふ♡」

 廊下の真ん中でカッターナイフを片手に座り込む我が教官を発見し、さっきのは全て勘違いだと反省する。

「……そうだよな……こんな変態にモノを教わってる時点で私も終わってるな……」
「なにをぉ……ブツブツいってるのかしらぁ~~? さぁ……こっちへいらっしゃい~~……。いいものをぉ~~見せてあげるわぁ~~……」

 ふふふふふふふふふふふふふふふ……と通路を先導する死ぬ子先生。
 私はやっぱり嫌な予感しか感じずに、その後をついて行った。
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