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第69話 決心
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ギリギリギリギリ……。
「カ……カカッ……カッ!!」
喉から絞り出したような声が漏れる。
渾身の力を込めて、私は瞬の首を締め上げていた。
復讐心が爆発する。
自分でも抑えが効かない。
「お母さんの……お父さんの……仇ぃぃぃぃっ!!!!」
爪が首にめり込み、血が溢れ出てくる。
その生暖かさを感じながらも私の理性は戻ることがなく、むしろ暴走は強まって体に力が溢れてくる。
――――ゾワッ!!
体から何かが離れていく感じがした。
本能で、それが私のファントムだと気付いたが。
――――だからどうしたと私は思考した。
ファントムが体から離れれば離れるほど理性は薄くなり、逆に力が湧いてくる。
ああ、悪魔に魂を売るのってこういう感じなんだな……。
案外悪くないな……そう思ったとき――――。
「それはだめよ?」
――――チャッ。
死ぬ子先生の銃が私のこめかみにあてられた。
「……あなた、ベヒモスになるつもり? 戻ってきなさい」
見れば死ぬ子先生だけじゃない。
いつの間にか、私には十数丁の銃口が向けられていた。
みなそれぞれに私服を着ているが、雰囲気でJPASの戦闘員だとわかった。
この人達どこから……いや、最初からいたのか?
最初から私たちを……じゃないな、たぶん私を観察していたんだ。
死ぬ子先生の指示で。
「ぐ……ぐうぅぅ……」
フーフーと荒い息を吐きながら無意識に涙を流す私。
「ソレは仇じゃないわ。手を離しなさい」
銃を下ろし、代わりに手を差し伸べてくる死ぬ子先生。
先生の瞳の中には鬼の形相をした私がいた。
額には玉になった汗がいくつも浮かんでいる。
周りの私服隊員たちもみな鬼気迫る顔で私を取り囲んでいる。
その顔を見て、今、私がどれほど危険な状態なのかを察する。
『持っている超能力が強力であればあるほどベヒモス化した時の暴走がひどいのさ』
料理長の言葉を思い出す。
そうか……いま私……暴走しかかってるんだ。
両親が死んだ原因を知って。そしてその仇を前にして理性を失った。
先生の言う通りこれは別のベヒモスで、仇じゃない。
でも同じ悪鬼で殺人者だ。
そう思うと生かしておくなんて考えられなかった。
私の手で破壊しなければと我を失った。
その為の力を欲して、私は仇であるベヒモスへと身を落とそうとしている?
「は、ははは……」
馬鹿な、なんの冗談ですか?
笑えない。それは笑えないです。
私は悪魔との契約を中断し、手の力を抜くことが出来た。
目を覚ますと天井が見えた。
板張りの格天井に和調の照明。
いつもと違う匂いがするこの部屋は一体どこだろう。
ぼんやりした頭で考える。
「ああ……私の部屋だね」
そこは住み慣れたアパートじゃなく、寮代わりの旅館部屋。
大きな窓から見える富士山が美しい。
「はぁ~~まだまだ環境に慣れないなぁ~~」
もぞもぞと芋虫のように起き上がり、時計を見る。
午前十時くらい。
寝すぎたな……ええっと、今日の予定は何だっけ。
しばし考える。
そして――――何となく思い出されてくる記憶。
「あ……あぁ~~~~……私、たしか暴走しかけて……。
あれ、その後、どうなったんだっけ? ……思い出せない」
頭を抱える私。と――――、
「大丈夫。気を失っただけだよキミは♡」
「うわわわわっ!???」
いきなり横から息をかけられ飛び上がる。
――――ドゴンッ!!
間髪入れず炸裂する私の右ストレート。
その拳の先にはオールバックの中年紳士――――所長がいた。
「……や、やぁ宝塚君……ゴッドモーニンだよぉ」
鼻血を噴き出しながら、そっと顔面にめり込んだ拳をどける所長。
「な、な、な、何をしているんですか!? 私の部屋で!??」
「何って……心配して見てただけだよう?」
言葉とは正反対に、ものすごく嫌らしい目で私を舐めるように見回してくる変態中年紳士。
「うぉぉぉおおぉぉぉっ!!」
私はすかさず全身をチェックした!!
「服!? 下着っ!?? ああぁぁぁっ新品だぁぁっ!!!!」
「してないしてない。僕はなぁ~~んにもしてないよ? やったのは仲居さんだから安心したまえよ?」
「鼻の下伸ばしまくった顔して何言ってんですか!!」
「馬鹿だなぁ、本当にイタズラしてたら僕はむしろ真面目な顔をしているよ?
それに、どちらかと言うと痩せているキミのほうがタイプだからねぇ、どうせならその時にさせてもらうさ」
「……ぐぬぬ、た、確かにそうだ」
認めてしまう自分が悲しい。
でもあれ? ……私、いつの間におデブ回復していたんだろう?
「キミはまた三日間ほど寝てたんだよ? その間は七瀬先生がキミの体調を管理していたよ。彼女は看護師としても優秀だからねぇ、すっかり回復しただろう」
悪い知らせに私はふたたび頭を抱えた。
大丈夫か? 点滴と見せかけてオレンジジュースでも入れられてないだろうな?
と、所長が急に真面目な顔になって語りだした。
「覚えているかい? キミは一度ベヒモスになりかけたんだよ。
ギリギリのところで戻って来てくれたが、一歩間違えたら我々はキミを処分しなければいけないところだった……。
これは完全に我々の落ち度で、キミには本当に申し訳ない事をしたと思っている」
そして深々と頭を下げる所長。
いきなりの大真面目な謝罪に面食らった私は、
「い、いやいや……あれは私が夢を見て、その……勝手に暴走しちゃったわけで」
事情を説明する。
幼い時の事故のこと、両親の死のこと。
その原因がベヒモスの暴走によることだったこと。
それを知って私は自分の歯止めが効かなくなったこと。
そして――――、一つ決心をしたこと。
「所長、私……」
「ん? ……なんだい?」
私は優しく私を見てくれる所長にその決心を伝えた。
「ベヒモスを……あの、悪魔を……この世から消し去りたい……そのための力が欲しいです」
この言葉を聞いて、所長はなぜか笑わなかった。
「カ……カカッ……カッ!!」
喉から絞り出したような声が漏れる。
渾身の力を込めて、私は瞬の首を締め上げていた。
復讐心が爆発する。
自分でも抑えが効かない。
「お母さんの……お父さんの……仇ぃぃぃぃっ!!!!」
爪が首にめり込み、血が溢れ出てくる。
その生暖かさを感じながらも私の理性は戻ることがなく、むしろ暴走は強まって体に力が溢れてくる。
――――ゾワッ!!
体から何かが離れていく感じがした。
本能で、それが私のファントムだと気付いたが。
――――だからどうしたと私は思考した。
ファントムが体から離れれば離れるほど理性は薄くなり、逆に力が湧いてくる。
ああ、悪魔に魂を売るのってこういう感じなんだな……。
案外悪くないな……そう思ったとき――――。
「それはだめよ?」
――――チャッ。
死ぬ子先生の銃が私のこめかみにあてられた。
「……あなた、ベヒモスになるつもり? 戻ってきなさい」
見れば死ぬ子先生だけじゃない。
いつの間にか、私には十数丁の銃口が向けられていた。
みなそれぞれに私服を着ているが、雰囲気でJPASの戦闘員だとわかった。
この人達どこから……いや、最初からいたのか?
最初から私たちを……じゃないな、たぶん私を観察していたんだ。
死ぬ子先生の指示で。
「ぐ……ぐうぅぅ……」
フーフーと荒い息を吐きながら無意識に涙を流す私。
「ソレは仇じゃないわ。手を離しなさい」
銃を下ろし、代わりに手を差し伸べてくる死ぬ子先生。
先生の瞳の中には鬼の形相をした私がいた。
額には玉になった汗がいくつも浮かんでいる。
周りの私服隊員たちもみな鬼気迫る顔で私を取り囲んでいる。
その顔を見て、今、私がどれほど危険な状態なのかを察する。
『持っている超能力が強力であればあるほどベヒモス化した時の暴走がひどいのさ』
料理長の言葉を思い出す。
そうか……いま私……暴走しかかってるんだ。
両親が死んだ原因を知って。そしてその仇を前にして理性を失った。
先生の言う通りこれは別のベヒモスで、仇じゃない。
でも同じ悪鬼で殺人者だ。
そう思うと生かしておくなんて考えられなかった。
私の手で破壊しなければと我を失った。
その為の力を欲して、私は仇であるベヒモスへと身を落とそうとしている?
「は、ははは……」
馬鹿な、なんの冗談ですか?
笑えない。それは笑えないです。
私は悪魔との契約を中断し、手の力を抜くことが出来た。
目を覚ますと天井が見えた。
板張りの格天井に和調の照明。
いつもと違う匂いがするこの部屋は一体どこだろう。
ぼんやりした頭で考える。
「ああ……私の部屋だね」
そこは住み慣れたアパートじゃなく、寮代わりの旅館部屋。
大きな窓から見える富士山が美しい。
「はぁ~~まだまだ環境に慣れないなぁ~~」
もぞもぞと芋虫のように起き上がり、時計を見る。
午前十時くらい。
寝すぎたな……ええっと、今日の予定は何だっけ。
しばし考える。
そして――――何となく思い出されてくる記憶。
「あ……あぁ~~~~……私、たしか暴走しかけて……。
あれ、その後、どうなったんだっけ? ……思い出せない」
頭を抱える私。と――――、
「大丈夫。気を失っただけだよキミは♡」
「うわわわわっ!???」
いきなり横から息をかけられ飛び上がる。
――――ドゴンッ!!
間髪入れず炸裂する私の右ストレート。
その拳の先にはオールバックの中年紳士――――所長がいた。
「……や、やぁ宝塚君……ゴッドモーニンだよぉ」
鼻血を噴き出しながら、そっと顔面にめり込んだ拳をどける所長。
「な、な、な、何をしているんですか!? 私の部屋で!??」
「何って……心配して見てただけだよう?」
言葉とは正反対に、ものすごく嫌らしい目で私を舐めるように見回してくる変態中年紳士。
「うぉぉぉおおぉぉぉっ!!」
私はすかさず全身をチェックした!!
「服!? 下着っ!?? ああぁぁぁっ新品だぁぁっ!!!!」
「してないしてない。僕はなぁ~~んにもしてないよ? やったのは仲居さんだから安心したまえよ?」
「鼻の下伸ばしまくった顔して何言ってんですか!!」
「馬鹿だなぁ、本当にイタズラしてたら僕はむしろ真面目な顔をしているよ?
それに、どちらかと言うと痩せているキミのほうがタイプだからねぇ、どうせならその時にさせてもらうさ」
「……ぐぬぬ、た、確かにそうだ」
認めてしまう自分が悲しい。
でもあれ? ……私、いつの間におデブ回復していたんだろう?
「キミはまた三日間ほど寝てたんだよ? その間は七瀬先生がキミの体調を管理していたよ。彼女は看護師としても優秀だからねぇ、すっかり回復しただろう」
悪い知らせに私はふたたび頭を抱えた。
大丈夫か? 点滴と見せかけてオレンジジュースでも入れられてないだろうな?
と、所長が急に真面目な顔になって語りだした。
「覚えているかい? キミは一度ベヒモスになりかけたんだよ。
ギリギリのところで戻って来てくれたが、一歩間違えたら我々はキミを処分しなければいけないところだった……。
これは完全に我々の落ち度で、キミには本当に申し訳ない事をしたと思っている」
そして深々と頭を下げる所長。
いきなりの大真面目な謝罪に面食らった私は、
「い、いやいや……あれは私が夢を見て、その……勝手に暴走しちゃったわけで」
事情を説明する。
幼い時の事故のこと、両親の死のこと。
その原因がベヒモスの暴走によることだったこと。
それを知って私は自分の歯止めが効かなくなったこと。
そして――――、一つ決心をしたこと。
「所長、私……」
「ん? ……なんだい?」
私は優しく私を見てくれる所長にその決心を伝えた。
「ベヒモスを……あの、悪魔を……この世から消し去りたい……そのための力が欲しいです」
この言葉を聞いて、所長はなぜか笑わなかった。
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