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第68話 ドキドキ大作戦⑦
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真っ黒な海に落とされた私は、体の自由も許されず、揺らぎの中をたゆたう。
懐かしい声がした。
お母さんの声だった。
お父さんもいた。
二人とも何かを言っていたがその声は私には届かない。
死んだ二人に出会えてもっと嬉しいかと思っていたが、不思議とそこまでの感情は湧いてこなかった。
それはきっとこれが夢だと気付いているから。
場面が変わった。
私は両親と車に乗っていた。
遊園地に行った帰り。
私は遊び疲れてうとうとと微睡んでいる。
助手席から母が優しい笑顔で微笑んでくれている。
ああ――――私、幸せだったなぁ……。
でも、そんな幸せは、もう、すぐ終わる。
ギキキキッ!!
対向車がセンターラインを越して突っ込んでくる。
お父さんが必死にハンドルを切るが間に合わない。
母が助手席から無理な体制で、後部座席に座る私を庇おうと身をよじってくる。
激しいショックが私たちを襲う。
私の体に触れかけた母の手は、すんでのところで離れて、母の体は白いシートに飲み込まれる。
風船の影から見えたのは対向車の運転手。
充血した目は明後日の方を向き、裂けるほど開かれた口は涎まみれでとても正気とは思えなかった。
そこで景色が暗くなる。
もう何度見た夢だろう。
何度見て泣いた夢だろう。
もう見たくない。
見る度に寂しさの津波に飲み込まれて気が狂いそうになるから。
でも。
不思議と親が出てきてくれる夢はこれしかなかった。
だから何度も何度も見るんだろう。
そして、涙に溺れながら目覚めるんだ。
いつもなら。
でも、今回は違った。
一つ気が付いたことがあった。
この夢はその為に見ていたのかもしれない。
両親が見せていてくれたのかもしれない。
私の大切なお母さんを、お父さんを殺したヤツは――――ベヒモスだった。
「ふう……ちょっと、やりすぎちゃったかしら?」
死ぬ子は撃ち殺してしまった教え子を見下ろし、口角を下げた。
どうにも血を見ると興奮していけない。
まぁ、これもデータになるからやったことだが、趣味が多分に入っているのは否定しない。
「さて、どうなるかしらね?」
スマホで撮影しながら教え子の様子を観察する。
二発の銃創を修復した宝塚の体は精力を消耗し痩せてしまっている。
これまでのデータを見る限り、よほど小さな傷は別として、ある程度の怪我ならば大小に関わらず身体の収縮は起こるようである。そしてそれは一気にある程度の体型まで進み、止まる。
ナイフで刺されても同じだけ収縮する。
銃で撃たれても同じ。
常識的に考えれば傷の大きさに比例して、体の消耗も無段階に変化しそうだが。
そうなると、回復の条件に回数が含まれてくるのか? と言う疑問が上がる。
どんな傷でも最初の一回で普通体型まで消耗し、次の一撃でさらにもう1段階消耗する。
マンション襲撃のデータでは三回目の致命傷あたりで能力が弱まってきていた。
シュウシュウと宝塚の頭から湯気が上がる。
怪我を修復している合図だ。
やがて湯気がおさまり、傷口は綺麗に無くなっていた。
「……大したものね」
超能力と言うよりも神の御業と言ったほうがいいその力に素直に感嘆する。
体型にはまったく変化は無かった。
予想だと、今回の回復で彼女の体は枯れ木のようにやせ細るはずだったが。
「ふうん……と、なると最初の一痩せは能力始動の合図みたいなもので、後はダメージによるってことかしら?」
超能力の種類と発動条件は人によって十人十色。ほぼ無限。
似た能力には多少のセオリーはあるが、宝塚のようなレア能力には参考になる事例が極端に少ない。
なので、面倒だが一つ一つ確かめていかねばならない。
「銃撃三発までは変化なし……と」
さらさらとメモを取る死ぬ子。
「よし、じゃあもう一発」
カチャッと撃鉄を起こす。
「今度は心臓でも潰してみようかしら」
ニタリと笑い引き金を引こうとしたところで、
――――カッ!!
と、宝塚の見開かれた。
「おおおぉぅ!! びっくりしたっ!!」
銃を私に向けながら死ぬ子先生が驚いている。
私の意識はまだ半分雲がかかった状態だ。
「あれ……えっと、私、どうして……」
いまいち状況がわからず、とりあえず立ち上がる。
「どうかしら、気分は? とくに頭の状態はどう? 記憶は?」
興味津々といった感じで私の体をペタペタ触ってくる。
「頭の状態?? 記憶……?? あ~~なんか夢を見ていた……」
呟き、気付いた。
瞬の存在に。
「夢? それはなに、走馬灯的なやつかしら?」
「……ベヒモス」
「ん?」
私は瞬からベヒモスの気配を感じ取り――――そして理性を失った。
――――ガッ!!
瞬の首に手をかける。
ギリギリと締め上げ、瞬の額から血管が浮かび上がった。
「カ……カッ……」
痙攣し、口から泡を吐き、目が半開きになる。
その目を見た時、あの夢のベヒモスと重なり、私の手にはさらに力が入った。
今まで気づかなかった。
気付けるはずもなかったが。
でも気付けた。
組織に入ったおかげだ。
そう、ベヒモスは親の仇。
私は戦う運命だったのだ。
――――この化け物どもと。
懐かしい声がした。
お母さんの声だった。
お父さんもいた。
二人とも何かを言っていたがその声は私には届かない。
死んだ二人に出会えてもっと嬉しいかと思っていたが、不思議とそこまでの感情は湧いてこなかった。
それはきっとこれが夢だと気付いているから。
場面が変わった。
私は両親と車に乗っていた。
遊園地に行った帰り。
私は遊び疲れてうとうとと微睡んでいる。
助手席から母が優しい笑顔で微笑んでくれている。
ああ――――私、幸せだったなぁ……。
でも、そんな幸せは、もう、すぐ終わる。
ギキキキッ!!
対向車がセンターラインを越して突っ込んでくる。
お父さんが必死にハンドルを切るが間に合わない。
母が助手席から無理な体制で、後部座席に座る私を庇おうと身をよじってくる。
激しいショックが私たちを襲う。
私の体に触れかけた母の手は、すんでのところで離れて、母の体は白いシートに飲み込まれる。
風船の影から見えたのは対向車の運転手。
充血した目は明後日の方を向き、裂けるほど開かれた口は涎まみれでとても正気とは思えなかった。
そこで景色が暗くなる。
もう何度見た夢だろう。
何度見て泣いた夢だろう。
もう見たくない。
見る度に寂しさの津波に飲み込まれて気が狂いそうになるから。
でも。
不思議と親が出てきてくれる夢はこれしかなかった。
だから何度も何度も見るんだろう。
そして、涙に溺れながら目覚めるんだ。
いつもなら。
でも、今回は違った。
一つ気が付いたことがあった。
この夢はその為に見ていたのかもしれない。
両親が見せていてくれたのかもしれない。
私の大切なお母さんを、お父さんを殺したヤツは――――ベヒモスだった。
「ふう……ちょっと、やりすぎちゃったかしら?」
死ぬ子は撃ち殺してしまった教え子を見下ろし、口角を下げた。
どうにも血を見ると興奮していけない。
まぁ、これもデータになるからやったことだが、趣味が多分に入っているのは否定しない。
「さて、どうなるかしらね?」
スマホで撮影しながら教え子の様子を観察する。
二発の銃創を修復した宝塚の体は精力を消耗し痩せてしまっている。
これまでのデータを見る限り、よほど小さな傷は別として、ある程度の怪我ならば大小に関わらず身体の収縮は起こるようである。そしてそれは一気にある程度の体型まで進み、止まる。
ナイフで刺されても同じだけ収縮する。
銃で撃たれても同じ。
常識的に考えれば傷の大きさに比例して、体の消耗も無段階に変化しそうだが。
そうなると、回復の条件に回数が含まれてくるのか? と言う疑問が上がる。
どんな傷でも最初の一回で普通体型まで消耗し、次の一撃でさらにもう1段階消耗する。
マンション襲撃のデータでは三回目の致命傷あたりで能力が弱まってきていた。
シュウシュウと宝塚の頭から湯気が上がる。
怪我を修復している合図だ。
やがて湯気がおさまり、傷口は綺麗に無くなっていた。
「……大したものね」
超能力と言うよりも神の御業と言ったほうがいいその力に素直に感嘆する。
体型にはまったく変化は無かった。
予想だと、今回の回復で彼女の体は枯れ木のようにやせ細るはずだったが。
「ふうん……と、なると最初の一痩せは能力始動の合図みたいなもので、後はダメージによるってことかしら?」
超能力の種類と発動条件は人によって十人十色。ほぼ無限。
似た能力には多少のセオリーはあるが、宝塚のようなレア能力には参考になる事例が極端に少ない。
なので、面倒だが一つ一つ確かめていかねばならない。
「銃撃三発までは変化なし……と」
さらさらとメモを取る死ぬ子。
「よし、じゃあもう一発」
カチャッと撃鉄を起こす。
「今度は心臓でも潰してみようかしら」
ニタリと笑い引き金を引こうとしたところで、
――――カッ!!
と、宝塚の見開かれた。
「おおおぉぅ!! びっくりしたっ!!」
銃を私に向けながら死ぬ子先生が驚いている。
私の意識はまだ半分雲がかかった状態だ。
「あれ……えっと、私、どうして……」
いまいち状況がわからず、とりあえず立ち上がる。
「どうかしら、気分は? とくに頭の状態はどう? 記憶は?」
興味津々といった感じで私の体をペタペタ触ってくる。
「頭の状態?? 記憶……?? あ~~なんか夢を見ていた……」
呟き、気付いた。
瞬の存在に。
「夢? それはなに、走馬灯的なやつかしら?」
「……ベヒモス」
「ん?」
私は瞬からベヒモスの気配を感じ取り――――そして理性を失った。
――――ガッ!!
瞬の首に手をかける。
ギリギリと締め上げ、瞬の額から血管が浮かび上がった。
「カ……カッ……」
痙攣し、口から泡を吐き、目が半開きになる。
その目を見た時、あの夢のベヒモスと重なり、私の手にはさらに力が入った。
今まで気づかなかった。
気付けるはずもなかったが。
でも気付けた。
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そう、ベヒモスは親の仇。
私は戦う運命だったのだ。
――――この化け物どもと。
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