超能力者の私生活

盛り塩

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第64話 ドキドキ大作戦③

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「な……なにこれ……?」

 私は青ざめながら写真から目を背けた。
 家のガレージだろうか? 薄暗いコンクリートの床にブルーシートを敷き、その上で女性らしき死体をバラバラに分解している瞬。
 その顔は紛れもなく、何回も見たあのベヒモスの顔だった。

「……まだあるわね」

 次の写真はどこかの通りで、闇に紛れつつ人を刺している写真。
 さらに次は、また別の、今度は男の死体を解体している姿。

「こりゃいくらでも出てくるわね、JPASからの報告じゃ、あの子がベヒモス化したのはつい一週間くらい前の話らしいから、その日からずっと人を殺して回ってるって感じかしら?」
「え……てことは、あれは」
「そうね、殺す獲物を探してるってところかも知れないわね?」

 見ると鍵が開いている扉を引き当てたらしく、瞬は躊躇なくその部屋に入り込んでいく。

 ほどなく子供の悲鳴が聞こえた。

「大変じゃないっ!!」
 私が飛び出そうとすると、

「待ちなさい」
 死ぬ子先生に止められる。

「正義の味方じゃあるまいし、いちいち騒動に顔を突っ込まないの。今は様子を見て落ち着いてから接触しましょう」
「い……いやでも、子供の悲鳴がっ!!」
「そろそろ慣れなさい。子供だろうが大人だろうが、私たち超能力者と一般人では別の生き物よ、あなたは子鹿が狼に襲われていたら助けるの?」
「で、でも!! ……ん、じゃあ警察をっ!!」
「あほか!」

 連絡しようとした私の携帯は、はたき落とされた。

「そんなことしたら大騒動になって私たちが接触出来なくなるでしょ!?
 アイツをさらってあなたの能力開発実験をするのが今回の目的なんだからね?」
「だったらどうしろって言うのよ!?」
「だから大人しく見てろつってんのよっ!!」

 私は頭を押さえつけられ、無理やりシートに座らされた。

「……あ」
 そしてマズったような顔をし、自分の掌を見つめる死ぬ子先生。

『わああぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!!!!』
 と、案の定、男の子の悲鳴が聞こえてきた!!

 見ると、部屋から転がり出てくる十歳くらいの少年の姿。
 その顔は怯えて青ざめ、腰も抜けているようだ。
 そしてそれを追いかけ出てくる瞬。手には小さなナイフが握られている。
 額から血を流し、階段を転げ落ちながら逃げる少年。

 その音を聞きつけ、一階のとある部屋の扉が開き、中から水商売っぽい雰囲気の女がうるさそうに顔を出す。
 その女にすがるように少年は這いずり寄るが、異常な雰囲気を察した女は顔を引きつらせ、そして追ってくる瞬の姿を見ると少年を蹴り飛ばして扉を閉める。

「……見なさい。あれが普通の反応よ。
 みんな他人の事なんかどうでもいいんだから。あの少年もそう、今は純粋かもしれないけれど、大人になったらどうせ卑怯で自己中心的な人間に成り下がるんでしょうから放っときなさいな」

 そう言って死ぬ子先生はハンドルにもたれ掛かりつつ、死んだ魚の目で笑う。

「いや……今だって頭の中じゃ何を考えてるかわかんないわね? イジメとか……どうせ見て見ぬ振りして影で笑ってたりするんでしょ?」
「そんなのわからないでしょ!?? あんたどんなけやさぐれてんの!!」
「なによ? あなたの子供の頃にはいなかったの? そんな卑怯者」

 半笑いで私を見つめる先生。
 全てを見透かした目をしている。
 どうせその能力で私の過去を全部調べたんでしょうよ!!
 だから私が昔イジメられていたこともどうせ知っている。だからそんな目でみているんだ!!

「い……いたわよ、いたけど…。
 だからってあの子がそうだとは限らないでしょう!?」

 すると死ぬ子先生は大きなため息をついて、

「はぁ~~~~ぁ、熱くなりなさんな。
 ……世の中のね、ほとんどの人間は悪だって」

 まったくもう、と呟きながらスマホを少年に向ける。
 少年は女に助けを求めるのを諦め、道路へ飛び出そうとしていた。
 その姿を写真に撮り、能力を発動させる死ぬ子先生。

「ほら見なさいな」
 そしてぶっきらぼうに映った画像を私に見せる。

 そこにはあの少年が複数の仲間と一緒に、同い年ぐらいの男子のをトイレの便器に押し込んでいる姿が写っていた。
 相手の顔を大便器に押し込んで大笑いするその少年の顔は醜く、純粋などと言う言葉とはまるで無縁に写っていた。

 私は言葉を失い、瞬に捕まって悲鳴を上げている男の子を見つめた。

「ま、これも因果応報ってやつでしょ? わかった?
 わざわざ私たちが助けてあげるほどの価値もない餓鬼ってことよ」

 つまらなそうにアクビをして、瞬にナイフを突き立てられる少年を眺める先生。
 暴れているせいで狙いが逸れたか、ナイフは肩に刺さったようだが、しかしすぐさま引き抜かれ次の一撃のために振り上げられる。

 私は死ぬ子先生のスカートを思いっきりめくった。

「ぎゃぁっ!! な、何するのよっ!?」

 べつにこのオバハンのパンツには興味は無い。
 私の目的は、その太ももに巻かれたホルスターだ。
 素早くカバーを外し、中の銃を奪い取る。

「あ、こら!! 返しなさいっ!!」

 菜々ちんと同じく、攻撃系統の能力者じゃない先生はおそらく護身用として持っているだろうと読んでいた。

 そうじゃなくともこの女、以前私を撃っている。
 絶対どこかに隠し持っている確信があった。
 私はその手の平サイズの小型拳銃を構え、車を飛び出る。

「ばか、だから余計なことに首を突っ込むなって!!」
「わかってますっ!! でも我慢出来ないんですっ!!
 理屈じゃなくてっ!! 我慢できないんですよっ!!!!」

 叫んで私は走り出した。
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