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第51話 ベヒモス⑦
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「ベヒモス化とは、すなわち能力の暴走です。
私たち超能力者は能力を行使すると言っても、その力の全てを解放出来るわけではありません。個人差はありますけど、せいぜいが二、三割程度だと言われています
それがベヒモス化してしまうと――――」
「100%の力を出してしまうってこと?」
菜々ちんの言わんとしていることは話の途中で理解出来た。
よくある人体の筋力の限界リミッターみたいなものだろう。
本来はもっと力を出せるが、体のダメージを防ぐために普段は無意識に力をセーブしているというあれだ。
「そうです……今、彼女は精神の破壊を代償に100%の能力を開放しています」
眉を引き締め、拳を握りしめ、言葉を絞りだす菜々ちん。
暴走したファントムが彼女の精神を食いちぎり暴れているという事なのだ、先輩のそんな姿を見せられている彼女はきっと身を引き裂かれる思いに違いない。
「……弾丸を避けられたのは、彼女の持つ部分的瞬間移動が、能力の全開放によってさらに上位の能力に進化したからでしょう。……おそらく、今の彼女は完全な瞬間移動が出来るはずです」
ダラララララララララララララララララララララララララララッ!!!!
みたびマシンガンから火が放たれる。
標的の楠隊員は一見その弾丸を全身に浴びているように見えるが、よく見ればその姿が物凄い速さで瞬き、分身している。
「弾丸が命中した瞬間、反射で瞬間移動し、避けていると思われます」
「反射!? そんなこと出来るの!??」
「本来の人間には不可能ですが、ベヒモス化されて神経伝達系も研ぎ澄まされていますから可能です」
神経までも!?
しかしそうか、今までのベヒモスも物凄い脚力と腕力を持っていた。弾丸も通さないほどの筋力もあった。
それがこの楠隊員はさらに超能力まで上乗せされている。
「……え、と……これって物凄くヤバいんじゃ……」
冷や汗をだらだら流しながら菜々ちんを見つめる。
「――――くっそ!!」
疲労困憊ながらも百恵ちゃんが能力《ガルーダ》の一撃をその手に充填する。
彼女の爆発攻撃なら銃器の弾丸とは違って影響範囲が広い、そう簡単に避けられるものではないが――――、
「喰らえ、ガルーダッ!!!!」
圧縮空気が楠隊員の体内に空間移動されたその瞬間、
――――パンッバリバリバリバリバリッ!!!!
雷鳴のような光が走り、能力がかき消される。
「……ぐうっ!!」
悔しそうに顔を歪ませる百恵ちゃん。
「ど、どういうこと!?」
さっきといい、今といい、百恵ちゃんの超能力攻撃すら効いていない。
「……ファントム結界です。
能力者はみんな他の能力に対抗する為の最低限のバリアを無意識に体にまとわせています。今の彼女はそれも最大限に強化されているはずです」
「え? てことは……銃も能力も効かない相手ってこと!??」
「……残念ながらそうなります。……一般人と大差ない程度の弱い能力者の暴走ならばある程度簡単にとめられますが、JPASに所属出来るほどの強者がベヒモス化したとなると……対処は容易ではありません。
…………それでも百恵さんの能力ならば、と思ったのですが、想像以上に能力値が高い個体のようです」
それはすなわち、元の楠彩花が優秀だったということ。
ますます菜々ちんの無念が伝わる。
百恵ちゃんの能力も効かないとあって、戦闘員たちにも動揺が走る。
「……た、隊長っ…!! だ、ダメです。我らでは楠……いえ、この個体は手におえませんっ!! お、応援を!!」
「すでに呼んでいるっ!! 10分持ち堪えろとの事だっ!!」
「10分……そんなに――――、ぐうぅっ!??」
持ち堪えられないと言いたかったのだろう。
しかしその言葉は楠隊員によって遮られる。
「ぐ……ぁ、や、やめろ……く、くすの……き」
瞬間的に間を詰められ、片腕でその首を捕まれ持ち上げられる男隊員。
バタバタともがきケリを入れるが、ベヒモス化した彼女にはまったく効果がない。
「くそっ!! 手を離せ楠っ!!!!」
仲間と密着しているせいで銃が使えない他の隊員は、銃の柄を使って彼女に打撃を打つが――――、ガッ!!
逆にその銃を掴まれてしまう。
「う……ぐぐ、は、離せっ!!」
暴走によって身体のリミッターが外れ、重機のような絶対的腕力を得た彼女は、屈強な男の隊員の抵抗など意にも介さず無理矢理にその銃を引っこ抜くと振り上げ、そして剛速で振り下ろす。
――グシャッ!!!!
脳天に直撃した銃身は、ひん曲がりながらも隊員のヘルメットを粉砕し頭蓋骨を割った。
「ぐ……ぐるぷぶぷ」
痙攣しながら崩れ落ちる哀れな隊員。
「が、かぴゃっ!!!!」
首を締められていた隊員も、喉を潰され、だらりと力が抜ける。
「――――ぐ、撃てぇっ!!!!」
ダラララララララララララララララララララララララララララッ!!!!
リーダー格の号令とともに、またもや一斉掃射が放たれるが、
「く、ぐ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
瞬間移動で瞬きながら全ての弾丸をかわし、その集団へと迫る楠隊員
「ガルーダッ!!!!」
バリバリバリバリッ!!!!
そこへ百恵ちゃんが気力を振り絞って能力を放つが、やはり結界によってかき消されてしまう。
しかし、結界が反応するショックは伝わっているのだろう。楠隊員は一瞬だけ動きを止める。
「お……お前たち逃げよっ!!」
その隙きに号令を飛ばす百恵ちゃん。
『はっ!!』
おそらく立場は彼女のほうが上なのだろう。
その指示に、リーダー格の男を含め、全員が瞬時に従い後退する。
「お前らも逃げよっ!! 下がるのじゃっ!!!!」
私や菜々ちんにも怒鳴りつける百恵ちゃん。
楠隊員の首が彼女の方を向いた。
私たち超能力者は能力を行使すると言っても、その力の全てを解放出来るわけではありません。個人差はありますけど、せいぜいが二、三割程度だと言われています
それがベヒモス化してしまうと――――」
「100%の力を出してしまうってこと?」
菜々ちんの言わんとしていることは話の途中で理解出来た。
よくある人体の筋力の限界リミッターみたいなものだろう。
本来はもっと力を出せるが、体のダメージを防ぐために普段は無意識に力をセーブしているというあれだ。
「そうです……今、彼女は精神の破壊を代償に100%の能力を開放しています」
眉を引き締め、拳を握りしめ、言葉を絞りだす菜々ちん。
暴走したファントムが彼女の精神を食いちぎり暴れているという事なのだ、先輩のそんな姿を見せられている彼女はきっと身を引き裂かれる思いに違いない。
「……弾丸を避けられたのは、彼女の持つ部分的瞬間移動が、能力の全開放によってさらに上位の能力に進化したからでしょう。……おそらく、今の彼女は完全な瞬間移動が出来るはずです」
ダラララララララララララララララララララララララララララッ!!!!
みたびマシンガンから火が放たれる。
標的の楠隊員は一見その弾丸を全身に浴びているように見えるが、よく見ればその姿が物凄い速さで瞬き、分身している。
「弾丸が命中した瞬間、反射で瞬間移動し、避けていると思われます」
「反射!? そんなこと出来るの!??」
「本来の人間には不可能ですが、ベヒモス化されて神経伝達系も研ぎ澄まされていますから可能です」
神経までも!?
しかしそうか、今までのベヒモスも物凄い脚力と腕力を持っていた。弾丸も通さないほどの筋力もあった。
それがこの楠隊員はさらに超能力まで上乗せされている。
「……え、と……これって物凄くヤバいんじゃ……」
冷や汗をだらだら流しながら菜々ちんを見つめる。
「――――くっそ!!」
疲労困憊ながらも百恵ちゃんが能力《ガルーダ》の一撃をその手に充填する。
彼女の爆発攻撃なら銃器の弾丸とは違って影響範囲が広い、そう簡単に避けられるものではないが――――、
「喰らえ、ガルーダッ!!!!」
圧縮空気が楠隊員の体内に空間移動されたその瞬間、
――――パンッバリバリバリバリバリッ!!!!
雷鳴のような光が走り、能力がかき消される。
「……ぐうっ!!」
悔しそうに顔を歪ませる百恵ちゃん。
「ど、どういうこと!?」
さっきといい、今といい、百恵ちゃんの超能力攻撃すら効いていない。
「……ファントム結界です。
能力者はみんな他の能力に対抗する為の最低限のバリアを無意識に体にまとわせています。今の彼女はそれも最大限に強化されているはずです」
「え? てことは……銃も能力も効かない相手ってこと!??」
「……残念ながらそうなります。……一般人と大差ない程度の弱い能力者の暴走ならばある程度簡単にとめられますが、JPASに所属出来るほどの強者がベヒモス化したとなると……対処は容易ではありません。
…………それでも百恵さんの能力ならば、と思ったのですが、想像以上に能力値が高い個体のようです」
それはすなわち、元の楠彩花が優秀だったということ。
ますます菜々ちんの無念が伝わる。
百恵ちゃんの能力も効かないとあって、戦闘員たちにも動揺が走る。
「……た、隊長っ…!! だ、ダメです。我らでは楠……いえ、この個体は手におえませんっ!! お、応援を!!」
「すでに呼んでいるっ!! 10分持ち堪えろとの事だっ!!」
「10分……そんなに――――、ぐうぅっ!??」
持ち堪えられないと言いたかったのだろう。
しかしその言葉は楠隊員によって遮られる。
「ぐ……ぁ、や、やめろ……く、くすの……き」
瞬間的に間を詰められ、片腕でその首を捕まれ持ち上げられる男隊員。
バタバタともがきケリを入れるが、ベヒモス化した彼女にはまったく効果がない。
「くそっ!! 手を離せ楠っ!!!!」
仲間と密着しているせいで銃が使えない他の隊員は、銃の柄を使って彼女に打撃を打つが――――、ガッ!!
逆にその銃を掴まれてしまう。
「う……ぐぐ、は、離せっ!!」
暴走によって身体のリミッターが外れ、重機のような絶対的腕力を得た彼女は、屈強な男の隊員の抵抗など意にも介さず無理矢理にその銃を引っこ抜くと振り上げ、そして剛速で振り下ろす。
――グシャッ!!!!
脳天に直撃した銃身は、ひん曲がりながらも隊員のヘルメットを粉砕し頭蓋骨を割った。
「ぐ……ぐるぷぶぷ」
痙攣しながら崩れ落ちる哀れな隊員。
「が、かぴゃっ!!!!」
首を締められていた隊員も、喉を潰され、だらりと力が抜ける。
「――――ぐ、撃てぇっ!!!!」
ダラララララララララララララララララララララララララララッ!!!!
リーダー格の号令とともに、またもや一斉掃射が放たれるが、
「く、ぐ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
瞬間移動で瞬きながら全ての弾丸をかわし、その集団へと迫る楠隊員
「ガルーダッ!!!!」
バリバリバリバリッ!!!!
そこへ百恵ちゃんが気力を振り絞って能力を放つが、やはり結界によってかき消されてしまう。
しかし、結界が反応するショックは伝わっているのだろう。楠隊員は一瞬だけ動きを止める。
「お……お前たち逃げよっ!!」
その隙きに号令を飛ばす百恵ちゃん。
『はっ!!』
おそらく立場は彼女のほうが上なのだろう。
その指示に、リーダー格の男を含め、全員が瞬時に従い後退する。
「お前らも逃げよっ!! 下がるのじゃっ!!!!」
私や菜々ちんにも怒鳴りつける百恵ちゃん。
楠隊員の首が彼女の方を向いた。
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