超能力者の私生活

盛り塩

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第48話 ベヒモス④

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 頭の傷が修復されてるのを確認して私は胸をなでおろした。
 そして気が付く、

「……あれ!? 私……能力使えた……??」
 自分の手を眺めつぶやいた。

 もう一度力を込めてみるが今度は何も反応しない。
 菜々ちんのときのように傷を見せられて無意識に発動してしまったのだろうか?
 ともかくもう能力を発動させれる気配は無かった。
 腕は細くなっていた。
 体を確認するとやはり痩せてしまっている。

「むおぁおぅっ!?」
 そんな私を見て驚き仰け反る百恵ちゃん。

「……あ、あいかわらずの物の怪っぷりよ」
 そして眉間から一筋汗を伝わせる。

 ――――物の怪!?

「彼女は宝塚さん。あなたと同じPK能力使いで、超能力治療(ヒーリング)の使い手よ。今その能力であなたの怪我を治療してくれたみたいですよ?」

 菜々ちんが状況を解説してくれる。

「ああ、それは知っている。
 吾輩、影からそいつをさんざん観察していたからなっ!! そして昨日、オジサマがその能力をムチャムチャ褒めてたのも盗み聞きしたっ!! ムキィーーッ!!」

 急に腹を立て地団駄を踏む百恵ちゃん。

 か、監視……だと?

 近くにいたPK能力者って……。
 それにオジサマとは所長のことだろう。

 たしか彼女はむかし所長に拾われて、それから異常に懐くようになったとか。
 彼女の過去に何があったのか知らないが、おそらく恩人なんだろう所長に気に入られようと訓練を頑張っているのだとか。
 そこへ、まさにその所長のスカウトで、しかもいきなりJPA配属という鳴り物入りの登場をした私に、猛烈な対抗意識を燃やしているだという。

「ほら百恵さん、宝塚さんにお礼を言って下さい」
 子供に言い聞かせるように菜々ちんが背中を押す。

「やだっ!! 吾輩そんなこと頼んでないもんっ!!
 おいっ、こんな事でいい気になるなよっ!! ベヒモスを倒したのは吾輩なんだからな、お前のほうが先に礼を言えっ!!!!」
「あ、あ、ええ……。え~~と、ありがとう、助かったわ」
「ふんっ!!!! ――――ぺっ!!」

 そっぽを向き、道にツバを吐く百恵。このやろう。

「……と、ともかく、ここは一旦離れたほうがいいですね」

 怒りマークを浮かべた私をなだめるように、菜々ちんは一つ手を叩くと辺りを見回した。
 見れば私ら三人を中心に、こちらを遠巻きに見つめている商店街の人々。
 みんな一様に私たちを奇異な目で見つめており、近づいて来やしない。
 まぁ……今の騷ぎを見られたからね。そりゃそんな反応になるだろう。

「……ふう、また情報操作が大変になりそうですね」
 額を押さえる菜々ちん。

「ふん、ならば吾輩がここら一体を全部吹き飛ばしてやろうか? 目撃者をすべて消せば問題ないのであろう?」
「う~~~~ん……それはそうなんですけど」

 百恵の提案に悩む菜々ちん。
 悩むな悩むな。

「……皆殺しにしてしまったら死体の後処理の手間が増えますし……それに今ならまだ過激派の集団テロに巻き込まれた女子高生で押し通せます。止めときましょう」

 ホッとする私。
 JPA会員の安全と人権を守るため、時として冷酷な判断をしなければいけないというのは分かるが、しかしやはりまだ自分にはそんな決断は出来そうにない。
 パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 起き上がりその場を立ち去ろうとする私たち。
 と、その姿をスマホで撮影している高校生らしき男子が目に入った。

「あ、それ、危ない」
 とっさに声を出す私。同時に百恵ちゃんの指がビシッっとそいつを指す。

 ――――ぐどむっ!!

 鈍い破裂音がして、その男子とスマホが破裂した。

「……このくらいはいいだろう?」
 菜々ちんを見上げる百恵ちゃん。

「……綺麗に砕けてますし、まぁ、良しとします」

 男子学生は気の毒だが、世の中には触れてはならない領域がある。
 その一線を本能で嗅ぎ分け、動かないでいることが長生きするための条件でもあるのだ。その証拠に他の者達は、息を潜め本能の警告音に従い、ただジッと止まって状況が過ぎ去るのを待っているようだ。
 その目に男子学生の死など映ってなどいないのだろう。
 誰も彼の屍に駆け寄る者などいない。

「ふん、では任務も終わったことだし、吾輩は帰るとするか。おい、決着はまた今度つけるからなっ!!」

 そう私を睨みつけ、電動キックボードに飛び乗り、去ろうとする百恵ちゃん。

「――ちょっと待ってください!!」
 しかしその襟首を掴んで止める菜々ちん。

「ぐえっ!! ……な、なんだ? 吾輩、早く帰ってオジサマに褒められ――いや、報告しなければならんのだが!?」

 息を詰まらせつつ文句を言う百恵ちゃんだが、しかし菜々ちんの様子が少しおかしい事に気が付く。

「……どうしたのだ?」

 菜々ちんの体の輪郭にそって少しだけファントムの影が揺らめく。
 それは彼女が能力を使っている証だった。

「……囲まれていますね」
「囲まれているだと!? 何にだ、ベヒモスか!?」
「ええ、他にも触発されて暴走した個体があったようですね」
「数は?」
「10体ですが……その内の一つが」

 ピピピピピピピピピピッ!!

 菜々ちんのポケットからアラーム音が響いてきた。
 取り出し、確認する菜々ちんの表情が歪んだ。
 そして苦渋に満ちた声で言った。

「……その内の一つが、JPAS隊員の個体です」
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