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第43話 菜々ちんとデート①
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「ふふん、ふふふふ~~~~ん」
「あら、ずいぶんご機嫌じゃない?」
上機嫌で鼻歌を歌う大西を、片桐はやや皮肉を込めて見つめる。
「ん~~~~? んふふ、そりゃあね、ご機嫌にもなるよ。
昨日のアレを見せられちゃあね」
所長室のいつもの椅子に腰掛け、ゴルフクラブを磨きながら煙草をくゆらせる。
片桐はソファーに座って紅茶を飲みながらタブレット端末に目を通している。
昨日の最恩菜々と宝塚女優の訓練内容と結果をまとめたファイルである。
下部組織であるJPASの諜報部が集めたそのデータには、昨日の襲撃事件の様子が事細かに記されており、映像と音声もしっかり記録されていた。
「アレ? 見せられた?? ……所長、まさか宝塚さんの記憶を覗いたの?」
ギロリと大西を睨む片桐。
「……まぁ、かたいことは言わないでよ~~? 可愛い訓練生の行く末を案じての親心みたいなもんなんだからさ。
JPASのデータも優秀だけど、やっぱり本人の記憶に勝るものは無いからね。
いや、彼女は素晴らしい、やっぱりとんでもない逸材だったよ」
「フェイルの解析によれば、彼女の能力は超能力治療(ヒーリング)に該当するが、その中でも存在エネルギーと精気のベクトルを操作し、生と死を操ることが出来る『ラミア』に相当する。となっているわね」
「そうだね。精気を吸い取り自分のものにするだけならば『バンパイア』レベルだが、彼女はその上を行く『ラミア』だ。
僕もね『バンパイア』の知り合いはいるけど『ラミア』はまだ出会ったことが無かったよ? 記録上は日本初じゃないかな?」
「幹部連中はどうしているの?」
「大騒ぎだね。ともかく能力の安定性を第一に訓練するようにだってさ。間違っても暴走させないようにと口酸っぱく言ってきたよ」
片桐は端末を机に置き、少し考える。
「……その教官がアレでいいの?」
アレとはメンヘラ女のアレの事である。
「いいでしょう? あの人はあれで十分優秀だよ。きっと彼女のまだ知られざる能力を発掘してくれると思うよ?」
「発掘って……これ以上まだあるっていうの??」
「さあね。でも、僕が『観た』かぎり、彼女のファントムは赤ん坊だったよ?」
普通のカメラではファントムを記録することは出来ない。
なのでその事は直接観察した菜々と、宝塚の記憶を覗いた大西にしか知り得ない情報だった。
「……呆れた。とんでもない子ね」
「いずれキミより怖い存在になるかもね片桐くん?」
それはちょっと想像できないとばかりに肩をすくめる片桐。
しかし大西の目はけっして笑ってはいなかった。
次の訓練を思いつくまで自由行動と言い残し、死ぬ子先生は去っていった。
私は昼まで部屋でゴロゴロし、頃合いを見て菜々ちんに電話を入れた。
様子が気になって仕方がなかったからだ。
彼女の怪我を治したのは覚えている。
私も他人の体を回復させるのは初めての経験だったので、どこまでやれていたのか不安だったのだ。
だが、そんな私の不安も杞憂だったようで、結果は体力の消耗以外は全くの異常なし。傷跡すら残っていなかったようだ。
電話越で菜々ちんに感謝され、私たちは外で落ち合うことになった。
「宝塚さ~~~~ん♡」
語尾に♡をつけて私の胸に飛び込んでくる菜々ちん。
抱きしめられた私の頬に、菜々ちんの頬が擦り付けられる。
通行人がジロジロと私たちを見てくるが、菜々ちんはそんなことお構いなしに懐いてきていた。
ここは旅館から数キロ離れた街のショッピングセンター。
地下一階と地上三階の四階構造で、この辺りでは一番の商業施設らしい。
昨日のお礼になにがご馳走してくれるらしいが、その前に眼鏡を作り直したいというのでここの玄関口で待ち合わせたのだ。
「ち、ちょっとちょっと菜々ちんどうしたの!?」
私は慌てて引き剥がそうとするが、それでも菜々ちんはくっついてくる。
ちなみに今、彼女はコンタクトをしているらしい。
私的には、より一層可愛さが増したように見えるが、メガネ好き紳士にとっては血涙ものかもしれない。それは割った本人に言ってくれ。もう死んでるが。
「ありがとうございますっ!! 救けてくれてっ!! 私もうホント死んでしまうかと思ってました」
「あ、ああいや、それは私も偶然出来たことだし……。そもそも巻き込んでしまったのは私の方だから」
「いいえ、ドジを踏んだ私が悪いんです。宝塚さんがいなかったら今頃……私、あの連中に何されていたことか……」
いや、私がいなかったら、そもそもあんな襲撃は起こらなかったよ?
それでも菜々ちんは私の手を取りブンブン振って感謝を示してくれる。
その様子は完全に女子高生の可愛らしい仕草そのもので、昨日の冷酷なヒットマンと同一人物か疑わしくなってくるほどだ。
「ともかく、ありがとうございます♡ 今日はたっぷりお礼させてくださいね」
と、また、私の豊満な体に顔をうずめてきた。
ううむ……すっかり姫のピンチを救った王子様にされてしまったぞ?
まぁ、悪い気はしないからいいけどね。
「あら、ずいぶんご機嫌じゃない?」
上機嫌で鼻歌を歌う大西を、片桐はやや皮肉を込めて見つめる。
「ん~~~~? んふふ、そりゃあね、ご機嫌にもなるよ。
昨日のアレを見せられちゃあね」
所長室のいつもの椅子に腰掛け、ゴルフクラブを磨きながら煙草をくゆらせる。
片桐はソファーに座って紅茶を飲みながらタブレット端末に目を通している。
昨日の最恩菜々と宝塚女優の訓練内容と結果をまとめたファイルである。
下部組織であるJPASの諜報部が集めたそのデータには、昨日の襲撃事件の様子が事細かに記されており、映像と音声もしっかり記録されていた。
「アレ? 見せられた?? ……所長、まさか宝塚さんの記憶を覗いたの?」
ギロリと大西を睨む片桐。
「……まぁ、かたいことは言わないでよ~~? 可愛い訓練生の行く末を案じての親心みたいなもんなんだからさ。
JPASのデータも優秀だけど、やっぱり本人の記憶に勝るものは無いからね。
いや、彼女は素晴らしい、やっぱりとんでもない逸材だったよ」
「フェイルの解析によれば、彼女の能力は超能力治療(ヒーリング)に該当するが、その中でも存在エネルギーと精気のベクトルを操作し、生と死を操ることが出来る『ラミア』に相当する。となっているわね」
「そうだね。精気を吸い取り自分のものにするだけならば『バンパイア』レベルだが、彼女はその上を行く『ラミア』だ。
僕もね『バンパイア』の知り合いはいるけど『ラミア』はまだ出会ったことが無かったよ? 記録上は日本初じゃないかな?」
「幹部連中はどうしているの?」
「大騒ぎだね。ともかく能力の安定性を第一に訓練するようにだってさ。間違っても暴走させないようにと口酸っぱく言ってきたよ」
片桐は端末を机に置き、少し考える。
「……その教官がアレでいいの?」
アレとはメンヘラ女のアレの事である。
「いいでしょう? あの人はあれで十分優秀だよ。きっと彼女のまだ知られざる能力を発掘してくれると思うよ?」
「発掘って……これ以上まだあるっていうの??」
「さあね。でも、僕が『観た』かぎり、彼女のファントムは赤ん坊だったよ?」
普通のカメラではファントムを記録することは出来ない。
なのでその事は直接観察した菜々と、宝塚の記憶を覗いた大西にしか知り得ない情報だった。
「……呆れた。とんでもない子ね」
「いずれキミより怖い存在になるかもね片桐くん?」
それはちょっと想像できないとばかりに肩をすくめる片桐。
しかし大西の目はけっして笑ってはいなかった。
次の訓練を思いつくまで自由行動と言い残し、死ぬ子先生は去っていった。
私は昼まで部屋でゴロゴロし、頃合いを見て菜々ちんに電話を入れた。
様子が気になって仕方がなかったからだ。
彼女の怪我を治したのは覚えている。
私も他人の体を回復させるのは初めての経験だったので、どこまでやれていたのか不安だったのだ。
だが、そんな私の不安も杞憂だったようで、結果は体力の消耗以外は全くの異常なし。傷跡すら残っていなかったようだ。
電話越で菜々ちんに感謝され、私たちは外で落ち合うことになった。
「宝塚さ~~~~ん♡」
語尾に♡をつけて私の胸に飛び込んでくる菜々ちん。
抱きしめられた私の頬に、菜々ちんの頬が擦り付けられる。
通行人がジロジロと私たちを見てくるが、菜々ちんはそんなことお構いなしに懐いてきていた。
ここは旅館から数キロ離れた街のショッピングセンター。
地下一階と地上三階の四階構造で、この辺りでは一番の商業施設らしい。
昨日のお礼になにがご馳走してくれるらしいが、その前に眼鏡を作り直したいというのでここの玄関口で待ち合わせたのだ。
「ち、ちょっとちょっと菜々ちんどうしたの!?」
私は慌てて引き剥がそうとするが、それでも菜々ちんはくっついてくる。
ちなみに今、彼女はコンタクトをしているらしい。
私的には、より一層可愛さが増したように見えるが、メガネ好き紳士にとっては血涙ものかもしれない。それは割った本人に言ってくれ。もう死んでるが。
「ありがとうございますっ!! 救けてくれてっ!! 私もうホント死んでしまうかと思ってました」
「あ、ああいや、それは私も偶然出来たことだし……。そもそも巻き込んでしまったのは私の方だから」
「いいえ、ドジを踏んだ私が悪いんです。宝塚さんがいなかったら今頃……私、あの連中に何されていたことか……」
いや、私がいなかったら、そもそもあんな襲撃は起こらなかったよ?
それでも菜々ちんは私の手を取りブンブン振って感謝を示してくれる。
その様子は完全に女子高生の可愛らしい仕草そのもので、昨日の冷酷なヒットマンと同一人物か疑わしくなってくるほどだ。
「ともかく、ありがとうございます♡ 今日はたっぷりお礼させてくださいね」
と、また、私の豊満な体に顔をうずめてきた。
ううむ……すっかり姫のピンチを救った王子様にされてしまったぞ?
まぁ、悪い気はしないからいいけどね。
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