超能力者の私生活

盛り塩

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第42話 一夜明けて。

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「住宅街のマンションで過激派組織の抗争。警察官含む12人死亡ねぇ……」

 朝の尾栗庵でモーニングセットのコーヒーを飲みながら朝刊を読み、死ぬ子先生は悶えた。

「いいわぁ……12人も……いいわぁ~~……私も、私も~~……死にたいぃぃ」

 向かいに座って同じくモーニングを食べている私は猛烈に食欲が消えていくのを感じる。
 ちなみに朝食を取っていたのは私のほうが先である。死ぬ子先生は後からやって来たのだ。でなければ私からこの人と相席をするなんてありえない。

 あの後、全ての後処理をJPAの処理班に任せ、所長と片桐さんは私と菜々ちんを連れ旅館に戻って来たらしい。
 菜々ちんの怪我はすべて治っていたらしいが憔悴がひどく、一応、組織の医療施設へ検査に向かわせたとのこと。
 囚われていた亜希さんも無事だったらしく一般病院へ搬送された。
 後の死体は処理班により綺麗に片付けられ、警察やマスコミへの圧力も迅速に行われ、事件はうやむやに処理されたらしい。
 ネット記事やSNSなども情報操作でうまくぼやかしているらしい。

 私は旅館の自室に寝かされ、朝に目覚めた。
 そしてなぜか私の寝顔を観察していた所長に、一発ケリを食らわせ、その折に事の顛末を聞かされたのだ。
 聞かされて、あらためて無茶な騒ぎを起こしたものだと自覚したが、しかし所長からのお咎めは一切無かった。
 あくまでこれは訓練で、しかもけしかけたのは死ぬ子先生。私の責任は一切無いということらしく、むしろ二人を救った事を称賛された。

「そうよぉ~~……気にしなくっていいのよぉう~~ただの実習みたいなモノなんだからぁはぁぁぁ死にたい……」

 実習? あれの一体なにが実習だというのか?
 自分で言うのも何だが、昨日のはただの襲撃である。何も学んでないし訓練もされてない。

「う……」

 昨日の光景を思い出して吐き気がしてきた。

 本当ならば前科が付くほどの事をやらかしたのだ、食欲も無くなるというもの。
 唯一の救いは、相手が生きていく価値がないほどのクズだったということ。
 なので後悔はしていないし反省もしていない。ただ気分が悪いだけ。
 しかしそれとは全く別の思考で猛烈に食べ物を欲する私。
 身体が元のおデブに戻ろうと必死なのだ。
 なので自分の気持とは裏腹に、起きるやいなや食事を取りにやって来たのである。

「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

 クソほど不気味な笑みを浮かべる死ぬ子先生。

「なによぅ~~あったじゃなぁい~~……収穫がぁ~~うふふふふふふふふ……」

 収穫? ……収穫とはあれのことだろうか?

「そおよぉ~~……あなたの能力……すごかったそうねぇ、精気を吸い取ったり与えたり~~……。菜々もそれで救ったんですってぇ~~? とっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっってもステキじゃない、それぇ!??」

 キスしそうな勢いで顔面を近づけてくる変態。私はその顔を掴んでねじる。

「わ、私だってびっくりしているんです!! 自分にまさかあんな能力があったなんて……」
「うふふふふふふふ~~。そうでしょう~~~~~~~……人間ん~~やっぱり追い詰められないとぉ~~才能って発揮できないのよぅ。よかったでしょう~~~~~~~……?? 私の言うとおりにぃ追い詰められてぇえへへへへっへ……」

 いや、微塵も?
 そんな才能の発掘されかたされて感謝するとでも?

「ねぇねぇ、それでさぁぁ?? 先生……お願いがあるんだけどなぁ~~……」

 突然、もじもじと上目遣いでおねだりを始める死ぬ子先生。嫌な予感しかしない。
 すると先生はナイフを取り出し鼻息を荒くする。

「先生ね、今から死のうと思うの。でね、死んだらね、あなたの能力ですぐに生き返らせてほしいのよ。で、また死ぬからそしたらまた生き返らせて……あぁ……生と死の無限ループ…………たまらないわぁ~~……」

 たまらないのはこっちだ、だれか助けてくれ。

 しかし私の能力……たしかにこれは凄い能力かもしれない。
 今までは自分の身体を修復するだけの能力だと思っていたけど、まさか他人の怪我まで治せるとは……。
 さらに相手の精気を吸い取って自分に補充することも可能なんて……。
 ん? となれば私、吸収する相手がいれば、いくらでも自己修復出来るってこと? ううん、自己修復だけじゃない人を治すことも出来る。
 これってかなりチートな力なんじゃぁ??

「……よし、では試しに……」

 おもむろに死ぬ子先生の手首を握る。

「あん……どうしたのぉ~~……やってくれる気になったぁ??」

 もし、先生の精気を吸うことが出来るなら、私は無理に食事をしなくてもすぐに回復出来るはずだ。
 現にあの時、矢島の精気を吸い取って復活している。
 代償に矢島はミイラになってしまったわけだが、まあ、死ぬ子先生も死ぬ気満々らしいのでここは一つ試してみようじゃないか。

「ふん!! ……うむむむむむむ~~~~~~……」

 握る手に力を込める。

「む~~~~~~~~ん……」

 昨日のことを思い出しながら、精気が自分に流れ込んでくるイメージを作る。

「はんげぇぁ~~~~~~~~っ!!!!」

 しかし精気が流れ込んでくるどころか、むしろ疲れが溜まってくる。

「ぜいぜい……だ、だめだ……何ともならない」

 うまく能力を使いことが出来ず、うなだれる私。
 そういえば能力ってどう使うんだ?
 いままで勝手に発動してたもんだから意識的に使う方法なんて知らないぞ私。

「……もしかしてぇ~~……うまく能力を使えないのぉ……?」

 無言でうなずく私。

「む~~~~……それじゃぁ先生安心して自殺出来ないじゃない~~……」

 ていうか、いま私に殺されかけてたんですけどね? 
 しかしそれは言うまい。喜ばせるだけだ。

「ん~~~~じゃぁ仕方がないわぁ~~……今度はぁ能力を使いこなす訓練をしましょうかぁ~~うふふふふふふふふふふふふふふふふ」

 と、死ぬ子先生は怪しく笑った。

 まじで嫌な予感しかしない。
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