超能力者の私生活

盛り塩

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第40話 害虫駆除⑧

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「な、なんだ貴様っ!? そこをどけっ!!」

 マンションの入口を塞ぐように停まっている車と、怪しげな二人組みに、下っ端警官が語気を強め詰め寄った。

「お、おいっ……!!」

 それを静止しようとした望月警視長だがそれよりも早く、

「いやぁ……そちらの、それ、その青年にウチの者が随分とをかけたみたいでしてなぁ~~。
 そのお詫びと、事態の後始末に駆けつけたってわけでしてな、は、は、は」

 大西がとぼけた口調で説明する。
 警視長は『やはり関係していたか』と目の前が暗くなり、目眩までもが始まるが、しかし息子の方はそんな危険な状況など理解しているわけもなく、吠えた。

「あ……あんた、あの女の関係者かっ!?? ふざけんなよ、どういうつもりだっ!!?? こっちは何人も殺されて、ご迷惑だと? そんなもんで許されるわけねぇだろうがっ!!!! 落とし前どう取るつもりだぅごらぁっ!!!!」

 それを聞いて取り巻きの警官たちは、一斉に銃を大西へと向ける。
 しかし大西と、後ろに控える女性――片桐は顔色一つ変えない。

「まあまあ……殺しはお互い様ってことで、ここは一つ、双方何も無かった……と言うことで手打ちにしませんかねぇ~~?」

 息子からしたら随分とふざけた提案だ、殴り合いや口喧嘩じゃない、誰かが間に入って収まるレベルはとうにすぎているのだ。
 しかし親父の方はその大西の態度にかなり安堵した様子で、

「あ……で、あればそのように――――」

 と、あっさりそのふざけた申し出を受けようとする。
 だが、その言葉を遮って馬鹿息子が激高する。

「ざけんなっざけんなっ!! はぁ~~!? はぁぁぁぁぁ~~~~!??
 殺しはお互い様っ?? オタク何いってんだぁぁぁっ!!??
 俺がそんな犯罪おかしてるわけねぇだろ!! 俺は健全で清廉潔白なエリート大学生なの、将来はキャリア組として警察官僚様よ? そんな男が人殺しなんてやっているわけ無いだろう??」

 ドスを効かせた目で大西に詰め寄る馬鹿息子。

「ほう? しかしですなぁ、ここに色々な証拠がありますがねぇ」

 と、大西は自身のスマホ画面を見せる。
 そこには望月が仲間と共謀して女性を強姦しているシーンや、殺害の瞬間、死体を処理している現場など、あらゆる犯罪の証拠データーが映っていた。

「……出どころは……まぁね、説明しにくいのですが『そういうのが得意なスタッフがうちにはいる』とだけ申しておきましょう。警視長ならお察しでしょう?」

 脂汗を滲ませ背筋を震わす父。
 だが息子のほうはそれがどうしたと言った様子で、

「は、はは……なるほどね。それで? それでなんだよ? 
 あの女供に俺を襲わせたって? 法じゃ裁けない俺を暴力で粛清でもしようってかぁぁぁっ!??  馬鹿だ、お前らは馬鹿だねぇ~~??」

 と、ヘラヘラ笑う。

「……ふむ、馬鹿、とは?」
「そんなもんなぁ、もみ消しちまえば何とでもなるしさぁ~~、暴力で警察組織に喧嘩売るってどうよ? 頭おかしいんじゃない??
 くっくくく……。 そんなものホイホイ見せちまって、お前、これ殺してくれって権力にお願いしているのと同じだからなぁ???? ふひゃひゃ!??
 あのなぁ……もう土下座したって許してやんねぇ~~~んだからなぁ??」

 これでもかと目を見開き、舌を出し、挑発的な表情を作る。

「パパ――――親父、いいだろう? こいつらに殺させても? 
 こんな言いがかり、僕は我慢が出来ないよ。いつものように殺すか売るか、どん底に叩き落すかして真の正義を世間に広めないとなぁぁぁぁぁ~~~~っ!?? やれやおめぇらっ!!!!」

 そう叫んで父親に代わり、警官たちに顎で号令を下す。
 命令を受けた警官たちは一瞬ためらうが、しかし警視長の静止が無い以上、息子の指示に従えと、みな一斉に銃の引き金を引いた!!

 ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンっっっ!!!!!!

 静寂の夜空に銃声が響き渡る。
 辺りの住人やわずかな通行人が注目するが、みな危険を察し近寄ろうとはしない。
 やがて銃声は止み、ふたたび静けさが戻ってくる。

「ふひゃひゃひゃひゃひゃあぁぁぁっ!! ざまあみろ、蜂の巣だぁ!!
 俺様に逆らうからこういう目に合うんだよっ!! ひゃひゃひゃっ!!
 お前らの死体は綺麗に片付けといてやるからなぁ? 跡形も証拠もなく、事件にもならないようになぁ~~ひゃひゃひゃっ!!!!  ――――あん!?」

 火薬から出た煙で見えづらかった景色が徐々に晴れてくる。
 本当ならそこに穴だらけの死体が二つ転がっていなければおかしかった。
 ――――しかし、

「もみ消しちまえば何とでもなるしさぁ~~……ねぇ。
 あと、何だっけ? 跡形も証拠もなく、事件にもならないように……かな?」

 そこには何一つ傷ついてない大西と片桐の姿があった。

「済まないが、それはウチの専売特許なんだ、取らないでくれるかい?」

 そして片桐へ合図する大西。

 ベージュのコートに身を包んだ美女は、唖然と佇む警官隊に向けて静かに手をかざすと、何を語るでもなく無慈悲にその手を振るった。

 まるで他愛もない火の粉でも払うように。
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