超能力者の私生活

盛り塩

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第38話 害虫駆除⑥

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 矢島と入れ替わるように立ち上がる。
 望月は完全に化け物を見る目で私を見ていた。
 私の意識はいまだ朦朧としていて、自分に何が起こったのかいまいち理解できないでいた。

「こ……こ、ここ……」

 ガチガチと歯を鳴らす望月。
 何をそんなに怯えているのか?

 ああ……これか?

 矢島のミイラ(?)を持ち上げてみる。
 あれ、私の体……元のおデブに戻っているな?
 ぽよんぽよんの腕が見えた。

 そうか……こいつから精気を吸い取ったんだな、たぶん。

 意識にモヤがかかっているせいか、理屈じゃなく本能で感じる。
 今、自分がやらかしたことを。
 そしてさらに理解する。

 菜々ちんも治してあげなきゃ……。

 自然にそう思考した私は、望月の下に横たわっている菜々ちんに近づくべく、ゆらりと一歩を踏み出した。

「ば、ば、ば……化け物ぉぉぉぉぉぉっ!!! く、くるなぁぁぁぁっ!!!!」

 そんな私にビビりまくって望月はクラブを振り回す。

 ドゴォッ!!

 その一振りが私の頭を横殴りにして首が直角に曲がるが、そんなことはどうでもいい。まずは菜々ちんだ。

「ひ、ひ、ひやぁああぁぁぁぁぁぁっ!????」

 まるで怯まない私に恐怖したか、望月はその場から無様に逃げ出した。

「た……宝塚……さん?」

 顔を血だらけにした菜々ちんが、弱々しく私を見上げる。
 足も腕もいびつに曲がり、見るに堪えない痛々しさ。
 私は無言で菜々ちんの体に触れると目をつむり、能力を解放する。

 モモモ……と、また雪だるまが顔を出す。

「――っ!? だ、ダメ、宝塚さん、押さえてっ!! 
 それ以上はベヒモス―――うっ!!!!」

 肋骨の痛みに顔を歪める菜々ちん。

「……大丈夫。……これは、うん、多分……大丈夫」

 そう呟くと私は本能のままに能力を解き放った。

 パアァッ――――。

 優しい光が菜々ちんを包む。
 私から彼女へと精気が流れていくのがわかった。
 菜々ちんの身体はみるみる回復し、折れた骨も、切れた皮膚も、腫れた頬もすべて元通りに治っていく。

「う……うぅ……」

 ふと見ると、亜希さんもまだ息があった。
 彼女の身体にも同じように精気を流し込む。
 私は再び痩せた姿になり――――そこで精魂果て意識を失った。




「はあ、はあ、はぁ――――な、なんだよあの化け物はっ!??」

 望月 武は今にも抜けてしまいそうな腰を気力で奮い立たせ、マンションの廊下を逃げていた。

 せっかくの休日前夜、飼っていた女を仲間らと散々いたぶり、舎弟にも食わせ、上機嫌で酒をあおっていたところを女二人組に襲撃された。

 そこまではまだいい。

 たまにいるのだ、そういう身の程知らずの馬鹿は。
 そういう連中は逆に返り討ちにし、女は売って、男は借金まみれにして人生を壊してやっている。
 腹立たしいし、面倒だが、世の中には身分と権力が理解できない低能者が多すぎるのも現実。
 底辺への教育も上に立つものの努めだと親父から教わってきた。
 だから今回も、はなはだ迷惑だがその努めを果たし、間違っているのはどちらかと言うのをその身体と人生を代償に教えてやろうとしたのだ。

 それが、いきなり撃たれた。

 奴ら拳銃を持ってきてやがったっ!!
 底辺のクソが、どこでどう手に入れたか知らないが、そんな物、お前らのようなクズが扱っていい代物じゃ無い。
 おかげで舎弟一人と、友人二人を失った。
 いや、そんなモノはどうでもいい。
 舎弟のマサトは元より、友人として扱っていた二人も所詮は自分を引き立てるお飾りでしかない。

 問題は、あの女だ。

 あの太った女。

 アイツは一体何なんだ!???
 銃で撃っても、頭を砕いても死なない。
 姿は大きくも小さくも変わり、その度、傷は無かったかのように回復している。
 あげくの果てに、矢島をミイラのように枯らしただと!???

 ふざけるな、バンパイアじゃあるまいし。
 この現代にそんなふざけた存在がいてたまるか!!

 なんなんだっ!? なんなんだアイツはっ!???
 どうして俺があんな奴に襲われなければいけないんだ!???
 この未来を約束されたエリートの俺が何でこんな目にあわなきゃいけないんだ。
 壁に肩を擦りつけながら、それでも必死に階下へのエレベーターへと向かう。

「ひっ、ひやあああぁぁぁぁぁぁぁっ!????」

 そこに転がっていた死体を見て、悲鳴を上げ転がる。

「こ、こ……こいつは……し、真司!??」

 もう一人の舎弟であった。
 首の後ろが内側から粉砕され、顎が外れた状態で殺されている。
 殺ったのはもちろんあの女達だろう。
 望月は股間が熱く濡れるのを感じた。
 失禁など、いつぶりだろうか。

 ――――ガン。

 近くで扉の閉まる音が聞こえた。
 そばの部屋の住人が、少しだけ開けていたドアを締めたのだ。

 野次馬!?? 
 ――――そ、そうだ、匿ってもらおう!!

「おい、ちょっとここ開けてくれっ!! 襲われているんだ、救けてくれっ!!」

 ガンガンと扉を叩くが音沙汰は無い。
 隣を見ると、そこも少し扉が開いていて家主と目が合った。

「お、おいっ!!」

 しかし――――ガン。

 また扉を閉められる。
 反対側を見ても同じように、

 ガン。ガン。ガン。

 と立て続けに扉が閉められた。
 全員、騒ぎは気になるが我関せずという態度である。

 ――――ガチャ、キィ……。

 今度は遠くの方で、扉が開かれる音がした。
 ――――俺の部屋だ。

「ひぃっ!! 来るっ!! アイツが来るっ!!」

 望月は転がり、這いずりながらもエレベーターに飛び込んだ。
 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
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