超能力者の私生活

盛り塩

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第35話 害虫駆除③

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「あ、あ……あがぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっ!!!!」

 マサトが自分の股間を見下ろし悲鳴を上げる。

「あが、う……あが……う、ぶくぶくぶくぶく……」

 そしてすぐに痙攣するとぐにゃりと崩れ落ち、意識を失う。
 辺りに血の匂いが充満した。

 や……やめてくれぇぇぇぇ!!

 私も悲鳴を上げたい気分だった。
 ここ二週間くらいでずいぶん血に慣れたつもりだったがこれはダメだ。

 グロすぎる。痛すぎる!!

 フローリングを伝ってマサトの血が足元に広がってくる。
 L字ソファーに座っていた三人も唖然と口を開いている。

「な、て、てめえ……一体……!?」

 色黒で図体のでかい男がつばを飲み声を絞り出す。
 たしか八代と呼ばれていた男。
 気の毒に……余計な声さえ上げなければほんの数秒、寿命が伸びたかも知れないのに。

「あなた達が知る必要のない者よ」

 そう返事を返す代償に、命を求める菜々ちん。
 ――――ガン、ガン!

「ぐ、うっ!?? あ……う、ぇ……!???」

 腹と胸に一発ずつ弾を受け、

「げほっ!!」

 血を吐き出し、前のめりに倒れ込む。

 ガタン、ガシャガシャッ!!
 その拍子にテーブルごと酒瓶や皿をひっくり返し盛大な音がなる。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 その音に反応して囚われていた女の子が怯えた悲鳴を上げる。
 同時に、座っていた残りの男二人も動く。
 一人は素早くソファーの裏へ、もう一人は怯えた女の子へと向かっていく。

 ガン、ガン!!

 とっさにその男に向かって発砲する菜々ちんだが、弾は当たらず床と壁を抉っただけ。さらに撃とうとするが、一瞬の差で女の子を人質に取られてしまい動きを止めてしまう。

「お、おいっ!! ふざけんなよっ!! なんだよてめえは、どういうつもりだぁ!?? 殺すぞこらぁっっ!???」

 いきなりの銃撃に恐怖をあらわにし必死に吠える男。
 たしかソファーに隠れた方が望月のはずだから、こっちは矢島と言う方だろう。
 そして女の子が金田 亜希。
 写真とデータを思い起こしながら頭を整理する。

 べつに今それをする必要は全く無いのだが、そうでもしてないと私もパニックになって叫んでしまいそうだからである。
 菜々ちんは一瞬ためらうと、標的をソファーの後ろへ隠れた望月へと変更し、

 ガンガンガンッ!!

 ソファー越しに三発お見舞いする。

「ひっ、ひっ……お、親父っ!! た、救けてっ!! 今、襲われてるっ!!
 部屋でっ!! うん、部屋でっ!! 救けてっ!! 救けてっ!!!!」

 どこかへ電話している望月。
 親父と言っていたが、たしか望月の父親は県警本部長。
 となればすぐさまここに警察がやって来ると言うことだろう。

 弾はソファーを貫通出来なかったようである。
 さすが芯の強い北欧製の高級ソファーといったところか。
 それならば回り込んで撃ってしまえばいい、とばかりにソファーを越えようとする菜々ちんだか、そこに制止の声がかかる。

「動くんじゃねぇっ!! この女ぶち殺すぞっ!!!!」

 矢島がナイフを亜希さんの首に当てて吠えてきた。
 菜々ちんはピタリと動きを止め、相手を睨みつける。

「へ……っ!! バカが、何者か知らねぇが、いいか!?? この女の首ぃ掻っ捌かれたくなかったらその銃をこっちによこせっ!!」

 ありきたりすぎる台詞を吐く矢島だが、それに対する菜々ちんの返事はありきたりでは無かった。

「……じゃあもういいです。その女《こ》はあきらめて、あなた方の制裁に集中させてもらいましょう」

 そして躊躇う事なく銃口を矢島に向け、
 ガンガンガン!!

「ぎゃぁっ!!!!」
「が……はっ……うぁ……!??」

 亜希さんの悲鳴と矢島のうめきが同時に聞こえた。
 弾は亜希さんの腹部と胸にそれぞれ命中し、残りの一発は頭をかすめ窓ガラスを割った。彼女を貫通した弾丸は矢島の腹中で止まったようだ。
 血まみれになり倒れる亜希さん。
 矢島も腹部を押さえ後を追うように倒れる。

「……ふん、運が無かったですね」

 その台詞は金田亜希に向けられたものだろう、菜々ちんはまるで悪びれた様子もなくつぶやき、三編みを背中に流した。
 私はただ言葉もなく立ち尽くすばかり。

 え……と、あれ!? 亜希さん……死んでるな。
 あれ?? ってことは、どうする!?? どうしたらいい!???

 自分の中での目標を、相方に消されてしまい混乱する。

 菜々ちんを非難しようとも一瞬考えたが、しかし彼女の判断は間違ってはいないとも思った。
 いくら目標を人質に取られたからといって、相手の言いなりに武器を渡すなど、それは降伏と同じことなのだ。
 その後、私たちがどんな目に合うのかは言わずもがな。
 ならば、満点はあきらめて80点狙いへと切り替えた彼女の判断はおそらく正しい。

 だがそれがわかってても咄嗟に出来ないのが普通の人間なのだ。
 あらためて彼女も訓練された組織の人間なのだと思い知らされた。
 ともかく、そんな菜々ちんに私の協力が必要などとはとても思えなく、このまま全部彼女に任せてしまおうと思考停止しかけたそのとき、

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 叫び声と同時にソファーが勢いよく持ち上げられた。

「――――っ!?」

 片足を掛けていた菜々ちんは体勢を崩し、そのままソファーの下敷きになってしまう。

「――うっ!!」
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 その上に、恐怖に目を踊らせた望月が半狂乱になりながら覆いかぶさる。
 そして覆いかぶさったソファーの影から菜々ちんの持つ拳銃へと手をのばすと、

「あひゃぁっ!!」

 力任せにそれを奪い取った!!

「くうっ!?」

 それを取り返そうと菜々ちんがソファーから滑り出て望月に飛び掛かるが、

 ――――ゴンッ!!

「――――くっ!!」

 望月の拳がそれを阻んだ。
 口の端を切り、仰け反る菜々ちんに、さらに拳をお見舞いして馬乗りになる望月。

「はぁはぁっ!! ――この、このっ!! なんなんだっ!! お前らはっ!! はぁはあぁっ!!!???」

 ガシ、ガシ、ガシ。

 繰り返し振り下ろされる拳。
 菜々ちんの顔はどんどん赤く染まり、抵抗しようと持ち上げていた腕もやがて力なく床へ落ちていった。

 私は震える体で、ただ呆然とその光景を眺めていた。
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