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第29話 食堂・尾栗庵②
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「申し訳ありませんでした……」
頭に大きなたんこぶを作って料理長のおばさんに引きずられていく宇恵さん。
目の前のテーブルには注文通りの料理が所狭しと並んでいる。
「さ、いただきましょう」
宇恵さんの失態に対してなのか、料理長の怒りに対してなのか、それとも料理の量に対してなのか、菜々ちんは引きつった笑顔でいただきますを言った。
ちなみに今日の日替わりランチはチキン南蛮定食だった。
菜々ちんはそれをコーンポタージュとパンで、私は味噌汁とごはんで注文した。
そして瞬時に平らげた。
「……………………」
その食べっぷりにビビり、声も出ないようすの菜々ちん。
無理もない、彼女が一人前を平らげるうちに私は十人前を平らげたのだから。
「だ、大丈夫ですか、そんなに急いで食べて……」
「大丈夫、大丈夫、いつものことだから」
ポンポコポンに膨らんだお腹を擦りながら悦に浸っていると。
「ここで会ったが百年目だぁぁぁぁっ!!!!」
と怒号が飛んできた。
声がした入り口の方を見れば、そこには昨日、私を襲った百恵とかいう少女が怒り肩で仁王立ちしていた。
「今度こそ吾輩がその意気の根を止めてくれるわっ!!!!」
一方的にそう叫び、手を前にかざす。
すると私たちの目の前でパリッっと刺激が走る。
――――まずいっ!!
またあの爆発かと、私と菜々ちんは同時に飛び退いた。
しかし――――、
「あ、あぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
聞こえたのは爆発音ではなく、百恵とやらの叫び声。
「な、なに??」
振り返るとそこには、頭を押さえながらもがき苦しむ彼女が宙に浮いていた。
「食堂で騒ぐなと言っていただろうが、ええ? 百恵よ」
ゆら~~り……。
厨房から殺気立った目をして現れる料理長。
「ご、ご、ご、ご、御免なさい、あ、謝るのでゆるじでぇ……」
顔を真っ赤にして、頭痛に耐えつつ許しを請う百恵ちゃん。
「――――……ふんっ。 次やったらもっと締め付けてやるからね」
そして厨房へと戻っていく料理長。
同時にべチャリと床に落とされる百恵ちゃん。
「だ、大丈夫ですか……?」
菜々ちんが側によると、
「う、うるさいっ!! こんなことで勝ったと思うなよっ!!」
そう言い残し、彼女はダッシュで消えていった。
「な、なに? なんなの??」
「あ~~……今のは料理長の能力ですね。種類はズバリ『念力』です。
百恵さんや宝塚さんと同じく貴重なPK能力者ですよ。それもかなり強力な」
ひえぇぇぇぇぇ……するとさっきのは念力で彼女を締め付けてたってこと?
しかも人一人を簡単に宙に浮かすほどの力なんて……使いようによっては目玉を潰したりとか、血管や神経を引きちぎることだって出来るのよね?
「それはかなりヤバい能力なんじゃ……?」
カタカタと、私は青ざめて尋ねる。
「そうですね片桐さんと並んで、ウチじゃあツートップのヒットマンですよ」
今度からもっと味わって丁寧に食べよう。
私は静かにそう誓った。
「よし。こんなもんかな?」
買ってきたゲームをテレビに接続してスイッチを入れてみる。
ジョ~~ンと音がして画面が映った。
おお~~我が家にゲームがやってきた~~。
私は感動して涙ぐんでしまう。
なにせこれまでゲームなどというものは、使い古されたボードゲームくらいしかやったことがなかったからだ。
一人暮らしを始めてようやくスマホを買ったのだが、格安スマホの格安プラン契約しか出来なかったので、ゲームと言っても大したものは出来ないでいた。
そんな私が今、ようやく自分専用の本格ゲーム機を手に入れたのだ。
感涙も出ようというもの。
「ではさっそく」
蓋を開け、DVDソフトを入れる。
そしてしばらく待つ。
「……………………」
うんともすんとも言わない。
あれ、おかしいな?
スイッチを入れ直し、再起動させる。
ジョ~~ン。
しかし画面は相変わらず何かのメニューを映し出すだけで、一向にゲームが始まる気配がしない。
はて? と思い、説明書を読むが何が何だかチンプンカンプンで一気に気力が萎えていく。
「うむ。……今日は諦めよう」
私はそっと電源を切った。
後日、買ってきた本体が四世代前の中古品だったのと、ソフトがそれにまったく対応していなかったことを菜々氏によって教えられるが、そんなことを当時の私が知るすべなど無かったのである。
「やっぱテレビだな。テレビが簡単でいいわ」
中年おばさんのような逃げ宣言をし、横になる。
足元にはゲームと一緒に街で買ってきた洋服やら下着が入った袋が入っている。
ちなみにまだ体型は回復していなくて、買い物するときにあきらかに大きなサイズを選んでいるので店員さんに心配された。
母の物ですと言い訳をして理解してもらえたが、自分で言っていて少し傷ついた。
明日の予定は今のところ無い。
死ぬ子先生からは、授業する気が起きたら連絡するとだけ言われている。
それまでは自由にしていていいそうだ。
なんたるいい加減さ。
テレビからニュースが流れてくる。
『今朝未明、先月から行方不明だった女子高生Aさんが静岡県内の山中にて遺体で発見されました。遺体には複数の刺し傷や暴行された跡があり、警察は殺人死体遺棄事件として捜査を進めています』
物騒な世の中ですなぁ。
おやつの煎餅をかじりながらチャンネルを変える。
「お、新田ナオユキでてるじゃん」
とある歌番組で指を止める。
新田ナオユキとは、私の押しのイケメン演歌歌手で、パンチのあるハスキーボイスが魅力なのだ。
「そうだ、お金も余裕が出来たことだし音楽ダウンロードしちゃおう」
携帯を取り出し操作をしようとしたところで、
ペコリン。
と、メールが入った。
なんでっしゃろと確認すると、差出人は死ぬ子先生だった。
『明日、昼一に訓練するからいらっしゃい。来ないと死ぬから』
との脅迫メール。
いや、やっぱ授業するんかいっ!!
もうやりたい放題だな、あの先生。
私は嫌な予感を胸いっぱい抱えながらその日を終えたのだった。
頭に大きなたんこぶを作って料理長のおばさんに引きずられていく宇恵さん。
目の前のテーブルには注文通りの料理が所狭しと並んでいる。
「さ、いただきましょう」
宇恵さんの失態に対してなのか、料理長の怒りに対してなのか、それとも料理の量に対してなのか、菜々ちんは引きつった笑顔でいただきますを言った。
ちなみに今日の日替わりランチはチキン南蛮定食だった。
菜々ちんはそれをコーンポタージュとパンで、私は味噌汁とごはんで注文した。
そして瞬時に平らげた。
「……………………」
その食べっぷりにビビり、声も出ないようすの菜々ちん。
無理もない、彼女が一人前を平らげるうちに私は十人前を平らげたのだから。
「だ、大丈夫ですか、そんなに急いで食べて……」
「大丈夫、大丈夫、いつものことだから」
ポンポコポンに膨らんだお腹を擦りながら悦に浸っていると。
「ここで会ったが百年目だぁぁぁぁっ!!!!」
と怒号が飛んできた。
声がした入り口の方を見れば、そこには昨日、私を襲った百恵とかいう少女が怒り肩で仁王立ちしていた。
「今度こそ吾輩がその意気の根を止めてくれるわっ!!!!」
一方的にそう叫び、手を前にかざす。
すると私たちの目の前でパリッっと刺激が走る。
――――まずいっ!!
またあの爆発かと、私と菜々ちんは同時に飛び退いた。
しかし――――、
「あ、あぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
聞こえたのは爆発音ではなく、百恵とやらの叫び声。
「な、なに??」
振り返るとそこには、頭を押さえながらもがき苦しむ彼女が宙に浮いていた。
「食堂で騒ぐなと言っていただろうが、ええ? 百恵よ」
ゆら~~り……。
厨房から殺気立った目をして現れる料理長。
「ご、ご、ご、ご、御免なさい、あ、謝るのでゆるじでぇ……」
顔を真っ赤にして、頭痛に耐えつつ許しを請う百恵ちゃん。
「――――……ふんっ。 次やったらもっと締め付けてやるからね」
そして厨房へと戻っていく料理長。
同時にべチャリと床に落とされる百恵ちゃん。
「だ、大丈夫ですか……?」
菜々ちんが側によると、
「う、うるさいっ!! こんなことで勝ったと思うなよっ!!」
そう言い残し、彼女はダッシュで消えていった。
「な、なに? なんなの??」
「あ~~……今のは料理長の能力ですね。種類はズバリ『念力』です。
百恵さんや宝塚さんと同じく貴重なPK能力者ですよ。それもかなり強力な」
ひえぇぇぇぇぇ……するとさっきのは念力で彼女を締め付けてたってこと?
しかも人一人を簡単に宙に浮かすほどの力なんて……使いようによっては目玉を潰したりとか、血管や神経を引きちぎることだって出来るのよね?
「それはかなりヤバい能力なんじゃ……?」
カタカタと、私は青ざめて尋ねる。
「そうですね片桐さんと並んで、ウチじゃあツートップのヒットマンですよ」
今度からもっと味わって丁寧に食べよう。
私は静かにそう誓った。
「よし。こんなもんかな?」
買ってきたゲームをテレビに接続してスイッチを入れてみる。
ジョ~~ンと音がして画面が映った。
おお~~我が家にゲームがやってきた~~。
私は感動して涙ぐんでしまう。
なにせこれまでゲームなどというものは、使い古されたボードゲームくらいしかやったことがなかったからだ。
一人暮らしを始めてようやくスマホを買ったのだが、格安スマホの格安プラン契約しか出来なかったので、ゲームと言っても大したものは出来ないでいた。
そんな私が今、ようやく自分専用の本格ゲーム機を手に入れたのだ。
感涙も出ようというもの。
「ではさっそく」
蓋を開け、DVDソフトを入れる。
そしてしばらく待つ。
「……………………」
うんともすんとも言わない。
あれ、おかしいな?
スイッチを入れ直し、再起動させる。
ジョ~~ン。
しかし画面は相変わらず何かのメニューを映し出すだけで、一向にゲームが始まる気配がしない。
はて? と思い、説明書を読むが何が何だかチンプンカンプンで一気に気力が萎えていく。
「うむ。……今日は諦めよう」
私はそっと電源を切った。
後日、買ってきた本体が四世代前の中古品だったのと、ソフトがそれにまったく対応していなかったことを菜々氏によって教えられるが、そんなことを当時の私が知るすべなど無かったのである。
「やっぱテレビだな。テレビが簡単でいいわ」
中年おばさんのような逃げ宣言をし、横になる。
足元にはゲームと一緒に街で買ってきた洋服やら下着が入った袋が入っている。
ちなみにまだ体型は回復していなくて、買い物するときにあきらかに大きなサイズを選んでいるので店員さんに心配された。
母の物ですと言い訳をして理解してもらえたが、自分で言っていて少し傷ついた。
明日の予定は今のところ無い。
死ぬ子先生からは、授業する気が起きたら連絡するとだけ言われている。
それまでは自由にしていていいそうだ。
なんたるいい加減さ。
テレビからニュースが流れてくる。
『今朝未明、先月から行方不明だった女子高生Aさんが静岡県内の山中にて遺体で発見されました。遺体には複数の刺し傷や暴行された跡があり、警察は殺人死体遺棄事件として捜査を進めています』
物騒な世の中ですなぁ。
おやつの煎餅をかじりながらチャンネルを変える。
「お、新田ナオユキでてるじゃん」
とある歌番組で指を止める。
新田ナオユキとは、私の押しのイケメン演歌歌手で、パンチのあるハスキーボイスが魅力なのだ。
「そうだ、お金も余裕が出来たことだし音楽ダウンロードしちゃおう」
携帯を取り出し操作をしようとしたところで、
ペコリン。
と、メールが入った。
なんでっしゃろと確認すると、差出人は死ぬ子先生だった。
『明日、昼一に訓練するからいらっしゃい。来ないと死ぬから』
との脅迫メール。
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